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5章:記憶に残る文化祭
#22.ひそひそ会議
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各々作業は順調に進み、もうじき日が沈みそうな時間になっていた。
「さて、そろそろ締めようか。二人ともお疲れ様。」
「はい。先輩もお疲れ様です。また明日もこちらで作業しても大丈夫ですか?」
「うん。部室は開けておくから、いつでもおいで。じゃあまた明日。」
そう言い残して僕は部室を後にして、一棟校舎にある生徒会室の電気がついていることを確認した。
「琉威でも誘いながら帰ろうかな……」
取り出していた自転車の鍵をポケットに戻して、玄関へと向かった。
「………。」
「自分は今から帰るから、ついでに締めたいと思うのだが……琉威君はもう少し残る気かい?」
仕事に集中していると、生徒会長からそう声を掛けられた。
「はい。切りがついたら自分で締めておくのでお気になさらずに。お疲れ様でした、会長。」
「お疲れ様。しっかり休憩も取るんだよ。夏休み明けは臨時の業務が増えるからね。」
そう助言を残して会長は生徒会室を後にした。
「臨時業務……今でさえ毎日のように処理に追われてるというのに…まいったな……」
先輩方の話によると、昨年度の文化祭では資材や資金を追加したいと急遽申し出る者が居たり、展示スペースの拡張で揉めたりと対応に追われていたそうだ。
そこに調整も加わり、生徒会のブースも準備する必要があり、クラス、部活のブースも多少は手伝いにいかなければならないため、決まっている仕事は夏休み中に終わらせておかないと身体が足りなくなる。
「それぞれプライドと熱意を持って取り組んでくれるのは盛り上がるからありがたいが、直前は穏便に解決してもらいたいところだ……。夏休み前にみっちりと話し合った方が良いだろっ!」
「あらあら、そうむしゃくしゃしないで。リラックスリラックス~」
いつの間にか副会長が俺の後ろに立っており、そう声を掛けながら覗き込むようにして作業中の書類を手に取った。
「順調に進んではいるみたいだね~。愚痴言いながらの方が作業が捗る気持ち、とっても分かるよ。」
「副会長………って、共感は求めてないですよ!」
肩の力を抜いたノリでそう返し、俺は一度シャーペンを紙の上にそっと置いた。
「…業務の消化も大事ですが、予期されるトラブルを未然に防いでおくことも大事です。“彼女の件”について……お時間よろしいですか……」
「大丈夫よ。昨年も無視できない事態になったもんね。」
生徒会室横の個室に移動して、センターテーブルのところで向かい合うように座った。
「この会議は生徒会のものとは分けて考えさせてもらいます。個人的に介入しようとしているので。」
「分かってるよ。」
「ありがとうございます。では、莉緒先輩にお聞きします。現在、美術部の実情はどうなっていますか?」
「今は二年生が主体となって活動していて、私達三年生はアドバイスしたり手伝いをしたりしているよ。特に一年生の時から先輩からの評価が高かった色園さんが実権握ってるみたいな構図だよ。彼女は部長と副部長からの信頼もあったからね。」
「…あんまり噂になってないですから、知らない可能性がありますよね。」
「それは間違いないと思うね。私も、いつも近くにいるのに妹がいじめられてるって気づかなかった。」
副会長の気持ちは痛いほど分かった。稀香は隠れながら悪戯するのが本当に上手い。そこに甘さが無くなれば、悪戯じゃ済まなくなるのは明白。
エスカレートしても態度を使い分けられるあの腹黒さは尻尾を出さないため厄介だった。
「……一応、学校に居る間は監視できていますし、それが抑止力になっているようなので防げてはいます。しかし、卒業までの残り約一年半の間、ずっと続ける訳にもいかないです。なのでそろそろ……直接アプローチを仕掛けにいこうかと思います。」
「アプローチ?」
「はい。そもそも、稀香を危険人物じゃなくせば解決します。基本的に先輩はこれまで通り接してもらえれば大丈夫です。」
「分かったよ。私はこれまで通りに接するから、アプローチとやらは任せたよ~」
「決まりですね。では、自分は作業の続きをするので………」
そう言いながら生徒会室に戻って作業を再開しようとすると、副会長にシャーペンを取り上げられた。
「…あの……副会長?」
「ここに来る途中ね、君の親友が生徒会室に向かってるのを見たんだ。それでも作業を進める?」
「………。」
「私はお先に失礼するね~」
そう言って副会長は鞄を肩に背負って颯爽と生徒会室を後にした。
「行かなきゃ駄目だよなぁ……」
流石に親友が来てるのにも関わらず、作業を進めるのは気が引ける。
俺も用具を片付け、生徒会室を施錠する準備をした。
生徒会室近くの空き教室でしばらく待っていると、少し小走りするようにして琉威が来た。
「待たせたな爽真。最近は業務量が多くて……」
「ううん。こっちこそ急に来て悪いね。帰ろっか。用件は歩きながら話すよ。」
琉威と合流して、僕達はゆっくりと階段を降りていった。相談して気持ちが少しでも楽になればいいなと思いながら、導入に適当な世間話をしていた。
「さて、そろそろ締めようか。二人ともお疲れ様。」
「はい。先輩もお疲れ様です。また明日もこちらで作業しても大丈夫ですか?」
「うん。部室は開けておくから、いつでもおいで。じゃあまた明日。」
そう言い残して僕は部室を後にして、一棟校舎にある生徒会室の電気がついていることを確認した。
「琉威でも誘いながら帰ろうかな……」
取り出していた自転車の鍵をポケットに戻して、玄関へと向かった。
「………。」
「自分は今から帰るから、ついでに締めたいと思うのだが……琉威君はもう少し残る気かい?」
仕事に集中していると、生徒会長からそう声を掛けられた。
「はい。切りがついたら自分で締めておくのでお気になさらずに。お疲れ様でした、会長。」
「お疲れ様。しっかり休憩も取るんだよ。夏休み明けは臨時の業務が増えるからね。」
そう助言を残して会長は生徒会室を後にした。
「臨時業務……今でさえ毎日のように処理に追われてるというのに…まいったな……」
先輩方の話によると、昨年度の文化祭では資材や資金を追加したいと急遽申し出る者が居たり、展示スペースの拡張で揉めたりと対応に追われていたそうだ。
そこに調整も加わり、生徒会のブースも準備する必要があり、クラス、部活のブースも多少は手伝いにいかなければならないため、決まっている仕事は夏休み中に終わらせておかないと身体が足りなくなる。
「それぞれプライドと熱意を持って取り組んでくれるのは盛り上がるからありがたいが、直前は穏便に解決してもらいたいところだ……。夏休み前にみっちりと話し合った方が良いだろっ!」
「あらあら、そうむしゃくしゃしないで。リラックスリラックス~」
いつの間にか副会長が俺の後ろに立っており、そう声を掛けながら覗き込むようにして作業中の書類を手に取った。
「順調に進んではいるみたいだね~。愚痴言いながらの方が作業が捗る気持ち、とっても分かるよ。」
「副会長………って、共感は求めてないですよ!」
肩の力を抜いたノリでそう返し、俺は一度シャーペンを紙の上にそっと置いた。
「…業務の消化も大事ですが、予期されるトラブルを未然に防いでおくことも大事です。“彼女の件”について……お時間よろしいですか……」
「大丈夫よ。昨年も無視できない事態になったもんね。」
生徒会室横の個室に移動して、センターテーブルのところで向かい合うように座った。
「この会議は生徒会のものとは分けて考えさせてもらいます。個人的に介入しようとしているので。」
「分かってるよ。」
「ありがとうございます。では、莉緒先輩にお聞きします。現在、美術部の実情はどうなっていますか?」
「今は二年生が主体となって活動していて、私達三年生はアドバイスしたり手伝いをしたりしているよ。特に一年生の時から先輩からの評価が高かった色園さんが実権握ってるみたいな構図だよ。彼女は部長と副部長からの信頼もあったからね。」
「…あんまり噂になってないですから、知らない可能性がありますよね。」
「それは間違いないと思うね。私も、いつも近くにいるのに妹がいじめられてるって気づかなかった。」
副会長の気持ちは痛いほど分かった。稀香は隠れながら悪戯するのが本当に上手い。そこに甘さが無くなれば、悪戯じゃ済まなくなるのは明白。
エスカレートしても態度を使い分けられるあの腹黒さは尻尾を出さないため厄介だった。
「……一応、学校に居る間は監視できていますし、それが抑止力になっているようなので防げてはいます。しかし、卒業までの残り約一年半の間、ずっと続ける訳にもいかないです。なのでそろそろ……直接アプローチを仕掛けにいこうかと思います。」
「アプローチ?」
「はい。そもそも、稀香を危険人物じゃなくせば解決します。基本的に先輩はこれまで通り接してもらえれば大丈夫です。」
「分かったよ。私はこれまで通りに接するから、アプローチとやらは任せたよ~」
「決まりですね。では、自分は作業の続きをするので………」
そう言いながら生徒会室に戻って作業を再開しようとすると、副会長にシャーペンを取り上げられた。
「…あの……副会長?」
「ここに来る途中ね、君の親友が生徒会室に向かってるのを見たんだ。それでも作業を進める?」
「………。」
「私はお先に失礼するね~」
そう言って副会長は鞄を肩に背負って颯爽と生徒会室を後にした。
「行かなきゃ駄目だよなぁ……」
流石に親友が来てるのにも関わらず、作業を進めるのは気が引ける。
俺も用具を片付け、生徒会室を施錠する準備をした。
生徒会室近くの空き教室でしばらく待っていると、少し小走りするようにして琉威が来た。
「待たせたな爽真。最近は業務量が多くて……」
「ううん。こっちこそ急に来て悪いね。帰ろっか。用件は歩きながら話すよ。」
琉威と合流して、僕達はゆっくりと階段を降りていった。相談して気持ちが少しでも楽になればいいなと思いながら、導入に適当な世間話をしていた。
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