【完結】 I は夏風と共に、詩を綴る

やみくも

文字の大きさ
上 下
6 / 34
1章:長い夏の始まり

#6.湿度の高い夏

しおりを挟む
 彼女の名前は稀香きか。私と同じ美術部所属で、頭も良くてセンスもあって、何より後輩にも慕われて先輩にも好かれてる凄い子。
 表向きでは誰に対しても優しいけど、彼女には魔性の面がある。それは自分にとっての障壁を容赦なく、ズタズタに壊しにくるところだ。過去にも彼女の被害に遭って不登校、自主退学した人は何人かいた。けれども、それを助長したのが彼女だとは誰も気づかなかった。
 何で私が標的にされたのかは分からない。だけど、きっと私は無意識に誰かのヘイトを買ってしまうような人間なんだという自覚がある。実際、小中学校といじめられて育っているのも事実だから。

 「はぁ……早く帰ろ…ずっと残っててもいい事ないし……」

 怪我をした右脚を引きずり、私は教室を後にした。





 「………。」

 東風さんがその場を去ったことを確認して、俺は美術室に入った。
 すると丁度死角になっていたところの床に、血痕が付いていた。見間違いじゃない。絵の具とは明らかに質感が違うから。

 「……色園しきぞの稀香。マジでやばい女だ……きりが無い。」

 部活帰りに俺が偶然美術室の前を通って発覚した稀香による暴行。それは東風さんがあまり人と関わらない…いや、関わろうとしないことに対する理由として十分なものだった。
 彼女の執着心は尋常じゃない。さながら漫画に出てくるような敵ヒロインのようだ。確か去年の夏も彼女の手によって一人壊れたはず。

 「はぁ……青春のせの字もない。不良校でもここまで酷くないぞ…」

 「あれれ?琉威君じゃない。もしかして見たの?」

 床を見つめて考え事をしていると、隣の準備室にいた稀香が戻って来た。

 「もしかして……見たの?」

 トーンを落としてそう言いながら、彼女はこちらににじり寄ってきた。

 「ねぇ…嘘は要らないから、答えて?」

 「……お前が思うことを事実にしてもらって構わない。」

 「あはっ回りくど………」

 そう口に零しながら彼女は再び距離を保ち、いつものような立ち振舞で口を開いた。

 「校内一の情報屋や侮れませんね……私達高校生なんですから、もう少し肩の荷を降ろしてはいかがでしょうか?」

 「俺だって出来ればそうしたい。ただ…次期生徒会長候補者として、厄介な問題は片付けておきたいんだ。こんな湿度の高い夏じゃ、俺としても気が抜けない。」

 「湿度の高い夏……?…ねぇ琉威君。皆そうは思ってないと思うよ?だって皆何も知らないんだからね!君が自らこんな裏社会ごっこ初めたんじゃん。だよね、ストーカー?」

 「まぁ間違いではないが……流石に話が飛躍し過ぎだ。」

 このまま話していても埒が明かない。それに悔しいが、彼女の言うようにこれは俺が初めたことだ。去年だって、彼らにとっては普通の一夏だったはずだから。
 ただ、実害が出たことは既成事実。しかも、今年は爽真達に飛び火することは想像に難くない。

 「……帰る。」

 「逃げるんだ?」

 「単に時間の無駄だと思っただけだ。お前も作品仕上げないといけないだろ。邪魔しちゃ悪い。……ただ、念頭に入れておけ。俺の親友の記憶に暗い物語は絶対に刻ませない。」

 そう言い残して俺は教室を後にした。
 爽真なら必ず、暗いことも全部綴るはず。起きたストーリーは全て書き留めるだろうから。







 帰宅後、僕は奏翔や美咲に電話を掛けて遊びに誘った。思い立ったらすぐに行動しないと時間は過ぎてしまうから。
 とりあえず二人は乗り気のようで、次は琉威に連絡を入れてみた。

 「もしもし?」

 『どうした?』

 「来週辺り時間空いてる?またナガシマ行こうかなと思ってさ。」

 『多分空いてる。いつでも言ってくれ。……あ、そうだ。どうせなら東風さんも誘ってみたらどうだ?』

 少し間が空き、付け足すように彼はそう提案してきた。

 「東風さんを?」

 『ああ。最近お前と喋るようになったじゃん。仲良いんじゃないの?』

 「まぁ仲良くはしたいけど……まだ試行錯誤段階というか……打ち解けられてないというか……」

 『なら尚更良いんじゃないか?まぁ、考えてみてくれ。』

 「そうだね。いいアイディアをありがとう。日程が決まったらまた連絡するね。」

 そうして僕は電話を切った。彼がいきなりそう言い出したのは意外だったが、人数は多い方が楽しいし、良い提案だとは思った。

 「東風さんも誘ってみるか……」







 爽真からの電話が切れ、俺はスマホを机に置いて寝転がった。

 「あとは爽真次第だな………正直、彼がどういう行動をするのかは大体予想つくけど。昔からの仲だからなぁ。」

 現在、稀香の標的になっているのが東風さんだと分かった。彼女の行動をより詳細に追えるようになったということは、こちらも取り締まりに動けるようになったということ。
 稀香によって壊された人の共通点は知っている。彼女を諦めさせるには、東風さんを守ることが大切だ。
 簡単に言えば東風さんに心から打ち解けられる友達を作ってもらうこと。それが稀香を止めることに繋がる。

 「……必死かもしれないし、余計なお世話かもしれない。……誰も傷つかず解決する方法を考えるのは簡単じゃないな……」

 個人の事情に干渉することはあまり好かない。あくまでもサポートに留めて、彼女自身で解決できることを望みたい。
 そのためにも、爽真には頑張ってほしいところ。いや、彼なら最善策を見出してくれると信じている。

 「とりあえず、何か読みますか……」

 シンキングタイムに区切りをつけ、俺は小説を読み始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

冴えない経理オッサン、異世界で帳簿を握れば最強だった~俺はただの経理なんだけどな~

中岡 始
ファンタジー
「俺はただの経理なんだけどな」 ブラック企業の経理マンだった葛城隆司(45歳・独身)。 社内の不正会計を見抜きながらも誰にも評価されず、今日も淡々と帳簿を整理する日々。 そんな彼がある日、突然異世界に転生した。 ――しかし、そこは剣も魔法もない、金と権力がすべての世界だった。 目覚めた先は、王都のスラム街。 財布なし、金なし、スキルなし。 詰んだかと思った矢先、喋る黒猫・モルディと出会う。 「オッサン、ここの経済はめちゃくちゃだぞ?」 試しに商店の帳簿を整理したところ、たった数日で利益が倍増。 経理の力がこの世界では「未知の技術」であることに気づいた葛城は、財務管理サービスを売りに商会を設立し、王都の商人や貴族たちの経済を掌握していく。 しかし、貴族たちの不正を暴き、金の流れを制したことで、 王国を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。 「お前がいなきゃ、この国はもたねえぞ?」 国王に乞われ、王国財務顧問に就任。 貴族派との経済戦争、宰相マクシミリアンとの頭脳戦、 そして戦争すら経済で終結させる驚異の手腕。 ――剣も魔法もいらない。この世を支配するのは、数字だ。 異世界でただ一人、"経理"を武器にのし上がる男の物語が、今始まる!

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

TOUCH

廣瀬純一
大衆娯楽
体に触れると下半身を交換できる能力がある女性の話

処理中です...