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ChapterⅤ:Crazy
No71.Sense of discomfort
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歪から先日の話を聞いた。こいつから相談してくるのもかなり稀だ。
「なるほどー。で、勢いに任せて告ったと。正直、そのシチュエーションだと確定演出舞い降りてるくね?」
「は?俺の人生に直結する情報が知られたんだぞ?同業者のお前なら分かるだろ。これが何を意味するか……。」
多分、こいつは自分の正体を知られて幻滅される或いは通報されるのを恐れているわけじゃないと思うし、凛ならそれはしないと思う。
本当に恐れている事は自分を介して彼女を危険に晒す事だろう。どうせこいつは仮に告白されて心が揺らいだとしても、告白を断っていた。
現に、こいつは今後悔している。返事すら貰っていないのにだ。
「……歪は本当に責任感が強いな。誰かに似て。」
「……俺はまだまだだ。適切に、論理的に考えずに、感情に任せて行動した。その結果がこれだ。……冷静になって間違いだと気づいても遅いんだよ。」
「俺に比べたら感情が押し殺されているが、お前も華隆先輩も戦場に“それ”を持ち出している。てか、大抵はそうじゃね?俺達は人間であって兵器では無いんだからさ。」
そう言うと歪は黙るが、俺は言葉を連ね続けた。
「お前はどうしようもできない状況以外人を殺さない。仮にも“暗殺者”であって捕縛が目的では無いのに。それが Mythologyのスタンスだし、メンバーの“意思”でもある。お前は物事を考えて行動する。だが、その根源も感情じゃないか。」
「……確かにそうかもしれない。でも!あれは戦場じゃない。日常だ。」
「あまり違いが無いように俺は思うけどなぁ。……ま、丸投げするようで申し訳無いけど、最後に選択するのは歪だ。過去を悔む暇があるなら、挽回策を考えた方が良いんじゃないか?……ほんとこんな事しか言えなくてごめんな。」
「……いや、大丈夫だ。相談しといて否定ばかりして申し訳無い。帰る。」
そう言って、歪は帰って行った。雨の中、傘もささずに。
あいつは存在しない記憶……いや、“存在していたはずの記憶”と恩師「華隆慈穏」の教えに忠実に従い、人格が形成されている。
消されたはずだが、それは確実に影響を与えていた。もう実在しない過ちを繰り返さない行動をしている。
中学二年。Mythologyはまだ未熟だった。華隆先輩は生きていて、葉桜さんもまだギリ学生だった。
華隆一族は突如としてこの地上から姿を消した。それが上手く回っていた日常に歪みが生じたキッカケだった。
当時の俺は何も変わったとは思っていなかった。ある時、彼の発言の“矛盾”に気が付いた。
「そういえば、昨日アルバムを見たんだが、知らない写真があったんだよな。結構最近のもののようだけど……。」
歪がこの言葉を口にした時、俺はゾッとした。色々独自で矛盾点を記録して調査すると、ある仮説に繋がった。いや、ほぼ確定した。
「………まさか……記憶が断片的に消されているのか……?」
それ以上の深追いは流石に不味いと脳が危険信号を起こしたため、俺はそっと忘れる事にした。ただでさえ最愛の人が死んだ直後なのに、この事実を突き付けるのは、俺には出来なかった。
ただ、よくよく考えると記憶の消え方がおかしすぎる。なんで、事故死した事は覚えているのに、思い出だけはごっそりと無くなっているのか。
誰が何のためにしたのかは分からないが、人為的な事は確かだ。俺は追求を停止した。それが誰かの陰謀なら、更に狂わされると思ったから。いや、俺が見て見ぬふりをした、深追いした時点で“既に狂っていたかもしれない”。
これで終わったはずがない。そんな靄が残る。なのに進展しない。この時間をどう過ごすべきなのか分からなくなっていた。
彩良も莉緒菜も普通に学校に通い始めたが、俺は未だに表社会に繰り出せずにいた。万が一の時を想像すると、ずっと臨戦態勢で待っておきたいから。
夜の東京をただ呆然と眺める。その目の先には、視線を吸い寄せる国会議事堂付近の景色が広がっていた。
「……いつになったら全国民を安心させてくれるんだ。政府は……。」
本当に音沙汰が無い。その界隈の誰かが裏で俺達を動かしているのは知っているが、正式なアクションを起こさない。
適当に隠蔽して終了。サイレンスの後ろ盾にこそなっているが、それ以外が無さすぎる。
こんな時代だからこそ、黙殺をやめて何とか言ってほしいものだ。
「………待て、違和感がある。本当に味方なのか?」
不意に疑問が浮かんだ俺は、歪に招集メールをかけ、あの場所に向かった。
「なるほどー。で、勢いに任せて告ったと。正直、そのシチュエーションだと確定演出舞い降りてるくね?」
「は?俺の人生に直結する情報が知られたんだぞ?同業者のお前なら分かるだろ。これが何を意味するか……。」
多分、こいつは自分の正体を知られて幻滅される或いは通報されるのを恐れているわけじゃないと思うし、凛ならそれはしないと思う。
本当に恐れている事は自分を介して彼女を危険に晒す事だろう。どうせこいつは仮に告白されて心が揺らいだとしても、告白を断っていた。
現に、こいつは今後悔している。返事すら貰っていないのにだ。
「……歪は本当に責任感が強いな。誰かに似て。」
「……俺はまだまだだ。適切に、論理的に考えずに、感情に任せて行動した。その結果がこれだ。……冷静になって間違いだと気づいても遅いんだよ。」
「俺に比べたら感情が押し殺されているが、お前も華隆先輩も戦場に“それ”を持ち出している。てか、大抵はそうじゃね?俺達は人間であって兵器では無いんだからさ。」
そう言うと歪は黙るが、俺は言葉を連ね続けた。
「お前はどうしようもできない状況以外人を殺さない。仮にも“暗殺者”であって捕縛が目的では無いのに。それが Mythologyのスタンスだし、メンバーの“意思”でもある。お前は物事を考えて行動する。だが、その根源も感情じゃないか。」
「……確かにそうかもしれない。でも!あれは戦場じゃない。日常だ。」
「あまり違いが無いように俺は思うけどなぁ。……ま、丸投げするようで申し訳無いけど、最後に選択するのは歪だ。過去を悔む暇があるなら、挽回策を考えた方が良いんじゃないか?……ほんとこんな事しか言えなくてごめんな。」
「……いや、大丈夫だ。相談しといて否定ばかりして申し訳無い。帰る。」
そう言って、歪は帰って行った。雨の中、傘もささずに。
あいつは存在しない記憶……いや、“存在していたはずの記憶”と恩師「華隆慈穏」の教えに忠実に従い、人格が形成されている。
消されたはずだが、それは確実に影響を与えていた。もう実在しない過ちを繰り返さない行動をしている。
中学二年。Mythologyはまだ未熟だった。華隆先輩は生きていて、葉桜さんもまだギリ学生だった。
華隆一族は突如としてこの地上から姿を消した。それが上手く回っていた日常に歪みが生じたキッカケだった。
当時の俺は何も変わったとは思っていなかった。ある時、彼の発言の“矛盾”に気が付いた。
「そういえば、昨日アルバムを見たんだが、知らない写真があったんだよな。結構最近のもののようだけど……。」
歪がこの言葉を口にした時、俺はゾッとした。色々独自で矛盾点を記録して調査すると、ある仮説に繋がった。いや、ほぼ確定した。
「………まさか……記憶が断片的に消されているのか……?」
それ以上の深追いは流石に不味いと脳が危険信号を起こしたため、俺はそっと忘れる事にした。ただでさえ最愛の人が死んだ直後なのに、この事実を突き付けるのは、俺には出来なかった。
ただ、よくよく考えると記憶の消え方がおかしすぎる。なんで、事故死した事は覚えているのに、思い出だけはごっそりと無くなっているのか。
誰が何のためにしたのかは分からないが、人為的な事は確かだ。俺は追求を停止した。それが誰かの陰謀なら、更に狂わされると思ったから。いや、俺が見て見ぬふりをした、深追いした時点で“既に狂っていたかもしれない”。
これで終わったはずがない。そんな靄が残る。なのに進展しない。この時間をどう過ごすべきなのか分からなくなっていた。
彩良も莉緒菜も普通に学校に通い始めたが、俺は未だに表社会に繰り出せずにいた。万が一の時を想像すると、ずっと臨戦態勢で待っておきたいから。
夜の東京をただ呆然と眺める。その目の先には、視線を吸い寄せる国会議事堂付近の景色が広がっていた。
「……いつになったら全国民を安心させてくれるんだ。政府は……。」
本当に音沙汰が無い。その界隈の誰かが裏で俺達を動かしているのは知っているが、正式なアクションを起こさない。
適当に隠蔽して終了。サイレンスの後ろ盾にこそなっているが、それ以外が無さすぎる。
こんな時代だからこそ、黙殺をやめて何とか言ってほしいものだ。
「………待て、違和感がある。本当に味方なのか?」
不意に疑問が浮かんだ俺は、歪に招集メールをかけ、あの場所に向かった。
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