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Chapter Ⅳ:Stealth
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買い物を終え夕方、自分達は解散する流れになっていた。
「今日はありがとう!」
「どういたしまして。」
すると明璃は鞄から券を取り出して自分の手に握らせていた。
「割引券だよ。会いに来てほしいなー!」
メイド喫茶の割引券だった。普段だったら絶対入らないが、多分消費するためにそのうち行くかもしれない。
「気が向いたらね。」
「それじゃあまたね。」
そして明璃は帰路に着き、自分はタクシーを呼んだ。結構距離が離れてるから。
時は来た。俺はホテルで滲襲先輩と通話をしていた。
『いよいよ明日だね。僕も職場から閲覧させてもらうよ。』
「中継もあれば警備も厳しいが、もう手中に収めたも同然だ。滲襲先輩はどうなんすか?」
『順調に消せているよ。ただ、そろそろ連中も警戒しだしてきた。この騒動が終わったら映人借りて隠蔽する。』
「そうか。負けないように頑張る。」
『期待してるぞ。まぁ撫戯が“本当に後悔”しない結末になるように祈ってる。』
そして通話が切れた。彼も不思議で変わり者だ。蓬萊さんといい黒薔薇さんといい、本当に俺の周りには独特な思想の持ち主が多いと感じた。
……ただ、それは俺も同じだ。完全一致の思想が無いからこそ、俺達は繋がれたのだ。それが簡単に切れる事は無いと……今日、無知な連中に教えてやる。
十九にもなるが、まだまだ社会に順応したいとは思えない。地位なんて飾り。そう思っていたい。
アラームをセットし、俺は眠りに着いた。ここの管理人は滲襲先輩に口説かれているため、早朝から外出許可を貰えた。Leviathanのカリスマ性には感謝しかない。
関東で待ちに待たれた日がやってきた。人気アイドル四季恋音の所属グループ「Everyone's treasure」の大規模ライブの日だ。
俺は本部で中継を見るつもりだ。何故なら妙な胸騒ぎがするからだ。
「興味あるならライブ行ってきても良かったんだぞ?こっちの件はOrderで対処しとくから。」
すると絆がそう言ってきた。勿論俺の考えは誰にも共有していない。より混乱を招くかもしれないし、最近著名人やプロフェッショナルの失踪が相次いでいる。現在サイレンスはその件で手一杯なのだ。
何か本当に起こったら司令に連絡を入れるが、何もないのが一番良い。
そんなこんなで待機していた。
『貴方ならきっと正しい未来に導けます。本当に優秀な裏方ってのは、世間から称賛されるわけじゃないんですよ。でも、自信を持つ権利はあると思います。』
そう種田から送られてきた。ぼかした表現ではあるが、繋がりを大切にする俺達にとっては、その意図は簡単に掴める。
だから念のため現地に愁を送り出したのだ。撫戯と接点があったわけじゃないが、境遇で選んだ道が違う同士、考えは読みやすいだろう。
トリッカーの戦略的思考はフィジカルの俺には分からないから。
仙台。それは今や無法地帯の中で一番統率の取れた地区。理由はシンプルでプレデスタンスのホームシティだからだ。
渋谷超えの巨大な液晶画面が設置されており、その下には加入者が群がっていた。
俺はその光景を黄牙と共に研究所の屋上から見下ろしている。
「Leviathanの割に大胆な事だよな。薔羨もそう思わない?」
「今回は撫戯の提案に追跡が乗った形だ。彼なら取る手法だろ。」
仙台で暮らすプレデスタンスの加入者は許せなかった人達だ。それが何に対してかは人それぞれだが、僅かな“報われたいという名の復讐心”に取り憑かれている。
ただ、人間は群れないと無力。実行しても虚しく鎮圧されてしまうのだ。そして、個人の復讐なんて人が集まるはずもない。詰んでいるのだ。
しかし、この讐鈴撫戯「孤高」という男は違う。全てを敵に回してでも、粘り続ける。一部の人々の希望になってくれるだろう。
「………大人に見せつけてやりな。若くして失った希望への執着を…。」
「薔羨今年で二十三だっけ。」
「やめろ。」
呟きにマジレスが飛んできて拳が出かけたが、こいつにそんな事は出来ない。残された仲間はもう僅かなんだ。
会場は人で溢れていた。そんな中不憫にも動員された無口。フラペチーノで手を打ってあるが、逆にそれでいいのか。
何にせよ、旋梨のボムが使えないため、次に信頼している彼が適任だった。
中継が途切れた時対策に、愁に小型カメラを搭載したコンタクトを着けてもらっている。勿論無線機も。
『そろそろ。』
「了解。会場に怪しいものは?」
『無い。ワイヤーも。』
すると会場が暗転した。
「皆ー今日は来てくれてありがとー!」
Everyone's treasureが姿を現すと、一瞬で会場が熱気に包まれた。センターを飾るのは四季恋音。大人気アイドルであり、これから起こるかもしれない……いや、俺はほぼあると睨んでいる事のヒロインだ。
彼女はマイク越しに口を開いた。
「最っ高の一日にしよ!!」
すると音楽が流れ始め、デモンストレーションが開始した。
会場から音楽が流れ始め、後ろの方ではヲタ芸をする者もいる中、会場近くの公園のベンチで知らない顔して座る男が、一言のメッセージを送った。
『戻りたい。』
その男は立ち上がり、会場に足を進めながら通話を始め、たった一言の合図を伝えて切った。
「任せたぞ。」
社会的立場など最早どうだって良いのだ。少なくとも“孤高”はそれを不要と考えた。
「今日はありがとう!」
「どういたしまして。」
すると明璃は鞄から券を取り出して自分の手に握らせていた。
「割引券だよ。会いに来てほしいなー!」
メイド喫茶の割引券だった。普段だったら絶対入らないが、多分消費するためにそのうち行くかもしれない。
「気が向いたらね。」
「それじゃあまたね。」
そして明璃は帰路に着き、自分はタクシーを呼んだ。結構距離が離れてるから。
時は来た。俺はホテルで滲襲先輩と通話をしていた。
『いよいよ明日だね。僕も職場から閲覧させてもらうよ。』
「中継もあれば警備も厳しいが、もう手中に収めたも同然だ。滲襲先輩はどうなんすか?」
『順調に消せているよ。ただ、そろそろ連中も警戒しだしてきた。この騒動が終わったら映人借りて隠蔽する。』
「そうか。負けないように頑張る。」
『期待してるぞ。まぁ撫戯が“本当に後悔”しない結末になるように祈ってる。』
そして通話が切れた。彼も不思議で変わり者だ。蓬萊さんといい黒薔薇さんといい、本当に俺の周りには独特な思想の持ち主が多いと感じた。
……ただ、それは俺も同じだ。完全一致の思想が無いからこそ、俺達は繋がれたのだ。それが簡単に切れる事は無いと……今日、無知な連中に教えてやる。
十九にもなるが、まだまだ社会に順応したいとは思えない。地位なんて飾り。そう思っていたい。
アラームをセットし、俺は眠りに着いた。ここの管理人は滲襲先輩に口説かれているため、早朝から外出許可を貰えた。Leviathanのカリスマ性には感謝しかない。
関東で待ちに待たれた日がやってきた。人気アイドル四季恋音の所属グループ「Everyone's treasure」の大規模ライブの日だ。
俺は本部で中継を見るつもりだ。何故なら妙な胸騒ぎがするからだ。
「興味あるならライブ行ってきても良かったんだぞ?こっちの件はOrderで対処しとくから。」
すると絆がそう言ってきた。勿論俺の考えは誰にも共有していない。より混乱を招くかもしれないし、最近著名人やプロフェッショナルの失踪が相次いでいる。現在サイレンスはその件で手一杯なのだ。
何か本当に起こったら司令に連絡を入れるが、何もないのが一番良い。
そんなこんなで待機していた。
『貴方ならきっと正しい未来に導けます。本当に優秀な裏方ってのは、世間から称賛されるわけじゃないんですよ。でも、自信を持つ権利はあると思います。』
そう種田から送られてきた。ぼかした表現ではあるが、繋がりを大切にする俺達にとっては、その意図は簡単に掴める。
だから念のため現地に愁を送り出したのだ。撫戯と接点があったわけじゃないが、境遇で選んだ道が違う同士、考えは読みやすいだろう。
トリッカーの戦略的思考はフィジカルの俺には分からないから。
仙台。それは今や無法地帯の中で一番統率の取れた地区。理由はシンプルでプレデスタンスのホームシティだからだ。
渋谷超えの巨大な液晶画面が設置されており、その下には加入者が群がっていた。
俺はその光景を黄牙と共に研究所の屋上から見下ろしている。
「Leviathanの割に大胆な事だよな。薔羨もそう思わない?」
「今回は撫戯の提案に追跡が乗った形だ。彼なら取る手法だろ。」
仙台で暮らすプレデスタンスの加入者は許せなかった人達だ。それが何に対してかは人それぞれだが、僅かな“報われたいという名の復讐心”に取り憑かれている。
ただ、人間は群れないと無力。実行しても虚しく鎮圧されてしまうのだ。そして、個人の復讐なんて人が集まるはずもない。詰んでいるのだ。
しかし、この讐鈴撫戯「孤高」という男は違う。全てを敵に回してでも、粘り続ける。一部の人々の希望になってくれるだろう。
「………大人に見せつけてやりな。若くして失った希望への執着を…。」
「薔羨今年で二十三だっけ。」
「やめろ。」
呟きにマジレスが飛んできて拳が出かけたが、こいつにそんな事は出来ない。残された仲間はもう僅かなんだ。
会場は人で溢れていた。そんな中不憫にも動員された無口。フラペチーノで手を打ってあるが、逆にそれでいいのか。
何にせよ、旋梨のボムが使えないため、次に信頼している彼が適任だった。
中継が途切れた時対策に、愁に小型カメラを搭載したコンタクトを着けてもらっている。勿論無線機も。
『そろそろ。』
「了解。会場に怪しいものは?」
『無い。ワイヤーも。』
すると会場が暗転した。
「皆ー今日は来てくれてありがとー!」
Everyone's treasureが姿を現すと、一瞬で会場が熱気に包まれた。センターを飾るのは四季恋音。大人気アイドルであり、これから起こるかもしれない……いや、俺はほぼあると睨んでいる事のヒロインだ。
彼女はマイク越しに口を開いた。
「最っ高の一日にしよ!!」
すると音楽が流れ始め、デモンストレーションが開始した。
会場から音楽が流れ始め、後ろの方ではヲタ芸をする者もいる中、会場近くの公園のベンチで知らない顔して座る男が、一言のメッセージを送った。
『戻りたい。』
その男は立ち上がり、会場に足を進めながら通話を始め、たった一言の合図を伝えて切った。
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