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Chapter Ⅳ:Stealth

No57.Horror caused by fear

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 さて、どうするか。先程から複数の視線を感じる。どうやら、こんな小道具が無くても保険はいくらでもあったようだ。

 「どうしたの?何か焦ってない?」

 彼女は気が付かないのだろうか。この違和感に。そもそもこれはたまたまなのか?そうなるように吹き込まれた可能性だってある。
 一度に複数の情報が襲ってくるため、何を信じれば良いかわからない。







 「追跡さん。ターゲットとの距離が近いですよ。四季明璃を起爆させましょう。」

 微かに自分の耳はその言葉を捉えた。誰かと……追跡と連絡を取っていた。そして銃口が服に擦れる音も聞こえる。
 自分を明璃もろとも爆散する気だ。そして逃れても油断を突こうとしているというところだろうか。
 ただ、この情報を勝手に漏らしてくれたお陰で、こちらも計画が立てやすい。

 「明璃さん……ここを離れますよ!」

 「え……!」

 自分は明璃の手をしっかりと掴み、に出した。ここじゃ狭すぎて爆発から逃れられないだろう。規模は未知数だが、それほど大きくは無いはずだ。
 街路に人が居ない事は確認済み。静かな足音が後方、ビル上から鳴る。
 スナイパーが構えられた音がする。そして移動の最中に爆弾が埋め込まれた場所は分かった。微かな機械の起動音が鳴っている。
 そして開けた場所に出れた。時限性ならそろそろ爆発する予兆の熱を帯びているように聞こえる。

 「……ごめんなさい。」

 「え、何を……キャッ!」

 彼女の左胸に着けられたバッジを取り、上空に投げ、押し倒しながら覆い被さった。
 上空で爆ぜて看板やらが瓦礫として降ってきた。自分は隠し持っていたハンティングライフルを取り出し、瓦礫を撃ち抜いて直撃を免れた。

 「な……何が…!」

 「………。」

 彼女はやはり困惑している様子だが、無言で通した。ひとまず爆殺は回避したが、愛沙先輩からの情報によれば、テロが各地で発生しているらしい。嗅ぎ付けたお仲間が来るのも時間の問題だ。

 「……逃げろ。客やメイドさん、店長とまとまってね。」

 「………でも」

 「早く!」

 「ッ!」

 少し語気を強めて言うと、彼女は言われた通り逃げた。奴らの狙いは彼女じゃない。深追いする事はしないだろう。
 ずっと気付かないフリをしていた視線を合わせて口を開く。

 「返り討ちにしてあげるよ。この空を冬夜の如く極寒の地にしてね。」

 足元に温度マイナスの冷却瓶を割り、潜む敵を炙り出した。自分は熱扇風機を服に忍ばせてあるため、効かない。

 「一斉射撃!」

 痺れをきらした奴らの駒が姿を現し射撃を開始したが、寒さからかエイムが駄目駄目だ。
 自分はハンティングライフルの尖端に電流を流し、接近して突いた。
 彼らはあくまでも駒のはずだ。大人しくさえさせれば害は無い。それが聖薇先輩との約束でもあるし。







 『起爆に失敗した。冬夜は派遣した駒を全て無力化したようだ。今何処にいる?』

 「分かってるっての。……直接戦闘は久々だが、射撃練習は怠ってない。若い芽一人に潰される程軟じゃない。」

 僕はハンドガンに弾を装填して、あの店に向かった。







 全てを返り討ちにしたからか、妙な静けさがある。しかし、決して終わったような晴々しい静けさじゃない。予兆のような静けさだ。
 その原因は徐々に近付いてくる只者じゃない気配と足音だろう。その悪い予感も見事に適中してしまう。

 「随分と頭が回るんだな。撫戯が情報漏洩したとは言え、こっちも立ち回りを変えている。……若い芽は怖いね。特に君のような天才は。」

 二十代前半位の男。白いハンドガンを右手に構えており、桃色の瞳が鋭く突き刺さる。
 
 「……Leviathan。」

 「そうだね。僕は底沼。Leviathanの創立者であり、統率者だ。」

 目に見えない悪魔の異名を持つ奴らのリーダーは、確かに今、目の前にいる。
 正直、足が竦む。そんな覇気を醸し出しているのだ。

 「双子の姉は一緒じゃないのかい?そもそも一人じゃんか。四季とどういう関係だ?ハハ……君には何か特別な風格が感じられるよ…。蓬莱や、白薔薇に似てね……。」

 狙いが分からない。思考が全く読めない。この男に感じるのは狂気。甘く優しい口振りと雰囲気の中に漂う憎悪と嫉妬の塊。
 まるで“自分を投影”したかのような存在だ。
 
 「……何か気が合いそうで、絶妙に合わなそうだよ。元は同じルートが確約されていたような。そんなシンパシーを感じる。」

 「そんな未来もあったかもね。僕は正直、君が嫌いだ。正確に言うと、Mythologyは全員嫌いだが、その中でも特に……だ。」

 彼はそう言う。多分、自分が思ってる事と同じ心情だろう。似て非なる存在。それは無意識に心から遠ざけようとする作用を起こす。
 それでも彼はここに現れた。これは偶然では絶対に無いだろう。

 「隠す必要も無いし断言するよ。僕は君をここで殺す。暗殺者の鉄則は奇襲だが、僕は君と話がしたい。……何処で分岐してしまったのか、その真相を掴む為だけにね……。」
 
 そう言って底沼は僕に銃口を向けた。

 「安心しろ。君の先輩君達はね、……僕の最高の友が可愛がってくれるってさ。だからさ……集中しろ。他の事を考える必要は無い。」

 その発言の数々に、思わず圧倒されていた。これが戦慄というものなのだろうか。今、この状況に置かれている自分も怖いし、この恐敵の仲間と対面しているかもしれない仲間の事を考えると、震えが止まらない。
 今日、初めて本当の“恐怖”の意味について実感した。
 
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