多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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Chapter Ⅳ:Stealth

No60.Plan failure

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 先攻したのは矢匿だ。彼が笛を鳴らすと、壁を突き破って黒服のライフルを持った連中が現れた。

 「撃て!」

 すると、黒服達は一斉に莉緒菜に対して射撃した。命中率は非常に高い手練れた奴だったが、莉緒菜はそれを上手く回避してカウンターで撃ち抜いた。
 しかし、後ろから黒服がパイプを持って飛び掛かってきた。

 「おらァァァ!……グハッ!」

 俺はナイフをそいつの腕に命中させ、彼女が回避できる隙を作った。

 「ナイスフォロー……。」

 その勢いのまま天井から現れた黒服を刺し、蹴り払った。それからすぐに矢匿に対してナイフを投げた。
 だが、彼はショットガンの金属部分でナイフを防いだ。

 「やはり強いな紅月は!俺の奴隷を一瞬にして半壊させるとは!……その一部に引き込めなかった事を一生悔むな。」

 「ッ!」

 彼ははっきり自白した。俺をこの界隈に囲い込もうとした目的はやはり私利私欲のためだったか。
 
 「何か言い残す事はあるか?」

 「おやおや。勝った気でいるのか?」

 「あんたの事はよくわかった。……もう聞き出す事は無い。後は処罰するのみ。」

 そう言って俺はナイフを突きつけた。奴はショットガンを降ろしている。何故か抵抗する気が感じられない。

 「潔が良いな。あんたにしては。」

 妙に冷静な彼は、突如腹から笑い出した。

 「……は?」

 「いやぁ……お前は自分の事で頭がいっぱいなんだな。」

 「ッ!」

 壁を突き破って現れた四人の黒服。そいつらに銃口を突きつけられていたのは彩良だった。スナイパーは没収されている。

 「彩良!」

 「二人とも!私の事は気にせ……ッ!」

 矢匿はショットガンを彩良の足元に撃った。

 「黙れ人質。武装無しでは暗殺者でも何でも無いんだよ。」

 「…ッチ。矢匿テメェ!」

 「そんなに牙を向いていいのかな?……死ぬよ?漏れなく全員。」

 判断に困る。どうせこの狡猾のクズの事だ。何もしなくても最終的には殺すだろう。だが、これで無理に攻めて失敗すれば、彩良は死に、矢匿は俺を嘲笑うだろう。
 その後に冷静さを欠いた俺を処す気だ。この悪魔が……。







 タレット、戦闘員は停止させながら一気に社内を駆け上がり、コンピュータールーム周辺に突入していた。
 サーバーのあるにここに奴は門番として居座るだろう。

 『戸惑え神話の芽。』

 コンピュータールームまで一直線。長い廊下の電気が落ち、霧のようなものに包まれた。しかも……。

 「これ神経麻痺の効力がありそうだ。長くは持たねぇ。愁!先導は!」

 「霧が濃い。全く見えない訳では無いけど、奥は全然見えない。」

 愁でも見破れないとなれば、中々に進みづらい。しかも、これだけで終わるとは思えないし、かと言って長居は出来ない。
 
 「……喋るな。耳を済ませ。」

 俺は二人にそう忠告すると、予感は的中した。
 静かに、高速に真横を弾が通り抜け、背後から壁が撃ち抜かれた音がした。

 「怖っ!サンキュー歪。」

 「注意を怠るな。慎重かつスムーズに進むぞ。」

 追跡。室内狙撃をこのようにして活かすとは……。Leviathanが幻であった理由を再認識させられる。







 底沼はずっと最上級のパフォーマンスを維持している。対して、自分達は時間と共にパフォーマンスは低下していき、被弾率も上がった。
 何とかして重要器官への直撃は免れているが、それも時間の問題だろう。何より、止血が追いつかなくなってきている。

 「終わりかい?サイレンス最強チームも我々と比べたらこんなものか。」

 「……ック。」

 「うぅ……三人掛かりでも……歯が立たない。」

 「異次元過ぎます……。」

 今、銃口をゼロ距離で突きつけられている。Mythologyの一員として不覚だが、もう避けられない。彼の気分で引き金が引かれる。

 「じゃあ……さよなら。」

 引き金に指が掛けられる。人生の終わりを察した。これで終わるんだ。もう諦めの感情しか無かった。……そんな結末予想出来なかった。

 「は?……ッチ!」

 突如上から発砲され、底沼の銃弾は外れた。彼はギリギリで回避したようだが、体制は崩した。
 これを好機と見た自分はハンティングライフルを拾い直し、崩れた底沼に対して撃った。
 だが、流石といったところか、ヘッドショットを狙ったはずだが、首を曲げて回避してきた。追撃を試みようとしたが、リロードを挟まなければならなかった。
 しかし、そんな心配は必要無かった。

 「クッ!…ざけんなよ乱入者。」

 先程の方向から腹を撃たれたようだ。急であったが、それでも彼は掠っただけで済ませた。
 すると、ビルの上から、先程までの銃撃の正体と思われる少女が飛び降りてきた。

 「……お前か…生きていたか。」

 「貴方がこんな大人になっているなんてのは知りませんでした。ただ……何となく反政府機構に就いているとは予想していました。」

 中学生くらいの少女は拳銃を突きつけており、あの底沼が余裕を失っていた。

 「……はぁ……(こいつが生きてるなんて聞いてないぞ。流石に撤退するしか無い。爪跡は残したかったが、今回はお預けか。)グッバイ。」

 そう言って彼はグレネードを雑に投げたため、自分達は瓦礫を盾にしてやり過ごした。
 爆発し終えて身を出すと、そこに底沼の姿は無かった。

 「逃げられましたか……。」

 少女は銃を収納して自分の方に近づいてきた。

 「お怪我はありませんか?冬夜さん。」

 「お陰様で。」

 「なら良かったです。翠光さんも地雷さんも大丈夫そうですね。」

 「めっちゃ出血してるけどね…。身体冷えてきたよ。」

 全員かなり瀕死だった。サイレンスの医療班がすぐに駆けつけ、自分達は応急処置を受けた。

 「ありがとうござ……いない。」

 感謝を述べようとしたが、少女は姿を消していた。底沼との面識もありそうな感じだったし、謎が残るが、一応こっちは解決したと言ってもいいだろう。







 正直、ここは賭けるしか無い。全員仲良く死ぬ結末は、“特に”こいつに殺られる事は絶対に許したくない。
 俺はナイフを三本構え、地を蹴るように矢匿との距離を詰めた。

 「お前は人質というものを理解していないのか?やれ。」

 黒服は彩良を投げ捨て、矢匿は引き金を引こうとしたが、俺は奴が発砲するより先にナイフを一本奴の腕に命中させ、ワンテンポ遅れた隙に地面に叩きつけられた彩良を莉緒菜に託す。

 「何だと?!消えろォ!」

 矢匿はショットガンを俺に対して撃つが、俺はスライディングで回避し、そのまま勢いよく飛び掛かって、二本のナイフを奴の腹に刺した。

 「ぐはッ!……月食の擬人……。手にできない…のか……。」

 矢匿は倒れた。まだ心臓は動いているが、この出血量じゃそのうち息絶える。
 放置で良いだろう。そう思い俺は二人を連れてその場を後にした。
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