多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅥ:Signpost

No81.Trust me

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 あの頃に戻れるなら、それ以上は何も望まない。一つ歯車が止まり、全て狂い出した。日常も、友情も、愛情も、感傷も。
 災厄が降りかかった。俺は逆境に立たされ続ける。悲劇の連続。そんな話だ。


    Episode:Black Rose
    ~past memories~







 「おはよ。薔羨。」

 早朝、俺はいつものように公園で筋トレをしていると、缶ジュースを二本持った慈穏が来た。

 「ああ。おはよう。」

 俺は缶を受け取り、飲み始めた。ここから一日が始まり、学校へ行く。それが毎日繰り返された。
 中一の頃だっただろうか。俺は家出した。暗殺者の家系に生まれたものの、一族が衰退する未来を感じたため、サイレンスに個人加入し、聖薇との関係を断って暗殺者をやっていた。
 とは言え、将来有望な弟が心配でもあったため、定期的に顔は見せていた。

 慈穏とはサイレンスで知り合った。彼は当時最強の座に君臨しており、無敵の暗殺者だった。
 コードネーム「蓬萊」。そう言われており、刺客を次々に返り討ちにし、やがて彼の命を狙う者は現れなくなった。
 当時の俺のコードネームは「対魂」。黒薔薇というのは、後に名付けられた。
 俺達は互いに“相棒”として称え合い、すぐにツートップになった。

 「そろそろ日もいい具合だ。登校するぞ。」

 「ああ。」

 そう応答して、俺達は学校へ向かった。







 放課後、本部へ向かっていた。別に招集が掛けられたわけでは無いが、仲間と会う機会を増やすために日課となっていた。

 「遅かったね二人とも。珍しい。」

 着いて早々、愛沙はそう言った。

 「ちょっと人助けをしていてね…。」

 「あれを人助けと言うか。」

 慈穏の言葉に、俺は冷静にツッコミを入れた。
 人助けというか、ひったくり犯を取っ捕まえただけだ。慈穏のフィジカルの前では逃げ切れない。

 「てか愛沙が早いんだ。他の連中はまだ来てないぞ?」
  
 そう噂をしていると、そのうちの一人が来た。

 「悪い遅れた。」

 来たのは黄牙だ。彼は俺の古くからの友人であり、裏社会の荒くれ者だ。暗殺者の界隈に引き込んだのも俺。
 天才マッドサイエンティストの息子であり、一族の逸れ物。その理由は人道を外れていないという理不尽なものだ。
 コードネーム「逸脳」にもその皮肉が反映されている。

 「要と月歌を見かけたか。」

 「見かけた。玄関で鉢合わせたぞ。」

 黄牙の言う通り、直後くらいに二人も着いた。
 慰思要と相原月歌。一番新しいメンバーだ。二人とも暗殺者界隈は疎か、裏社会の人間じゃなかったが、訳あってこちら側に来た。
 コードネームは「透念」と「寵愛」。二人とも良い人間性を持っていて、戦闘以外でもその力は役立っている。

 「あとは葵か……。いつも結構早いんだけどね。」

 慈穏の何気ないと思われるその言葉が、俺の警戒心を揺すぶった。

 「ごめん。ちょっと抜ける。」

 俺はそう言って、本部を抜け出した。







 葵の通学路に着いた。案の定…と言ったところだ。何か絡まれてる。
 俺は道角に身を潜ませ、様子を伺う。

 「ほら、金寄越せよ。さもなければ……襲うぞ?」

 「でも私……お金は……」

 「うるせぇ!早くしろ!脱がされても良いのか!」

 男の罵声に、葵は震えていた。
 最近よく耳にする犯罪行為だ。学生をターゲットに、カツアゲをする輩。金を渡さなければ性行為にでるど畜生だ。
 この辺りでも不審情報が出ていたのでもしかしたらと思ったが、マジだった。

 「そうか!なら……俺とやるんだな?」

 男は葵に手を出そうとした。状況把握が済んだ俺は、道角から飛び出し、男の迫る手を掴んだ。

 「おい。……何手を出そうとしてんだ?俺の仲間に。」 

 「あ?何だテメェ。……ッ!」

 つい苛立ち、俺は男の腕をへし折った。

 「ッチ……。来い!」

 すると、男の仲間と思わしき奴らが、一斉に姿を現し、殴りかかって来た。
 視界の一部分に葵を捉え、迫る敵の拳を躱し、カウンターを入れた。
 
 「ッ!薔羨後ろ!」
 
 「ガキィィ!」

 葵のお陰で後ろからの奇襲はわかったが、恐らく回避が間に合わないだろう。
 とりあえず、俺諸共催眠役で機能停止させようとポケットに手を突っ込んだが、それは不要のようだ。

 骨が折れていてもおかしくない音がなり、後ろからの敵は地面に倒れ込んだ。

 「……黙っていても考える事は同じってか。慈穏。」

 「もっと仲間を頼りな。まぁ、何があっても駆けつけるのが仲間ってもんだ。」

 「ああ……そうかもな。」

 彼の手を握り立ち上がると、葵がこっちに抱き着いてきた。

 「大丈夫だったか。」

 「……うん。ありがと…。」

 抱きつく彼女を一旦離し、俺は崩れかけた態勢を整え直した。
 彼女は「恵蜜 葵」。大事なメンバーの中でも特に大切な人だ。

 俺達は彼女を連れ、本部へと戻った。







 「と……来たか。薔羨。それはお前の良いところであり、悪いところでもある。仲間を信用できないか?」

 「そんな事無い。お前達を信じている。」

 黄牙の問いかけに答え、俺は考えを改め直した。
 そうだ。俺はEnterという最高の仲間にも遠慮があるのかもしれない。側だけの関係。そう思いたくは無いが、否定しきれないのかもしれない。
 ただ、その後の会話は、友達に近い関係のものだった。
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