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5章:記憶に残る文化祭

#29.きっかけの案内人

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 「こんにちは先輩!」

 「やぁ誠君。」

 テニス部のブースに着くと、誠が案内役として立っていた。

 「えっと…隣の方は……」

 「東風早彩っていいます。爽真の友達です。」

 「そうなんですか!自分は一年の白洲誠です。よろしくお願いします早彩先輩。」

 「うん。よろしくね。」

 「それでは楽しんでくださいね。」

 そう言って、彼は入口のロープを開けた。僕達はコートに入っていった。



 「これって……」

 「そう、射的だよ。」

 テニス部では射的ゲームを作った。勿論、お祭りでの出来事から着想を得た。
 
 「思い出…だからね。あ、流石にあの時のような鬼畜仕様じゃないからね。やってみて?」

 僕は的の机に置かれているゴム球を早彩に手渡した。
 すると早彩はそれを手早く装填して狙いを定め、見事に命中させた。

 「おぉ…!」
 
 その次も、最後の弾も手慣れた動作で難なく命中させていた。


 「…やった!全部命中させられたよ!」

 「凄い…突起やすくしたとはいっても、面白さが出るように難易度を調整したはずだけど…全弾命中とはね…」

 「あの日以来、ちょっとだけ興味が湧いちゃって……」

 「ハマったと……」

 まさか早彩が射的にハマっていたことには驚きを隠せなかった。どうやら週一くらいのペースで店舗に出向いていたらしい。
 一ヶ月ちょっとで、すごく上達しているようにみえた。



 「早彩先輩凄いですね!自分とかほで試し打ちした時には全く当たらなかったのに……」

 「あはは…まぁそう落ち込まないで。これは早彩が凄いって。」

 聞いた話によると、昨日最後の点検として二人で試し打ちをしていたらしいが、見本にもならなかったようだ。
 部員が少ないがために常駐していると周る時間がなくなるため、一時間おきに閉鎖している。

 「…もう少し時間があれば良かったんだけどな……」

 様子見に来た感じ、あまり人も入っていないようで悔しく感じた。しかし、早彩が励ました。

 「爽真はクラスの方も頑張ってくれてたもんね。射的…楽しかったよ!」

 「早彩……ありがとう。後輩達が一生懸命作り上げてくれたから、そう言ってもらえると嬉しい。」
 
 「はい。楽しんでいただけたようで何よりです!」

 今日もう何度目かのそんなやり取りをして、僕達はテニスコートを後にした。







 あれから適当に気になったブースに入りつつ、僕達は生徒会室向かい側の空き教室に向かっていた。そこは生徒会のブースであり、メイドカフェをやっているらしい。
 
 「わぁ…凄い人だね……」

 「生徒会の企画するメイドカフェなんて絶対面白いもんね。それに莉緒先輩のメイド姿が拝めるなんて……行かない理由がないですもんっ!」

 「は、はぁ……」

 何だか早彩の様子が不思議だ。彼女にとって莉緒先輩が光であったことはよく分かった。
 約15分並んだところ、ようやく教室内に入る事ができた。



 「ふふ…お帰りなさいませ、お嬢様。」 

 「…っ!莉緒先輩っ……めっちゃ可愛いですっ…!」

 「わぁ~そんなに褒めてくれるとは思ってなかったよ。ありがとうね~早彩ちゃん♪それじゃあ、あそこの席に案内しますね~」

 隣で愛に悶える早彩を連れ、莉緒先輩は彼女を席に案内していった。


 「全く…副会長ったら……ご主人様を忘れてますよ。」

 「あっ琉威君…ごめんね爽真君…」

 「いいえ、気にしないでください。莉緒先輩は愛しの後輩との時間を楽しんでください……」

 「ならお言葉に甘えさせてもらうね。琉威君、よろしくね。」

 「分かりました。爽真、ついてきて。」

 そう言われて、僕は琉威に控室へと案内された。



 「なぁにが愛しの後輩との時間を楽しんでくださいだよ。らしくねぇな。」

 「…色々心境の変化があったと思って……」

 「まぁ…そりゃあるだろうな。……それで、いつ早彩に告白するんだ?」

 何の前触れもなく、彼はそう尋ねてきた。

 「この文化祭の間にはするつもり…後夜祭になるのかな。」

 「ちゃんとアプローチできているか?この一週間、早彩との距離はかなり縮まったようだけど、作業に追われてて余裕が無かったんじゃないかと思って。」

 「あくまでも自然体で居ることって琉威がアドバイスしてくれたじゃん。特別なことはしていない…だけど、心が近くなれた気がするんだ。恋愛的な意味でかは…僕にも分からないけどね…」

 「……爽真らしいな。まぁ、この後の時間も有効活用しろよ。俺は精算で忙しいから、また後で会おう。」

 「大変そうだね。ちゃんと周れてる?」

 「間を縫って休憩はしている。俺の心配はするな。…幼馴染として…成功することを祈ってるよ……」

 琉威はそっとそう呟き、作業に戻った。その言葉を僕は心に刻み込み、客席の方に案内してもらった。
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