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Chapter Ⅱ:Vicious
No16.Trivial question
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あの事件から一週間が経過した。メンタルケアも順調に進んでいるようで、外の連中も動きは特に無いそうだ。
今や我が日本列島の民はその約半数以上は政府の管理下から外れている。東京を中心としたこの関東地方の外は、無法地帯といって差し支えないだろう。
異常災害の多発は生物は何一つ干渉していないのに人を狂わせた。国の対応も問題だが、私利私欲が強すぎる人間の本質も改めて影響力があるものだと思った。例えるなら食の恨みのようなものなのかもしれない。
俺は今、都内の病院に向かっている。東堂の様子を確認するためだ。あいつは怠い突っかかり方をしてくるが、競争相手がいないのも寂しいものだ。
あの時は混乱していて状況を上手く把握できていなかったが、後日サイレンス本部で聞いた話によると、あのテロは今後彼らの団結力を高めさせる要因になる大事な分岐点となった可能性が極めて高いらしい。
群れを通り越して一つになった生物は何よりも凶悪だというのは共通認識だろう。こちらから手を出した事はこれまで無かったが、最悪の場合は視野に入るだろう。俺はそんな事極力したくないが…。
そうこうしているうちに東堂の病室に着いたため、ノックして無言で入った。
「聖薇……歪…?」
「久々だな。東堂。」
俺は近くにあった椅子に座って鞄から包みを取り出した。
「やるよ。」
「これは?」
「あんな状況だったから最終選考出来なかっただろ?そこで作るつもりだった品だ。流れ的に多分デザートとかだと思ってな。」
東堂が包みを開くと、薔薇を形どったマカロンが入っている。その反応は予想通りのものだ。
「造形……美しいな。第一選考も薔薇だったよな?好きなのか?薔薇という花が。」
「まぁ…そうだな。名前にも入ってるし、不完全な形でだけど……。」
そう小さく口に零し、俺は部屋を去った。東堂は再び目を閉じたようだ。
白薔薇……。このコードネームは華隆さんが名付けた。俺もその意味は理解していないが、華隆さんは“照らされる場所がある時、影は必ず出来てしまう。互いを理解するのは難しい。”と言っていた。
白と黒。このメッセージは何かを暗示しているように感じるが、華隆が亡くなった今、その真相に迫る術は無い。
しかし、薔薇の花言葉は人間関係に関わるものだという事は知っている。ここに何かヒントがあるのかもしれないが、所詮はコードネーム。深い意味は無いだろう。
彼の発言で自分のコードネームや名前について疑問が浮かび考えながら帰路に着くと、気づいたら楽器店に来ていた。
「あれ?はぁ……外の世界を遮断する程の疑問だったのか?」
本当は帰るつもりだったが、導かれるようにここへ来てしまったので、店内に入った。
「柊よ。今回の件で深い傷を負ってないか?彼らも急な任務で疲れてるだろう。」
私が思考を停止させて机に顔を伏せていると、どこからともなく現れた清心がそんな事を言ってきた。
「お前にまだそんな心が残ってたのか。」
「人を馬鹿にしすぎるのもどうかと思うが。私だってれっきとした人間だ。何も悪くない国民を守りきれなかった事に君は傷つくだろうと思ってな。」
「前言撤回。何も変わっちゃいないな。強いていうなら、私の扱いがただ働き奴隷から、抵抗権のある下僕になったようなものだ。」
「なっ!しっかり依頼料は払っているだろう!」
違う。私の言いたい事はそういう事では無い。暗殺者だってれっきとした人間だ。だが、彼に何を言っても無駄だろう。
「国も我々にばかり押し付けないでさ、少しはテロ対策をしろ。」
「ぐぬぬ。友人の頼みとなれば仕方が無い。バリケードの強化工事にでも取り掛かろう。」
そう言って清心は部屋を去った。
何故、日本が失敗したのかは彼と古くからの友人である私ならすぐに分かる。だからこそ、所属構成員のメンタルケアも、司令として大事な仕事なのだ。今の国を信用しきった時、我々は確実に道を踏み外すからだ。正確には這い上がれなくなるからだ。
楽器店に入ると、よく知る顔ぶれが揃っていた。
「あ、歪君。やっほー。」
「歪か。どうした?」
旋梨が凛、真依、波瑠の三人に今日も真面目に音楽についての指導をしていた。
「何か気付いたら来てた。」
「らしくないな。なら手伝ってよ。ギター同じもの持ってるから。」
俺は旋梨からそのギターを渡され、軽く弾いてみた。
「マジでストーカーか何かなの?」
俺の使用しているギターは特注で作ってもらった。それなのに使用感が完璧に再現されている。最早狂気すら感じる。
「店長に聞いたらすぐ教えてくれるぞ。」
あの店長の脳ミソにプライバシーという言葉は無さそうだ。俺が言える事ではないが、裏社会の教育だとああなるのか…。
何やかんやあって、今日はそのギターを使って旋梨と一緒に教えていった。
今や我が日本列島の民はその約半数以上は政府の管理下から外れている。東京を中心としたこの関東地方の外は、無法地帯といって差し支えないだろう。
異常災害の多発は生物は何一つ干渉していないのに人を狂わせた。国の対応も問題だが、私利私欲が強すぎる人間の本質も改めて影響力があるものだと思った。例えるなら食の恨みのようなものなのかもしれない。
俺は今、都内の病院に向かっている。東堂の様子を確認するためだ。あいつは怠い突っかかり方をしてくるが、競争相手がいないのも寂しいものだ。
あの時は混乱していて状況を上手く把握できていなかったが、後日サイレンス本部で聞いた話によると、あのテロは今後彼らの団結力を高めさせる要因になる大事な分岐点となった可能性が極めて高いらしい。
群れを通り越して一つになった生物は何よりも凶悪だというのは共通認識だろう。こちらから手を出した事はこれまで無かったが、最悪の場合は視野に入るだろう。俺はそんな事極力したくないが…。
そうこうしているうちに東堂の病室に着いたため、ノックして無言で入った。
「聖薇……歪…?」
「久々だな。東堂。」
俺は近くにあった椅子に座って鞄から包みを取り出した。
「やるよ。」
「これは?」
「あんな状況だったから最終選考出来なかっただろ?そこで作るつもりだった品だ。流れ的に多分デザートとかだと思ってな。」
東堂が包みを開くと、薔薇を形どったマカロンが入っている。その反応は予想通りのものだ。
「造形……美しいな。第一選考も薔薇だったよな?好きなのか?薔薇という花が。」
「まぁ…そうだな。名前にも入ってるし、不完全な形でだけど……。」
そう小さく口に零し、俺は部屋を去った。東堂は再び目を閉じたようだ。
白薔薇……。このコードネームは華隆さんが名付けた。俺もその意味は理解していないが、華隆さんは“照らされる場所がある時、影は必ず出来てしまう。互いを理解するのは難しい。”と言っていた。
白と黒。このメッセージは何かを暗示しているように感じるが、華隆が亡くなった今、その真相に迫る術は無い。
しかし、薔薇の花言葉は人間関係に関わるものだという事は知っている。ここに何かヒントがあるのかもしれないが、所詮はコードネーム。深い意味は無いだろう。
彼の発言で自分のコードネームや名前について疑問が浮かび考えながら帰路に着くと、気づいたら楽器店に来ていた。
「あれ?はぁ……外の世界を遮断する程の疑問だったのか?」
本当は帰るつもりだったが、導かれるようにここへ来てしまったので、店内に入った。
「柊よ。今回の件で深い傷を負ってないか?彼らも急な任務で疲れてるだろう。」
私が思考を停止させて机に顔を伏せていると、どこからともなく現れた清心がそんな事を言ってきた。
「お前にまだそんな心が残ってたのか。」
「人を馬鹿にしすぎるのもどうかと思うが。私だってれっきとした人間だ。何も悪くない国民を守りきれなかった事に君は傷つくだろうと思ってな。」
「前言撤回。何も変わっちゃいないな。強いていうなら、私の扱いがただ働き奴隷から、抵抗権のある下僕になったようなものだ。」
「なっ!しっかり依頼料は払っているだろう!」
違う。私の言いたい事はそういう事では無い。暗殺者だってれっきとした人間だ。だが、彼に何を言っても無駄だろう。
「国も我々にばかり押し付けないでさ、少しはテロ対策をしろ。」
「ぐぬぬ。友人の頼みとなれば仕方が無い。バリケードの強化工事にでも取り掛かろう。」
そう言って清心は部屋を去った。
何故、日本が失敗したのかは彼と古くからの友人である私ならすぐに分かる。だからこそ、所属構成員のメンタルケアも、司令として大事な仕事なのだ。今の国を信用しきった時、我々は確実に道を踏み外すからだ。正確には這い上がれなくなるからだ。
楽器店に入ると、よく知る顔ぶれが揃っていた。
「あ、歪君。やっほー。」
「歪か。どうした?」
旋梨が凛、真依、波瑠の三人に今日も真面目に音楽についての指導をしていた。
「何か気付いたら来てた。」
「らしくないな。なら手伝ってよ。ギター同じもの持ってるから。」
俺は旋梨からそのギターを渡され、軽く弾いてみた。
「マジでストーカーか何かなの?」
俺の使用しているギターは特注で作ってもらった。それなのに使用感が完璧に再現されている。最早狂気すら感じる。
「店長に聞いたらすぐ教えてくれるぞ。」
あの店長の脳ミソにプライバシーという言葉は無さそうだ。俺が言える事ではないが、裏社会の教育だとああなるのか…。
何やかんやあって、今日はそのギターを使って旋梨と一緒に教えていった。
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