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1章:長い夏の始まり
#6.湿度の高い夏
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彼女の名前は稀香。私と同じ美術部所属で、頭も良くてセンスもあって、何より後輩にも慕われて先輩にも好かれてる凄い子。
表向きでは誰に対しても優しいけど、彼女には魔性の面がある。それは自分にとっての障壁を容赦なく、ズタズタに壊しにくるところだ。過去にも彼女の被害に遭って不登校、自主退学した人は何人かいた。けれども、それを助長したのが彼女だとは誰も気づかなかった。
何で私が標的にされたのかは分からない。だけど、きっと私は無意識に誰かのヘイトを買ってしまうような人間なんだという自覚がある。実際、小中学校といじめられて育っているのも事実だから。
「はぁ……早く帰ろ…ずっと残っててもいい事ないし……」
怪我をした右脚を引きずり、私は教室を後にした。
「………。」
東風さんがその場を去ったことを確認して、俺は美術室に入った。
すると丁度死角になっていたところの床に、血痕が付いていた。見間違いじゃない。絵の具とは明らかに質感が違うから。
「……色園稀香。マジでやばい女だ……きりが無い。」
部活帰りに俺が偶然美術室の前を通って発覚した稀香による暴行。それは東風さんがあまり人と関わらない…いや、関わろうとしないことに対する理由として十分なものだった。
彼女の執着心は尋常じゃない。さながら漫画に出てくるような敵ヒロインのようだ。確か去年の夏も彼女の手によって一人壊れたはず。
「はぁ……青春のせの字もない。不良校でもここまで酷くないぞ…」
「あれれ?琉威君じゃない。もしかして見たの?」
床を見つめて考え事をしていると、隣の準備室にいた稀香が戻って来た。
「もしかして……見たの?」
トーンを落としてそう言いながら、彼女はこちらににじり寄ってきた。
「ねぇ…嘘は要らないから、答えて?」
「……お前が思うことを事実にしてもらって構わない。」
「あはっ回りくど………」
そう口に零しながら彼女は再び距離を保ち、いつものような立ち振舞で口を開いた。
「校内一の情報屋や侮れませんね……私達高校生なんですから、もう少し肩の荷を降ろしてはいかがでしょうか?」
「俺だって出来ればそうしたい。ただ…次期生徒会長候補者として、厄介な問題は片付けておきたいんだ。こんな湿度の高い夏じゃ、俺としても気が抜けない。」
「湿度の高い夏……?…ねぇ琉威君。皆そうは思ってないと思うよ?だって皆何も知らないんだからね!君が自らこんな裏社会ごっこ初めたんじゃん。だよね、ストーカー?」
「まぁ間違いではないが……流石に話が飛躍し過ぎだ。」
このまま話していても埒が明かない。それに悔しいが、彼女の言うようにこれは俺が初めたことだ。去年だって、彼らにとっては普通の一夏だったはずだから。
ただ、実害が出たことは既成事実。しかも、今年は爽真達に飛び火することは想像に難くない。
「……帰る。」
「逃げるんだ?」
「単に時間の無駄だと思っただけだ。お前も作品仕上げないといけないだろ。邪魔しちゃ悪い。……ただ、念頭に入れておけ。俺の親友の記憶に暗い物語は絶対に刻ませない。」
そう言い残して俺は教室を後にした。
爽真なら必ず、暗いことも全部綴るはず。起きたストーリーは全て書き留めるだろうから。
帰宅後、僕は奏翔や美咲に電話を掛けて遊びに誘った。思い立ったらすぐに行動しないと時間は過ぎてしまうから。
とりあえず二人は乗り気のようで、次は琉威に連絡を入れてみた。
「もしもし?」
『どうした?』
「来週辺り時間空いてる?またナガシマ行こうかなと思ってさ。」
『多分空いてる。いつでも言ってくれ。……あ、そうだ。どうせなら東風さんも誘ってみたらどうだ?』
少し間が空き、付け足すように彼はそう提案してきた。
「東風さんを?」
『ああ。最近お前と喋るようになったじゃん。仲良いんじゃないの?』
「まぁ仲良くはしたいけど……まだ試行錯誤段階というか……打ち解けられてないというか……」
『なら尚更良いんじゃないか?まぁ、考えてみてくれ。』
「そうだね。いいアイディアをありがとう。日程が決まったらまた連絡するね。」
そうして僕は電話を切った。彼がいきなりそう言い出したのは意外だったが、人数は多い方が楽しいし、良い提案だとは思った。
「東風さんも誘ってみるか……」
爽真からの電話が切れ、俺はスマホを机に置いて寝転がった。
「あとは爽真次第だな………正直、彼がどういう行動をするのかは大体予想つくけど。昔からの仲だからなぁ。」
現在、稀香の標的になっているのが東風さんだと分かった。彼女の行動をより詳細に追えるようになったということは、こちらも取り締まりに動けるようになったということ。
稀香によって壊された人の共通点は知っている。彼女を諦めさせるには、東風さんを守ることが大切だ。
簡単に言えば東風さんに心から打ち解けられる友達を作ってもらうこと。それが稀香を止めることに繋がる。
「……必死かもしれないし、余計なお世話かもしれない。……誰も傷つかず解決する方法を考えるのは簡単じゃないな……」
個人の事情に干渉することはあまり好かない。あくまでもサポートに留めて、彼女自身で解決できることを望みたい。
そのためにも、爽真には頑張ってほしいところ。いや、彼なら最善策を見出してくれると信じている。
「とりあえず、何か読みますか……」
シンキングタイムに区切りをつけ、俺は小説を読み始めた。
表向きでは誰に対しても優しいけど、彼女には魔性の面がある。それは自分にとっての障壁を容赦なく、ズタズタに壊しにくるところだ。過去にも彼女の被害に遭って不登校、自主退学した人は何人かいた。けれども、それを助長したのが彼女だとは誰も気づかなかった。
何で私が標的にされたのかは分からない。だけど、きっと私は無意識に誰かのヘイトを買ってしまうような人間なんだという自覚がある。実際、小中学校といじめられて育っているのも事実だから。
「はぁ……早く帰ろ…ずっと残っててもいい事ないし……」
怪我をした右脚を引きずり、私は教室を後にした。
「………。」
東風さんがその場を去ったことを確認して、俺は美術室に入った。
すると丁度死角になっていたところの床に、血痕が付いていた。見間違いじゃない。絵の具とは明らかに質感が違うから。
「……色園稀香。マジでやばい女だ……きりが無い。」
部活帰りに俺が偶然美術室の前を通って発覚した稀香による暴行。それは東風さんがあまり人と関わらない…いや、関わろうとしないことに対する理由として十分なものだった。
彼女の執着心は尋常じゃない。さながら漫画に出てくるような敵ヒロインのようだ。確か去年の夏も彼女の手によって一人壊れたはず。
「はぁ……青春のせの字もない。不良校でもここまで酷くないぞ…」
「あれれ?琉威君じゃない。もしかして見たの?」
床を見つめて考え事をしていると、隣の準備室にいた稀香が戻って来た。
「もしかして……見たの?」
トーンを落としてそう言いながら、彼女はこちらににじり寄ってきた。
「ねぇ…嘘は要らないから、答えて?」
「……お前が思うことを事実にしてもらって構わない。」
「あはっ回りくど………」
そう口に零しながら彼女は再び距離を保ち、いつものような立ち振舞で口を開いた。
「校内一の情報屋や侮れませんね……私達高校生なんですから、もう少し肩の荷を降ろしてはいかがでしょうか?」
「俺だって出来ればそうしたい。ただ…次期生徒会長候補者として、厄介な問題は片付けておきたいんだ。こんな湿度の高い夏じゃ、俺としても気が抜けない。」
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「まぁ間違いではないが……流石に話が飛躍し過ぎだ。」
このまま話していても埒が明かない。それに悔しいが、彼女の言うようにこれは俺が初めたことだ。去年だって、彼らにとっては普通の一夏だったはずだから。
ただ、実害が出たことは既成事実。しかも、今年は爽真達に飛び火することは想像に難くない。
「……帰る。」
「逃げるんだ?」
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そう言い残して俺は教室を後にした。
爽真なら必ず、暗いことも全部綴るはず。起きたストーリーは全て書き留めるだろうから。
帰宅後、僕は奏翔や美咲に電話を掛けて遊びに誘った。思い立ったらすぐに行動しないと時間は過ぎてしまうから。
とりあえず二人は乗り気のようで、次は琉威に連絡を入れてみた。
「もしもし?」
『どうした?』
「来週辺り時間空いてる?またナガシマ行こうかなと思ってさ。」
『多分空いてる。いつでも言ってくれ。……あ、そうだ。どうせなら東風さんも誘ってみたらどうだ?』
少し間が空き、付け足すように彼はそう提案してきた。
「東風さんを?」
『ああ。最近お前と喋るようになったじゃん。仲良いんじゃないの?』
「まぁ仲良くはしたいけど……まだ試行錯誤段階というか……打ち解けられてないというか……」
『なら尚更良いんじゃないか?まぁ、考えてみてくれ。』
「そうだね。いいアイディアをありがとう。日程が決まったらまた連絡するね。」
そうして僕は電話を切った。彼がいきなりそう言い出したのは意外だったが、人数は多い方が楽しいし、良い提案だとは思った。
「東風さんも誘ってみるか……」
爽真からの電話が切れ、俺はスマホを机に置いて寝転がった。
「あとは爽真次第だな………正直、彼がどういう行動をするのかは大体予想つくけど。昔からの仲だからなぁ。」
現在、稀香の標的になっているのが東風さんだと分かった。彼女の行動をより詳細に追えるようになったということは、こちらも取り締まりに動けるようになったということ。
稀香によって壊された人の共通点は知っている。彼女を諦めさせるには、東風さんを守ることが大切だ。
簡単に言えば東風さんに心から打ち解けられる友達を作ってもらうこと。それが稀香を止めることに繋がる。
「……必死かもしれないし、余計なお世話かもしれない。……誰も傷つかず解決する方法を考えるのは簡単じゃないな……」
個人の事情に干渉することはあまり好かない。あくまでもサポートに留めて、彼女自身で解決できることを望みたい。
そのためにも、爽真には頑張ってほしいところ。いや、彼なら最善策を見出してくれると信じている。
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