多面性を持つ最強暗殺者はただ日常を望む

やみくも

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Chapter Ⅱ:Vicious

No23.Sound of punishment

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 俺は自動車付近を後にして店へと歩んだ。店内から銃声が聞こえるため、歪は交戦をしているようだ。
 俺はライフルのため室内で撃ち合うのは苦手だ。しかし、山田組は殴る蹴るのヤンキーのような集団だと聞いたことがある。
 何はともあれ、俺達で制裁を加えなければならない。今回の目的は誘拐された人の奪還と店の制圧だが、我々の頭には常に“制裁”の二文字が入っている。サイレンス最強チームである宿命だ。







 男達はサブマシンガンを撃ってくるが俺は余裕に躱して接近した。

 「弱い。出直してきな。」

 一人の男の頭を撃ち抜き、もう一人の男が怒りに身を任せて包丁を持って走ってきたが、俺は無慈悲にその頭に撃ち込もうとした……が、横に躱して足を引っ掛けた。

 「ぐふっ!な、何がしたい!何故殺さない!」

 転んだ男はそう刺々しい口調で叫んだ。

 「動機を聞かないと次に生かせないからだ。ただの反社に山田組が協力してくれる訳無い。裏があると見た。」

 すると男は震えながら笑った。

 「あはは……白薔薇に当たったのは単に不幸だった。せめて足だけは引っ張らないようにしてやる。相方はもう居ないしどうでも良い。」

 「待てっ!」

 男が口に忍ばせていた瓶を噛み砕くと、苦しみに耐えられず息を引き取った。拷問対策に自害用の毒を所持していたようだ。
 情報戦における鉄則とはいえ、俺の顔を見るなり恐れられるのは、俺が既に染まった人間だと揶揄されているようで、辛い。もう真っ当には生きられない。そう強く思わされた。

 「……クソっ。また余計な返り血が増えた…。」

 そう嘆き、俺はまもなく到着する死体処理班のために痕跡情報のまとめを開始した。







 店の横にある路地裏。そこへ足を踏み入れると、奴が待ち構えていた。

 「山田組は半壊へと追い込まれた。お前達のようなイレギュラーのせいでな!お前の度胸だけは認めてやる。音階。」

 山田組副会長山城は、怒鳴るようにそう言った。すると、近くに置いてあったパイプを持ち上げて言った。

 「店を潰すだけなら俺に構う必要は無いはずだ。特にお前は鎮圧の技術は優れているが、戦闘は並より強い程度。他の奴を連れて来ずに何がしたい?」

 その言葉は俺の頭に強烈な刺激を与え、本能を抑制出来なくなるほどだった。

 「……俺はこれまで誰かのためだと思って任務に臨んでいなかった。捨てられた時点で他人などどうでも良かった。でも今回は違う。始めて誰かのために本気になれたんだ。そして俺は強く心に誓った。サイレンス所属として、罪ある者には罰を与えると。」

 「果たして店に出入りする事は罪ある事なのか?」

 「違げぇんだよ!」

 俺は感情に身を任せて口を動かした。

 「心あるものを単なる道具としか見ていない連中。そいつらに知ってて協力する連中。そして、Mythologyの事を分かった気でいるお前!……実力が何だって?Mythologyはなぁ、選抜メンバーじゃねぇんだよ!単なる仲の良いチームだ。その仲による連携力と個人の特筆した部分が噛み合って、始めて最強の座に君臨するんだよ!欠けていい人なんて決していない。平気で駒を捨てるような奴を慕う奴が、自分のエゴを押し付けるな!」

 俺は山田組を認知している。それもそのはず、俺が捨てられた理由は山田から逃がすためだった。
 
 シングルファザーである父は、学生の頃から山田の奴隷だったとこの界隈に入ってから知った。山田が後継者育成のため俺を狙っていたらしいが、父は命懸けで逃がしてくれたそうだ。
 当時の俺はそんな事を知らず、人間は所詮自分の都合で生きる身勝手なものだと思い込み、盗んだパソコンでこのサイレンスを見つけ、自ら志願した。父が望んでもいない“強欲な奴への制裁”をしていた。
 でもあいつらが証明してくれた。全員がそうではないって。誰かを思い行動する聖人だって居るって。

 「お前がそれを知っているかは定かでは無いが、これだけは変わらない。俺の居場所をお前達と同じ価値観で見るな。」

 そう言って俺は臨戦の意思を表明して構えた。

 「何をごちゃごちゃと……言っているんだぁぁ!」

 山城はこちらに殴りかかって来るが俺はその直線的な動きを躱して、回し蹴りをお見舞いした。しかし、彼は態勢を整え直して手を出した。

 「かはっ!」

 「弱い弱い弱い!お前は所詮駄目なんだよ!ああ知ってるさ。会長は武勇伝のようにその話をするからなぁ!誰かに逃されてのうのうと生きていると思っていたが、まさかまたこの場所に自ら戻って来るとはな!」

 俺は胸ぐらを掴まれ、一方的に殴られ続ける。罵詈雑言を浴びされながら……。       
しかし、俺はそれでも奴を睨みつけた。

 「本当に気に入らない野郎だ。ああ、お望み通りこの地上から抹消してやるよ!」

 俺は出血量が酷すぎて貧血気味だが、何故だが口元が緩んだ。

 「は?お前さこの状況…!」

 「わかってるさ。」

 俺は山城を遮って続けた。

 「だからさ……俺と俺の仲間から一生手を退け。なんなら会長と一生二人で生きろ。」

 ポケットに忍ばせていたスイッチを押すと、そこから超絶不快な金属音が鳴り響いた。

 「ぐぁぁぁぁぁ!」

 山城は、思わず倒れ込んだ。

 「俺の代名詞、金属音を忘れたか?音階の名は知っていても、詳細は知らないようだな。外のお仲間さん、ちゃんと見てなかったんだ?まだ生きてたのに…。」

 俺が煽るような口調でそう言い放つと、山城は鬼のような形相でこちらに突っ込んで来た。先程と同じように。

 「即座に気絶する事だって可能なのに、一番出力の弱いものを使ってあげた。お前だったらオーバーキルを選ぶと思うけど…なっ!」

 言い終えると同時に足を振り上げ、山城の首に回し蹴りを命中させた。すると山城は倒れた。死んではいないようだが、流石に懲りただろう。

 「ヒーローは孤独だ。それでもいつか誰かと歩む。自分で言うのもあれだが、俺の人生はそれを体現すると思う。……って聞こえてないか。」

 うっかりそう倒れる山城に対して言い放ち、俺はその場を後にした。
 人間味を取り戻す俺と人間味を失いつつあると自負する歪。このコンビだからこそ、ここまで上手くやっていけたのだろう。
 愁だってそうだ。彼のような優秀な裏方が居るからこそ、俺達は戦場で輝けている。そう強く思わされた。







 死体処理が終わり、俺は下を向きながら自動車に乗り込んだ。
 何故かテンションが妙に高い旋梨と珍しく反応している愁、それを微笑ましそうに眺める愛沙。もう何がなんだか分からない。
 何はともあれ、誘拐された人が全員無事で良かった。









 「……山田。また勝手に騒動を……。」

 「もう切るか。黒薔薇だって捨て駒として認識している。それに、整理整頓の決定権は僕らにあるから。ってなわけで、よろしく。」

 「了解。」

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