多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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Chapter Ⅳ:Stealth

No46.Not the enemy

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 しかし撫戯は反応しない。周囲を巡回していた警備隊が銃口を向け、一斉に包囲した。
 だが、足元のワイヤーに引っ掛かり、そのワイヤーが引き上げられて、絡まり斬殺された。

 「ふりじゃねぇぞ。弾の一発くらい詰めときやがれ。“命に重みを感じているのか?”」

 歪みきっている。そんな矛盾ばかりの発言に、誰も声をあげられない。
 客席は冷静を保っていられるはずもなく、逃げる者や撮影をする者など様々だった。
 そんな圧力に怯える中、進行役の少女だけは場を何とかしようと口を開いた。

 「皆怖がってるから……ね?平和的に行こ?」

 普通だったらキレて手を出しそうな爆弾発言だが、撫戯は冷静だ。

 「それは無理だ。何せ、俺が良くても邪魔者は絶対排除しようとする仲間がいるものでな。」

 刹那、耳に電流が走るような静かな発砲音が鳴り、ステージに銃痕が着いた。
 そのムードメーカー系アイドルを狙って撃たれたようだが、彼女は無事だった。

 「きゃっ!だ、誰ですか!」

 「誰だっていい。」

 「……助けてくださりありがとうございます……。」

 歪の到着までの時間稼ぎにステージに歩み寄っていた愁が咄嗟に押して庇ったようだ。彼も無傷である。

 「Mythologyに余りが居たか…。」

 「どういうこと?」

 愁は意味が分からなかった。まるで居ることがおかしいような口振りだったからだ。
 しかし、反応のズレで撫戯は察した。

 「あぁ……なるほどな。知らねぇのか?Leviathanは同時進行で搔き回しているんだ。それで戦力を分散させた所を仕留める。簡単な話だろう?」 

 しかしそれでも辻褄は合わない。撫戯はまたしても察した。

 「遅延したか……。」

 彼らの会話に誰一人としてついていけていない。それでも、命を握られている事に変わりはない。ワイヤーは彼の気分次第で圧縮し、おまけにスナイパーがこちらを覗いている。
 だが、状況を変えることは出来ない。下手に動いて失敗すれば、更に多くの犠牲者が出るからだ。







 サイレント本部。暗殺者…ましてや幻と言われた奇跡の悪魔Leviathanが現れたにも関わらず、誰もその事に気づかない。
 何故なら、重要な連絡網が全て遮断され、サーバーはダウン。内通者からは株式会社ポピュラーラブ・スイートフラグの系列店舗でまた新たな失踪が出たと連絡が入ったからだ。

 「……状況が分からない。」 

 柊司令は追跡の仕掛けた罠だとは理解できているが、わざわざ連絡網を遮断したという事は本当の情報をあえて流している可能性もあり、やはり虚偽である可能性もある。
 しかし、まさか別の事のために遮断しているとは、この切羽詰まった状況では思いつくはずも無かった。

 「お父さん……。」

 「莉緒菜か。励領君を呼んで来てくれたまえ。外出中の彼なら、虚偽がどうか知っているかもしれない。」

 「分かりました。」

 そう言って莉緒菜は走って行った。







 緊迫に包まれる会場。まともな神経をしている観客は流石に逃げたが、一部の熱烈的なファンや、結末を見届けたい者、無神経の権化は未だに居た。

 (サイレンスの印象に直結するから今は何もしてはいけないんだ。早く何処かにいってくれ!)

 愁の切実な願いが心の内で叫ばれる。サイレンスは清心が勝手に依頼してるだけであって、世間一般的に見たらただの暗殺機構に変わりない。
 すると恋音が口を開いた。

 「私が何かしたなら謝る。だから…だから……皆には手を出さないで!」

 泣きながら恋音はそう叫ぶ。しかし撫戯の心には一切響かない。
 完全に目の光を失っている撫戯が徐々に歩み寄る。
 しかし、それでも恋音は負けずに言葉を並べる。

 「覚えてる…?私が色々失敗して怒られちゃった時、いつも寄り添ってくれてたよね。何か言う訳でもなく、頭に手だけ乗せてさ……。あの頃の優しい君は何処にいったの?……教えてよ。」

 その精一杯の声も全く響かない。距離が近くなり、その手が覆い被さる。誰もが殺されると思っただろう。

 「え……?」

 「全部覚えてるよ。不器用だからさ、立ち直れなかったんだよ。……犯した罪に目を逸らすつもりは無い。だから……」

 彼の腐った心は戻りかけていた。そう、戻りかけていたのだ。しかし、そこに“予期せぬ悪化の元凶”が現れた。
 撫戯の左肩が刺され、弱った所を投げ飛ばされた。

 「……ッチ。ゴミが……!お前が現れるのは待っていたぞ!」

 現れたのは彼女達のマネージャーだった。

 「崇高なトップアイドルに“何の関係もない一般人”が触れようなど、あってはならない。身の程を知れ。」
 
 復讐に取り憑かれた撫戯が戻って来た。そう、彼を見事に狂わせたのは、この男なのだ。
 これには愁も流石に黙っていない様子だ。マネージャーの周りには警備隊も居る。しかし、正式では無いにしろ政府の味方である愁に彼らは撃てない。契約違反になってしまうからだ。

 「はぁ……テメェだろそれは。金の事しか頭に無い横暴なクズ野郎が!」

 怒り狂う撫戯。下手に首を突っ込めない愁。そしてこの場所では無敵のマネージャーと警備隊。
 この状況を平和的に解決するのは、至難の業だ。
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