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9章
モテ男、色々こじらせる
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高校でもきっと優秀だったのだろう。
親のことで不遇な状況でも、一人で頑張る千紗を支えたかった。
いや、支えるなんておこがましいが、とにかくリアルの千紗と交流したかった。
正体を隠してオンラインで交流するうち、実際に会おうと言ってみたが、千紗はオンラインだけだから素直になれる、リアルで傷つきたくないから会えないと言った。
にもかかわらず、時々酔って電話をかけてきて、好きだとか口走るようになった。千紗は辛いことがあると酒に頼る癖もあり、酔うと酒乱でもあった。
男に免疫がなさすぎて、ネット上の虚像でしかない田吾作にガチ恋しているようだった。だが会いたくない。
夢は夢のままで──とか言いつつ、甘えたり泥酔すると酔って脱いだりしていた。必死で止めたが、欲望に負け色々見てしまった。
かなり危なっかしい子であることだけは間違いなく、井村は千紗とリアルで恋人同士になりたかった。そして、あの意地っ張りで危なっかしい子を甘やかしてあげたい。
それなのに、田吾作が井村だとも知らず、千紗は井村への愚痴まで田吾作に言うようになった。
偽善者だとか、中身がないとか言いたい放題だった。
関わってほしくないとも。
これまで女に露骨に嫌われたことのない井村は、ショックを受けた。
初めて本気で好きになった子に、こんなふうに陰で悪口を言われているとは。
名乗り出ることが難しくなった。しかも田吾作に好きだとか言い始める始末。
自分がライバルになってしまった。ネットで別人のふりをして近づいたといえば軽蔑される。だが、千紗にとって田吾作は支えとなっているようでもあり、非常に面倒な事態になってしまった。
一刻も早く全てを打ち明けて、謝罪し、誠心誠意好きだと言わねばならない。
騙したことも謝罪したい。対面であれば、謝罪もしやすいし、事情も言いやすい。
何度も会おうと頼んだが、千紗は首を縦には振らなかった。
『誰かに甘えたら、もう頑張れなくなっちゃう。借金返すまで私は一人じゃないと』
そんなことを言っていた。その痛ましいまでの不器用さは、今まで器用に生きてきた井村の心を強く揺さぶった。
小学校から特に苦労もせずにスポーツは万能、成績優秀。家は裕福で、なにかを強く渇望したことなどなかった。
そんな井村だったが、千紗を好きになりどうにもならないもどかしさを初めて知った。
──この子じゃないと駄目だ。こんなに人を好きになることはもうない。
それは、理屈ではない魂の叫びのような確信に満ちた想いだった。
とはいえ、千紗は井村のことなど、オフィスにあるコピー機程度にしか目に入れていない。
顔も知らない田吾作にあんなに心を許すなんて危なっかしすぎる。実際会わなければいい人ぶるなんて簡単なのに、根が純粋なのだろう。
気難しい性格だけに、一度信頼すると揺るがないらしい。この信頼を裏切っているというのも罪悪感で苦しい。
電話もしているのに、声で井村だと気づく様子もない。鈍感だ。心配になる。
早くリアルでも落とさないと。誰かが守らないとそのうち危ないことに巻き込まれる気がしていた。
「高倉さん……絶対リアルでも俺に惚れてもらうから」
井村が拳を握りしめ、いきごんでいると、ちょうど千紗からメッセージが来た。
『田吾作さん、会えなくてごめんね。でも好きな気持ちは本当なんだよ』
『千紗ちゃん……会ってもらえるまで待つから』
『うん』
本当は会社で毎日会っているのだが、そんなことを言ったら即ブロックされてしまうだろう。会社もやめるかもしれない。
本人は泥酔すると泣き上戸だったりするし、見たことも知られたらかなりヤバい。
実際に田吾作=井村であることを隠してきたことは土下座してでも謝るしかない。
ちゃんと対面で謝罪すべきだ。
翌日。
「おはよう」
「おはようございます」
千紗は相変わらずそっけない。田吾作にはあれほど甘えてくるのに──。
どちらも本人の違う面なのだろう。あばたもえくぼというべきか、そんなところもかわいく思えて、井村は実らぬ恋に悶絶していた。
──あんなに強がってツンツンしてるのに、本当は寂しがり屋とか可愛すぎる……。
親のことで不遇な状況でも、一人で頑張る千紗を支えたかった。
いや、支えるなんておこがましいが、とにかくリアルの千紗と交流したかった。
正体を隠してオンラインで交流するうち、実際に会おうと言ってみたが、千紗はオンラインだけだから素直になれる、リアルで傷つきたくないから会えないと言った。
にもかかわらず、時々酔って電話をかけてきて、好きだとか口走るようになった。千紗は辛いことがあると酒に頼る癖もあり、酔うと酒乱でもあった。
男に免疫がなさすぎて、ネット上の虚像でしかない田吾作にガチ恋しているようだった。だが会いたくない。
夢は夢のままで──とか言いつつ、甘えたり泥酔すると酔って脱いだりしていた。必死で止めたが、欲望に負け色々見てしまった。
かなり危なっかしい子であることだけは間違いなく、井村は千紗とリアルで恋人同士になりたかった。そして、あの意地っ張りで危なっかしい子を甘やかしてあげたい。
それなのに、田吾作が井村だとも知らず、千紗は井村への愚痴まで田吾作に言うようになった。
偽善者だとか、中身がないとか言いたい放題だった。
関わってほしくないとも。
これまで女に露骨に嫌われたことのない井村は、ショックを受けた。
初めて本気で好きになった子に、こんなふうに陰で悪口を言われているとは。
名乗り出ることが難しくなった。しかも田吾作に好きだとか言い始める始末。
自分がライバルになってしまった。ネットで別人のふりをして近づいたといえば軽蔑される。だが、千紗にとって田吾作は支えとなっているようでもあり、非常に面倒な事態になってしまった。
一刻も早く全てを打ち明けて、謝罪し、誠心誠意好きだと言わねばならない。
騙したことも謝罪したい。対面であれば、謝罪もしやすいし、事情も言いやすい。
何度も会おうと頼んだが、千紗は首を縦には振らなかった。
『誰かに甘えたら、もう頑張れなくなっちゃう。借金返すまで私は一人じゃないと』
そんなことを言っていた。その痛ましいまでの不器用さは、今まで器用に生きてきた井村の心を強く揺さぶった。
小学校から特に苦労もせずにスポーツは万能、成績優秀。家は裕福で、なにかを強く渇望したことなどなかった。
そんな井村だったが、千紗を好きになりどうにもならないもどかしさを初めて知った。
──この子じゃないと駄目だ。こんなに人を好きになることはもうない。
それは、理屈ではない魂の叫びのような確信に満ちた想いだった。
とはいえ、千紗は井村のことなど、オフィスにあるコピー機程度にしか目に入れていない。
顔も知らない田吾作にあんなに心を許すなんて危なっかしすぎる。実際会わなければいい人ぶるなんて簡単なのに、根が純粋なのだろう。
気難しい性格だけに、一度信頼すると揺るがないらしい。この信頼を裏切っているというのも罪悪感で苦しい。
電話もしているのに、声で井村だと気づく様子もない。鈍感だ。心配になる。
早くリアルでも落とさないと。誰かが守らないとそのうち危ないことに巻き込まれる気がしていた。
「高倉さん……絶対リアルでも俺に惚れてもらうから」
井村が拳を握りしめ、いきごんでいると、ちょうど千紗からメッセージが来た。
『田吾作さん、会えなくてごめんね。でも好きな気持ちは本当なんだよ』
『千紗ちゃん……会ってもらえるまで待つから』
『うん』
本当は会社で毎日会っているのだが、そんなことを言ったら即ブロックされてしまうだろう。会社もやめるかもしれない。
本人は泥酔すると泣き上戸だったりするし、見たことも知られたらかなりヤバい。
実際に田吾作=井村であることを隠してきたことは土下座してでも謝るしかない。
ちゃんと対面で謝罪すべきだ。
翌日。
「おはよう」
「おはようございます」
千紗は相変わらずそっけない。田吾作にはあれほど甘えてくるのに──。
どちらも本人の違う面なのだろう。あばたもえくぼというべきか、そんなところもかわいく思えて、井村は実らぬ恋に悶絶していた。
──あんなに強がってツンツンしてるのに、本当は寂しがり屋とか可愛すぎる……。
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