多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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ChapterⅤ:Crazy

No75.Unchanging determination

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 何故か町に不穏な空気を感じていた私は、護身用の銃を持って帰宅していた。
 少し食用品を買いに行っただけなのだが、凄く胸騒ぎがする。その嫌な空気の正体が何なのか分からなかったが、次の瞬間理解させられた。

 「ッ!」

 銃声が聞こえた。少なく見積もっても、四人は居る。全員サブマシンガンだ。
 私はライフルを構え、遮蔽物に隠れた。だが、けたたましい音が鳴り、遮蔽物が破壊された。

 「何なの……。」

 明らかに私を狙っている。テロでは無く、暗殺が目的だろう。
 そして、屋根の上から先程の射撃の正体が姿を現した。

 「警戒心抜群だ。流石は Mythologyのお姉さんといった所?」

 スナイパーライフルのような謎の武器を持った男だ。
 私はその男にライフルを構えた。

 「穏やかじゃないねぇ。」

 「貴方の方でしょ。穏やかじゃないのは……。」

 「暗殺に慈悲があるか?まぁどうでもいいさ。君は兵力差を見誤った。鳴らした銃声は四人分。そこに俺が加わった。……誰がそれだけだと言った?」

 すると街角から、次々にサブマシンガンを持った集団が現れた。包囲されている。
六十人は軽く超えるだろう。
 そして、私はもう一つ違和感を覚えた。

 「……顔が………同じ?」

 サブマシンガンの男達の顔は瓜二つ。いや、全く同じだった。

 「良い反応だねぇ。よし、やれ!」

 すると、サブマシンガンが一斉に射撃を開始した。囲まれていて遮蔽物も無い。応戦しても勝ち目は無い。

 「うっ……Mythologyを束ねられても、まだまだだったなぁ。……二十代にしてもう死ぬのか。」

 生きる事を諦めた私は目を瞑ってゆっくりと待った。だけど、一向に射殺される気配が無かった。
 目を開けると、六十人余りのサブマシンガン男は倒れていた。

 「……この一瞬の間に……一体何が…。」

 「人工細胞を破壊する薬品を撒いた。愛沙の人体には影響を及ぼさない。安心しろ。」

 「……黄牙!」

 目の前には、Enter開発担当「谷上 黄牙」の姿があった。



 「はんっ!保険はいくらだっているんだよ!」

 すると、またぞろぞろとサブマシンガン男が現れた。しかし、射撃の隙を与えずに爆殺された。
 バイクから投擲されたグレネード。その正体は見なくても分かった。

 「要、月歌……?」

 「無理な奇襲は振り切れよ?薔羨も慈穏も言ってるじゃん。毎日ね。」

 
 全く状況が掴めない。まず、あの敵襲は何なのか。なんで彼らがここに居るのか。でも、あのスナイパーの男は動揺している様子だった。

 「な、なんなんだあいつらは!量産戦士を何の躊躇いも無く殲滅しただと?!あの動き、まるで正体を知っているかのような……」

 「そうだな。“クローン”だろ?」

 「は……何だき…ッ!………黒薔薇。」

 「プレデスタンス最高責任者。Enter二番手。黒薔薇。……さらば。」

 刹那、スナイパーの男の頭は、撃ち抜かれて、倒れた。

 「なんだ、こいつもクローンかよ。って事はHadesもZeusもここには居ねぇのかよ。拍子抜けだな。」

 屋根の上から、薔羨が降りてきた。

 「……どうして?私は今Enterじゃない。チームで一番弱かったのに、なんで見捨てないの?」

 「は?前にも言ったろ。ピンチの時は駆けつけるって。それが仲間ってものだ。蓬萊に続いて地雷。……もう誰も死なせる気は無いんだよ。」

 今、私の脳は無意識に慈穏の姿を薔羨に重ねた。この背中を預けられる感覚。絶対に裏切られないという確証。
 それが、昔のEnterの信頼関係であり、強さの秘訣であった。
 薔羨は銃を収納すると、真面目な表情で喋り始めた。

 「よく聞け。柊が死んだ。事実上のサイレンス壊滅だ。俺は今からある任務を遂行しに行く。お前達は先にアジトに戻れ。…愛沙、詳しい話は後でする。まぁ前回と重複するが。」

 そう言って、薔羨はスポーツカーに無理矢理積んであったバイクを降ろして、何処かに行ってしまった。
 
 「帰るぞ。仙台に。」







 要訪問の次の日の夜、俺は業務を終え、歩きで帰っていた。恋音は運転免許を取っておらず、俺はタイヤがパンクしたため、付き添いだ。家も近いしな。

 「こうやって二人きりになるのって久々じゃない?」

 「確かにな……。」

 信頼できるマネージャーの雇われ人として彼女達はサポートしてはいるものの、それは全体に対してだ。
 あの頃のように、恋音ただ一人に尽力しているわけでは無い。

 「変わったよね撫戯は。でも、根本的な部分は変わってない。」

 「……回りくどい言い方はよせ。」
 
 「社会復帰。あの生い立ちからだと難しいはずだよね?でも君は成し遂げた。それでいて、面倒見の良さは何も変わっていない。」

 照れながらそう言う恋音。彼女の方は、昔は見せなかった表情を見せてくれる。だけど、もう泣き顔は見せない。
 何処か喜ばしくもあり、何処か寂しい感覚だ。

 「……これまでに何人殺したかなんて数えられない。血族の性とは言え、その罪は常に感じて生きなければならない。相手がどんなにクズだろうが、殺人以上の大罪では無いから。」

 俺がそう言うと、恋音は俺の顔に手を当てて言葉を連ねた。

 「辛かったよね。日陰で、誰にも頼れず、ずっと一人で戦ってきて、背負い込んできて。……自分が苦しんでまで、誰かを救う必要なんて無いのに、君は救った。どんな茨の道であっても、喰らいつく。そんな撫戯……大好きだよ……私は。」

 「ッ!」

 やっと報われた気がした。あの時だって結局、俺は歪に救われた。あいつらと比べると、俺は全然駄目だった。
 だが、思い返してみると、俺は彼らを陰で支えていた。努力は無駄では無かったのだ。

 「……どのくらい?」

 「幼い時から……。」

 「………そう…か。」

 夜の住宅街の帰路。最早俺の目には恋音しか映らない。
 手が届かなくなりそうだった初恋の相手。全力で守ってきた人、それはこれからも変わる事は無い。
 
 「……社会的にどう見られるか……そんなのは関係無いよな。俺も恋音も同じ“人間”であって、変わらぬ存在なんだから。」

 民衆が勝手に騒ごうが、俺達にとっては関係無い話だ。
 現実と演出は全くの別物。勘違いしたもん負けだ。元裏社会出身のスタンスなんぞそんなもんだ。

 「……相思相愛なんだよな…?」

 「うん……。」

 「……付き合おう……か…ッ!」

 言葉を告げかけた時、俺はただならぬ気配を感じ取り、咄嗟にワイヤーを投げた。
 殺気の類。ストーカーなんかじゃ無いだろう。となると、一つしかない。

 「キャッ!」

 「四季恋音。捕獲。撤収。」

 しかし、ワイヤーは避けられ、黒いマントに身を包んだ奴が、恋音を攫った。
 下手に攻撃すれば、被弾するかもしれないが、それを言える状況でも無い。
 俺は奴の退路を塞ぐように、ワイヤーを張り巡らさせた。

 「……邪魔者め。彼のデータは……元Leviathan孤高。残党か。」

 黒尽くめは、ゴーグルをしていて、何かボソボソ呟きながら逃亡していた。

 「逃がすかっ!」

 ワイヤーを弾き、絡めて奴の足場を奪う事に成功した。俺は拳銃を取り出し、銃口を向けた。

 「素晴らしい動きだ。しかし……私の足元には及ばないな。」

 「ッ!」

 黒尽くめはワイヤーを断ち切り、地を蹴って跳び上がり、忍者のように屋根の上に登った。

 「気に入った。秘密主義だが、特別に名を教えてやる。Hades所属「蜥蜴」。また会おう。」

 すると、蜥蜴は煙幕を撒き、恋音を攫って消えてしまった。
 俺は道路に拳を当て、怒りを振るえたたせた。

 「……Hades。確か黒薔薇さんの言ってた……ッチ!」

 政府の隠し玉。そう言われる同盟だ。遂に始まったという事だ。どうやら俺は、また暗殺者の世界に戻らなければならなくなった。
 決めた。俺がこの世で最後に殺すのは……“蜥蜴”を名乗る人物だ。
 
 
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