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Chapter Ⅳ:Stealth

No49.Apology for the future

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 突如、視界が光に包まれ、声がした。

 「まだお前は腐っていない。」

 光が収まり目を開くと、意外では無いが、この行動をしたのは意外な人物が居た。

 「ッ!……聖薇。何故だ……!」

 「もう一度言う。まだお前は腐っていない。俺はそう確信せざるおえなかった。」 

 意味が分からない。俺は仮にも多くの人を既に殺していて、今もそれをしようとしていた。
 それに、政府側に就いたサイレンスの所属チームメンバーである聖薇に、反政府の俺を助ける理由が無い。
 
 「貴様!」

 油断の隙などあらず、警備隊とマネージャーは起き上がった。
 
 「あれ?もう起きた?……だろうな。これ、一番出力低い奴だからな。」

 聖薇がさっき投げたのは発光弾。目眩まし目的に使用する暗殺道具であり、物によっては網膜を破壊する。
 だが、良心とこの場で巻き添えを喰らう人全員が敵でないと分かっている聖薇は、この一番弱い物を使ったのだろう。

 「誰だか知らないが、それは凶悪犯に共犯したって解釈で良いな?」

 「勝手にしろ。部外者にどう思われようが、構いやしない。お前達とは後でじっくりと遊んでやるから………一旦寝てろ。」

 聖薇が目で指示すると、睡眠薬入りと思われるミストが散布された。

 「サンキュー愁。よく耐えた。そして気づかせてくれてありがとう。お陰で交戦する理由が無くなった。」

 すると、愁は頷いた。







 俺は二丁拳銃を取り出し、撫戯に銃口を突きつけた。そして、少し黙り込んだ。

 「で、この事件がどれだけのものか……理解しているか。」

 先程は彼に味方をしたが、決して肯定している訳では無い。仮にも、彼は罪の無い多くの人を殺したのだ。暗殺者の俺が言うのもおかしな話だが、罪があるのと無いのとじゃ意味合いが違う。
 外部から見れば同じに思えるが、少なくともこの界隈じゃ暗黙のルールだ。
 すると撫戯は真剣な表情で口を開いた。

 「承知の上だ。こんな事駄目だって分かってるつもりだ。……ただ、私怨には抗えなかった。政府への攻撃を命じられた俺は、真っ先に今回の計画が浮かんだ。絶好の機会だったから。……やっぱり、俺みたいな極悪人はこの世から消えるべきだ。……俺は抵抗しない。撃て。」

 彼の行為はまともとは言えないが、言い訳はしない。これもテロの一環だ。故に、俺はこいつを今ここで処分しなければならない。

 「来世ではまともになれよ……。」

 俺はそう言って引き金を引いた。

 「………何の真似だ…。」

 しかし発砲しなかった。実は片方の拳銃には弾を入れていなかったのだ。

 「だから、さっきも言っただろ。まだお前は腐っていないって。」

 「何故だ。何故だ。何故だ。何故だ!俺は!お前達の敵で、どうしようも出来ない奴なんだよ!戯言の一つや二つ並べるのは勝手だが、空気を読め!」

 「俺は本気で言っている。」

 撫戯は意味が分からなそうにしていたが、俺も愁も恋音さんも、しっかり理解出来ている。

 「そもそも、テロは本来無差別殺戮に近いものがほとんどだ。しかも、お前にとっての復讐対象はすぐ目の前に居る。ワイヤーで既に包囲しているのに、何故弾かなかった?」

 「それは……その位置のワイヤーを弾くと、恋音達にも被弾する恐れがあって……」

 「それだよ。」

 彼はあまりピンと来ていないようだが、俺は続ける。

 「腐りきった奴はまず、目的なんて忘れる。故に、周りを全て敵だと思って動きがちだ。お前はどうだ?Everyone's treasureや観客を気にかけながら立ち回っていただろう。」

 「ッ!」

 ここまではっきりと言って、ようやく気付いたようだ。
 
 「それにさ……前に俺と対峙した時、手を抜いただろ?」

 それは豪馬組での一件の時の事だ。俺は彼の弾いたワイヤーをギリギリで回避した。その時は少し動揺していたため気付けなかったが、確かに常人には回避不能とはいえ、俺ならギリギリだとしても躱す事は不可能では無い。
 
 「本当は殺すつもりは無かったが、喧嘩を売るために対峙して逃げた。ってところか。」

 「はぁ……見透かされるか。あれは勧誘目的だ。ついでにお前と対面するには良い機会だと思っただけだ。」

 粗方俺の予想通りだ。彼は腐りきっていない。過去を引きずってその判断が出来るなら、人道はある。
 
 「ただな……勿論お前のした事は間違っている。それは殺人を犯した事以外でもだ。」

 殺人ならこの界隈にいると避けては通れぬ道だ。しかも残念な事に、俺と撫戯はもれなく確定ルートだった。
 医者の家系で医者以外を目指すと言い出すと親は猛反発する。それはある種伝統と言えるのだから。それを暗殺者に置き換えただけの話だ。
 しかし、俺が言いたい事は未然に防げる可能性のあるものだった。

 「お前は信頼していた仲間を半ば裏切る決断をした。それだけは許された行為でない。……勿論心辺りはあるよな?」

 「……釈放後、俺は姿を消した。恋音も種田も望んでいなかっただろう裏社会への完全復帰をした。そこで大勢の人を追加で殺した。……以上か。」

 「そうだな…。目に見えるものはこんなものか。……種田さん。出番ですよ。」

 すると、ステージ端から俺が引き連れてきた種田さんが現れて、撫戯に目線を合わせた。

 「種田……。」

 「貴方が恋音のために戦ってくれたのは承知です。ですが、なんで一人で抱え込んだんですか?」

 「それは……」

 「何の為に僕は貴方の友達やってるんですか。相談にも乗れないで……。僕は超能力者じゃないんですよ。言われなきゃ分からない。手遅れになる前に……!」

 「すまなかった。迷惑だと思ったんだ。お前は真っ当な道で生まれ、真っ当な道を進んでいた。その最中に俺の道に引き込む事だけは、駄目なんだ。」

 「はい?正義気取りですか?……信頼する仲間の為に動けない。そのまま貴方は闇堕ち。……それが一番辛いです。僕だけじゃありません。恋音もそうだし、きっと歪君もそうだったと思います。だから僕に共有してくれたんですよね?」

 俺は静かに頷いた。

 「謝罪してください。その“最大の誤ち”を自覚しているなら。」

 すると、撫戯は額を地面に着け、土下座した。種田さんは恋音さんの向きに移動しており、ちゃんと二人に謝れるように気を遣ってくれている。

 「本当に申し訳無かった。許してほしいとは言わない。だけど、関わる権利だけは欲しい。」

 すると恋音は撫戯に近づき、抱きついた。

 「撫戯は友情に権限が必要だと思ってたの?……馬鹿だよ本当に…。」

 「そうだぞ。交友は権利なんかでは無い。僕達も貴方とは関わっていたい。関わりたい人と関わる事は違法では無いはず。」

 「……ありがとう。」

 三人は寄り添いあっている。この光景はもう二度と見られなかったかもしれない。無事、平和的に解決したものだ。
 ……しかし、まだこれで終わってはいない。この“イレギュラー”を鎮圧するまでは。

 「よくもやりやがったな!大人を挑発した罪、思い知りやがれ!」

 マネージャーと警備隊が起きた。正直計算よりは遥かに早かったが、彼らの件はまとまったため、こちらが優勢だ。
 マネージャーと警備隊は三人に近づく。

 「今ここで恋音を返してくれれば、特別に見なかった事にしてやろう。」

 嘘に決まっている。俺ならすぐに分かる。彼ら自身が固めた意思に、部外者を介入させるわけにはいかない。

 「そうか……。なら、力づくで取り返すのみ。これは正当防衛だ。」

 そう言ってマネージャーは拳を固め、三人の方に歩み寄る。奴は金持ちだ。事実の揉み消しなんて、残念ながら金さえあれば可能だ。少なくとも頭が悪ければな。
 彼の拳が迫る。しかし、俺はその拳を割って入って受け止めた。

 「あ?」

 「手出しはさせないよ。」

 ここからは、“俺の”反撃ターンだ。
 
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