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8章ー静夜の駆け引き編ー
198.訃報
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リヴォリーター会議を終えてラピスラズリ大陸に戻ったその日、遠方で観測された閃光の偵察隊が帰還した。
ファーマ「曖人っ!」
焦った様子で扉を開き、ファーマが俺を訪ねてきた。
曖人「どうした?」
ファーマ「偵察隊が帰ってきたんだが……いや、入って来てくれ。」
口にしづらい事なのか言い淀んだ彼が手招きをすると、身体の皮膚に焼け跡が残る偵察隊が顔を見せた。
曖人「…!……重症だな…」
偵察隊員「こんな醜い姿を晒してしまい申し訳ありません……」
曖人「いいや、生きててくれて良かった。それで……一体何が…」
偵察隊員「何者かに狙撃されました。重症を負った我々を深雅さんが逃がしてくれたのです。ですが……」
曖人「帰ってこないから心配と。…うーん……彼は強い。強いのだが……」
ファーマ「ああ。少々嫌な予感がしてる。それと、やはり狙撃手の正体はセギンを殺ったという奴と…」
曖人「同じだろうな。元々そんな気はしていた訳だし……分かった。俺が直接出向こう。早く治療が進むといいな。」
偵察隊員「はい。お気遣いありがとうございます……」
そう言って、偵察隊員は治療室に戻って行った。
曖人「ファーマ、偵察部隊を送り込んでからどれくらい時間が経っている?」
ファーマ「36時間だ。内9時間は移動に使っただろう。」
曖人「……急いだ方がよさそうだ…。俺が留守の間、ラピスラズリを頼んだ。」
そう言い残して俺は外に出て、目的地へと飛び立った。
遠くからでも分かる惨劇。焦土にポツリと横たわる深雅の姿がそこにはあった。周辺に着地して、ゆっくりと彼に駆け寄った。
曖人「……知ってたよ…深雅も知ってて彼らを逃がしてくれたんだろ…?」
深雅も見ていたはずだ。ギルムとセギンの和解を、再会を破滅させたあの光を。その矛先が自分に向けられようとも最後まで戦士でいてくれた彼を俺は尊敬している。
故郷でもそうだった。彼は組織の中でもしっかり者で、掲げた使命を絶対に曲げない人だったから。
曖人「……今までありがとうございました…深雅さん……」
亡き深雅に一礼をして、俺は帰路に引き返して行った。
曖人「…全てが終わるまで堪えたいが…やっぱり辛いな……」
_____
とある名も無き小さな廃村にて、ルミは一休みしていた。するとそこに黒い装束とマフラーを身に纏った者が歩み寄ってきた。
???「エネルギーを分けてやろうか?」
ルミ「いいや、大丈夫。このくらい自然回復で賄えるから。…それより、あなたはどうしてここに?」
???「戦術拡張の為、能力者狩りに勤しんでいた。すると全速力で撤退するお前が見えたから追いかけた。」
ルミ「そうだったのね。…そういえば、喰墨の傀儡化の件はどうなってるの?」
そう尋ねると、マフラー越しでも分かるようにニヤリと嗤った。
???「最高傑作…だそうだ。また多くの血が流れることになるだろうな!」
_____
ラビリンスに戻り、俺はファーマとチェインに彼の死を伝えた。
ファーマ「……!」
チェイン「…そうか……」
ファーマ「彼はよく戦ってくれた。名残り惜しいが、前を向かないとな…」
そうだ。深雅は数多くの戦いで最高の裏方を徹してくれた。俺達の手の届かない範囲を、全て支えてくれた。
でもだからこそ、信頼と尊敬の眼差しを向けられていた彼の戦死を聞き、組織内にどういった雰囲気が漂うのか分からない。
曖人「…俺の口からは全体には言えない。ひとまずは彼と接点がある人と偵察部隊に報告しようと思うけど……」
チェイン「いいんじゃないか。お前のペースで伝えれば。同じく組織を束ねた者として、葛藤があることは分かってる。」
曖人「ああ…ありがとう。気持ちの整理がしたいから、俺はもう寝るよ。」
ファーマ「ああ、おやすみなさい。」
そう言って俺は部屋を去った。
ファーマ「気持ちの整理…ね…」
チェイン「想像はつくだろ。あいつはここに来てもう長いが、親しい人の戦死をほとんど経験していない。李朱樹の時はまだ旅の真っ最中で前を向かざるを得なかったが、今回は唐突の戦死かつまだ決戦も始まっていない。戦場に立つ以上皆が覚悟していることだろうが、不意な訃報はすぐには受け入れ難いことだ。……だから今はそっとしておけ。あいつなら一時的だとしても立ち直れるはずだ。」
ファーマ「そうだな…」
チェイン「そろそろ俺達も行くぞ。ラビルロードに忘れものをした。」
ファーマ「お供させてもらうぜ。俺も丁度用事がある。」
ベランダに繋がる窓を開き、二人はラビルロードの入口へと向かった。
_____
私は偶然部屋の前を通りかかり、聞いてしまった。
心明「そっか…深雅が…」
予期しない形での訃報に私は驚きを隠せなかった。きっと過去の私だったら、引きずってしまうことだろう。
でも、曖人君がかなりショックを受けたことを知った以上、しっかりしなきゃと思えた。
心明「曖人君の反応を見ていると、私ももう慣れちゃったんだと怖くなるよ…。皆で故郷に帰れたら、どれだけ良かったことか……」
私が窓を開放すると冷たい夜風が室内に入り込んでくる。静まり返った廊下でただ一人、私は思い馳せた。
心明「今までありがとう…私達を支えてくれて。一緒に帰れないことは残念だけど、君の勇姿はいつまでもチームの記憶の中で生き続けると思うよ。…愛してる。」
そんな届かぬ声を零して、私はその場を後にした。
ファーマ「曖人っ!」
焦った様子で扉を開き、ファーマが俺を訪ねてきた。
曖人「どうした?」
ファーマ「偵察隊が帰ってきたんだが……いや、入って来てくれ。」
口にしづらい事なのか言い淀んだ彼が手招きをすると、身体の皮膚に焼け跡が残る偵察隊が顔を見せた。
曖人「…!……重症だな…」
偵察隊員「こんな醜い姿を晒してしまい申し訳ありません……」
曖人「いいや、生きててくれて良かった。それで……一体何が…」
偵察隊員「何者かに狙撃されました。重症を負った我々を深雅さんが逃がしてくれたのです。ですが……」
曖人「帰ってこないから心配と。…うーん……彼は強い。強いのだが……」
ファーマ「ああ。少々嫌な予感がしてる。それと、やはり狙撃手の正体はセギンを殺ったという奴と…」
曖人「同じだろうな。元々そんな気はしていた訳だし……分かった。俺が直接出向こう。早く治療が進むといいな。」
偵察隊員「はい。お気遣いありがとうございます……」
そう言って、偵察隊員は治療室に戻って行った。
曖人「ファーマ、偵察部隊を送り込んでからどれくらい時間が経っている?」
ファーマ「36時間だ。内9時間は移動に使っただろう。」
曖人「……急いだ方がよさそうだ…。俺が留守の間、ラピスラズリを頼んだ。」
そう言い残して俺は外に出て、目的地へと飛び立った。
遠くからでも分かる惨劇。焦土にポツリと横たわる深雅の姿がそこにはあった。周辺に着地して、ゆっくりと彼に駆け寄った。
曖人「……知ってたよ…深雅も知ってて彼らを逃がしてくれたんだろ…?」
深雅も見ていたはずだ。ギルムとセギンの和解を、再会を破滅させたあの光を。その矛先が自分に向けられようとも最後まで戦士でいてくれた彼を俺は尊敬している。
故郷でもそうだった。彼は組織の中でもしっかり者で、掲げた使命を絶対に曲げない人だったから。
曖人「……今までありがとうございました…深雅さん……」
亡き深雅に一礼をして、俺は帰路に引き返して行った。
曖人「…全てが終わるまで堪えたいが…やっぱり辛いな……」
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とある名も無き小さな廃村にて、ルミは一休みしていた。するとそこに黒い装束とマフラーを身に纏った者が歩み寄ってきた。
???「エネルギーを分けてやろうか?」
ルミ「いいや、大丈夫。このくらい自然回復で賄えるから。…それより、あなたはどうしてここに?」
???「戦術拡張の為、能力者狩りに勤しんでいた。すると全速力で撤退するお前が見えたから追いかけた。」
ルミ「そうだったのね。…そういえば、喰墨の傀儡化の件はどうなってるの?」
そう尋ねると、マフラー越しでも分かるようにニヤリと嗤った。
???「最高傑作…だそうだ。また多くの血が流れることになるだろうな!」
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ラビリンスに戻り、俺はファーマとチェインに彼の死を伝えた。
ファーマ「……!」
チェイン「…そうか……」
ファーマ「彼はよく戦ってくれた。名残り惜しいが、前を向かないとな…」
そうだ。深雅は数多くの戦いで最高の裏方を徹してくれた。俺達の手の届かない範囲を、全て支えてくれた。
でもだからこそ、信頼と尊敬の眼差しを向けられていた彼の戦死を聞き、組織内にどういった雰囲気が漂うのか分からない。
曖人「…俺の口からは全体には言えない。ひとまずは彼と接点がある人と偵察部隊に報告しようと思うけど……」
チェイン「いいんじゃないか。お前のペースで伝えれば。同じく組織を束ねた者として、葛藤があることは分かってる。」
曖人「ああ…ありがとう。気持ちの整理がしたいから、俺はもう寝るよ。」
ファーマ「ああ、おやすみなさい。」
そう言って俺は部屋を去った。
ファーマ「気持ちの整理…ね…」
チェイン「想像はつくだろ。あいつはここに来てもう長いが、親しい人の戦死をほとんど経験していない。李朱樹の時はまだ旅の真っ最中で前を向かざるを得なかったが、今回は唐突の戦死かつまだ決戦も始まっていない。戦場に立つ以上皆が覚悟していることだろうが、不意な訃報はすぐには受け入れ難いことだ。……だから今はそっとしておけ。あいつなら一時的だとしても立ち直れるはずだ。」
ファーマ「そうだな…」
チェイン「そろそろ俺達も行くぞ。ラビルロードに忘れものをした。」
ファーマ「お供させてもらうぜ。俺も丁度用事がある。」
ベランダに繋がる窓を開き、二人はラビルロードの入口へと向かった。
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私は偶然部屋の前を通りかかり、聞いてしまった。
心明「そっか…深雅が…」
予期しない形での訃報に私は驚きを隠せなかった。きっと過去の私だったら、引きずってしまうことだろう。
でも、曖人君がかなりショックを受けたことを知った以上、しっかりしなきゃと思えた。
心明「曖人君の反応を見ていると、私ももう慣れちゃったんだと怖くなるよ…。皆で故郷に帰れたら、どれだけ良かったことか……」
私が窓を開放すると冷たい夜風が室内に入り込んでくる。静まり返った廊下でただ一人、私は思い馳せた。
心明「今までありがとう…私達を支えてくれて。一緒に帰れないことは残念だけど、君の勇姿はいつまでもチームの記憶の中で生き続けると思うよ。…愛してる。」
そんな届かぬ声を零して、私はその場を後にした。
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