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ChapterⅤ:Crazy

No74.Start moving

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 数日前、俺と歪が会った日の翌日、俺は司令室に招集された。

 「失礼します。」

 「単刀直入に聞こう。君達は気づいているね?我々の本当の敵に……。」

 言うべきか否か。サイレンスが政府と裏で繋がっていても不思議では無い。厳に、政府が暗殺機構を頼る事態なのだ。

 「安心したまえ。私は政府…いや、清心に疑いの感情を抱いている。」

 「……政府の一部が本当の敵。そう考察してます。歪も同様かと。」

 「そうか。励領君。君に頼みがある。」







 こうして、俺は柊司令の護衛と、敵の暗殺を任された。司令の旧友である政治家「清心将角」は、サイレンスを雇った人物だ。
 彼の不審は行動を見抜いていた柊司令は、いつか彼が自らを潰しに来ると予想していたようだ。
 嵐の前の静けさからのこの流れ。間違いなく、奴が何かするなら今だろう。







 「音信不通だから心配したが、生きていたか。清心。」

 「問題を解決するまでは死ぬ気は無い。」

 このバーは、知る人ぞ知る隠れ家的な店だ。人も少ない時間帯のため、このような場に適している。
 まず世間話から入り、酔いがそろそろきそうなところで、清心が改まって口を開いた。

 「では、本題に入ろうか。柊は知っているはずだ。現在、日本の人口は急激に低下している。」

 「それは、お前が反抗国民を殺すようにサイレンスに依頼したからだろ。我々は極力捕縛で止めておくように努力しているがな。」

 「それ以前からの話だ。反抗国民の処罰は、荒れ狂う情勢を整えるために仕方のない事だ。」

 発想が狂っているとしか思えない。“仕方が無い”を口実に、本来守るべき者の虐殺を依頼する政治家が居てたまるか。
 その立場で無いとしても、サイコパスで済む話じゃないだろう。

 「その最大の理由は我々の世代には知りえない。若者世代の問題だからだ。ただ、このままだと少子高齢化の進行によって働き手は減り、日本経済は幕を閉じる。そこで、我々は画期的な計画を思いついた。」

 「どうせロクなものじゃないだろう。お前と友人だった過去があること自体が、私の黒歴史だ。」

 「一暗殺機構の最高司令官であり、設立者の次世代でもあるお前が何を言っているのだ。」

 これに関しては何も言い返せない。父が始めた事とは言え、まだ伝統レベルでは無い。
 元々裏社会の血族ではあるが、父はその世界と決別しようとした後、無理矢理引き戻されたのだ。

 「何にせよ、我々の計画にお前が邪魔だ柊。だから………大人しく抹消されろ。」

 すると、ダクトから複数台のドローンが姿を現し、突っ込んできた。




 しかし、ドローンはナイフに当たり大破した。自爆特攻型のようだが、不発に終わった。

 「私がお前の目論みに気づいてないとでも思うか?ご苦労励領君。」

 「朝飯前ですよ。……清心将角。今日があんたの命日だ!」

 俺はそう言って清心の背後を取り、首元に向けてナイフを振りかぶった。だが、俺の力は急に抜け、倒れてしまった。

 「グッ……!…なんだ……突然……。」

 見上げると、スタンガンタレットを装備したドローンとスピーカーを装備したドローンがこちらを覗いていた。

 『それは清心様も同じ事だ。柊と同じように思考し、同じように考えてらっしゃる。流石は過去は理解り合えた方々だぁ。』

 「高度な技術……。何者だ。あんた。」

 『さぁ?それを貴方にお伝えする義理はありません。それより、護衛対象から目を離して良いのかな?』

 「ハッ!」

 すぐに柊司令の方へ視線を向けると、清心は居らず、柊司令は血を流して倒れていた。
 俺はすぐに駆け寄り、生存確認をした。

 「司令!司令!返事を!」

 腹部から血が滲んでいる。まだ息はあるが、時間の問題だろう。

 「早く止血を!」

 「安心……したまえ……。」

 「ですが!」

 「私は……もう…駄目みたいだ。……君に最期の任務を与えよう。……“清心率いる暗黒政府から国民を守り、日本の未来、秩序を安定化させろ”。……若者達よ……未来を……託したぞ………。」

 「司令!司令!」

 本日未明、柊司令は亡くなり、サイレンスは事実上壊滅した。
 清心と謎のドローン男。奴らが計画の実行にあたって、十分な準備をしたことが伺える。正直、脅威でしかないだろう。
 この日、俺は誓った。必ずや、清心の計画を阻止すると。それがどんな計画であれ、致命的なデメリットが存在する事は、彼らの会話から容易に分かるから。







 『柊。沈黙確認。DNAはしっかりと採取した。清心様は戻られるのですか?』

 「そうだ。後は、Hadesが全部ぶっ壊して威嚇兼宣戦布告は終了だ。」

 『結局Hadesに頼るのですかぁ。……こちらも五台大破したので、修理しますねぇ。』
 
 するとドローンは天高く昇り、隅田川に突っ込んで行った。







 ドローンの目撃情報が入り、その出処を探って現地に要と月歌を向かわせた。
 そして、通話が掛かってきた。

 「こちら黒薔薇。」

 『俺だ。驚かないで聞け………柊の死体が発見された。』

 「ッ……遂に危惧してた事が…。撫戯には知らせたんだろうな?」

 『ああ。』

 俺は携帯を首に挟んで通話しながら、すぐに武装し、スポーツカーに乗り込んだ。

 「……二人はパトロールしながら、狙われそうな奴を探せ。愛沙は絶対死守だ。俺もすぐに駆けつける。」

 『了解。』

 そうして通話が切った頃、助手席に黄牙が乗り込んできて、声を掛けた。

 「懐かしいな。ただ、心地は最悪だ。」

 「同感だ。慈穏を失い、葵を実質的に失ったあの地獄の日を連想させやがる……。次こそは……。」

 我々の心は怒りで満ちている。いち早く奴らの目論みに気づいたのに、それは失った後だった。
 今回は違う。我々はもう失わない。そして、失わせない。未来ある者のために。……通称暗黒政府「生命再起会」を滅ぼす。
 それを覚悟し、アクセルを踏み込んだ。
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