思想で溢れたメモリー

やみくも

文字の大きさ
上 下
62 / 228
3章ー邪種編ー

62.哀しき思念体

しおりを挟む
望「…最後に…話だけでも聞いてくれるか…?」

サニイ「分かった。」

 そして身体が崩れ行く望は、語り始めた。









 邪種は哀しき存在だ。

 救えない存在だ。

 人々が陰で持つ思念「邪念」がエネルギーとして表れ、それが融合し、魂が宿った結果生まれたのが、俺達邪種だ。

 俺の家庭は裕福では無かった。

 普通でも良いから、まともな生活に憧れ、希望を持っていた。

 俺は、ある日の帰り、エネルギーが溢れた光の束を発見した。

 それに近づくと、俺の中の確かな想像力と、邪力による夢見る思念が混ざり合った結果、
俺が誕生した。

 その後、邪種を束ねる者と遭遇し、仲間に引き入れられた。






望「こんな所だ…。」

サニイ「……分かった。」

 サニイは、情報を整頓し、質問をした。

サニイ「邪種の……いや、変異者の目的は何だ。」

 そう聞くと、望は答えた。

望「変異者の目的は、自分を認める世界への再構成だ。表向きはな。詳しくは聞かされていないが、一斉襲撃とだけ指示されている。それが邪種動乱の内容だ。俺は君の過去を聞き、正気を取り戻した。邪種は一部を除いて、邪念の意思に囚われている。救いを求めている。容赦無く浄化してやれ。それが彼らの“本当”の望みだ。遺言ってこんな感じか?」

サニイ「お前の意思は汲み取った。その託しに恥じぬよう、精進する。」

望「邪種動乱は、始まったばかりだ。解放してくれ…。この…哀しき……生め……。」

 崩壊する望は、邪力から解放され、完全に消滅した。

サニイ「……これで良かった…のか…?」

 サニイは下を向き、黙祷をした。











 元の姿に戻った溺は、倒れ込み、邪力の浄化が始まっていた。

 俺は戦闘態勢を解き、溺へと近づいた。

溺「…負けるって…こんなに恐ろしいんだ…。」

曖人「死の味は一度しか経験出来ない。何を思い、何を得るのかは、想像もつかない。英雄とは言え、平和的解決は出来てはいなかった。
確かに和解できた奴もいたが、それでも…短期間に幾つもの命を散らした。思想のすれ違いが、こんなにも争いを生むなんて、隊長に拾われなければ、多分知らなかった。」

 少し間を置き、俺は質問した。

曖人「悪いな。俺ばかり話して……。何か言いたい事はあるか?」

 ゆっくりと顔を上げ、溺は口を開いた。

溺「気をつけて…。変異者は、貴方達を認識している。私の願いを…聞いてよ……。」

曖人「…あぁ。」

溺「私は誰からも愛されず、誰も愛せなかった。でも、相反する感情はやがて狂い、邪力との融合により、人格から変貌してしまったの。お願い…皆を救って…。邪種は、この世に存在しても、誰も幸せにはなれない。忘れないで。」

曖人「念頭に置いておく。」

溺「邪種動乱は、これからが本番だよ。必ず、救ってきて。救いようの無い思い…を……。」

 そう言い残し、溺は浄化(消滅)された。

曖人「……訳ありだな…この件は…。」

 俺は、一旦サニイのガレージに帰還した。










 ガレージでは、サニイも帰ってきていた。

サニイ「そっちは終わったようだな。」

曖人「ああ。所で、これからどうする?」

 サニイは資料を俺に渡した。

サニイ「変異者についての記録だ。主犯格だろう。邪種動乱第2ラウンドが幕明けする前に、邪種についてまとめたい。そっちも何か託されただろ?本質的な部分は変わらないはずだ。」

 そして俺は、溺の意思を共有した。

サニイ「……そうか。」

曖人「英雄の定義って何だろうな?俺のしている事は果たして正しいのだろうか…。」

サニイ「英雄と勇者は違う。思想のすれ違いから、全てと和解できる訳では無いが、お前は実際、敵に情けを多少掛けている。自分達だけの平和を望むのなら、そんな事はしないはずだ。自信を持て。威風曖人。」

曖人「…ありがとう。サニイ。」

 その後、邪種に関する資料を漁り尽くし、一夜が明けた。

エサラ「サニイさん!曖人さん!」

 朝、寝落ちした俺達を呼ぶように、エサラが部屋に入って来た。

サニイ「…ん?どうした。」

エサラ「邪種が各地で現れました!発生地点は4箇所。私が昨日捜索した場所には魔法陣がありました。恐らく、それがトリガーでしょう。魔法陣の目撃地点は、8箇所。最低でも6体の邪種がいるでしょう。」

サニイ「分かった。すぐに出向くぞ。総動員だ。曖人!行くぞ…。」

曖人「了解。」

 加速し続ける思想のぶつかり合いは、どんな影響を及ぼしたか、当事者である俺すら分からない。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

処理中です...