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4章:夜に散る火の色祭
#18.狙いを定めて
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特に目星をつけていなかった僕達は、ただ流れに沿って適当に散歩していた。それでも十分に楽しめるのがお祭りというものだ。
今は写真を撮っている余裕はなさそうだが、帰るまでに数枚撮れれば、来年までピースになってくれるはず。
「ねぇ爽真君。あれやってみない?」
そう言われて僕は早彩の指差す方向を見ると、少し長い列が見えた。
「なるほど射的ね……」
それは射的屋の列だった。
「人集りで景品が何かは見えないけど、あんなに列ができてるってことは何か凄いものでもあるのかな?」
「確かに気になるかも……こういう機会じゃないと中々ないし、やってみるか。」
時間もまだまだあるので、折角ならと僕達は射的に挑戦することにした。
列に並ぶことしばらくして、番が回ってきた。
「あれは手強いね……本当に倒せるものなの?」
後尾から見ていても中々景品を倒す人が現れないように見えたが、いざご対面するとその理由がよく分かった。
まず全体に重量のある景品が多く、置き場所も距離感が掴みづらく嫌らしい。
お祭りの射的なのに小さな子どもが少ないとは思っていたが、難易度が高かったからか。
「どうする爽真君…?」
「ここまで並んだらやるでしょ。これくらいの方が面白いじゃん。」
僕と早彩はそれぞれ店番のおじさんにお金を払って三発分の弾を受け取った。
「はいよ。まずは嬢ちゃんからいってみようか。」
弾を装填して、早彩はサイトに顔を近づけて狙いを定めた。
ある程度調整が終わったところで、彼女は引き金を引いた。
「「ああ……」」
一発目は残念ながら外れてしまったようだ。
「はいはい、まだあと2発残ってるよ!トライトライ!」
おじさんがそう励まし、早彩は再び景品に狙いを定める。
三発目は見事景品に当てることに成功したが、下寄りだったため上手く倒すことができなかった。
「折角当たったのに~」
隣でそう悔しがる早彩に俺は声を掛ける。
「当てられただけでも上出来だよ。それによく見て?」
「よく見るって……あ、正面が左に少し傾いてる!」
「そう。微々たる変化に見えるけど、大きな差だよ。」
並んでいる最中に他の人がやっているのを見ていたから分かるが、動いた景品は安定して自立できるうちは向きを戻していない。
つまりこの少しの傾きを利用して策が練られるというわけだ。
「さて、次はお兄さんの番だ。何か考え事をしていたようだが、うちの自慢の景品への道のりは甘くないぞ?」
「今まで見てきたから分かります。巧妙に考えられた配置ですね。」
「だろ?お兄さん分かってるねぇ。だが負けないぞ!」
「はい。僕もベストを尽くします!早彩の分まで頑張るね。」
「……はい!」
僕は弾を装填して微調整を始めた。
まず、今の配置では一発で落とすことは風でも吹かない限り不可能。三発分全て活用して、こちらが有利な状況にもっていきたい。
「ここだ!」
まず一発目を撃ち込み、狙いの場所に命中させられた。
「ほぉ…まずは左への傾きを大きくしたか……しかもけっこう動いたな。」
そう感心しているおじさんを横目に、僕は二発目を撃ち込むために調整をした。
今ので全体的に右が不安定になったため、かなり落としやすくなったはず。そしてチャンスは二回。右端の真ん中のすれすれを狙い、僕は引き金を引いた。
「……っ!右に逸れ過ぎたっ!」
しかし残念ながら外してしまった。感覚としては好感触。あとは命中させられればといったところ。
するとおじさんは言った。
「ふむ…確かにあの位置に命中すれば間違いなく倒れるだろう。だがな…射的屋歴20年、角に綺麗に命中させられた人は現れなかった。……何気なくボランティアで出店したが、まさかこの場でここまでの人を見つけられるとは思わなかった。青年よ!私に夢を見せてくれ!」
「はい!」
そう返事をして僕は最後の一発狙いを定めた。
「……手が震える…緊張感がある……」
ここで当てられれば勝ち、だけどそのシビアさに僕の手は強張る。余分な力が入っていると上手く狙いが定まらないと分かっていても、力を抜くのも簡単じゃない。
「爽真君!」
「……早彩…」
「リラックスだよ。きっと大丈夫。」
「……ありがとう。」
僕は一度深呼吸をして、再び狙いを定めた。
「……今っ!」
「お……おお、おめでとうございます!見事倒しました!」
最後の一発が景品に命中し、無事に倒すことに成功した。するとおじさんはハンドベルを鳴らし、並んでいた人達や周囲の人達が湧き上がった。
「やったね爽真!」
「うん。……え?」
「あ……」
「何かいいね、距離が縮まったみたいで。もし良かったらこれからも呼び捨てで呼んで?」
「う…うん!爽真っ!」
そう喜びあっていると、倒した景品を持っておじさんが来た。
「素晴らしい一撃だった。射的の経験はいかがなものか?」
「いえ…多分これがニか三回目の挑戦だと思いますね……」
「何と!それは素晴らしい才能の持ち主だこと!ほら、欲しかったものはこれだろ?受け取れ。」
そう言っておじさんは景品であったタブレットを僕に渡そうとしてきた。
「…いえ、こちらの早彩に渡してください。」
「…私ですか!」
「うん。僕はただ本気で遊びたかっただけで、景品のこととかあまり考えてなかったから。絵を描くことが好きな早彩のためだよ。」
「……本当にありがとう!」
タブレットを受け取り、早彩は年頃の女の子らしく喜んでくれた。いつも少し遠慮気味だった彼女がこうして感情を見せてくれると僕も嬉しい。
「これが青春か…いやぁ懐かしいなぁ!いい彼氏を持ったなお嬢さん!」
「「違いますっ!そんなんじゃ……あはは!」」
あまりにも息ぴったりで、僕達は思わず笑ってしまった。それからも楽しい時間を過ごし、写真も沢山撮ることができた。
あっという間に時間は過ぎて、僕達は集合場所のベンチに戻って来た。
「早彩ちゃんいつもより表情が柔らかい気がする!何か楽しいことでもあったの?」
「うん!楽しい時間だったよ!」
美咲の問いかけに対して、早彩は笑顔でそう言った。
その様子を静かに見守っていると、琉威が隣に立ち、声を掛けてきた。
「なぁ、一体何をしたのか教えてくれよ?」
「うーん……秘密?かな!まぁ楽しい時間だったことは確かだね。」
「ふーん、そうか。皆が楽しんでるところ見るとこっちも嬉しいな。」
そう似合わない台詞を言って彼はストローに口をつけた。
すると美咲が音頭を取るかのようにこう言った。
「じゃあお待ちかねの花火を観るために移動しよっ!」
先を行く美咲の後ろにつき、僕達は花火が綺麗に見える場所に向かった。
今は写真を撮っている余裕はなさそうだが、帰るまでに数枚撮れれば、来年までピースになってくれるはず。
「ねぇ爽真君。あれやってみない?」
そう言われて僕は早彩の指差す方向を見ると、少し長い列が見えた。
「なるほど射的ね……」
それは射的屋の列だった。
「人集りで景品が何かは見えないけど、あんなに列ができてるってことは何か凄いものでもあるのかな?」
「確かに気になるかも……こういう機会じゃないと中々ないし、やってみるか。」
時間もまだまだあるので、折角ならと僕達は射的に挑戦することにした。
列に並ぶことしばらくして、番が回ってきた。
「あれは手強いね……本当に倒せるものなの?」
後尾から見ていても中々景品を倒す人が現れないように見えたが、いざご対面するとその理由がよく分かった。
まず全体に重量のある景品が多く、置き場所も距離感が掴みづらく嫌らしい。
お祭りの射的なのに小さな子どもが少ないとは思っていたが、難易度が高かったからか。
「どうする爽真君…?」
「ここまで並んだらやるでしょ。これくらいの方が面白いじゃん。」
僕と早彩はそれぞれ店番のおじさんにお金を払って三発分の弾を受け取った。
「はいよ。まずは嬢ちゃんからいってみようか。」
弾を装填して、早彩はサイトに顔を近づけて狙いを定めた。
ある程度調整が終わったところで、彼女は引き金を引いた。
「「ああ……」」
一発目は残念ながら外れてしまったようだ。
「はいはい、まだあと2発残ってるよ!トライトライ!」
おじさんがそう励まし、早彩は再び景品に狙いを定める。
三発目は見事景品に当てることに成功したが、下寄りだったため上手く倒すことができなかった。
「折角当たったのに~」
隣でそう悔しがる早彩に俺は声を掛ける。
「当てられただけでも上出来だよ。それによく見て?」
「よく見るって……あ、正面が左に少し傾いてる!」
「そう。微々たる変化に見えるけど、大きな差だよ。」
並んでいる最中に他の人がやっているのを見ていたから分かるが、動いた景品は安定して自立できるうちは向きを戻していない。
つまりこの少しの傾きを利用して策が練られるというわけだ。
「さて、次はお兄さんの番だ。何か考え事をしていたようだが、うちの自慢の景品への道のりは甘くないぞ?」
「今まで見てきたから分かります。巧妙に考えられた配置ですね。」
「だろ?お兄さん分かってるねぇ。だが負けないぞ!」
「はい。僕もベストを尽くします!早彩の分まで頑張るね。」
「……はい!」
僕は弾を装填して微調整を始めた。
まず、今の配置では一発で落とすことは風でも吹かない限り不可能。三発分全て活用して、こちらが有利な状況にもっていきたい。
「ここだ!」
まず一発目を撃ち込み、狙いの場所に命中させられた。
「ほぉ…まずは左への傾きを大きくしたか……しかもけっこう動いたな。」
そう感心しているおじさんを横目に、僕は二発目を撃ち込むために調整をした。
今ので全体的に右が不安定になったため、かなり落としやすくなったはず。そしてチャンスは二回。右端の真ん中のすれすれを狙い、僕は引き金を引いた。
「……っ!右に逸れ過ぎたっ!」
しかし残念ながら外してしまった。感覚としては好感触。あとは命中させられればといったところ。
するとおじさんは言った。
「ふむ…確かにあの位置に命中すれば間違いなく倒れるだろう。だがな…射的屋歴20年、角に綺麗に命中させられた人は現れなかった。……何気なくボランティアで出店したが、まさかこの場でここまでの人を見つけられるとは思わなかった。青年よ!私に夢を見せてくれ!」
「はい!」
そう返事をして僕は最後の一発狙いを定めた。
「……手が震える…緊張感がある……」
ここで当てられれば勝ち、だけどそのシビアさに僕の手は強張る。余分な力が入っていると上手く狙いが定まらないと分かっていても、力を抜くのも簡単じゃない。
「爽真君!」
「……早彩…」
「リラックスだよ。きっと大丈夫。」
「……ありがとう。」
僕は一度深呼吸をして、再び狙いを定めた。
「……今っ!」
「お……おお、おめでとうございます!見事倒しました!」
最後の一発が景品に命中し、無事に倒すことに成功した。するとおじさんはハンドベルを鳴らし、並んでいた人達や周囲の人達が湧き上がった。
「やったね爽真!」
「うん。……え?」
「あ……」
「何かいいね、距離が縮まったみたいで。もし良かったらこれからも呼び捨てで呼んで?」
「う…うん!爽真っ!」
そう喜びあっていると、倒した景品を持っておじさんが来た。
「素晴らしい一撃だった。射的の経験はいかがなものか?」
「いえ…多分これがニか三回目の挑戦だと思いますね……」
「何と!それは素晴らしい才能の持ち主だこと!ほら、欲しかったものはこれだろ?受け取れ。」
そう言っておじさんは景品であったタブレットを僕に渡そうとしてきた。
「…いえ、こちらの早彩に渡してください。」
「…私ですか!」
「うん。僕はただ本気で遊びたかっただけで、景品のこととかあまり考えてなかったから。絵を描くことが好きな早彩のためだよ。」
「……本当にありがとう!」
タブレットを受け取り、早彩は年頃の女の子らしく喜んでくれた。いつも少し遠慮気味だった彼女がこうして感情を見せてくれると僕も嬉しい。
「これが青春か…いやぁ懐かしいなぁ!いい彼氏を持ったなお嬢さん!」
「「違いますっ!そんなんじゃ……あはは!」」
あまりにも息ぴったりで、僕達は思わず笑ってしまった。それからも楽しい時間を過ごし、写真も沢山撮ることができた。
あっという間に時間は過ぎて、僕達は集合場所のベンチに戻って来た。
「早彩ちゃんいつもより表情が柔らかい気がする!何か楽しいことでもあったの?」
「うん!楽しい時間だったよ!」
美咲の問いかけに対して、早彩は笑顔でそう言った。
その様子を静かに見守っていると、琉威が隣に立ち、声を掛けてきた。
「なぁ、一体何をしたのか教えてくれよ?」
「うーん……秘密?かな!まぁ楽しい時間だったことは確かだね。」
「ふーん、そうか。皆が楽しんでるところ見るとこっちも嬉しいな。」
そう似合わない台詞を言って彼はストローに口をつけた。
すると美咲が音頭を取るかのようにこう言った。
「じゃあお待ちかねの花火を観るために移動しよっ!」
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