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次の一手編
「自分が活きる路を見つける」か「敵を殺す手段を考える」か【前編】
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夏休みを目前に控え、三大女流棋戦のひとつ、真珠戦五番勝負が始まった。
第一局の場所は、京都府舞鶴市にある温泉旅館。
京都に来るのが初めてなら、地方対局での番勝負も初めての、なにもかも初めてづくしの畠山京子のテンションは朝からアガりっぱなしだ。
京子を含む東京本院一行は、昼過ぎに旅館に到着し、すぐさま対局者の写真撮影が行われた。現・真珠王はすでに旅館に到着しており、挑戦者の畠山京子は真珠王を待たせた事をまず詫びた。
「お待たせしました!初めまして!岡本幸浩門下の畠山京子と申します!よろしくお願いします!」
いつものように大声で元気よく挨拶する。今日の京子のコーディネートは、『第8回畠山京子服選びサミット』で優里亜が見繕った、夏らしい水色のワンピースだ。ちなみに優里亜は、今回は地方対局で夏休み前で大学受験生ということもあり、記録係の仕事は先輩棋士に譲り、大人しく学校に通っている。
「細川どす。よろしゅう」
現・真珠王、細川雪江八段は京都府民。なんでも公家の家系なんだとか。年齢は50歳前だが、皺はほとんど無く、体も引き締まっていて、20代だと言われても通用するぐらい若々しい。
細川は当時の最年少入段記録保持者で、早くから頭角を現し、初の女流棋戦三冠王に輝き、七大棋戦に関しては決勝トーナメント入り寸前にまで駒を進めた事が何度もある、今の女性棋士の地位を底上げした功労者だ。近年は女流棋戦の決勝戦から遠ざかっていたが、昨年数年振りに真珠王の称号を取り戻した。
そんな「女流棋士の重鎮」とも謂われているまさに女王が、今回の京子の相手だ。
細川は黒いノースリーブに丈の短い黒カーディガンを羽織り、ボトムは黒いロングスカート。長い髪を綺麗に結い上げていた。
京都弁で挨拶が返ってきて、京子のテンションが更にアガる。が、この直後、更に京子のテンションがアガる一言を、細川が京子に投げ掛ける。
「でも、あんさん「初めまして」なんて、つれないなぁ。「袖振り合うも多生の縁」言いはりますやろ。今日ここで対局するんも、前世からのご縁があったからやろに」
京子が思わず「おおぅ!」と唸りそうになる。早速「京いけず」を喰らった。
たとえタイトル戦の大一番の前でも、喧嘩を売られて買わないのは畠山京子ではない。
(では、美味しく頂きまーす!)
と心の中で合掌し、京子は口を開いた。
「そうですね。もしかしたら私達、前世は紫式部と清少納言だったかもしれないですもんね」
こう言って京子は、細川からどんな反応が返ってくるか、笑顔で待った。
●○●○●○
※おことわり
以下、4,000文字程度、非公開にしています。
●○●○●○
そして当の本人、京子から正面切って喧嘩を売られた細川は、顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。
「あんさん。いい性格しておますなぁ」
今まで遠回しに京子に喧嘩を売っていた細川が、ストレートに京子に喧嘩を売る。京子は「待ってました!」と言わんばかりに、投げられた熱々の鉄球をキャッチする。
「いえいえ。細川さんほどではないですよ」
京子がキャッチした熱い鉄球を土手っ腹めがけて投げ返す。
細川は京子を睨み付け、あからさまに敵意をむき出しにしている。
(おおう!これこれ!)
京子がいつものニヤニヤヘラヘラ笑いで「うふふ」と笑う。
細川は左頬を引き攣らせ「おほほ」と微笑む。
いつもなら、ここで喧嘩を仲裁してくれる人物がいるのに、今回はいない。
「今日って、武士沢さんも三島くんも来てないのね」
女流棋士の一人が呟いた。隣にいた女流棋士が答える。
「そうだね……」
さらにその隣にいた女流棋士も、話に混ざる。
「きっと、伸び伸び京子ちゃんに喧嘩……じゃなくて、インタビューに答えさせたかったんだろうね」
「「だろうね」」
含みのある言い方だが、三人とも、お互い何を言いたいのかわかっている。そして今回、岡本門下のお目付け役を京子に付けなかったのも。
京子に言いたい放題言われている細川を見て、三人はスッキリした晴れやかな表情をしている。
「後で京子ちゃんに何か奢ろうか」
「いいね」
「賛成!」
東京本院勢がニコニコと壇上の京子を見つめている時、京子と細川はお互い引き攣った笑顔で睨み合っていた。
第一局の場所は、京都府舞鶴市にある温泉旅館。
京都に来るのが初めてなら、地方対局での番勝負も初めての、なにもかも初めてづくしの畠山京子のテンションは朝からアガりっぱなしだ。
京子を含む東京本院一行は、昼過ぎに旅館に到着し、すぐさま対局者の写真撮影が行われた。現・真珠王はすでに旅館に到着しており、挑戦者の畠山京子は真珠王を待たせた事をまず詫びた。
「お待たせしました!初めまして!岡本幸浩門下の畠山京子と申します!よろしくお願いします!」
いつものように大声で元気よく挨拶する。今日の京子のコーディネートは、『第8回畠山京子服選びサミット』で優里亜が見繕った、夏らしい水色のワンピースだ。ちなみに優里亜は、今回は地方対局で夏休み前で大学受験生ということもあり、記録係の仕事は先輩棋士に譲り、大人しく学校に通っている。
「細川どす。よろしゅう」
現・真珠王、細川雪江八段は京都府民。なんでも公家の家系なんだとか。年齢は50歳前だが、皺はほとんど無く、体も引き締まっていて、20代だと言われても通用するぐらい若々しい。
細川は当時の最年少入段記録保持者で、早くから頭角を現し、初の女流棋戦三冠王に輝き、七大棋戦に関しては決勝トーナメント入り寸前にまで駒を進めた事が何度もある、今の女性棋士の地位を底上げした功労者だ。近年は女流棋戦の決勝戦から遠ざかっていたが、昨年数年振りに真珠王の称号を取り戻した。
そんな「女流棋士の重鎮」とも謂われているまさに女王が、今回の京子の相手だ。
細川は黒いノースリーブに丈の短い黒カーディガンを羽織り、ボトムは黒いロングスカート。長い髪を綺麗に結い上げていた。
京都弁で挨拶が返ってきて、京子のテンションが更にアガる。が、この直後、更に京子のテンションがアガる一言を、細川が京子に投げ掛ける。
「でも、あんさん「初めまして」なんて、つれないなぁ。「袖振り合うも多生の縁」言いはりますやろ。今日ここで対局するんも、前世からのご縁があったからやろに」
京子が思わず「おおぅ!」と唸りそうになる。早速「京いけず」を喰らった。
たとえタイトル戦の大一番の前でも、喧嘩を売られて買わないのは畠山京子ではない。
(では、美味しく頂きまーす!)
と心の中で合掌し、京子は口を開いた。
「そうですね。もしかしたら私達、前世は紫式部と清少納言だったかもしれないですもんね」
こう言って京子は、細川からどんな反応が返ってくるか、笑顔で待った。
●○●○●○
※おことわり
以下、4,000文字程度、非公開にしています。
●○●○●○
そして当の本人、京子から正面切って喧嘩を売られた細川は、顔を真っ赤にして小刻みに震えていた。
「あんさん。いい性格しておますなぁ」
今まで遠回しに京子に喧嘩を売っていた細川が、ストレートに京子に喧嘩を売る。京子は「待ってました!」と言わんばかりに、投げられた熱々の鉄球をキャッチする。
「いえいえ。細川さんほどではないですよ」
京子がキャッチした熱い鉄球を土手っ腹めがけて投げ返す。
細川は京子を睨み付け、あからさまに敵意をむき出しにしている。
(おおう!これこれ!)
京子がいつものニヤニヤヘラヘラ笑いで「うふふ」と笑う。
細川は左頬を引き攣らせ「おほほ」と微笑む。
いつもなら、ここで喧嘩を仲裁してくれる人物がいるのに、今回はいない。
「今日って、武士沢さんも三島くんも来てないのね」
女流棋士の一人が呟いた。隣にいた女流棋士が答える。
「そうだね……」
さらにその隣にいた女流棋士も、話に混ざる。
「きっと、伸び伸び京子ちゃんに喧嘩……じゃなくて、インタビューに答えさせたかったんだろうね」
「「だろうね」」
含みのある言い方だが、三人とも、お互い何を言いたいのかわかっている。そして今回、岡本門下のお目付け役を京子に付けなかったのも。
京子に言いたい放題言われている細川を見て、三人はスッキリした晴れやかな表情をしている。
「後で京子ちゃんに何か奢ろうか」
「いいね」
「賛成!」
東京本院勢がニコニコと壇上の京子を見つめている時、京子と細川はお互い引き攣った笑顔で睨み合っていた。
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