上 下
48 / 150
Chapter Ⅳ:Stealth

No48.Do you know it?

しおりを挟む
 署に連行された後、俺は職質を受けた。しかし、こんな強引な連中だ。事実証明では無く、罪人と認めさせるための無駄な時間。裏社会の拷問よりよっぽどねじ曲がっている。
 しばらくすると、あのマネージャーも来やがった。余計話が飛躍するからマジで邪魔なだけだ。

 「匿名でストーカー突き出しましたよね?それ、俺です。」

 「馬鹿言え。」

 流石にこのカミングアウトは通用しない。だが、ここで“決定的”な証拠がある事に気が付いた。

 「なら、これを見ても嘘だと言えますか?」

 俺はスマホのホーム画面を見せた。俺、恋音、種田の三人で遊びに行った時に撮った写真だ。
 小学三年位のものであり、確実な証拠と言える。三人とも面影はあるため、否定のしようがない。

 「今の時代、加工も偽造も朝飯前だ。そんなのに騙されるようじゃ、この業界やっていけん。大体、ただの学生と人気アイドルじゃ、“釣り合わないんだよ”。」

 その言葉は、見事に俺の“地雷”を踏み抜いた。こんな老害に俺の事を貶されるのはまだ構わない。ただ、俺達の思い出を“偽造”の一言で片付けられるのは、堪忍袋が爆発せざるおえない。

 「はぁ………人の大切な記憶に好き勝手言いやがって!」

 冷静な心を捨て、マネージャーの胸ぐらを掴んでそう言う捨てた。
 しかし、すぐに予め囲っていた警備隊に取り押さえられ、マネージャーに物理的に見下される体制になった。それでも俺は口を開く。

 「お前は恋音の何を知っている!何故、お前は俺達の関係に口出しできる!何故、息を吐くように流せる!彼女が実は泣き虫で寂しがりだって知っているか?彼女の不安を解消していたのを誰だか知っているか?……これは確かに彼女が望んだ道だ。だが、プライベートに干渉する奴なんかには任せたくない。幼馴染みとして、親友として!」

 心に身を委ねてそう言っている間にも、マネージャーと距離は開く。俺はこれから恐らく保護されるだろう。
 ただ、最後に渾身の一言を吐き捨てる。

 「消えろ。……必ずその言葉、訂正…いや、後悔させてやる。」

 




 それからというもの、俺は少年院送りとなった。メディアでは虚偽の情報が円満、幸い種田の訴えによって退学は免れたが、その風当たりはあまり良いものでは無い。
 恋音が慌てて釈放を要求したため、すぐに出られた。だが、社会的に敵認定された俺は、裏社会に戻った。
 聖薇にも種田にも、恋音にも当然会っていない。もう迷惑が掛かりそうで関係を絶ちたい。
 






 あの忌々しい出来事から三年の月日が流れた。約一年前から、度重なる異常気象とそれに対する政府の対応の悪さから、国が荒れ始めていた頃だった。
 連絡先を一応持ってはいるものの、音信不通だった元家出少年「聖薇薔羨」からメールが届いた。

 『明日、名古屋に来い。よい話を持ってくる。』

 特にする事も無く射撃とワイヤー制御の訓練に明け暮れていた俺は、翌朝に名古屋駅へと向かった。







 大都市名古屋とは言えとも、人は驚く程居なかった。関東以外は鉄道が通っていないので、ただのシンボルなのだ。
 そんな中、立っていたのは薔羨では無い男性だった。

 「お、君が讐鈴撫戯だよね?こっちに来な。」

 その男性は俺を呼び、手招きをした。怪しさしか無いのだが、最悪カウンター出来るように銃を忍ばせてあるため、近づいた。

 「誰だ。」

 「Leviathanって知ってる?」

 その一言で彼の正体が分かった。このフレンドリーで弟感のある人、そして青い瞳。

 「底沼……。」

 「当たり。黒薔薇の代理で用件を伝えに来た。…というか、僕が君に用がある。」

 「はぁ……何ですか?」

 「Leviathanに入らない?」

 「その利点が俺にとってあると?」

 入る理由なんて無い。大体、こんな得体の知れない最恐チームに入りたい奴なんていないだろう。

 「初期メンバー以外初めての新規だぞ?それに、これは黒薔薇からの推薦だ。知っての通り、今社会は不安定だ。ここらで革命を起こすべきだと思い、黒薔薇はプレデスタンスを組織した。そこの上層メンバーに君を招き入れたいらしい。Leviathanは無条件で上層入り。こんないい話他にそうそう無い。」

 「それでも俺は………」

 「うちには凄腕ハッカーが居る。どんなサーバーでも支配できるね……。勿論、君を苦しめた連中の情報位、容易に集まる。」

 今の俺の目標は、奴らへの“復讐”だった。どうせ宛もないし、確かに美味い話ではある。それに、仮に裏切られようとも、何もしないよりはマシだ。

 「……乗ってやんよ。十五年ぶりの戦線復帰だ。」

 「四歳から戦闘しているの?」

 「囮役だけどな。」

 こうして、俺のLeviathan入りが決まった。後悔は無い。







 絶望一色。またあの日と同じように、今度こそ本当に刑務所送りなのだから。
殺すのは容易なのに殺せない。復讐対象は目の前にいるのに……。
 俺はそっと目を閉じた。

 「悔いはない。やれる事は…全て……」

 『まだお前は腐ってない。』

 「ッ!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

ほたるいはシスイを照らす光となり得るか

君影 ルナ
キャラ文芸
※本編「25」の矛盾に気がついたので、少し書き直しました。 ── 「明鏡 茨水」という名前を聞いて思い浮かべる言葉は何だろうか。だいたいの人間はこう答えるだろう。 『完璧人間』 と。 シスイ本人ですら自分に完璧を求め、それを実現させているところを見ると、強ち周りからの印象とも大差ないようだ。 そんなシスイの、日常とも非日常とも言えるかもしれない物語。 ── ※これはフィクションです。現代ものではありますが多少非現実要素が含まれております。 ※ノベプラ、カクヨムにも重複投稿始めました。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

【完結】神様WEB!そのネットショップには、神様が棲んでいる。

かざみはら まなか
キャラ文芸
22歳の男子大学生が主人公。 就活に疲れて、山のふもとの一軒家を買った。 その一軒家の神棚には、神様がいた。 神様が常世へ還るまでの間、男子大学生と暮らすことに。 神様をお見送りした、大学四年生の冬。 もうすぐ卒業だけど、就職先が決まらない。 就職先が決まらないなら、自分で自分を雇う! 男子大学生は、イラストを売るネットショップをオープンした。 なかなか、売れない。 やっと、一つ、売れた日。 ネットショップに、作った覚えがないアバターが出現! 「神様?」 常世が満席になっていたために、人の世に戻ってきた神様は、男子学生のネットショップの中で、住み込み店員になった。

おおかみ宿舎の食堂でいただきます

ろいず
キャラ文芸
『おおかみ宿舎』に食堂で住み込みで働くことになった雛姫麻乃(ひなきまの)。麻乃は自分を『透明人間』だと言う。誰にも認識されず、すぐに忘れられてしまうような存在。 そんな麻乃が『おおかみ宿舎』で働くようになり、宿舎の住民達は二癖も三癖もある様な怪しい人々で、麻乃の周りには不思議な人々が集まっていく。 美味しい食事を提供しつつ、麻乃は自分の過去を取り戻していく。

処理中です...