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5章:記憶に残る文化祭
#21.悩み
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夏休みも残り数日。お祭り以降それぞれ忙しくて想像通り集まることができず、部室で文化祭準備に時間を費やしていた。
「この時期は大忙しだとは聞いてましたが、まさかここまでとは驚きです……」
「誠は初めての文化祭だもんね。そう、本校の文化祭は規模が大きいから二学期から準備してたら間に合わないんだ。こうして夏休みにチマチマ進めても、居残り作業とかざらに強いられるから。」
「恐ろしい……でも、きっとそれが楽しい思い出になるんですよね!」
「そうだね。本気でやるから楽しいし記憶に残る良い文化祭になるんだよ。どのみち家に居てもやることないし、八月入ってからはこうして準備をしに来てるってこと。」
課題もレポートも終わると、案外暇な時間が増えるものだ。その時間を適当に潰すくらいなら、文化祭準備に充てた方が有意義だ。
叔父さんの配達業の手伝いをして、そのまま学校に寄って、水やりに部活に準備にと過ごして夕方に帰宅する。特に予定がない日はこれがルーティンとして繰り返されている。
ただ、今やそれも円滑に進んでいない。夏祭りの日の帰り、僕は恋愛感情を自覚してしまったから。
_____________
夏祭りの次の日、いつものように水やりを終えた後のこと。
「そういえば昨日アイディアが浮かばないって言ってたよね。夏祭りで何か浮かんだりした?」
心を落ち着かせて、平常を装いそう尋ねると、早彩は笑顔を見せながら言った。
「はい!色とりどりなアイディアが浮かんできました!」
「そ…そう……なら良かった。」
「……?何か昨日の帰りからちょっと元気ないよね。大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけだから……」
「それなら良いけどね……」
_____________
どうやら僕は深く落ちてしまっているようだった。彼女の笑顔をあれほど眩しく感じると、目を見て話しづらい。
僕は元々持病のせいで“日常”を送り、記憶することが難しく、ある程度まで回復した今の生活が幸せだった。日記という名の補助が必要ながらも、思い出を忘れずにいられるから。
でも、未だに記憶に穴は多い。幼い頃、どんな気持ちでどんな経験をしてきたかなどの引き出しは非常に狭い。ましてや恋愛感情など引き出しにない。
それ故に距離感が上手く掴めずに困っているのが現状だ。
「はぁ……本当にどうしたものか……」
一つ溜め息をつくと、隣に座って文化祭準備を着々と進めている誠の姿が目に入った。
「……。」
“こうして一人で悩んでいて、作業が疎かになってしまっては元も子もない”と思い、また琉威に相談を持ち掛けてみることに決めた。
一度悩みは忘れて作業を再開しようとすると、部室の扉がノックされた。
「す…すみません…来ちゃいました。」
「小沼さん、いらっしゃい。隣の子は誠。君の同期だよ。」
「白洲誠です。よろしく。」
「は…い。私は小沼かほって言います。よろしくお願いします。」
二人はそう挨拶を交わして、小沼さんもベンチに座った。
「二人とも顔合わせは初めて?」
「いえ、初日に顔合わせはしましたね。」
「そうですね……」
「そうなんだ。ところで、小沼さんは練習をしに来た感じ?それとも文化祭準備?」
「文化祭準備ですね……今ちょっと揉めてる子達がいまして…教室の空気が淀んでいるので避難してきました……自分勝手ですみません………」
「気にしないで。僕達だって部室で作業する方が捗るからここに来てるんだし。何か助けが必要なら気軽に僕に言ってね。」
「そうそう。先輩は手先器用だから!」
「なら…私も作業…失礼しますね…。」
鞄を降ろして道具を広げ、小沼さんも文化祭準備に取り掛かり始めた。
…誠に言われたように手先は器用なのだが、心はそれほどでもない。心にも沢山の引き出しがあれば、これほど悩まずに済むというのに。
「この時期は大忙しだとは聞いてましたが、まさかここまでとは驚きです……」
「誠は初めての文化祭だもんね。そう、本校の文化祭は規模が大きいから二学期から準備してたら間に合わないんだ。こうして夏休みにチマチマ進めても、居残り作業とかざらに強いられるから。」
「恐ろしい……でも、きっとそれが楽しい思い出になるんですよね!」
「そうだね。本気でやるから楽しいし記憶に残る良い文化祭になるんだよ。どのみち家に居てもやることないし、八月入ってからはこうして準備をしに来てるってこと。」
課題もレポートも終わると、案外暇な時間が増えるものだ。その時間を適当に潰すくらいなら、文化祭準備に充てた方が有意義だ。
叔父さんの配達業の手伝いをして、そのまま学校に寄って、水やりに部活に準備にと過ごして夕方に帰宅する。特に予定がない日はこれがルーティンとして繰り返されている。
ただ、今やそれも円滑に進んでいない。夏祭りの日の帰り、僕は恋愛感情を自覚してしまったから。
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夏祭りの次の日、いつものように水やりを終えた後のこと。
「そういえば昨日アイディアが浮かばないって言ってたよね。夏祭りで何か浮かんだりした?」
心を落ち着かせて、平常を装いそう尋ねると、早彩は笑顔を見せながら言った。
「はい!色とりどりなアイディアが浮かんできました!」
「そ…そう……なら良かった。」
「……?何か昨日の帰りからちょっと元気ないよね。大丈夫?」
「大丈夫。ちょっと疲れちゃっただけだから……」
「それなら良いけどね……」
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どうやら僕は深く落ちてしまっているようだった。彼女の笑顔をあれほど眩しく感じると、目を見て話しづらい。
僕は元々持病のせいで“日常”を送り、記憶することが難しく、ある程度まで回復した今の生活が幸せだった。日記という名の補助が必要ながらも、思い出を忘れずにいられるから。
でも、未だに記憶に穴は多い。幼い頃、どんな気持ちでどんな経験をしてきたかなどの引き出しは非常に狭い。ましてや恋愛感情など引き出しにない。
それ故に距離感が上手く掴めずに困っているのが現状だ。
「はぁ……本当にどうしたものか……」
一つ溜め息をつくと、隣に座って文化祭準備を着々と進めている誠の姿が目に入った。
「……。」
“こうして一人で悩んでいて、作業が疎かになってしまっては元も子もない”と思い、また琉威に相談を持ち掛けてみることに決めた。
一度悩みは忘れて作業を再開しようとすると、部室の扉がノックされた。
「す…すみません…来ちゃいました。」
「小沼さん、いらっしゃい。隣の子は誠。君の同期だよ。」
「白洲誠です。よろしく。」
「は…い。私は小沼かほって言います。よろしくお願いします。」
二人はそう挨拶を交わして、小沼さんもベンチに座った。
「二人とも顔合わせは初めて?」
「いえ、初日に顔合わせはしましたね。」
「そうですね……」
「そうなんだ。ところで、小沼さんは練習をしに来た感じ?それとも文化祭準備?」
「文化祭準備ですね……今ちょっと揉めてる子達がいまして…教室の空気が淀んでいるので避難してきました……自分勝手ですみません………」
「気にしないで。僕達だって部室で作業する方が捗るからここに来てるんだし。何か助けが必要なら気軽に僕に言ってね。」
「そうそう。先輩は手先器用だから!」
「なら…私も作業…失礼しますね…。」
鞄を降ろして道具を広げ、小沼さんも文化祭準備に取り掛かり始めた。
…誠に言われたように手先は器用なのだが、心はそれほどでもない。心にも沢山の引き出しがあれば、これほど悩まずに済むというのに。
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