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01.転生した男 

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はあ~疲れた。死にそうだ、三徹目だ。新卒で50連敗して、何とか滑り込んだ会社がまさかブラック企業だったとは夢にも思わなかった。

 俺の名前は猫屋敷出雲ねこやしきいずも。かなり珍しい名字であり、この名字のせいで色々人生で損をした。学生時代はイジメにもあった、電話では何度も聞き返された。テストの名前欄に書くのが面倒くさかった。挙げれば枚挙に暇がない。まあ今はそんな事どうでもいい。辞めたい、辞めたい、辞めたい。このブラック企業を辞めて転職したい。しかし勤務して未だ半年である。両親との仲も悪く、実家に帰る訳には行かない。50連敗した俺が転職できるとは思わない。

 「お疲れ様です」

 返事がない、当たり前だ。俺の周囲に人はいない。皆俺に仕事を押し付け帰っていった。同僚は体調不良を理由に仕事を辞めた。上司は部下の俺に仕事を押し付けやがった。
 
 「さて帰るか」

 終電はとっくに過ぎている、それ以前に自宅に三日間シャワー以外帰宅していない。唯一の救いは自宅から徒歩5分で通える場所に職場があり、終電を逃しても問題ないという事だ。

 俺は自宅に帰る途中コンビニでエナジードリンクを大量に買って、自宅に戻る。

 「さて仕事の続きしないと――」

 急にグラグラと視界が揺れて俺はフローリングの床に顔面を強打した。そしてそのまま帰らぬ人となった。

 
 「おめでとうございます。貴方は転生者に選ばれました」

 「は!?」

 意味が分からない。俺寝落ちしてしまったのか、だとしたらヤバイ早く仕事に戻らないと。

 「社畜の鑑ですね。若いのに悲惨で哀れな人生ですね」

 「これ夢だよな?」

 「夢ではありませんよ。貴方は過労死したんです、働きすぎで」

 うん!? ああ、思い出した。確か自宅で急に倒れたんだっけ。じゃあここ死後の世界か!?

 「俺死んだのか、よかった~。これでブラック企業から、人生から解放される。自殺しないで死ねるなんてラッキーだ」

 昔から自殺願望は常に俺の脳内に付き纏っていた。でも自殺する勇気なんてなくて、ズルズルと生きてきた。でもこれで安らかに眠れる、幸い犯罪歴もない善良な市民であったから、天国行きは確定だろう。はあ~やっと苦行から解放されるんだ。死んでよかった~。

 「じゃあ俺天国に行けるんだよね? 早く連れてってよ」

 「出雲さん、話聞いてました? 貴方は転生者に選ばれたんですよ」

 うん!? 転生者だと。転生ってもしかしてネット小説やラノベで流行している異世界転生などの転生の事か?

 「ああ結構だ、何が悲しくて天国行きを蹴って、異世界なんかに行くかよ」

 きっぱり断ろう。ズルズルと生きた前世が悲惨だったんだ、死後ぐらい自分の意見を主張しよう。

 「駄目です、出雲さんは異世界で幸せになる権利があるんです」

 しつこいな。俺は天国がいいんだよ。

 「異世界で苦労するより、天国で安らかに過ごしたい」

 「じゃあ異世界転生しないなら、地獄行き決定です」

 は!? 何だこの女神。ふてくされたのか無茶苦茶な事言いやがって。

 「善良な人間を地獄送りにする権利なんかあるのかよ。そもそもあんた誰だよ」

 「私は女神です。この世界で一番偉いんです、天国行き、地獄行きを決めるのも私です。転生しないなら血の池地獄行きです。それでも転生しないんですか」

 半ば脅しだ、大人げない女神だ。大体何が女神だ、俺より年下の見た目の人間のくせに。それに女神なら前世の俺を助けろ。

 「どこに転生するんだよ」

 「異世界です。ファンタジー世界ですよ」

 行きたくねえ、行きたくねえけど地獄行きはブラック企業より嫌だ。仕方ない転生するか。

 「分かった転生してやるよ」

 「はい。ではあの目の前のゲートを潜ってください。来世は幸運に恵まれますように」

 転生する側の俺より、転生させる側の女神が喜んでいる。顔を綻ばせて。

 「ああそうだ、あんた名前は?」

 「私はマリアです」

 あっそう。女神マリアね、ノーベル賞受賞の科学者もびっくりの体験を俺はしたらしい。

 さて来世は幸福な人生を歩みたい、頼むぞマリア。

 俺はゲートに足を踏み入れた。直後意識が消失した。
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