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次の一手編
色を「塗る」か「染める」か【前編】
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囲碁界に激震が走った。
2年間大三冠の称号を保持してきた江田照臣が、金剛石戦、緑玉戦に続いて紅玉戦と立て続けに落とし、無冠となったのだ。
新たな金剛石王となったのは、結婚してから目覚ましい活躍の川上光太郎。緑玉王は川崎優雅。紅玉王は井上海渡と、若手が台頭してきた。
京子は江田に気の利いた慰めの言葉をかけたいと思っているのだが、何と言えばいいのか、わからない。今現在、挑戦者として真珠戦を戦っている京子には、挑戦者にタイトルを奪われる王者の辛さがわからない。
「岡本先生。明日の研究会で、江田さんになんて声をかければ良いんでしょうか?」
研究会の前日、京子は夕食の席でこう岡本に尋ねた。知らない事は知らないと伝え、誰かから教えを乞う。幸い京子のいる環境には、知識を伝授してくれる者が多くいる。知りたがりの京子には有り難くも願ってもない環境だ。
「そんなに気にする必要は無い。照臣もタイトルを奪われるのは初めてじゃないしね。いつも通りに接すればいい」
むしろ大三冠を二年も保持できていたのが稀なんだよ、と岡本は言ったが、それでも京子は気になるようだ。いつもなら丼ご飯をおかわりするのに、今日はまだ一杯目の半分も箸が進んでいない。無理もない。京子は岡本の弟子になった時から、江田が三大タイトルを奪取していく様を見てきたのだ。京子にとって、江田は憧れであり目標でもあるのだ。その目標が無冠になったのだ。アイデンティティーの崩壊と言ってもいいだろう。
「それよりも京子。他人の事より自分の心配をしなさい。真珠戦の第三局がもうすぐだろう」
明後日東京を出発し、明明後日対局だ。
京子は「明日出発なら江田さんと顔を会わせずに済むのに」と悔しがる。江田に会いたくないなんて、初めてだ。
「京子。初戦、第二局と立て続けに取れたからといって、気を抜くんじゃないよ。追い詰められた敵は捨て身で攻撃してくる。逆にこちらは余裕から気が緩む。角番に追い詰めたほうが逆に追い詰められて、タイトルを手に入れ損ねるなんてのは、よくある話だ」
岡本は箸を置き、お茶を啜った。
「はい。肝に命じておきます」
と京子は言ったが、明らかに上の空だ。大好きなトンカツがまだ手付かずで皿の上に乗っている。いつまでも口の中のキャベツを噛み締めている。
(これは今なにか言っても無駄だな)
本当に人生、儘ならないものだ。自分が調子良くても、大切な人が不調だと、不調な方に引っ張られ、調子の良かった者の調子を狂わせる。
でも人生、何事も経験だ。この経験が後々活きればいい。
さしずめ今の京子の課題は、「このメンタルでもちゃんと仕事をする」だろうか。
アマチュアなら負けてもいいかもしれない。しかし京子は結果を求められる棋士なのだ。メンタルに引っ張られるようではプロとはいえない。
メンタルの持ちようは人それぞれなので、教えられる事が無い。己の経験則を上げるしか方法は無い。
たとえ次の対局を落とすような事になっても、京子の経験則の底上げが出来たと思えば、それでいい。おそらく京子もわかっている筈だ。頭の良い子だ。この先、自分が何をするべきか。
翌日、京子なりの結論を出したようで、岡本のアドバイス通り、大三冠の事には触れず、「江田さん、今日も私と打って下さい!」といつも通りに接していた。
●○●○●○
真珠戦第三局は宮城県仙台市で行われる。
小学5年生の時に出場した「こども囲碁大会」東北ブロック大会で一度だけ来たことがあるが、それだけだ。京子にとって仙台は、秋田に帰る時の通過点だ。
世間は夏休みが終わり新学期を向かえたが、京子は学校を休み、仙台で対局する。学校好きな京子には、学校を休まなけれはならない事が、途轍もない苦痛だ。
(今頃みんな、今年の文化祭の出し物の話し合いをしてるんだろうな)
京子は生徒会副会長なのに、話し合いに参加出来ず、すでに決まったことの精査をして、実行委員会に提出するだけだ。
細川雪江真珠王と約3週間ぶりに顔を合わせる。対局場となる旅館側のスケジュールの都合で、第ニ局から第三局の間がこれだけ空いてしまった。
「お久しゅう」
相変わらず、細川は今日も全身黒のコーディネートだ。
「お久しぶりです」
対して京子はオレンジを基調にしたサマーセーターとフレアスカートだ。これも『第8回畠山京子服選びサミット』で優里亜が選んでくれたものだ。
今日は天気がいいので、対局場となる温泉旅館を背景に対局者の写真撮影が行われた。前回、前々回のような舌戦が繰り広げられるのかと思いきや、外は残暑厳しく30度を越えていて、二人もスタッフも汗だくで、熱中症になったら大変だと早々に写真撮影は打ち切られた。
前夜祭には、秋田から祖父と祖父の経営する碁会所の常連客が多く駆け付けてくれた。第一局、第ニ局には行けなかった常連客もいた。約3年ぶりに再会した客もおり、京子は「まだ生きてたの?」と冗談めかして言うと、その年寄りは本当に嬉しそうに破顔した。
能代の双子の従弟も来ていた。京子が「伯父さんは?」と聞くと、二人だけで来たと答えた。
「本当にあんた達って、いっつも私をビックリさせて!」
京子が嬉しそうに二人の頭をクシャクシャに撫で回す。撫でられた方も嬉しそうにしている。
「姉ちゃん、緊張してる?」
双子の弟、晴登が聞いた。
「バリッバリに緊張してる」
京子がいつものテンションで答えた。
「嘘つけ。緊張してる顔じゃない」
双子の兄、大樹が指摘する。すると京子は大笑いしてまた二人の頭を撫で回した。二人声を揃えた「明日勝てそう?」の質問に、京子は「当然」と短く答えた。
●○●○●○
時同じくして、北海道では金緑石戦が行われる。
金緑石戦 決勝戦 三番勝負 第一局
秋山宗介 四段 対 立花富岳 四段
立花富岳は三年連続の決勝進出。影で「無冠の帝王」などという不名誉な渾名をつけられていた。
が、富岳の不満はそこではない。毎年金緑石戦は、棋院の『青雲の間』で行われるが、今年の金緑石戦決勝はすべて地方での対局なのだ。
枕が変わると眠れなくなる富岳にとって、地方対局は鬼門だ。
ただ将来、七大棋戦の挑戦者となれば、地方での対局は避けられない。だからここは考え方を変えて、今のうちから枕が変わっても安眠出来るよう、対策を練る機会を与えられたと思う事にした。まず最初に、今回はいつも使っている枕を持ってきた。これで駄目なら毛布。それでも駄目なら他の方法と、一つずつ試していくことにする。そしてなんとしてでも無冠の帝王などという不名誉な称号をつけた輩をぎゃふんと言わせたい。
富岳達を乗せた飛行機が、新千歳空港に着陸する。
今年、金緑石戦を三局すべて地方での対局にするよう、取り計らった元凶……もとい、今回この棋戦の協賛会社社長が富岳達を出迎えてくれた。
「やぁ、立花くん!息子がいつもお世話になっているね。宗介の父の秋山透です」
本当に親子なのかな?と疑いたくなるほど、息子とは正反対の筋肉隆々の男性が大袈裟に両腕を広げて握手を求めてきた。
(出来ればご遠慮願いたい)
握手に良い思い出の無い富岳は、握手を拒否したかった。
が、そういう訳にもいかない。今回の金緑石戦は、この人のお陰で対局が成り立つと言っても過言ではないのだ。
富岳は恐る恐る手を差し出す。案の定、力一杯握りしめられて、富岳は膝を付き右手を抱えて蹲る。
「父さん!力加減しろって、いつも言ってるだろ!」
息子の秋山宗介が富岳に駆け寄る。
「大丈夫?ごめんね。筋肉馬鹿の父親で」
どうやら宗介は、父親の反面教師で囲碁棋士になったようだ。
「何を言ってる?潰せるときに潰すのが、勝負というものだろう」
「あのなあ!そういうのが、ネットで炎上するんだって!IT企業の社長のくせに、どうしてそういうのがわからないかな!?」
(うん。間違いない。反面教師だ)
そして既視感あるこのやり取り。
(このおっさんを畠山京子だと思えば、戦えるかも)
富岳に敵が一人増えた。
●○●○●○
金緑石戦対局場となるのは、夏シーズンを終えた札幌市郊外のリゾートホテル。秋山父が札幌を対局場に選んだ理由は『ラーメンが食べたかったから』。いかにも金持ちらしい理由だ。
部屋も一人で泊まるには大きすぎる部屋が用意された。部屋に入った富岳は、しばらく呆ける。広すぎて、どこに荷物を置けば良いのか、わからない。結局、ベッド脇にキャリーバッグを置いた。地方対局は始めてでは無いが、いつも狭い部屋で相部屋だった。
(秋山父、脳筋なのに、どうやってIT企業の社長になったんだ?いや、脳筋でも、社長やってる人間いたな)
畠山京子は今、真珠戦で仙台にいるのを思い出した。
(あいつも一人部屋で、のんびりしてるのかな?)
そんな事を考えていたら、検分の始まる時間になっていた。縦に広い東京の建物と違って、地方の建物は横に広い。とにかく歩く。迷子にならにように案内板に沿って、対局場へ向かう。
金緑石戦の検分は行われたが、前夜祭は行われない。
富岳は検分が終わると早々に部屋に戻り、キャリーバッグに積んだ荷物の中から学習用タブレットを取り出す。今のうちから大学受験に備えて勉強する。
部屋には碁盤もあるが、今日は検分で本番用の碁石に触ったので、この碁盤には触れない。前日になって慌てて研究しても、付け焼き刃では戦えないからだ。
夕方、一旦勉強の手を止める。部屋に夕食が運ばれてきた。対局前日、一人でのんびり食事が出来るのはありがたい。
夕食を終えると、ノートパソコンを開いた。現在行われている真珠戦の前夜祭をネットで視聴する。
第一局・第二局と変わらず、二人は舌戦を繰り広げていた。
(絶好調みたいだな)
配信が終わると、富岳はノートパソコンを閉じ、またタブレットを取り出して勉強を始めた。
そしていつもの時間に風呂に入り、いつもの時間に就寝した。
明日は真珠戦第三局、そして金緑石戦第一局が同時刻に開始される。
2年間大三冠の称号を保持してきた江田照臣が、金剛石戦、緑玉戦に続いて紅玉戦と立て続けに落とし、無冠となったのだ。
新たな金剛石王となったのは、結婚してから目覚ましい活躍の川上光太郎。緑玉王は川崎優雅。紅玉王は井上海渡と、若手が台頭してきた。
京子は江田に気の利いた慰めの言葉をかけたいと思っているのだが、何と言えばいいのか、わからない。今現在、挑戦者として真珠戦を戦っている京子には、挑戦者にタイトルを奪われる王者の辛さがわからない。
「岡本先生。明日の研究会で、江田さんになんて声をかければ良いんでしょうか?」
研究会の前日、京子は夕食の席でこう岡本に尋ねた。知らない事は知らないと伝え、誰かから教えを乞う。幸い京子のいる環境には、知識を伝授してくれる者が多くいる。知りたがりの京子には有り難くも願ってもない環境だ。
「そんなに気にする必要は無い。照臣もタイトルを奪われるのは初めてじゃないしね。いつも通りに接すればいい」
むしろ大三冠を二年も保持できていたのが稀なんだよ、と岡本は言ったが、それでも京子は気になるようだ。いつもなら丼ご飯をおかわりするのに、今日はまだ一杯目の半分も箸が進んでいない。無理もない。京子は岡本の弟子になった時から、江田が三大タイトルを奪取していく様を見てきたのだ。京子にとって、江田は憧れであり目標でもあるのだ。その目標が無冠になったのだ。アイデンティティーの崩壊と言ってもいいだろう。
「それよりも京子。他人の事より自分の心配をしなさい。真珠戦の第三局がもうすぐだろう」
明後日東京を出発し、明明後日対局だ。
京子は「明日出発なら江田さんと顔を会わせずに済むのに」と悔しがる。江田に会いたくないなんて、初めてだ。
「京子。初戦、第二局と立て続けに取れたからといって、気を抜くんじゃないよ。追い詰められた敵は捨て身で攻撃してくる。逆にこちらは余裕から気が緩む。角番に追い詰めたほうが逆に追い詰められて、タイトルを手に入れ損ねるなんてのは、よくある話だ」
岡本は箸を置き、お茶を啜った。
「はい。肝に命じておきます」
と京子は言ったが、明らかに上の空だ。大好きなトンカツがまだ手付かずで皿の上に乗っている。いつまでも口の中のキャベツを噛み締めている。
(これは今なにか言っても無駄だな)
本当に人生、儘ならないものだ。自分が調子良くても、大切な人が不調だと、不調な方に引っ張られ、調子の良かった者の調子を狂わせる。
でも人生、何事も経験だ。この経験が後々活きればいい。
さしずめ今の京子の課題は、「このメンタルでもちゃんと仕事をする」だろうか。
アマチュアなら負けてもいいかもしれない。しかし京子は結果を求められる棋士なのだ。メンタルに引っ張られるようではプロとはいえない。
メンタルの持ちようは人それぞれなので、教えられる事が無い。己の経験則を上げるしか方法は無い。
たとえ次の対局を落とすような事になっても、京子の経験則の底上げが出来たと思えば、それでいい。おそらく京子もわかっている筈だ。頭の良い子だ。この先、自分が何をするべきか。
翌日、京子なりの結論を出したようで、岡本のアドバイス通り、大三冠の事には触れず、「江田さん、今日も私と打って下さい!」といつも通りに接していた。
●○●○●○
真珠戦第三局は宮城県仙台市で行われる。
小学5年生の時に出場した「こども囲碁大会」東北ブロック大会で一度だけ来たことがあるが、それだけだ。京子にとって仙台は、秋田に帰る時の通過点だ。
世間は夏休みが終わり新学期を向かえたが、京子は学校を休み、仙台で対局する。学校好きな京子には、学校を休まなけれはならない事が、途轍もない苦痛だ。
(今頃みんな、今年の文化祭の出し物の話し合いをしてるんだろうな)
京子は生徒会副会長なのに、話し合いに参加出来ず、すでに決まったことの精査をして、実行委員会に提出するだけだ。
細川雪江真珠王と約3週間ぶりに顔を合わせる。対局場となる旅館側のスケジュールの都合で、第ニ局から第三局の間がこれだけ空いてしまった。
「お久しゅう」
相変わらず、細川は今日も全身黒のコーディネートだ。
「お久しぶりです」
対して京子はオレンジを基調にしたサマーセーターとフレアスカートだ。これも『第8回畠山京子服選びサミット』で優里亜が選んでくれたものだ。
今日は天気がいいので、対局場となる温泉旅館を背景に対局者の写真撮影が行われた。前回、前々回のような舌戦が繰り広げられるのかと思いきや、外は残暑厳しく30度を越えていて、二人もスタッフも汗だくで、熱中症になったら大変だと早々に写真撮影は打ち切られた。
前夜祭には、秋田から祖父と祖父の経営する碁会所の常連客が多く駆け付けてくれた。第一局、第ニ局には行けなかった常連客もいた。約3年ぶりに再会した客もおり、京子は「まだ生きてたの?」と冗談めかして言うと、その年寄りは本当に嬉しそうに破顔した。
能代の双子の従弟も来ていた。京子が「伯父さんは?」と聞くと、二人だけで来たと答えた。
「本当にあんた達って、いっつも私をビックリさせて!」
京子が嬉しそうに二人の頭をクシャクシャに撫で回す。撫でられた方も嬉しそうにしている。
「姉ちゃん、緊張してる?」
双子の弟、晴登が聞いた。
「バリッバリに緊張してる」
京子がいつものテンションで答えた。
「嘘つけ。緊張してる顔じゃない」
双子の兄、大樹が指摘する。すると京子は大笑いしてまた二人の頭を撫で回した。二人声を揃えた「明日勝てそう?」の質問に、京子は「当然」と短く答えた。
●○●○●○
時同じくして、北海道では金緑石戦が行われる。
金緑石戦 決勝戦 三番勝負 第一局
秋山宗介 四段 対 立花富岳 四段
立花富岳は三年連続の決勝進出。影で「無冠の帝王」などという不名誉な渾名をつけられていた。
が、富岳の不満はそこではない。毎年金緑石戦は、棋院の『青雲の間』で行われるが、今年の金緑石戦決勝はすべて地方での対局なのだ。
枕が変わると眠れなくなる富岳にとって、地方対局は鬼門だ。
ただ将来、七大棋戦の挑戦者となれば、地方での対局は避けられない。だからここは考え方を変えて、今のうちから枕が変わっても安眠出来るよう、対策を練る機会を与えられたと思う事にした。まず最初に、今回はいつも使っている枕を持ってきた。これで駄目なら毛布。それでも駄目なら他の方法と、一つずつ試していくことにする。そしてなんとしてでも無冠の帝王などという不名誉な称号をつけた輩をぎゃふんと言わせたい。
富岳達を乗せた飛行機が、新千歳空港に着陸する。
今年、金緑石戦を三局すべて地方での対局にするよう、取り計らった元凶……もとい、今回この棋戦の協賛会社社長が富岳達を出迎えてくれた。
「やぁ、立花くん!息子がいつもお世話になっているね。宗介の父の秋山透です」
本当に親子なのかな?と疑いたくなるほど、息子とは正反対の筋肉隆々の男性が大袈裟に両腕を広げて握手を求めてきた。
(出来ればご遠慮願いたい)
握手に良い思い出の無い富岳は、握手を拒否したかった。
が、そういう訳にもいかない。今回の金緑石戦は、この人のお陰で対局が成り立つと言っても過言ではないのだ。
富岳は恐る恐る手を差し出す。案の定、力一杯握りしめられて、富岳は膝を付き右手を抱えて蹲る。
「父さん!力加減しろって、いつも言ってるだろ!」
息子の秋山宗介が富岳に駆け寄る。
「大丈夫?ごめんね。筋肉馬鹿の父親で」
どうやら宗介は、父親の反面教師で囲碁棋士になったようだ。
「何を言ってる?潰せるときに潰すのが、勝負というものだろう」
「あのなあ!そういうのが、ネットで炎上するんだって!IT企業の社長のくせに、どうしてそういうのがわからないかな!?」
(うん。間違いない。反面教師だ)
そして既視感あるこのやり取り。
(このおっさんを畠山京子だと思えば、戦えるかも)
富岳に敵が一人増えた。
●○●○●○
金緑石戦対局場となるのは、夏シーズンを終えた札幌市郊外のリゾートホテル。秋山父が札幌を対局場に選んだ理由は『ラーメンが食べたかったから』。いかにも金持ちらしい理由だ。
部屋も一人で泊まるには大きすぎる部屋が用意された。部屋に入った富岳は、しばらく呆ける。広すぎて、どこに荷物を置けば良いのか、わからない。結局、ベッド脇にキャリーバッグを置いた。地方対局は始めてでは無いが、いつも狭い部屋で相部屋だった。
(秋山父、脳筋なのに、どうやってIT企業の社長になったんだ?いや、脳筋でも、社長やってる人間いたな)
畠山京子は今、真珠戦で仙台にいるのを思い出した。
(あいつも一人部屋で、のんびりしてるのかな?)
そんな事を考えていたら、検分の始まる時間になっていた。縦に広い東京の建物と違って、地方の建物は横に広い。とにかく歩く。迷子にならにように案内板に沿って、対局場へ向かう。
金緑石戦の検分は行われたが、前夜祭は行われない。
富岳は検分が終わると早々に部屋に戻り、キャリーバッグに積んだ荷物の中から学習用タブレットを取り出す。今のうちから大学受験に備えて勉強する。
部屋には碁盤もあるが、今日は検分で本番用の碁石に触ったので、この碁盤には触れない。前日になって慌てて研究しても、付け焼き刃では戦えないからだ。
夕方、一旦勉強の手を止める。部屋に夕食が運ばれてきた。対局前日、一人でのんびり食事が出来るのはありがたい。
夕食を終えると、ノートパソコンを開いた。現在行われている真珠戦の前夜祭をネットで視聴する。
第一局・第二局と変わらず、二人は舌戦を繰り広げていた。
(絶好調みたいだな)
配信が終わると、富岳はノートパソコンを閉じ、またタブレットを取り出して勉強を始めた。
そしていつもの時間に風呂に入り、いつもの時間に就寝した。
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