9 / 34
2章:ジャンボ海水プール
#9.エンジョイ
しおりを挟む
「おぉ…いいセンスだ……」
琉威は彼女の提案に感心していた。もう既に嫌な予感しかしないが、一応説得を試みる。
「あの……さっきの様子見てました?」
「見た上で“面白そう”だって思ったんだよ。」
「鬼畜だ………だけどね、今ここにいるのは3人。よって人数が不足していっ……」
「あ!皆ここに居たんだ~」
しかし、僕は使えるカードを失った。早々に奏翔を連れて何処かに行ってしまった美咲の声がしたのだ。
そして彼女はニヤつきながら琉威に尋ねた。
「何何?なんか面白い話でもあるんでしょ?」
「ああ、ちょっと爽真をブーメランツイストに乗せたくてな……人数が足りなくて困っていたところなんだ。」
「なんだそういう事か!それなら協力するよっ!丁度私も行きたいと思って探してたんだっ。早彩ちゃんはどう思う?」
「わ、私…ですか?私は賛成です!」
「よーし決まりっ!じゃ、行ってみよ~!」
張り切っている美咲と琉威に少し遅れてワクワクしている東風さんがついて行き、多数決に敗北した僕達は彼らの後ろをとぼとぼとついて行く。
「……ちなみにだけどさ、直前にフリーフォールスライダー乗らされた後なんだよねぇ……」
「ご愁傷さま……一緒に頑張ろうね。」
隣を歩く奏翔は半ば諦めた様子であり、もはや無心の域だった。普段からあの美咲に振り回されているだけあり、耐性を得ているようだ。それでも、流石に彼らのように好き好んで乗ることはないみたいだ。
そんな事を考えていると、奏翔は僕に質問を投げ掛けてきた。
「でも意外。いつもだったら爽真はあっち側の人間だったよねぇ……今日はどうしたの?」
「今日は……というか、琉威に地獄を見させられてからアトラクションに対する姿勢が変わったね。去年の事覚えてる?」
「ああ…あれね……あれは流石に同情するよ。」
飯前スチールドラゴンでそれまで割と好きだった絶叫系なども全般抵抗が生まれるようになった。身体が感覚を覚えてしまうくらい強烈な体験だった。
食後じゃなくて良かったとつくづく思っている。
「……今になっては悪くない思い出だけど、追体験はしたくないなぁ……」
そう話しながらも僕達は、渋々と悪夢への階段を登っていた。
時間の流れとは無情なもので、体感でそんなに経たないうちにもう順番が来ようとしていた。
「何気に私も初めてなんだよね~!」
「わ、私も初めてです。でも…とっても楽しみです!」
「その気持ちめっちゃ分かる!早彩ちゃんとは気が合いそうだよ~。」
そんな楽しそうな女性陣の会話に入るのに抵抗を感じたか、琉威は僕の肩に手を置いて言った。
「いい思い出になりそうだな。」
「うん……そうだね。」
思い出を作りたいという目的は十分に達成できるように感じられる。そのことに安堵すると同時に、今自分が何処に立っているのか思い出し、胃が痛くなる。
「はぁ……奏翔、無事に帰ろうな。」
「爽真こそ。」
僕達は指示の元浮き輪に乗り込み、その数秒後にスライダーに放たれた。
ブーメランツイストも無事に完走し、僕達は一度休憩タイムにしていた。
「ごめん奏翔。僕もうトラウマ克服したかもしれない。」
「そう……短い味方だったなぁ……」
元々絶叫系などが本能的に苦手だった訳でもないため、もう慣れてしまった。
故に前回の恐ろしさが露呈してしまった訳だが……。
「さて、早彩ちゃん。次は何するのがいいと思う?」
美咲は相変わらずのようで、もう次を求めていた。
「おいおい、いくらプールとはいえともノンストップで動き続けてたら熱中症で倒れるぞ?」
張り切るあまり体力の見境がなくなりそうな美咲を琉威が隙かさず止めた。
水辺で少しは涼しいとはいえ、屋外なので日差しには当たっている。彼の忠告は的確だ。
「確かにそうね……よし、何か食べよ~!行くよ奏翔っ!」
「自分で歩くから引っ張らんで?」
そう言って奏翔を引っ張り美咲は財布を取りに行ってしまった。
「…自由奔放な人なんですね……美咲さんは……」
「まぁね。それが彼女の取り柄でもある…のかな?」
正直、自身を持って言い切ることはできない。だけど彼女の明るさはある意味そこに由来しているとは思ってる。
離れて小さくなっていく二人を見送り、東風さんは尋ねてきた。
「私達も何か軽食を摂りましょうか?」
「そうだね。じゃあ僕財布取り行ってくるから二人は先にお店行ってて。」
「いや、俺が場所キープしておくから爽真と東風の二人で行ってきてくれ。あいつらが戻って来た時に目印が必要だろ?」
そう言いながら琉威は親指を立てた。
「確かに……分かった、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。行こ、東風さん。」
「はい。」
目印は琉威に任せて、僕達も財布を取りに向かった。
爽真と東風の二人も見送り、俺はスマホを開いた。
すると何枚かの写真が爽真からシェアされている事に気がついた。
「おぉ…いつの間にこんな多く……。そうだよなぁ……何処まで鮮明に覚えていられるか分からないんだから、記録として残しておきたいはずだよなぁ……」
思い出を形として残す彼の姿勢は、本当に感心する。どれだけ彼が“記憶”を大切にしているのかがよく分かる。
「午後からは俺も撮ってやらないとな。」
スマホを閉じ、彼らが戻るまでの間静かな休息の時間を過ごした。
琉威は彼女の提案に感心していた。もう既に嫌な予感しかしないが、一応説得を試みる。
「あの……さっきの様子見てました?」
「見た上で“面白そう”だって思ったんだよ。」
「鬼畜だ………だけどね、今ここにいるのは3人。よって人数が不足していっ……」
「あ!皆ここに居たんだ~」
しかし、僕は使えるカードを失った。早々に奏翔を連れて何処かに行ってしまった美咲の声がしたのだ。
そして彼女はニヤつきながら琉威に尋ねた。
「何何?なんか面白い話でもあるんでしょ?」
「ああ、ちょっと爽真をブーメランツイストに乗せたくてな……人数が足りなくて困っていたところなんだ。」
「なんだそういう事か!それなら協力するよっ!丁度私も行きたいと思って探してたんだっ。早彩ちゃんはどう思う?」
「わ、私…ですか?私は賛成です!」
「よーし決まりっ!じゃ、行ってみよ~!」
張り切っている美咲と琉威に少し遅れてワクワクしている東風さんがついて行き、多数決に敗北した僕達は彼らの後ろをとぼとぼとついて行く。
「……ちなみにだけどさ、直前にフリーフォールスライダー乗らされた後なんだよねぇ……」
「ご愁傷さま……一緒に頑張ろうね。」
隣を歩く奏翔は半ば諦めた様子であり、もはや無心の域だった。普段からあの美咲に振り回されているだけあり、耐性を得ているようだ。それでも、流石に彼らのように好き好んで乗ることはないみたいだ。
そんな事を考えていると、奏翔は僕に質問を投げ掛けてきた。
「でも意外。いつもだったら爽真はあっち側の人間だったよねぇ……今日はどうしたの?」
「今日は……というか、琉威に地獄を見させられてからアトラクションに対する姿勢が変わったね。去年の事覚えてる?」
「ああ…あれね……あれは流石に同情するよ。」
飯前スチールドラゴンでそれまで割と好きだった絶叫系なども全般抵抗が生まれるようになった。身体が感覚を覚えてしまうくらい強烈な体験だった。
食後じゃなくて良かったとつくづく思っている。
「……今になっては悪くない思い出だけど、追体験はしたくないなぁ……」
そう話しながらも僕達は、渋々と悪夢への階段を登っていた。
時間の流れとは無情なもので、体感でそんなに経たないうちにもう順番が来ようとしていた。
「何気に私も初めてなんだよね~!」
「わ、私も初めてです。でも…とっても楽しみです!」
「その気持ちめっちゃ分かる!早彩ちゃんとは気が合いそうだよ~。」
そんな楽しそうな女性陣の会話に入るのに抵抗を感じたか、琉威は僕の肩に手を置いて言った。
「いい思い出になりそうだな。」
「うん……そうだね。」
思い出を作りたいという目的は十分に達成できるように感じられる。そのことに安堵すると同時に、今自分が何処に立っているのか思い出し、胃が痛くなる。
「はぁ……奏翔、無事に帰ろうな。」
「爽真こそ。」
僕達は指示の元浮き輪に乗り込み、その数秒後にスライダーに放たれた。
ブーメランツイストも無事に完走し、僕達は一度休憩タイムにしていた。
「ごめん奏翔。僕もうトラウマ克服したかもしれない。」
「そう……短い味方だったなぁ……」
元々絶叫系などが本能的に苦手だった訳でもないため、もう慣れてしまった。
故に前回の恐ろしさが露呈してしまった訳だが……。
「さて、早彩ちゃん。次は何するのがいいと思う?」
美咲は相変わらずのようで、もう次を求めていた。
「おいおい、いくらプールとはいえともノンストップで動き続けてたら熱中症で倒れるぞ?」
張り切るあまり体力の見境がなくなりそうな美咲を琉威が隙かさず止めた。
水辺で少しは涼しいとはいえ、屋外なので日差しには当たっている。彼の忠告は的確だ。
「確かにそうね……よし、何か食べよ~!行くよ奏翔っ!」
「自分で歩くから引っ張らんで?」
そう言って奏翔を引っ張り美咲は財布を取りに行ってしまった。
「…自由奔放な人なんですね……美咲さんは……」
「まぁね。それが彼女の取り柄でもある…のかな?」
正直、自身を持って言い切ることはできない。だけど彼女の明るさはある意味そこに由来しているとは思ってる。
離れて小さくなっていく二人を見送り、東風さんは尋ねてきた。
「私達も何か軽食を摂りましょうか?」
「そうだね。じゃあ僕財布取り行ってくるから二人は先にお店行ってて。」
「いや、俺が場所キープしておくから爽真と東風の二人で行ってきてくれ。あいつらが戻って来た時に目印が必要だろ?」
そう言いながら琉威は親指を立てた。
「確かに……分かった、お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。行こ、東風さん。」
「はい。」
目印は琉威に任せて、僕達も財布を取りに向かった。
爽真と東風の二人も見送り、俺はスマホを開いた。
すると何枚かの写真が爽真からシェアされている事に気がついた。
「おぉ…いつの間にこんな多く……。そうだよなぁ……何処まで鮮明に覚えていられるか分からないんだから、記録として残しておきたいはずだよなぁ……」
思い出を形として残す彼の姿勢は、本当に感心する。どれだけ彼が“記憶”を大切にしているのかがよく分かる。
「午後からは俺も撮ってやらないとな。」
スマホを閉じ、彼らが戻るまでの間静かな休息の時間を過ごした。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
何を間違った?【完結済】
maruko
恋愛
私は長年の婚約者に婚約破棄を言い渡す。
彼女とは1年前から連絡が途絶えてしまっていた。
今真実を聞いて⋯⋯。
愚かな私の後悔の話
※作者の妄想の産物です
他サイトでも投稿しております
お馬鹿な聖女に「だから?」と言ってみた
リオール
恋愛
だから?
それは最強の言葉
~~~~~~~~~
※全6話。短いです
※ダークです!ダークな終わりしてます!
筆者がたまに書きたくなるダークなお話なんです。
スカッと爽快ハッピーエンドをお求めの方はごめんなさい。
※勢いで書いたので支離滅裂です。生ぬるい目でスルーして下さい(^-^;
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
王妃の手習い
桃井すもも
恋愛
オフィーリアは王太子の婚約者候補である。しかしそれは、国内貴族の勢力バランスを鑑みて、解消が前提の予定調和のものであった。
真の婚約者は既に内定している。
近い将来、オフィーリアは候補から外される。
❇妄想の産物につき史実と100%異なります。
❇知らない事は書けないをモットーに完結まで頑張ります。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
シャボン玉の君に触れる日まで
氷高 ノア
青春
願いを叶えるには、それなりの代償がいる。
欲しいものを手に入れるには、必ず何かが犠牲になる。
だから私は、無理に願いを叶えはしない。
慎重に、丁寧に、ゆっくりと叶えていく。
努力で叶うことならば、自ら必死に働きかける。
でも、その願いが努力で叶わないのなら。
それが君のためならば。
いくら辛い代償が待ち構えていると知っていても、君の願いを叶えにいくよ。
───浅い波に溺れた半透明の一枚が、パキンという音を立てて剥がれた。
START▶︎2019.4.27
FINISH︎▶︎2019.5.01
家に帰ると夫が不倫していたので、両家の家族を呼んで大復讐をしたいと思います。
春木ハル
恋愛
私は夫と共働きで生活している人間なのですが、出張から帰ると夫が不倫の痕跡を残したまま寝ていました。
それに腹が立った私は法律で定められている罰なんかじゃ物足りず、自分自身でも復讐をすることにしました。その結果、思っていた通りの修羅場に…。その時のお話を聞いてください。
にちゃんねる風創作小説をお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる