多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅤ:Crazy

No77.Asmodeus

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 百合が交通事故で亡くなった次の日、俺はぶつけようのない怒りと悲しみの感情を抱き、部屋に閉じ籠もっていた。
 “なんで助けられなかったのだろう”。そう自問自答を繰り返し、自暴自棄になりかけた。
 人が当たり前に死ぬ環境で生きてきて、一度も感じなかった…いや、慣れすぎていた感情が、特別に感じられた。
 それほどまでに、彼女は大切だったのだと痛感させられた。それは、今の凛と同じようなものだ。

 
 そんな病みかけの俺に追い打ちを掛けるかのように、一通のメールが届いた。

 『私は貴方の大切な人を轢いた人を捕縛しました。事故現場近くの公園に来て下さい。』

 音声がそう読み上げ、俺は二丁拳銃をポケットにそっとしまい、例の場所に向かった。
 これは偶然の事故だ。しかし、界隈に刷り込まれた俺は、それすらも疑い、厳重警戒態勢で足を進めた。







 公園に着く頃、雨が降ってきた。たんぽぽ畑の上、百合の遺体と、見知らぬ成人男性の遺体が横並びに置いてあった。

 「は……?なんだよ……これ……。」

 俺は言葉を失った。意味が分からない。なぜなら、百合の遺体は切断されており、隣の男性の遺体も焼けている。それに付け加え、たんぽぽも焼け焦げている。
 まるで、この男が百合を切断してから、自殺したかのようだ。
 だが、矛盾点が多すぎる。轢かれた百合は一度病院に搬送されたはずだ。そこからどうなったのかは知らないが、少なくとも、ここにあるのはおかしい。
 そして俺は、この場所の異質なまでの心地悪さに気が付き、拳銃を構えた。

 「……誰かいるんだろ。俺を呼び出した奴が。」

 すると、木の影から呼び出し人……薊が姿を現した。

 「コードネーム白薔薇。これが偶然の産物でない事には気づいて武装を怠らなかったのだろうか。」

 「違うな。確証なんて無かった。ただ、立場上警戒を解くことに不慣れなだけだ。」

 「……そう。今はどう思っている?」

 「仮に俺が弱者だったら、お前にだけは逆らいたくない。そんな圧力だ。……そこの男性……捨て駒にしただろ。」

 こいつの視線はとにかく圧力がある。氷柱のように冷たく鋭い感覚だ。
 脅しに向いた性質なのはすぐに分かる。ここに居る事も踏まえ、こいつが主犯だろう。

 「そんなところかな。」

 「……何が目的だ…。」

 そう問うと、薊はナイフを腰から取り出し、青い液体を塗った。

 「雇い主に課せられた任務を達成する上で、君の存在が邪魔なんだよ。安心して。殺す気は無い。ただ……君の吹き込まれた思想は、消させてもらう。」

 「くっ……何をする気……だ……。」

 俺はナイフを刺され、気絶して記憶の一部を失った。幸い、奴が消そうとしていた技術知識や華隆さん、撫戯の教えは一命を取り留めたが、その他は全て忘れた。
 生活と共に徐々に思い出していったが、あの日の事だけは、あの情景を再び見るまでは思い出せなかった。
 







 「しっかりしろ。歪。」

 「はっ!」

 あの日の記憶が再生される中、その一言で意識を取り戻した。その声の主は、つい先程思い出した人だ。

 「兄上……。」

 「トリガーはやはり Asmodeusだったか。思い出してくれてよかった。」

 「そんなことより、奴は何処に逃げた……。」

 「落ち着け。……今の奴には勝てない。一度嵌まればゲームオーバーだ。というか、記憶は大丈夫か?逃げ際に消されたぞ。」

 「……Asmodeus薊。それが奴の名。他の事も霧は払われた。」

 「大丈夫そうだな。行くぞ。」

 そう言って兄上は、スポーツカーに乗り込み、助手席を叩いた。

 「詳細を話しながら行くぞ。混沌に包まれた。今の日本に安全地帯は無いぞ。」

 スポーツカーに乗り込み、シートベルトを着用すると、彼はアクセルを踏み込んだ。
 ずっと家出をしていた兄上とは十年以上会っていないが、噂に聞いていた特徴と合致していた。
 俺と同じ、薔薇のような目だ。







 東京の地下施設。清心と蝙蝠は、捕獲した人間をカプセルに格納し、眺めていた。

 「Hadesのくせに彼らから引き剥がすなんて大仕事……。憎たらしいですよぉ。」

 「君はいつだってHadesを下に見ているが、彼らの中にも精鋭部隊が存在する。闘志を燃やすのは構わんが、任務に支障をきたすなよ。」

 「分かってるつもりですよぉ。」

 清心が電源を入れると、施設内の設備が一斉に稼働を開始した。
 
 「次の計画は私が政府の頂点に立つことで実行できる。反対国民を徹底的に排除するぞ。……それと、秘密兵器の開発が今のノルマだ。」

 「これから面白くなりそうですねぇ。フハッ!理想郷に成り変わる過程で無惨に人々が悶絶するさま!……笑いが止まらないじゃないかぁ。」

 「始めるぞ……。生命交代の決戦。“日本混沌事変”を!」

 二人の中年はそう笑い合い、“美しい”と呟きながら、クローンが量産される瞬間をただ見つめ続けた。
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