2 / 7
練習手合 院生 田村優里亜 & 院生 小島太一 vs 畠山京子初段
しおりを挟む
ヨシマサ・イシザカ
【レベル】アマチュア15級
【職業】見習い兵士
【永世称号】なし
【一時称号】なし
【HP】6/6
【MP】9/9
【攻撃力】2
【防御力】4
【発想力】G
【柔軟性】G
【勝負勘】G
【読みの早さ】3手/分
【読みの深さ】3手
【スキル】石召喚
【アイテム】支給された剣
京子は更新された嘉正のレベルを確認してウインドウを閉じた。
嘉正への指導碁は大変だった。自分の頭上に石召喚して自死しそうになったのは、さすがに焦った。
彼の周りにシロイシくんを5体護衛に付けておいて正解だった。ただ本人は何が起こったかわからない様子だったけど。
石を召喚するのに必死で全く戦いになってなかった。
自分の戦場の存在に気づくのはまだまだ先になりそうだ。
京子はウインドウを切り替える。
ユリア・タムラ
【レベル】院生B組
【職業】テイマー
【永世称号】なし
【一時称号】なし
【HP】5,712/6,500
【MP】6,359/6,750
【攻撃力】6,358
【防御力】8,976
【発想力】D
【柔軟性】E
【勝負勘】D
【読みの早さ】27手/秒
【読みの深さ】146手
【スキル】石召喚。防御強化。危機察知。テイミング(使役魔獣:フェンリル。サラマンダー)。転移
【アイテム】短剣。シロイシくん6体
戦場は【王都】。
「うん。女流棋士採用特別試験の時から先輩のポイント変動はあまりないな。次、コジマ先輩は、と」
タイチ・コジマ
【レベル】院生D組
【種族】魔族
【永世称号】なし
【一時称号】なし
【HP】3,021/4,400
【MP】4,613/5,030
【攻撃力】5,647
【防御力】3,482
【発想力】F
【柔軟性】E
【勝負勘】D
【読みの早さ】21手/秒
【読みの深さ】98/手
【スキル】石召喚。武器強化。気配察知。転移。闇魔法。
【アイテム】短剣
戦場は【ダンジョン】。
「おお!本当にいた!闇堕ちして魔族になっちゃった人!まずこっちからにしよ!」
魔法を使うためには魔法使いに弟子入りするしかないのだが、魔法使いに弟子入り出来ない者は時々こうして闇堕ちして自己流で魔法を使う者がいる。ただし魔力暴走で自滅するリスクはかなり高い。
どんな魔法を使って、どんなふうに戦うんだろう。楽しみしかない。
今、京子を挟み込むように2つの戦場が並んでいる。
さすがに一人で2つの戦場を同時には戦えない。なので、この子達の出番だ。
「出ておいでシロイシくん!とりあえず3体!」
碁石のゆるキャラみたいなのが3体、ポンと音を立てて現れた。手には槍と盾を持っている。
シロイシくん(白番のみ召喚可)
【レベル】【HP】【MP】【攻撃力】【防御力】
召喚主に準ずる
【スキル】召喚主に準ずる。召喚主との通信。
【アイテム】槍。盾(カスタマイズ可)
そのうち一体に変化魔法をかけて、京子そっくりにする。装備も槍に変化魔法をかけ杖に変える。
「君達はタムラ先輩の王都に行ってきてね。前に戦ったことあるから覚えてるよね。私はまずダンジョンに行って来るから」
シロイシくん達はコクンと頷き、シロイシ京子を先頭に王都へ向かった。
「さぁてと、魔人討伐と行きますか!」
●○●○●○
京子はピラミッド型のダンジョンを天元から降りていく。
「それにしても壁だらけのダンジョンだなぁ。さらに壁を作ったら閉じ込められない?あ、そういう作戦か」
以前院生と練習手合を行ったことがあるが、その対戦相手の戦場もダンジョンだった。
「院生ってダンジョン好きだなぁ。そんなにダンジョンのほうがレベルアップしやすいのかな?あ!魔物がいるからか。タムラ先輩テイマーだし、ここでテイムしたんだ」
と言った矢先、魔物が現れた。頭はニワトリ、下半身はトカゲ。バジリスクだ。
「えーと、たしかバジリスクの天敵はイタチだったっけ?それなら」
京子は再びシロイシくんを1体召喚し、変化魔法をかけイタチの姿にした。するとバジリスクはシロイシイタチに追いかけられ、通路の向こうへ逃げてしまった。
「あれ?コジマ先輩が闇魔法で配下にしたバジリスクじゃないのかな?逃げちゃった。ま、いっか。闇落ちしたコジマ先輩と戦えれば。それはそうと王都は今どうなってるのかな」
噂をすればなんとやらで、タムラの王都へ向かったシロイシ京子から通信が入った。
《タムラ ハッケン。タダチニ リンセンタイセイ ニ ハイル》
「オッケー。そっちは任せるよ。私もそろそろコジマ先輩を見つけないと」
しかし歩けど歩けどコジマは見つからない。黒石は見つかるのに、肝心の本人が見つからない。
まさか逃げ回ってる?たしか『気配察知』スキルがあったはず。逃げる戦略?
「でも、そもそもまだ戦いは始まってないんだから逃げる理由は無いし。何してるんだろう。……そうだ!」
『魔法制御』を覚えてから石召喚の時は無詠唱が癖になってしまっていた。もしかしたら詠唱して石召喚したら私の声を聞きつけコジマ先輩は姿を現すかもしれない。
京子は手にしている『魔法使いの杖』を通路の交差点に向け叫んだ。
「白石召喚!」
目の前に白石が召喚された。通路の狭いダンジョンなので、召喚された石は膝の高さぐらいしかない。飛び越えられそうな高さだが『石の召喚された交差点は通行不可』なので、結界が張られていて飛び越えられない。
どこかでコジマが石を召喚した音が響いて聴こえてきた。ウインドウが現れ『Your turn』と表示される。
京子の思惑は外れた。コジマは姿を現さない。
「もー。どこにいるのー?【気配察知魔法】使っちゃおうかなー」
京子の持つ魔導書に『気配察知魔法』は掲載されている。しかしスキルの『気配察知』とは違い、大幅にMPを減らしてしまう。
それに今シロイシくんを4体召喚しているので、さらに魔力消費量が増えている。極力使いたくない。
「あー。こんなことならスキルを増やしておけば良かったー!魔導書たくさん持ってればスキルなんていらないかもなんて、考えが甘かったー!」
この戦場では対戦後、勝者は『ボーナスポイント』か『ボーナスガチャ』かのどちらかが選べる。
日本棋院院生に通っていなかった京子は、対戦後いつもBPを選択していた。
戦って実力をつけてのスキル獲得と違って、Bガチャでのスキル獲得にはランクによっては獲得条件を伴う。引けば必ずスキルを獲得できるわけではないのだ。
だから京子は確実にステータスを上げるためBPを選んできた。
「うん。今度からはBガチャにしてスキルを増やそう!それで今はもう面倒くさいから、ダンジョンの壁をMPの許す限り片っ端から破壊しちゃえ!」
召喚した石で出来た壁の破壊はルールに従い破壊しなければならないが、戦場の壁はルール外だ。
京子は自身の手番で白石を召喚し、巨大になる変化魔法をかけた。白石はあっという間に通路を圧迫する大きさになり、大音量をたてダンジョンの壁を破壊した。
「うわぁ!ウソだろ⁉︎なんでダンジョンの壁が壊れるんだ⁉︎」
コジマは京子が破壊したダンジョンの壁の向こう側から姿を現した。
「あら。そこにいらしたんですね」
京子はコジマの姿を見つけると、魔導書を取り出し『召喚魔法』のページを開くと日本刀を召喚し、素振りを始めた。
まだMPは余裕があるが、まだタムラとの戦いがあるので、出来るだけMPの消費を抑えたいのもあるし、久しぶりに刀で戦ってみたくなったのだ。
「久しぶりだなぁ。この重み」
京子は岡本門下に入る前は【武士】だった。【武士】としての現在の京子のステータスはこうだ。
キョウコ・ハタケヤマ
【レベル】プロ初段
【職業】武士
【永世称号】なし
【一時称号】なし
【HP】8,680/21,700
【MP】2,431/9,000
【攻撃力】21,911
【防御力】19,354
【発想力】B
【柔軟性】B
【勝負勘】D
【読みの早さ】351手/秒
【読みの深さ】4,130手
【スキル】石召喚。剣術。武器強化。鑑定。
【アイテム】日本刀(政宗)。シロイシくん87体
「さあ、コジマ先輩。石を召喚して下さい。先輩の手番ですよ」
やっと戦いらしい戦いが出来ると意気込んだ京子は、刀を召喚してからずっと素振りをしている。
しかしコジマは京子の鬼気迫る表情と揺るぎない素振りを見て足がすくみ、身動き出来なくなってしまった。
「ま、参った!降参する!」
「……は?まだ戦ってもいないじゃ無いですか。なのにもう降参?」
「だって、まさかダンジョンの壁を壊すなんて攻撃、今まで誰もしたことなかったし、こんな桁外れの攻撃力の相手に勝てないよ!」
二人の間にウインドウが現れ、
『White,winner.』
の文字が浮かび上がった。
「えええー……。自分から練習手合を頼んでおいて、なにそれ。楽しみにしてた私のこの気持ち、どこにぶつければいいの?」
「本当すいません。ごめんなさい。許してください!」
土下座までして平謝りしている。なんて情け無い格好なんだろ。闇落ちして魔人にまでなったのに。レベルを【プロ】にまで上げるつもりはあるんだろうか。
勝者を告げたウインドウの表示が切り替わった。
『【ボーナスポイント】
【ボーナスガチャ】
どちらにしますか?』
模擬戦闘とはいえ勝利したには変わりないので、ボーナスは出る。スキルを取得したい京子は当然スキルを獲得できる方を選ぶ。
「ガチャで!」
京子の目の前に「ポン」と音を立ててガチャの機械が現れた。ガチャを回すと出てきた透明カプセルの中に、
『天気予報』と書かれた文字が見えた。
「はあ⁉︎『天候操作』じゃないの?こんなスキル、何に使えっていうの?いらんわー!」
手に取ったカプセルを放り投げるとカプセルはコジマに当たり「ポン」と音を立てて開き、コジマがGランクスキル『天気予報』を獲得してしまった。
楽しみにしていた戦闘は拒否されるわ、ガチャは外れスキルだわ、当分腹の虫が治まりそうにない。
「シロイシイタチくん。戻っておいで!」
バジリスクを追いかけていたシロイシイタチが「ポン」と音を立てて姿を現した。口から血を流し、身体は切り傷すり傷だらけだ。相当派手に取っ組み合っていたらしい。
「シロイシイタチくん、この人に遊んでもらいなさい。コジマ先輩、この子、さっきまでバジリスクと戯れてた子です。毒持ちですので、楽しんで頂けると思います」
バジリスクの毒持ちと聞いたコジマは、イタチを討伐するどころか、逃げ出してしまった。
「あの人、プロにはなれないな。憂さ晴らしはこれくらいでいいか。さてとタムラ先輩の所に行くか」
●○●○●○
京子が【王都】に着くと、シロイシくん達は劣勢だった。
京子が職業を【武士】に変更したため、急激なステータス変動に対応しきれなかったのだ。
「ごめん、シロイシくん!戻って!ここから先は私がやるから!」
「シュッ」と音を立てて、召喚した全てのシロイシくん4体が消えた。サラマンダーを従えたタムラと対峙する。
「タムラ先輩、お待たせしました。以前盗られたシロイシくん、返してもらいに来ました」
タムラの保有しているシロイシくん6体のうち1体は京子のシロイシくんだ。
女流棋士採用特別試験での戦闘で、タムラは京子のシロイシくんをテイムしたのだ。
京子が祖父の経営する碁会所でシロイシくんをコツコツ指導碁したのを、タムラは「テイム」の一声で簡単に手に入れてしまったのだ。
「コジマの方に行っちゃったから、てっきりシロイシくんを取り返すつもりは無いのかと思ったわ。それより京子、その格好で戦うつもり?」
【職業】武士のまま、着物姿だ。
「ええ。こちらの職業でも充分楽しんで頂けると思います。それに私としても、先々を考えて【武士】でも戦えるようにステータスを上げておきたいので」
「つまり大したことないステータスでも私に勝てるって言いたいのね。随分なめられたもんだわ。行くわよ!」
タムラの手番で再開した。
今タムラが狙っているのは【王都】の経済の要、鋳造工場だ。ここを落とせばほぼ勝利を手中に収められる。
鋳造工場を守るように黒石で取り囲む壁がもう少しで完成する。
「出でよ、黒石!」
タムラの身長ほどの高さの黒石が現れた。すでに召喚されている黒石とくっつき壁に変化した。あと3手で破壊不可能な黒壁が完成する。
守りを固めるため『防御強化』した黒石を、さらにサラマンダーに守らせる。
これで京子がこの石を攻撃するには、まずサラマンダーを討伐してからでなければ黒石を攻撃できないので、そう簡単には破壊されない。
ウインドウで確認すると、この石の防御指数は250%超えだ。
タムラの防御力は8,976。なので、22,000超えの防御力がある。
対して京子の【武士】での攻撃力は21,911。
なんとかギリギリ耐えられる計算だ。
だが京子は鋳造工場を無視して、別の場所に向かった。
「まずい‼︎そっちは‼︎」
タムラは焦った。京子が向かった先は、この戦場の要、王城だ。
「心臓部分を突けばゲームオーバーでしょ!」
いくら王城の城壁といえども、人の出入りがある限り、守りが甘い箇所は必ずある。京子はその弱点を一点突破し王城を陥落しようという魂胆だ。
「白石、召喚!」
京子が石を召喚した位置は、王城と市街地とを結ぶ唯一の橋だ。その橋を守る壁は薄い。それもそのはず、タムラは『防御強化』していなかった。
「やめてーっ!それを落とされたら……!」
今、京子が召喚した白石の攻撃指数と、その周辺の黒石の防御指数は、
『100%:2%』
「決まりましたね」
タムラの叫び声も虚しく、京子は無慈悲にも黒石で出来た壁を愛刀正宗で破壊した。
ガラガラと音を立て、崩れていく橋を守っていた黒壁と一緒に、タムラのHPも減っていく。
残りのHPは500を切った。アマチュア相手ならまだしも、格上の、しかもプロ相手にもう戦える数値ではない。タムラはガックリと項垂れてこう宣言した。
「投了!」
二人の目の前にウインドウが現れ、
『White,winner.』の文字が浮かんだ。
「あー、悔しいっ!なんでサブ職業でもそんなに強いのよ!ズルい!」
「ズルくないです。普段の勉強の賜物です。あと私のシロイシくん、返して下さい」
「あー、はいはい。シロイシくん、Come on!」
ポンと音を立てて現れたシロイシくんは、すぐさまシュッと音を立てて消えた。京子の【アイテム】のシロイシくんが88体に変更された。
ウインドウにBPかBガチャかを選ぶ表示が現れ、京子はまたガチャを選んだ。
今回引いたのはスキル『幻影』だ。
「やったー!Sランクスキルだぁ!」
「ちょっと京子、大丈夫なの?知ってると思うけど、
『Bランク以上のスキルを引いた場合、ガチャを引いてから1ヶ月以内にスキルを使いこなせなければ『不要スキル』と判断し、獲得権を失う』
のよ。そんなレアスキル、【プロ初段】レベルで使いこなせるようになれるの?」
そう。このルールがあるせいで、せっかくガチャで引いたレアスキルを使いこなせず無駄にしてしまうのだ。そしてレベルが上がりレアスキルを使いこなす実力をつけても、今度はクジ運が悪くお目当てのスキルが出てこない。そんな事が多々あるので京子はスキル獲得は戦闘訓練でのみとし、BPを選んできたのだ。
それに自分の棋風に合わない場合もある。なのでコジマの時のようにBガチャを引いてもそのスキルを獲得しないという選択ができる。
しかもこのスキル『幻影』は白番時にしか使用できない。使いこなすための訓練も白番時に限られる。獲得条件を満たせず失権してしまう可能性はかなり高い。
「たぶん大丈夫です。私の所属する岡本門下、練習手合の相手には困らないので」
「あー、そうだったわね。なら大丈夫か」
京子はカプセルを開け、『幻影』スキルを仮獲得した。
京子のステータスの【スキル】に『幻影(仮)』と追加された。
このスキルを使いこなすための地獄の訓練が始まる———。
【レベル】アマチュア15級
【職業】見習い兵士
【永世称号】なし
【一時称号】なし
【HP】6/6
【MP】9/9
【攻撃力】2
【防御力】4
【発想力】G
【柔軟性】G
【勝負勘】G
【読みの早さ】3手/分
【読みの深さ】3手
【スキル】石召喚
【アイテム】支給された剣
京子は更新された嘉正のレベルを確認してウインドウを閉じた。
嘉正への指導碁は大変だった。自分の頭上に石召喚して自死しそうになったのは、さすがに焦った。
彼の周りにシロイシくんを5体護衛に付けておいて正解だった。ただ本人は何が起こったかわからない様子だったけど。
石を召喚するのに必死で全く戦いになってなかった。
自分の戦場の存在に気づくのはまだまだ先になりそうだ。
京子はウインドウを切り替える。
ユリア・タムラ
【レベル】院生B組
【職業】テイマー
【永世称号】なし
【一時称号】なし
【HP】5,712/6,500
【MP】6,359/6,750
【攻撃力】6,358
【防御力】8,976
【発想力】D
【柔軟性】E
【勝負勘】D
【読みの早さ】27手/秒
【読みの深さ】146手
【スキル】石召喚。防御強化。危機察知。テイミング(使役魔獣:フェンリル。サラマンダー)。転移
【アイテム】短剣。シロイシくん6体
戦場は【王都】。
「うん。女流棋士採用特別試験の時から先輩のポイント変動はあまりないな。次、コジマ先輩は、と」
タイチ・コジマ
【レベル】院生D組
【種族】魔族
【永世称号】なし
【一時称号】なし
【HP】3,021/4,400
【MP】4,613/5,030
【攻撃力】5,647
【防御力】3,482
【発想力】F
【柔軟性】E
【勝負勘】D
【読みの早さ】21手/秒
【読みの深さ】98/手
【スキル】石召喚。武器強化。気配察知。転移。闇魔法。
【アイテム】短剣
戦場は【ダンジョン】。
「おお!本当にいた!闇堕ちして魔族になっちゃった人!まずこっちからにしよ!」
魔法を使うためには魔法使いに弟子入りするしかないのだが、魔法使いに弟子入り出来ない者は時々こうして闇堕ちして自己流で魔法を使う者がいる。ただし魔力暴走で自滅するリスクはかなり高い。
どんな魔法を使って、どんなふうに戦うんだろう。楽しみしかない。
今、京子を挟み込むように2つの戦場が並んでいる。
さすがに一人で2つの戦場を同時には戦えない。なので、この子達の出番だ。
「出ておいでシロイシくん!とりあえず3体!」
碁石のゆるキャラみたいなのが3体、ポンと音を立てて現れた。手には槍と盾を持っている。
シロイシくん(白番のみ召喚可)
【レベル】【HP】【MP】【攻撃力】【防御力】
召喚主に準ずる
【スキル】召喚主に準ずる。召喚主との通信。
【アイテム】槍。盾(カスタマイズ可)
そのうち一体に変化魔法をかけて、京子そっくりにする。装備も槍に変化魔法をかけ杖に変える。
「君達はタムラ先輩の王都に行ってきてね。前に戦ったことあるから覚えてるよね。私はまずダンジョンに行って来るから」
シロイシくん達はコクンと頷き、シロイシ京子を先頭に王都へ向かった。
「さぁてと、魔人討伐と行きますか!」
●○●○●○
京子はピラミッド型のダンジョンを天元から降りていく。
「それにしても壁だらけのダンジョンだなぁ。さらに壁を作ったら閉じ込められない?あ、そういう作戦か」
以前院生と練習手合を行ったことがあるが、その対戦相手の戦場もダンジョンだった。
「院生ってダンジョン好きだなぁ。そんなにダンジョンのほうがレベルアップしやすいのかな?あ!魔物がいるからか。タムラ先輩テイマーだし、ここでテイムしたんだ」
と言った矢先、魔物が現れた。頭はニワトリ、下半身はトカゲ。バジリスクだ。
「えーと、たしかバジリスクの天敵はイタチだったっけ?それなら」
京子は再びシロイシくんを1体召喚し、変化魔法をかけイタチの姿にした。するとバジリスクはシロイシイタチに追いかけられ、通路の向こうへ逃げてしまった。
「あれ?コジマ先輩が闇魔法で配下にしたバジリスクじゃないのかな?逃げちゃった。ま、いっか。闇落ちしたコジマ先輩と戦えれば。それはそうと王都は今どうなってるのかな」
噂をすればなんとやらで、タムラの王都へ向かったシロイシ京子から通信が入った。
《タムラ ハッケン。タダチニ リンセンタイセイ ニ ハイル》
「オッケー。そっちは任せるよ。私もそろそろコジマ先輩を見つけないと」
しかし歩けど歩けどコジマは見つからない。黒石は見つかるのに、肝心の本人が見つからない。
まさか逃げ回ってる?たしか『気配察知』スキルがあったはず。逃げる戦略?
「でも、そもそもまだ戦いは始まってないんだから逃げる理由は無いし。何してるんだろう。……そうだ!」
『魔法制御』を覚えてから石召喚の時は無詠唱が癖になってしまっていた。もしかしたら詠唱して石召喚したら私の声を聞きつけコジマ先輩は姿を現すかもしれない。
京子は手にしている『魔法使いの杖』を通路の交差点に向け叫んだ。
「白石召喚!」
目の前に白石が召喚された。通路の狭いダンジョンなので、召喚された石は膝の高さぐらいしかない。飛び越えられそうな高さだが『石の召喚された交差点は通行不可』なので、結界が張られていて飛び越えられない。
どこかでコジマが石を召喚した音が響いて聴こえてきた。ウインドウが現れ『Your turn』と表示される。
京子の思惑は外れた。コジマは姿を現さない。
「もー。どこにいるのー?【気配察知魔法】使っちゃおうかなー」
京子の持つ魔導書に『気配察知魔法』は掲載されている。しかしスキルの『気配察知』とは違い、大幅にMPを減らしてしまう。
それに今シロイシくんを4体召喚しているので、さらに魔力消費量が増えている。極力使いたくない。
「あー。こんなことならスキルを増やしておけば良かったー!魔導書たくさん持ってればスキルなんていらないかもなんて、考えが甘かったー!」
この戦場では対戦後、勝者は『ボーナスポイント』か『ボーナスガチャ』かのどちらかが選べる。
日本棋院院生に通っていなかった京子は、対戦後いつもBPを選択していた。
戦って実力をつけてのスキル獲得と違って、Bガチャでのスキル獲得にはランクによっては獲得条件を伴う。引けば必ずスキルを獲得できるわけではないのだ。
だから京子は確実にステータスを上げるためBPを選んできた。
「うん。今度からはBガチャにしてスキルを増やそう!それで今はもう面倒くさいから、ダンジョンの壁をMPの許す限り片っ端から破壊しちゃえ!」
召喚した石で出来た壁の破壊はルールに従い破壊しなければならないが、戦場の壁はルール外だ。
京子は自身の手番で白石を召喚し、巨大になる変化魔法をかけた。白石はあっという間に通路を圧迫する大きさになり、大音量をたてダンジョンの壁を破壊した。
「うわぁ!ウソだろ⁉︎なんでダンジョンの壁が壊れるんだ⁉︎」
コジマは京子が破壊したダンジョンの壁の向こう側から姿を現した。
「あら。そこにいらしたんですね」
京子はコジマの姿を見つけると、魔導書を取り出し『召喚魔法』のページを開くと日本刀を召喚し、素振りを始めた。
まだMPは余裕があるが、まだタムラとの戦いがあるので、出来るだけMPの消費を抑えたいのもあるし、久しぶりに刀で戦ってみたくなったのだ。
「久しぶりだなぁ。この重み」
京子は岡本門下に入る前は【武士】だった。【武士】としての現在の京子のステータスはこうだ。
キョウコ・ハタケヤマ
【レベル】プロ初段
【職業】武士
【永世称号】なし
【一時称号】なし
【HP】8,680/21,700
【MP】2,431/9,000
【攻撃力】21,911
【防御力】19,354
【発想力】B
【柔軟性】B
【勝負勘】D
【読みの早さ】351手/秒
【読みの深さ】4,130手
【スキル】石召喚。剣術。武器強化。鑑定。
【アイテム】日本刀(政宗)。シロイシくん87体
「さあ、コジマ先輩。石を召喚して下さい。先輩の手番ですよ」
やっと戦いらしい戦いが出来ると意気込んだ京子は、刀を召喚してからずっと素振りをしている。
しかしコジマは京子の鬼気迫る表情と揺るぎない素振りを見て足がすくみ、身動き出来なくなってしまった。
「ま、参った!降参する!」
「……は?まだ戦ってもいないじゃ無いですか。なのにもう降参?」
「だって、まさかダンジョンの壁を壊すなんて攻撃、今まで誰もしたことなかったし、こんな桁外れの攻撃力の相手に勝てないよ!」
二人の間にウインドウが現れ、
『White,winner.』
の文字が浮かび上がった。
「えええー……。自分から練習手合を頼んでおいて、なにそれ。楽しみにしてた私のこの気持ち、どこにぶつければいいの?」
「本当すいません。ごめんなさい。許してください!」
土下座までして平謝りしている。なんて情け無い格好なんだろ。闇落ちして魔人にまでなったのに。レベルを【プロ】にまで上げるつもりはあるんだろうか。
勝者を告げたウインドウの表示が切り替わった。
『【ボーナスポイント】
【ボーナスガチャ】
どちらにしますか?』
模擬戦闘とはいえ勝利したには変わりないので、ボーナスは出る。スキルを取得したい京子は当然スキルを獲得できる方を選ぶ。
「ガチャで!」
京子の目の前に「ポン」と音を立ててガチャの機械が現れた。ガチャを回すと出てきた透明カプセルの中に、
『天気予報』と書かれた文字が見えた。
「はあ⁉︎『天候操作』じゃないの?こんなスキル、何に使えっていうの?いらんわー!」
手に取ったカプセルを放り投げるとカプセルはコジマに当たり「ポン」と音を立てて開き、コジマがGランクスキル『天気予報』を獲得してしまった。
楽しみにしていた戦闘は拒否されるわ、ガチャは外れスキルだわ、当分腹の虫が治まりそうにない。
「シロイシイタチくん。戻っておいで!」
バジリスクを追いかけていたシロイシイタチが「ポン」と音を立てて姿を現した。口から血を流し、身体は切り傷すり傷だらけだ。相当派手に取っ組み合っていたらしい。
「シロイシイタチくん、この人に遊んでもらいなさい。コジマ先輩、この子、さっきまでバジリスクと戯れてた子です。毒持ちですので、楽しんで頂けると思います」
バジリスクの毒持ちと聞いたコジマは、イタチを討伐するどころか、逃げ出してしまった。
「あの人、プロにはなれないな。憂さ晴らしはこれくらいでいいか。さてとタムラ先輩の所に行くか」
●○●○●○
京子が【王都】に着くと、シロイシくん達は劣勢だった。
京子が職業を【武士】に変更したため、急激なステータス変動に対応しきれなかったのだ。
「ごめん、シロイシくん!戻って!ここから先は私がやるから!」
「シュッ」と音を立てて、召喚した全てのシロイシくん4体が消えた。サラマンダーを従えたタムラと対峙する。
「タムラ先輩、お待たせしました。以前盗られたシロイシくん、返してもらいに来ました」
タムラの保有しているシロイシくん6体のうち1体は京子のシロイシくんだ。
女流棋士採用特別試験での戦闘で、タムラは京子のシロイシくんをテイムしたのだ。
京子が祖父の経営する碁会所でシロイシくんをコツコツ指導碁したのを、タムラは「テイム」の一声で簡単に手に入れてしまったのだ。
「コジマの方に行っちゃったから、てっきりシロイシくんを取り返すつもりは無いのかと思ったわ。それより京子、その格好で戦うつもり?」
【職業】武士のまま、着物姿だ。
「ええ。こちらの職業でも充分楽しんで頂けると思います。それに私としても、先々を考えて【武士】でも戦えるようにステータスを上げておきたいので」
「つまり大したことないステータスでも私に勝てるって言いたいのね。随分なめられたもんだわ。行くわよ!」
タムラの手番で再開した。
今タムラが狙っているのは【王都】の経済の要、鋳造工場だ。ここを落とせばほぼ勝利を手中に収められる。
鋳造工場を守るように黒石で取り囲む壁がもう少しで完成する。
「出でよ、黒石!」
タムラの身長ほどの高さの黒石が現れた。すでに召喚されている黒石とくっつき壁に変化した。あと3手で破壊不可能な黒壁が完成する。
守りを固めるため『防御強化』した黒石を、さらにサラマンダーに守らせる。
これで京子がこの石を攻撃するには、まずサラマンダーを討伐してからでなければ黒石を攻撃できないので、そう簡単には破壊されない。
ウインドウで確認すると、この石の防御指数は250%超えだ。
タムラの防御力は8,976。なので、22,000超えの防御力がある。
対して京子の【武士】での攻撃力は21,911。
なんとかギリギリ耐えられる計算だ。
だが京子は鋳造工場を無視して、別の場所に向かった。
「まずい‼︎そっちは‼︎」
タムラは焦った。京子が向かった先は、この戦場の要、王城だ。
「心臓部分を突けばゲームオーバーでしょ!」
いくら王城の城壁といえども、人の出入りがある限り、守りが甘い箇所は必ずある。京子はその弱点を一点突破し王城を陥落しようという魂胆だ。
「白石、召喚!」
京子が石を召喚した位置は、王城と市街地とを結ぶ唯一の橋だ。その橋を守る壁は薄い。それもそのはず、タムラは『防御強化』していなかった。
「やめてーっ!それを落とされたら……!」
今、京子が召喚した白石の攻撃指数と、その周辺の黒石の防御指数は、
『100%:2%』
「決まりましたね」
タムラの叫び声も虚しく、京子は無慈悲にも黒石で出来た壁を愛刀正宗で破壊した。
ガラガラと音を立て、崩れていく橋を守っていた黒壁と一緒に、タムラのHPも減っていく。
残りのHPは500を切った。アマチュア相手ならまだしも、格上の、しかもプロ相手にもう戦える数値ではない。タムラはガックリと項垂れてこう宣言した。
「投了!」
二人の目の前にウインドウが現れ、
『White,winner.』の文字が浮かんだ。
「あー、悔しいっ!なんでサブ職業でもそんなに強いのよ!ズルい!」
「ズルくないです。普段の勉強の賜物です。あと私のシロイシくん、返して下さい」
「あー、はいはい。シロイシくん、Come on!」
ポンと音を立てて現れたシロイシくんは、すぐさまシュッと音を立てて消えた。京子の【アイテム】のシロイシくんが88体に変更された。
ウインドウにBPかBガチャかを選ぶ表示が現れ、京子はまたガチャを選んだ。
今回引いたのはスキル『幻影』だ。
「やったー!Sランクスキルだぁ!」
「ちょっと京子、大丈夫なの?知ってると思うけど、
『Bランク以上のスキルを引いた場合、ガチャを引いてから1ヶ月以内にスキルを使いこなせなければ『不要スキル』と判断し、獲得権を失う』
のよ。そんなレアスキル、【プロ初段】レベルで使いこなせるようになれるの?」
そう。このルールがあるせいで、せっかくガチャで引いたレアスキルを使いこなせず無駄にしてしまうのだ。そしてレベルが上がりレアスキルを使いこなす実力をつけても、今度はクジ運が悪くお目当てのスキルが出てこない。そんな事が多々あるので京子はスキル獲得は戦闘訓練でのみとし、BPを選んできたのだ。
それに自分の棋風に合わない場合もある。なのでコジマの時のようにBガチャを引いてもそのスキルを獲得しないという選択ができる。
しかもこのスキル『幻影』は白番時にしか使用できない。使いこなすための訓練も白番時に限られる。獲得条件を満たせず失権してしまう可能性はかなり高い。
「たぶん大丈夫です。私の所属する岡本門下、練習手合の相手には困らないので」
「あー、そうだったわね。なら大丈夫か」
京子はカプセルを開け、『幻影』スキルを仮獲得した。
京子のステータスの【スキル】に『幻影(仮)』と追加された。
このスキルを使いこなすための地獄の訓練が始まる———。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
男女比がおかしい世界に来たのでVtuberになろうかと思う
月乃糸
大衆娯楽
男女比が1:720という世界に転生主人公、都道幸一改め天野大知。 男に生まれたという事で悠々自適な生活を送ろうとしていたが、ふとVtuberを思い出しVtuberになろうと考えだす。 ブラコンの姉妹に囲まれながら楽しく活動!
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる