上 下
74 / 150
ChapterⅤ:Crazy

No74.Start moving

しおりを挟む
 数日前、俺と歪が会った日の翌日、俺は司令室に招集された。

 「失礼します。」

 「単刀直入に聞こう。君達は気づいているね?我々の本当の敵に……。」

 言うべきか否か。サイレンスが政府と裏で繋がっていても不思議では無い。厳に、政府が暗殺機構を頼る事態なのだ。

 「安心したまえ。私は政府…いや、清心に疑いの感情を抱いている。」

 「……政府の一部が本当の敵。そう考察してます。歪も同様かと。」

 「そうか。励領君。君に頼みがある。」







 こうして、俺は柊司令の護衛と、敵の暗殺を任された。司令の旧友である政治家「清心将角」は、サイレンスを雇った人物だ。
 彼の不審は行動を見抜いていた柊司令は、いつか彼が自らを潰しに来ると予想していたようだ。
 嵐の前の静けさからのこの流れ。間違いなく、奴が何かするなら今だろう。







 「音信不通だから心配したが、生きていたか。清心。」

 「問題を解決するまでは死ぬ気は無い。」

 このバーは、知る人ぞ知る隠れ家的な店だ。人も少ない時間帯のため、このような場に適している。
 まず世間話から入り、酔いがそろそろきそうなところで、清心が改まって口を開いた。

 「では、本題に入ろうか。柊は知っているはずだ。現在、日本の人口は急激に低下している。」

 「それは、お前が反抗国民を殺すようにサイレンスに依頼したからだろ。我々は極力捕縛で止めておくように努力しているがな。」

 「それ以前からの話だ。反抗国民の処罰は、荒れ狂う情勢を整えるために仕方のない事だ。」

 発想が狂っているとしか思えない。“仕方が無い”を口実に、本来守るべき者の虐殺を依頼する政治家が居てたまるか。
 その立場で無いとしても、サイコパスで済む話じゃないだろう。

 「その最大の理由は我々の世代には知りえない。若者世代の問題だからだ。ただ、このままだと少子高齢化の進行によって働き手は減り、日本経済は幕を閉じる。そこで、我々は画期的な計画を思いついた。」

 「どうせロクなものじゃないだろう。お前と友人だった過去があること自体が、私の黒歴史だ。」

 「一暗殺機構の最高司令官であり、設立者の次世代でもあるお前が何を言っているのだ。」

 これに関しては何も言い返せない。父が始めた事とは言え、まだ伝統レベルでは無い。
 元々裏社会の血族ではあるが、父はその世界と決別しようとした後、無理矢理引き戻されたのだ。

 「何にせよ、我々の計画にお前が邪魔だ柊。だから………大人しく抹消されろ。」

 すると、ダクトから複数台のドローンが姿を現し、突っ込んできた。




 しかし、ドローンはナイフに当たり大破した。自爆特攻型のようだが、不発に終わった。

 「私がお前の目論みに気づいてないとでも思うか?ご苦労励領君。」

 「朝飯前ですよ。……清心将角。今日があんたの命日だ!」

 俺はそう言って清心の背後を取り、首元に向けてナイフを振りかぶった。だが、俺の力は急に抜け、倒れてしまった。

 「グッ……!…なんだ……突然……。」

 見上げると、スタンガンタレットを装備したドローンとスピーカーを装備したドローンがこちらを覗いていた。

 『それは清心様も同じ事だ。柊と同じように思考し、同じように考えてらっしゃる。流石は過去は理解り合えた方々だぁ。』

 「高度な技術……。何者だ。あんた。」

 『さぁ?それを貴方にお伝えする義理はありません。それより、護衛対象から目を離して良いのかな?』

 「ハッ!」

 すぐに柊司令の方へ視線を向けると、清心は居らず、柊司令は血を流して倒れていた。
 俺はすぐに駆け寄り、生存確認をした。

 「司令!司令!返事を!」

 腹部から血が滲んでいる。まだ息はあるが、時間の問題だろう。

 「早く止血を!」

 「安心……したまえ……。」

 「ですが!」

 「私は……もう…駄目みたいだ。……君に最期の任務を与えよう。……“清心率いる暗黒政府から国民を守り、日本の未来、秩序を安定化させろ”。……若者達よ……未来を……託したぞ………。」

 「司令!司令!」

 本日未明、柊司令は亡くなり、サイレンスは事実上壊滅した。
 清心と謎のドローン男。奴らが計画の実行にあたって、十分な準備をしたことが伺える。正直、脅威でしかないだろう。
 この日、俺は誓った。必ずや、清心の計画を阻止すると。それがどんな計画であれ、致命的なデメリットが存在する事は、彼らの会話から容易に分かるから。







 『柊。沈黙確認。DNAはしっかりと採取した。清心様は戻られるのですか?』

 「そうだ。後は、Hadesが全部ぶっ壊して威嚇兼宣戦布告は終了だ。」

 『結局Hadesに頼るのですかぁ。……こちらも五台大破したので、修理しますねぇ。』
 
 するとドローンは天高く昇り、隅田川に突っ込んで行った。







 ドローンの目撃情報が入り、その出処を探って現地に要と月歌を向かわせた。
 そして、通話が掛かってきた。

 「こちら黒薔薇。」

 『俺だ。驚かないで聞け………柊の死体が発見された。』

 「ッ……遂に危惧してた事が…。撫戯には知らせたんだろうな?」

 『ああ。』

 俺は携帯を首に挟んで通話しながら、すぐに武装し、スポーツカーに乗り込んだ。

 「……二人はパトロールしながら、狙われそうな奴を探せ。愛沙は絶対死守だ。俺もすぐに駆けつける。」

 『了解。』

 そうして通話が切った頃、助手席に黄牙が乗り込んできて、声を掛けた。

 「懐かしいな。ただ、心地は最悪だ。」

 「同感だ。慈穏を失い、葵を実質的に失ったあの地獄の日を連想させやがる……。次こそは……。」

 我々の心は怒りで満ちている。いち早く奴らの目論みに気づいたのに、それは失った後だった。
 今回は違う。我々はもう失わない。そして、失わせない。未来ある者のために。……通称暗黒政府「生命再起会」を滅ぼす。
 それを覚悟し、アクセルを踏み込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】星の海、月の船

BIRD
キャラ文芸
核戦争で人が住めなくなった地球。 人類は箱舟計画により、様々な植物や生物と共に7つのスペースコロニーに移住して生き残った。 宇宙飛行士の青年トオヤは、月の地下で発見された謎の遺跡調査の依頼を受ける。 遺跡の奥には1人の少年が眠る生命維持カプセルがあった。 何かに導かれるようにトオヤがカプセルに触れると、少年は目覚める。 それはトオヤにとって、長い旅の始まりでもあった。 宇宙飛行士の青年と異星人の少年が旅する物語、様々な文明の異星での冒険譚です。

帝国海軍の猫大佐

鏡野ゆう
キャラ文芸
護衛艦みむろに乗艦している教育訓練中の波多野海士長。立派な護衛艦航海士となるべく邁進する彼のもとに、なにやら不思議な神様(?)がやってきたようです。 ※小説家になろう、カクヨムでも公開中※ ※第5回キャラ文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます※

雇われ側妃は邪魔者のいなくなった後宮で高らかに笑う

ちゃっぷ
キャラ文芸
多少嫁ぎ遅れてはいるものの、宰相をしている父親のもとで平和に暮らしていた女性。 煌(ファン)国の皇帝は大変な女好きで、政治は宰相と皇弟に丸投げして後宮に入り浸り、お気に入りの側妃/上級妃たちに囲まれて過ごしていたが……彼女には関係ないこと。 そう思っていたのに父親から「皇帝に上級妃を排除したいと相談された。お前に後宮に入って邪魔者を排除してもらいたい」と頼まれる。 彼女は『上級妃を排除した後の後宮を自分にくれること』を条件に、雇われ側妃として後宮に入る。 そして、皇帝から自分を楽しませる女/遊姫(ヨウチェン)という名を与えられる。 しかし突然上級妃として後宮に入る遊姫のことを上級妃たちが良く思うはずもなく、彼女に幼稚な嫌がらせをしてきた。 自分を害する人間が大嫌いで、やられたらやり返す主義の遊姫は……必ず邪魔者を惨めに、後宮から追放することを決意する。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~

takahiro
キャラ文芸
 『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。  しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。  登場する艦艇はなんと61隻!(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。  ――――――――――  ●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。  ●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。  ●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。  ●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。  ●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。

カラー・ロック

他島唄
キャラ文芸
入学式の前日。音を色で見ることが出来る少女、若葉いろはは、公園でギターを弾く少女と出会う。いろはの人生は、この出会いをきっかけに、少し変わることになる。音で色付けされた彼女たちの青春が始まる。

お好み焼き屋さんのおとなりさん

菱沼あゆ
キャラ文芸
熱々な鉄板の上で、ジュウジュウなお好み焼きには、キンキンのビールでしょうっ! ニートな砂月はお好み焼き屋に通い詰め、癒されていたが。 ある日、驚くようなイケメンと相席に。 それから、毎度、相席になる彼に、ちょっぴり運命を感じるが――。 「それ、運命でもなんでもなかったですね……」 近所のお医者さん、高秀とニートな砂月の運命(?)の恋。

常世の狭間

涼寺みすゞ
キャラ文芸
生を終える時に目にするのが このような光景ならば夢見るように 二つの眼を永遠にとじても いや、夢の中で息絶え、そのまま身が白骨と化しても後悔などありはしない――。 その場所は 辿り着ける者と、そうでない者がいるらしい。 畦道を進むと広がる光景は、人それぞれ。 山の洞窟、あばら家か? それとも絢爛豪華な朱の御殿か? 中で待つのは、人か?幽鬼か? はたまた神か? ご覧候え、 ここは、現し世か? それとも、常世か?

処理中です...