【完結】 I は夏風と共に、詩を綴る

やみくも

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5章:記憶に残る文化祭

#23.相談

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 しばらく帰路を辿りながら、ここ最近の事について話を膨らませていた。

 「……という事があってな…行事があると会計は何かと忙しくなるのだよ。」

 「琉威も大変そうだね……」

 「それはお互いさまだろ。特にお前は限界状態の部活の準備も進める必要があるし、委員会の管理もあるだろ?」

 「別に委員会の方は忙しくないよ。文化祭で何かをする予定もないし、植物を枯らさないことが唯一の準備だしね。それも一人で管理してるわけじゃないから……」

 委員会の話をしようとすると、その時の光景が反射して思い出せなかった。
 最近の記憶力は良好。こんなにも思い出せないことなんて無かった。まるで光が反射して鏡の奥に映るものが認識できないような感覚だ。
 今までの症状とはイメージが違う。これは持病とは関係なく、自分が原因で起きているものだとすぐに分かった。

 「なぁ爽真。」

 「…ん?どうしたの…?」

 「世間話はもう充分だろ。わざわざ生徒会まで俺を訪ねてきたってことはさ、けっこう大きな悩み事があるんだろ?それが病状の事か、はたまた“自分自身”の事かは聞かないことには分からないけど。」

 「………目敏いね。」

 「当たり前だろ。何年一緒に居ると思ってんだ。…相談してみろ。」

 わざわざ誘ったのにも関わらず何処か躊躇っていた僕を見抜いて、琉威はそう催促してくれた。
 一呼吸置いて、話したいことを頭の中で整理して、僕は悩みを打ち明けした。

 「実はさ……もしかしたら早彩のこと……好きかもしれないんだ……」



 「……………………なるほどなぁ。ま、大体予想通りだな。」

 僕が悩みに悩んだ末にようやく打ち明けられたのに対して、彼の反応は割とあっさりしていた。

 「今まで病気の事やらなんやらで恋愛なんて考えても無かっただろうから、どうしたらいいのか分からなくなる気持ちは分かる。それで、具体的には何を悩んでるんだ?」

 「…それが分からないから困ってる。正直、恋愛に発展してみたい気持ちと、今のような幸せを壊したくない気持ちの二つが混在していて、モヤッとしてるんだ。」

 「……ちなみに聞くが、早彩とはこれまで通り接することができてるか?」

 「い、一応……ただ、自然体でってよりは頑張ってる感じかも……」

 「こりゃオーバーヒート起こしてるな………現実じゃ中々見ない初心うぶ加減だぞ……」

 「……?」

 これが何を言っているのかは全く理解できないけど、とりあえず馬鹿にされてるのだけは分かった。
 すると仕切り直して、琉威は喋り始めた。

 「ええとまずはだな……これまでのように自然体で接しられることを覚えた方がいい。特別な感情を抱いたからって、表面上の何かがすぐに変わるわけじゃない。慣れないうちは本当に慣れないと思うが、いきなり距離間が変わったら相手も困惑する。ギア上げすぎても離れられるし、逆に距離を置いてもアクシデントになる。」

 「距離感が大切なんだね。」

 「ああ。人間関係において、距離間が大切なことは爽真もよく知っているだろう。それは恋愛でも同じだ。ふとしたことがきっかけで、亀裂が入ってしまうことはよくある。だからこそ、自然体で接することが大切なんだ。その中でちょっとずつアプローチを入れてみる方が安全だ。」

 彼の言いたいことは理解できた。これまでの関係を崩さないためにも、これまで通り接することを心掛けることが何よりも大切らしい。
 そうこう話しているうちに、家の目の前まで来ていた。

 「なるほど……参考にするね。今日はありがとう。」

 「ああ。また何かあったら気軽に相談してほしい。業務より親友のお悩み解決の方がぶっちゃけ大切だから。」
 
 「そっか。じゃあまたね。」

 「ああ、また明日。」

 そう別れの挨拶を交わして、僕達はそれぞれの玄関の扉を開いた。







 『今日は琉威に悩みを打ち明けることができました。彼曰く、自然体で接することが何よりも大切で、距離間を過ってしまうと人間関係に亀裂が入りかねないそうなので気をつけていきたい。』

 今日も日記を綴り、僕はノートを机の端に寄せてシャーペンを置いた。
 
 「打ち明けただけでも、幾分か気が楽になるものだなぁ……」

 そう思いながら僕は布団に寝転んで、ただ呆然と天井を見つめていた。
 すると窓から冷たい夏風が吹き込み、無意識に呟いた。

 「想い悩み 行き着く先は 親友で 距離が大切 繊細なのだ……って、気づいたら詠ってしまった。……いや、詩ってそういうものか。見たり、聞いたり、感じたりしたことを形にするもの。………駄目だ、今日は頭が冴えないな……」

 一人で何を言っているのか分からなくなった僕は疲れを取るために、そっと目を閉じ、眠りに就いた。







 窓から日が差し込み、今日も新しい一日が始まった。
 
 「さてと、今日の予定は………クラス準備の強制参加か。ならちょっと早めに配達終わらせないとね。」

 すぐに着替えて朝食を作り、食器を洗って外に出た僕は、自転車に跨って叔父さんのいる倉庫へと急いで走った。
 確か昨年度の夏休み中に全員招集が掛かった日は、少し方針が変わってチームが二分化してしまった。遅れると状況把握が複雑になるかもしれないので、できるだけ急ぎたい。

 「急げ急げー!」

 普段よりペダルを早く踏み込み、坂を登って行った。
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