多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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Chapter Ⅳ:Stealth

No45.Impatience

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 静まる控室でスマホのバイブが鳴り響く。それまでずっと未読だったメッセージが一気に既読になっている。
 しかし、反応する事は出来ない。この言葉は誰も目にする事はないだろう。







 「……撫戯…改め孤高。ここからはお前のターンだぞ……。」

 映人はそう呟き、侵入済みだった会場全体のサーバーの権限を奪い取り、撫戯が最高の復讐をするための舞台データを導入した。







 会場は歓声に包まれた。デモンストレーションが終わり、トークが展開されている。

 「ところでところで!恋音ちゃんはこんなに沢山のファンを前にして緊張しないの?」

 そう進行役のメンバーが話を振ると、彼女は少し悩んで答える。

 「うーん。全くでは無いかな。でも、笑顔が疎かになったらいけないじゃん?だから、緊張は上書きしないとね!」
  
 「そうだね!それじゃあ次の曲行ってみよー!」







 楽しいライブは、常に沢山の裏方さんが居て成り立っている。成功のために大忙しだ。

 「ライトアップお願いします。」
  
 「はい。付けました。」

 しかし、機械は言う事を聞かない。

 「おい何している?トークが長引いているからいいが、準備を早く……」

 「先輩、動きません!」

 「……は?待って、モニター全部消えてね?」

 やがてコンピュータルームが停電した。今の所会場には影響は無いが、裏ではサーバーの復旧を急いでいた。しかし……。

 「パスワードが変更されています!このままでは間に合いません!」

 「何……!」

 コンピュータルームは混乱に包まれていた。そんな無防備な所に追い打ちをかけるが如く、一人の男が現れた。
 電気が復旧すると、赤外線センサーのようにワイヤーが張り巡らされていた。

 「……誰だ…ぐっ!」

 声を出した男に繋がれたワイヤーが引かれ、締め付けられた。

 「悪いな。お前達は悪くない。ただ少数派のクズのせいでお前達も同類扱いになった。……ここのサーバーはうちのハッカーが乗っ取った。……Everyone's treasureの関係者…手を挙げろ。」

 しかし、誰一人として反応しなかった。刹那、刃物のように鋭いワイヤーはピンと張られ、圧縮した。

 「うわぁぁぁ!!」

 断末魔と共に、その場に居た人から血が吹き出た。

 「……知ってんだよ。全員直属だって。ほら、あの世で結末を見届けてやがれ。」

 撫戯は銃弾を詰めながら、ステージの方へとゆっくりと歩み寄った。







 一方、会場でも不穏な空気が流れていた。一行に流れる気配の無い伴奏に、メンバーも不安になっており、客席もざわつき始めていた。
 中継も途絶えており、俺は愁を経由して状況把握に専念していた。

 「どう出るか……。ミストはあるか?」

 『一応。ただ、強いんじゃないの?』

 「俺も今そっちに向かってるから、とりあえず足止めをお願い。目立ちたく無いのは分かるが、お前が何千何万の命を握っているんだ。」

 『……そこまで言われたら退けないじゃん。』

 あの組織一の無口もこの状況になればよく喋る。相手が俺だからってのもあると思うが、何にせよ、連携が取れるのはいい事だ。
 柊司令にも既に話は通してある。後は奴と決着を着けるのみだ。







 「えーと皆さん!落ち着いてください!サーバーが回復するまでの辛抱ですから!」

 アイドルの場を和ませる力でさえも相殺される程のざわつき。進行役が頑張ってケアしようとしているが、周りはもう使い物にならないくらい崩れそうな不安で押し潰されている。勿論彼女も例外では無いはずだ。
 バチッと音がして、液晶画面に映像が表示される。ぼかされているが、何やらバーのような所が映し出された。

 『関東の人、こんにちは。私は中部出身のただのエンジニア。今日は楽しいライブって聞いて、私は居ても立っても居られなくなりました。突然ですが、私の友人には孤高の人物がいます。人は常に群れることで精神を安定化させます。突如、なんの前振りも無く仲間との永久疎遠を言い渡されたら、耐えられるでしょうか?無理です。だって生涯孤独は寂しいものですから……。彼は狂い果てました。それなのに正気を保っていました。しかし、今日彼は限界が来てしまいました。これから貴方達が目にするのは、人間なら秘めた感情が暴走した者の決意です。それでは、貴重な体験を楽しんで……。』

 そして映像が乱れて切れた。スポットライトが赤く照らされ、暗くて見えなかったワイヤーが鮮明に現れた。

 「ッ!歪!」

 『遂に現れたか……。足止めが終わったらあの映像の主を頼みたい。恐らくLeviathanの誰かだ。』

 「分かった。」

 歪の声は普段より息が上がっていた。体力はあるはずなのにそうなっているという事は、内心焦っているんだろう。
 するとステージの端から、顔立ちは割と良さげな部類だが、見せびらかそうとしないフード男が現れた。

 「ッ!……夢…だよね?嘘だよね?なんで……なんで!」

 恋音は不意に見えた素顔に信じたくないという心情と、無限に湧き続ける疑問を抱いた。

 「……Leviathan所属。暗殺者:孤高。 苦しみは全部…分け与えてやるよ。」

 彼女の瞳に写る彼は彼女の知る彼では無いのだろう。侵食された心の持ち主。
復讐の化身と化した撫戯だ。
 
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