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7話 交渉を何度もやり直しました

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 狭い宿屋で五人くっついて寝ている。

 いや何故こうなったのだろうか。

 それは昨日の夜に遡らなければならない。

 
 昨夜――

 「俺は椅子で寝るからいいよ」
 「それは駄目です。一番の功労者にそんな待遇はさせられません」
 「いやでもベッドは流石に」
 「大丈夫です。五人くっついて寝れれば何とか」
 「いやそれは……」


 確かにこのベッド一つで五人くっつけば何とか寝られるだろう。

 しかしきっと理性が持たない。

 俺は椅子でいいのに。


 「椅子は身体に良くないぞ。ベッドが一番じゃ」
 「じゃあせめて端側でお願いしたい」
 「うむ。お主がそれでよいならよいが」


 こうして何とか端側に寝ることで妥協したのだが、横がラフレアで巨乳が顔に当たって殆ど眠れなかった。

 これが昨夜の出来事である。


 そして現在――

 「おはよう」
 「おはようラーク」
 「うーん」
 「眠そうね。寝れなかった?」
 「あ、いや眠れたよ」
 

 ラフレアの胸で眠れなかったなんて言えない。

 あの柔らかい感触は一生記憶に残るだろう。

 
 リアがカーテンを開けて部屋に日光が差し込む。

 朝日を浴びたことによって一日が始まろうとしていた。

 そう言えば背中痛いな。

 昨日蹴られたからか。

 まあ直に痛みは引くだろう。

 そう思っていたらアリスが俺の背中の違和感を察した。

 
 「背中見せてください」
 「え!? 大丈夫だ」
 「怪我してます。見せてください」


 アリスが真剣な剣幕で口を開く。

 俺はその熱意に負けて背中を見せた。


 「凄い痣になっています。今すぐ治療しますね」
 「ああ頼む」
 「ヒール」
 

 アリスがヒールと魔法を詠唱すると俺の背中の痛みが消えた。

 自分では上手く確認できないがどうやら紫色になっていた痣も消えたようだ。


 「凄いヒーラーではないので簡単な治療しかできませんが痣くらいなら治せます」
 「ありがとう」
 「その痣どうしたんですか?」
 「ぶつかられてたんだ。気にしなくて大丈夫」
 「本当にですか?」
 「ああ」


 俺は笑顔で誤魔化した。

 余計な心配はしてほしくないしな。

 バレッド達とはもう関係ないのだから極力関わるべきではないだろう。


 「それより銀貨三枚をどう使うかだな」
 「妾は食事に使うべきとここに提案するのじゃ」
 「はい却下」
 「なんじゃとー。何故じゃ」
 「食事より優先すべきことがあるからだ」
 「例えばなんじゃ?」
 「武器や防具。回復品などだ」
 「うむ成程納得じゃ」


 宿屋と食事はもう少し我慢するとして、先ずは武器屋と防具屋に行こう。

 ラフレアを起こした俺達は近くの武器屋へと赴いた。

 だがその前に、


 「セーブ」
 「何故ここでセーブするのじゃ?」
 「値引き交渉の為だ」
 「値引き交渉するのか?」
 「ああ。金が無いからな、少しでも安く買うべきだ」
 「それはそうじゃな」


 値引き交渉の類は苦手なのだが銀貨三枚で全員分の装備品を買うにはこれしかない。

 武器屋の中で俺達は武器を見て回る。

 安くてなるべく品質がいい物が欲しい。


 「この銅の剣ってリアたちが持っている剣より上だよな?」
 「ええ。私達のは錆びた剣だからね。貧乏だから」
 「まあそうだよな」


 じゃあこれを購入するか。

 さて値段は?

 げ!? 銅貨8枚って。

 銀貨三枚でアタッカーの二人分は購入できるが他にも欲しいものはあるしな。

 よしここは交渉するか。


 「これ値下げしてくれませんか?」
 「無理だな。うちは値下げしていない」
 「どうしてもですか?」
 「どうしてもだ」
 「貧乏なんです。必ず成り上がって見せますから」
 「駄目だ。帰れ」
 「ちっ、ロード」


 俺達はセーブ地点まで戻る。

 交渉失敗。

 さてどうするか。


 「次は私がやります」
 「頑張ってくれ」
 「はい」


 アリスが交渉を開始する。


 「値下げしてくださいませんか?」
 「君可愛いからいいよ。値下げしてあげる」
 「ありがとうございます」


 理不尽だ。

 俺の時は高圧的な態度だったのに、アリスの時はコロッと態度を変えやがって。

 まあ美少女だしな。

 可愛いは正義だ。


 その後も防具屋と雑貨屋で何度も交渉して色々値引きしてもらって購入した。

 そして何とかアタッカー二人分の最低限の装備は整った。

 バッファーのラフレアとヒーラーのアリスとパーティーサポートの俺は装備は後回しだな。


 「無くなったわね銀貨三枚」
 「まあ色々買ったからな。明日からクエストガンガン受注だ」
 「一人泣いているけど」
 「ははっ」


 ヴィクトリカが空になった布の袋を逆さまにして空であることを何度も確認する。

 そして「妾の食費が」と泣いていた。


 「まあ明日からお金稼いでいくぞ」
 「うむ。頑張るのじゃ」
 

 ヴィクトリカが俺におんぶを要求する。

 俺は仕方なくおんぶをする。

 胸が当たって背中に伝わる柔らかい感触が忘れられなかった。
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