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5章:記憶に残る文化祭
#32.思い出す
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「………え?…それは…どっちの意味で…?」
「どっちもだよ。でも……恋愛的にの方が…強いかな……。」
するとしばらく沈黙が流れ、早彩は口を開いた。
「気持ちは…とっても嬉しい。私が変われるきっかけを、君は作ってくれたから……ああ、これが幸せなんだって感じることができたから。………でも…ごめんなさい。」
「……そっか。それが早彩の決めたことなら……想いだけでも伝えられてよかったよ…」
保険を掛けている訳じゃないけど、僕は絶対成功すると満心創痍になってはいない。それに、僕自身がまだ取り残されてる気がしてならなかったから。
少しの間また沈黙が流れ、彼女は僕に抱きついてきて、涙を零した。
「…本当は…私も好きだよっ……でもっ…!」
「……何か…思い悩んでるみたいだね……」
実は気づいてはいた。彼女が何かに葛藤していたことには。その問題は解決したと思っていたけど、どうやらまた別の事のようだ。
深呼吸をして、彼女は口を開く。
「…ずっと打ち明けれなくてごめんね…実は………二学期でお別れなんだ…」
「………お別…れ…?」
予想外の告白に、僕は驚きを隠せなかった。
「…うん。両親の都合で冬休みから遠くに引っ越すんだ……だから、付き合えない。…ずっと言えなくてごめんなさい。」
そう言って、彼女は頭を下げた。
「…頭を上げて。僕達の交友関係はこの夏に始まったんだ。それなのに急に引っ越すなんて相談しづらいよね。」
「…ありがと。話せて気持ちが楽になったよ。でも、皆にはまだ内緒にしててほしいな。残り少ない日々を、普通に過ごしていたいから……心残り…なくね……」
僕はそっと頷き、今はこの事は彼女との秘密とした。
残りの時間だけでも彼氏彼女の関係でいられれば良いけど、きっと早彩は中途半端に未練を残したくないんだと思う。
遠距離恋愛も、逆に寂しく感じてしまうと考えたんだろう。その気持ちは僕も持っている。
「じゃあまた明日ね。せめて引っ越しまで、幸せと思える日々を過ごそうね。」
「うん。…日記…もし良かったら見せてね。」
そう言葉を交わして、僕と早彩はそれぞれの帰路へと別れた。
夜11時。外はすっかり暗くなっており、僕は部屋の電気もつけずに鞄を床に降ろし、机の電気をつけて座った。
一冊のノートを広げ、シャーペンを手に取った。
『この準備期間中は日記を執る時間すらなかったけど、心を通い合わせられた素敵な日々だったと思う。クラス部門では最優秀賞という称号を頂き、早彩の人間不信もある程度は克服されたように思ってる。それも彼女がクラスを一つにしてくれたお陰だ。…初恋は呆気なく砕けてしまったけど、彼女がそれを望むのなら、僕はそれを尊重したい。離れ離れになるまでの残りの時間、悔いのないように過ごしてもらいたい。 文化祭 心を一つに 繋ぎとめ 望んだ景色へ 色づく世界』
「日記も詩も……すっかり心の写し鏡になっちゃったなぁ……これも、大切な記憶か。」
ノートを閉じ、僕は机に突っ伏して眠りに就いた。
それからの日々はあっという間で、二学期の終業式も終わりを告げた。早彩との突然のお別れに、皆が驚いていた。
「早彩ちゃん…遠くに行っても忘れないでよねっ…!」
「短い間だったけど、私も早彩ちゃんと仲良くできてよかった。…私は…もう流されないよ…」
「うん…元気でね、美咲ちゃん、稀香ちゃん。絶対に忘れないよ…!」
三人が抱き合って別れを告げている姿を、僕達は遠くから見守っていた。
「寂しくなるな……特に爽真はいっそうな。」
「僕だけじゃないよ。あの日以来、早彩は人気者だからね。」
「俺は……特に接点なかったな。それでも寂しさはある。」
「へぇ…お前に寂しいという感情があったことに驚きだぁ…」
「琉威…?俺をコンピュータの犬と勘違いしてない?」
「被害妄想が過ぎるだろ……」
こっちはこっちで相変わらずの会話を繰り広げていた。寂しさを紛らわすため、そう勝手に解釈することにした。
「…爽真っ!」
壁に軽くもたれ掛かって静かに見守る僕に対して、早彩は名前を呼んだ。
「…どうしたの?」
「……六年後…会いたい。絶対に忘れないでね…」
「…分かった、六年後ね。しっかりと覚えたよ。…さようなら。」
「うん…さようならっ…」
今日からちょうど六年前、僕は早彩と別れを告げた。どうして…こんなにも大切なことを、ノート諸共忘れていたんだろうか。
『二学期も終わり、僕は早彩を見送った。また会えた時、唯一のこの気持ちが…変わってないといいな……。一夏の 想いは全て 束の間で 忘れられない 散りゆく愛。……約束の場所は…###』
「…っ!ああ…思い出した……まだ僕は…ここから離れちゃいけないっ…!でも終電……いや、そんなの関係ない!」
日本に居られるのは今日が最後。明日の早朝には日本を出るから。
約束の場所は汚れで見えにくくなっているが、僕は鮮明に、全てを思い出せた。
再会を果たすために、僕はICカードと財布を持ってすぐさま家を飛び出した。
「どっちもだよ。でも……恋愛的にの方が…強いかな……。」
するとしばらく沈黙が流れ、早彩は口を開いた。
「気持ちは…とっても嬉しい。私が変われるきっかけを、君は作ってくれたから……ああ、これが幸せなんだって感じることができたから。………でも…ごめんなさい。」
「……そっか。それが早彩の決めたことなら……想いだけでも伝えられてよかったよ…」
保険を掛けている訳じゃないけど、僕は絶対成功すると満心創痍になってはいない。それに、僕自身がまだ取り残されてる気がしてならなかったから。
少しの間また沈黙が流れ、彼女は僕に抱きついてきて、涙を零した。
「…本当は…私も好きだよっ……でもっ…!」
「……何か…思い悩んでるみたいだね……」
実は気づいてはいた。彼女が何かに葛藤していたことには。その問題は解決したと思っていたけど、どうやらまた別の事のようだ。
深呼吸をして、彼女は口を開く。
「…ずっと打ち明けれなくてごめんね…実は………二学期でお別れなんだ…」
「………お別…れ…?」
予想外の告白に、僕は驚きを隠せなかった。
「…うん。両親の都合で冬休みから遠くに引っ越すんだ……だから、付き合えない。…ずっと言えなくてごめんなさい。」
そう言って、彼女は頭を下げた。
「…頭を上げて。僕達の交友関係はこの夏に始まったんだ。それなのに急に引っ越すなんて相談しづらいよね。」
「…ありがと。話せて気持ちが楽になったよ。でも、皆にはまだ内緒にしててほしいな。残り少ない日々を、普通に過ごしていたいから……心残り…なくね……」
僕はそっと頷き、今はこの事は彼女との秘密とした。
残りの時間だけでも彼氏彼女の関係でいられれば良いけど、きっと早彩は中途半端に未練を残したくないんだと思う。
遠距離恋愛も、逆に寂しく感じてしまうと考えたんだろう。その気持ちは僕も持っている。
「じゃあまた明日ね。せめて引っ越しまで、幸せと思える日々を過ごそうね。」
「うん。…日記…もし良かったら見せてね。」
そう言葉を交わして、僕と早彩はそれぞれの帰路へと別れた。
夜11時。外はすっかり暗くなっており、僕は部屋の電気もつけずに鞄を床に降ろし、机の電気をつけて座った。
一冊のノートを広げ、シャーペンを手に取った。
『この準備期間中は日記を執る時間すらなかったけど、心を通い合わせられた素敵な日々だったと思う。クラス部門では最優秀賞という称号を頂き、早彩の人間不信もある程度は克服されたように思ってる。それも彼女がクラスを一つにしてくれたお陰だ。…初恋は呆気なく砕けてしまったけど、彼女がそれを望むのなら、僕はそれを尊重したい。離れ離れになるまでの残りの時間、悔いのないように過ごしてもらいたい。 文化祭 心を一つに 繋ぎとめ 望んだ景色へ 色づく世界』
「日記も詩も……すっかり心の写し鏡になっちゃったなぁ……これも、大切な記憶か。」
ノートを閉じ、僕は机に突っ伏して眠りに就いた。
それからの日々はあっという間で、二学期の終業式も終わりを告げた。早彩との突然のお別れに、皆が驚いていた。
「早彩ちゃん…遠くに行っても忘れないでよねっ…!」
「短い間だったけど、私も早彩ちゃんと仲良くできてよかった。…私は…もう流されないよ…」
「うん…元気でね、美咲ちゃん、稀香ちゃん。絶対に忘れないよ…!」
三人が抱き合って別れを告げている姿を、僕達は遠くから見守っていた。
「寂しくなるな……特に爽真はいっそうな。」
「僕だけじゃないよ。あの日以来、早彩は人気者だからね。」
「俺は……特に接点なかったな。それでも寂しさはある。」
「へぇ…お前に寂しいという感情があったことに驚きだぁ…」
「琉威…?俺をコンピュータの犬と勘違いしてない?」
「被害妄想が過ぎるだろ……」
こっちはこっちで相変わらずの会話を繰り広げていた。寂しさを紛らわすため、そう勝手に解釈することにした。
「…爽真っ!」
壁に軽くもたれ掛かって静かに見守る僕に対して、早彩は名前を呼んだ。
「…どうしたの?」
「……六年後…会いたい。絶対に忘れないでね…」
「…分かった、六年後ね。しっかりと覚えたよ。…さようなら。」
「うん…さようならっ…」
今日からちょうど六年前、僕は早彩と別れを告げた。どうして…こんなにも大切なことを、ノート諸共忘れていたんだろうか。
『二学期も終わり、僕は早彩を見送った。また会えた時、唯一のこの気持ちが…変わってないといいな……。一夏の 想いは全て 束の間で 忘れられない 散りゆく愛。……約束の場所は…###』
「…っ!ああ…思い出した……まだ僕は…ここから離れちゃいけないっ…!でも終電……いや、そんなの関係ない!」
日本に居られるのは今日が最後。明日の早朝には日本を出るから。
約束の場所は汚れで見えにくくなっているが、僕は鮮明に、全てを思い出せた。
再会を果たすために、僕はICカードと財布を持ってすぐさま家を飛び出した。
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