多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

文字の大きさ
上 下
71 / 150
ChapterⅤ:Crazy

No71.Sense of discomfort

しおりを挟む
 歪から先日の話を聞いた。こいつから相談してくるのもかなり稀だ。

 「なるほどー。で、勢いに任せて告ったと。正直、そのシチュエーションだと確定演出舞い降りてるくね?」

 「は?俺の人生に直結する情報が知られたんだぞ?同業者のお前なら分かるだろ。これが何を意味するか……。」

 多分、こいつは自分の正体を知られて幻滅される或いは通報されるのを恐れているわけじゃないと思うし、凛ならそれはしないと思う。
 本当に恐れている事は自分を介して彼女を危険に晒す事だろう。どうせこいつは仮に告白されて心が揺らいだとしても、告白を断っていた。
 現に、こいつは今後悔している。返事すら貰っていないのにだ。

 「……歪は本当に責任感が強いな。誰かに似て。」

 「……俺はまだまだだ。適切に、論理的に考えずに、感情に任せて行動した。その結果がこれだ。……冷静になって間違いだと気づいても遅いんだよ。」

 「俺に比べたら感情が押し殺されているが、お前も華隆先輩も戦場に“それ”を持ち出している。てか、大抵はそうじゃね?俺達は人間であって兵器では無いんだからさ。」

 そう言うと歪は黙るが、俺は言葉を連ね続けた。

 「お前はどうしようもできない状況以外人を殺さない。仮にも“暗殺者”であって捕縛が目的では無いのに。それが Mythologyのスタンスだし、メンバーの“意思”でもある。お前は物事を考えて行動する。だが、その根源も感情じゃないか。」

 「……確かにそうかもしれない。でも!あれは戦場じゃない。日常だ。」

 「あまり違いが無いように俺は思うけどなぁ。……ま、丸投げするようで申し訳無いけど、最後に選択するのは歪だ。過去を悔む暇があるなら、挽回策を考えた方が良いんじゃないか?……ほんとこんな事しか言えなくてごめんな。」

 「……いや、大丈夫だ。相談しといて否定ばかりして申し訳無い。帰る。」

 そう言って、歪は帰って行った。雨の中、傘もささずに。
 あいつは存在しない記憶……いや、“存在していたはずの記憶”と恩師「華隆慈穏」の教えに忠実に従い、人格が形成されている。
 消されたはずだが、それは確実に影響を与えていた。もう実在しない過ちを繰り返さない行動をしている。







 中学二年。Mythologyはまだ未熟だった。華隆先輩は生きていて、葉桜さんもまだギリ学生だった。
 華隆一族は突如としてこの地上から姿を消した。それが上手く回っていた日常に歪みが生じたキッカケだった。
 当時の俺は何も変わったとは思っていなかった。ある時、彼の発言の“矛盾”に気が付いた。

 「そういえば、昨日アルバムを見たんだが、知らない写真があったんだよな。結構最近のもののようだけど……。」

 歪がこの言葉を口にした時、俺はゾッとした。色々独自で矛盾点を記録して調査すると、ある仮説に繋がった。いや、ほぼ確定した。

 「………まさか……記憶が断片的に消されているのか……?」

 それ以上の深追いは流石に不味いと脳が危険信号を起こしたため、俺はそっと忘れる事にした。ただでさえ最愛の人が死んだ直後なのに、この事実を突き付けるのは、俺には出来なかった。
 ただ、よくよく考えると記憶の消え方がおかしすぎる。なんで、事故死した事は覚えているのに、思い出だけはごっそりと無くなっているのか。
 誰が何のためにしたのかは分からないが、人為的な事は確かだ。俺は追求を停止した。それが誰かの陰謀なら、更に狂わされると思ったから。いや、俺が見て見ぬふりをした、深追いした時点で“既に狂っていたかもしれない”。







 これで終わったはずがない。そんな靄が残る。なのに進展しない。この時間をどう過ごすべきなのか分からなくなっていた。
 彩良も莉緒菜も普通に学校に通い始めたが、俺は未だに表社会に繰り出せずにいた。万が一の時を想像すると、ずっと臨戦態勢で待っておきたいから。
 夜の東京をただ呆然と眺める。その目の先には、視線を吸い寄せる国会議事堂付近の景色が広がっていた。

 「……いつになったら全国民を安心させてくれるんだ。政府は……。」

 本当に音沙汰が無い。その界隈の誰かが裏で俺達を動かしているのは知っているが、正式なアクションを起こさない。
 適当に隠蔽して終了。サイレンスの後ろ盾にこそなっているが、それ以外が無さすぎる。
 こんな時代だからこそ、黙殺をやめて何とか言ってほしいものだ。
 
 「………待て、違和感がある。本当に味方なのか?」

 不意に疑問が浮かんだ俺は、歪に招集メールをかけ、あの場所に向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語

六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

処理中です...