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17章

二人で歩む道

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「我が娘ながら、キレイだわねぇ。せっかく美人に生んだのに、あなたは昔から女の子らしい格好に興味がなくって、お父さんに似てオタク趣味だったから……」

 数か月後、井村の海外赴任に合わせて超特急で結婚式が行われた。
 腰のラインがきゅっと締まったプリンセスラインのウェディングドレスは、千紗の元のスタイルの良さを際立たせていた。
 スカートには幾重にもレースが重ねられ、ふんだんにビーズが縫い付けられている。
 黒い長い髪をシンプルにまとめ、頭上に大小の真珠がついたティアラをつけると、なんだか別人のようだった。

 控室に様子を見にきた井村の姉とその子供たちが、千紗を見てキャッキャとはしゃいでいた。

「お姫様みたい」
「かわいい。私もあんなの着たいなぁ」
「ほんとねぇ。うっとりしちゃう。聖、今頃がちがちに緊張してそう。千紗さんにベタ惚れだから」

 被害者とはいえ、事件に巻き込まれて炎上もした身で井村の実家に挨拶に行く時は緊張したが、両親も喜んでくれてほっとした。
 彼の両親らしい愛情に満ちた優しい人たちだった。
 一人っ子の千紗を海外へ連れて行っていいのかと心配もしてくれた。

 心配していた母はすっかり元気を取り戻して、東京の家で茶道教室を再開させていた。生徒が増えたこともあり、生き生きとしている。

 千紗が海外に行っていいものか悩んだ時、背中を押してくれたのも母だった。

『親のために頑張らせてしまったけど、間違ってたと反省しているの。好きに生きて。もう過剰に親孝行したんだから、生きてさえくれたらなにをしたって構わない。世界中のどこにいたって、娘であることは変わらないんだし』
『でもお母さん一人になっちゃうよ』
『大丈夫、どうしても寂しくなったら呼ぶから帰ってきて。今はビデオ通話もあるし、あんまり距離は感じないんじゃないかしら。昔と違って便利よねぇ。昔はお父さんともポケベルとかで連絡取り合ってたのに』
『時代を感じるね』
『成人式の日に下駄の鼻緒が切れちゃったのよ。それで近くにあったジャズバーに入って直したんだけど、そこでお父さんがギター弾いてて一目惚れしちゃって通いつめたのよねぇ……』

 あまりにベタな父との馴れ初めやら、恋話を聞かされ、恥ずかしくなる。

『井村さんならきっと大丈夫。あの執念はただごとではないわ。あなたを好きになる理由もわかるのよねぇ』
『え? どういうこと』
『人は自分にはないものに惹かれるのよ』

 井村が自分のどこを好きなのか、全然わからない。ナスカの地上絵がどうやって描かれたのかと同じくらいわからない。この世は不思議に満ちている。

「さぁ行くわよ」

 父親の写真をもった母に付き添われ、開かれた扉の向こうにいる井村のもとへ一歩ずつ歩いて行った。 
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