昔話 みんなが主役!

菅田刈乃

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もしも「鶴の恩返し」だったら

もしもみんなが「夕鶴」だったら

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 おじいさんが田んぼに行くと、四羽の鶴が罠にかかっていました。

 可哀想に思ったおじいさんは四羽とも逃してやりました。



 その晩、おじいさんがおばあさんと住む家に女が訪れました。

紫鶴しづると申します。吹雪で道に迷いました。一晩泊めてください」

 同情したおじいさん夫婦は泊めてやることにしました。

 翌朝、紫鶴は一宿一飯のお礼にはた織りしたいと申し出ました。

 織り上がった反物は見た事もない美しさでした。

「これは素晴らしい!この手触り、まるで絹糸で織られたようだ!」

「それにこの柄!まるで絵画のよう!こんなにきめ細かい模様を織れるなんて素晴らしい技術だわ!」

 紫鶴はまた反物を織りました。しかしおじいさん夫婦は紫鶴がはた織りの最中は決して中を覗かないという約束を破ってしまい、正体のばれた紫鶴は山へ帰ってしまいました。

 紫鶴が帰った晩、また女がやって来ました。

黄鶴きづると申します。道に迷って困っています。一晩泊めてください」

 黄鶴もおじいさんに助けられた鶴です。黄鶴が紫鶴より遅れた理由は、方向音痴で道に迷ってしまったからでした。

 黄鶴も一宿一飯のお礼にはた織りしました。

 出来上がった反物を見たおじいさんとおばあさんは、この女もまた鶴であると見抜きました。

 何故なら不器用な黄鶴の織った反物は、所々鶴の羽毛が飛び出ていたからです。

 正体のばれた黄鶴も山に帰ってしまいました。

 その晩また女がやって来ました。

「私、赤鶴あかつるってんだけど、こないだ罠にかかった鶴がいたでしょ?それ私なんだけど、助けてくれたおじいさんのお家はここで間違いないかな?」

 嘘のつけない赤鶴は自分から正体をばらしてしまいました。

 おじいさんおばあさんは、ずいぶん軽薄な鶴が来たなと思いました。

「ごめんねー、お礼にくるのが遅くなって。格好いい鶴、見つけてついて行っちゃった。てへっ。で、はた織り機はどこ?」

 食事もせずにはた織りすると言い出した赤鶴に、おじいさんもおばあさんも話の展開が早すぎてついていけませんでした。

 赤鶴は家人の許可も取らずに家に上がると、はた織り機の置いてある部屋を見つけ入っていきました。

「やばい!このはた織り機、壊れてるじゃん」

 元々古く壊れそうなはた織り機でしたが、大雑把な黄鶴が使った後、壊れてしまったのです。

「よし、新しいはた織り機を造ろう!」

 赤鶴はおじいさんおばあさんの目の前で鶴の姿に戻ると、山へ飛んでいきました。そこで鶴の鳴き声をあげると、沢山の鶴が集まってきました。どうやら雄の鶴らしく、みんな人間の男の姿になりました。

 人間の姿の鶴達は、木を何本か切り倒して加工し、おじいさん夫婦の家まで運びました。

「じゃあこの設計図通りに造ってね!」

 どうやら雄鶴達が木を切り倒している最中に赤鶴は設計図を描いていたようです。

 鶴達は夜中まで作業していたので、おじいさん夫婦は一睡も出来ませんでした。

「おじいさんおばあさん、出来たよー!」

 赤鶴が製造したはた織り機はなんと、近くを流れる川を利用した水力式の最新型はた織り機でした。

「これではた織りの手間を十分の一ぐらいに減らせるよ。」

 軽薄な鶴だと思っていたおじいさんとおばあさんは、赤鶴のとんでもない能力に「見た目で人を判断してはいけない」と学びました。

 赤鶴はかなり分厚い冊子を置いて山に帰って行きました。

 その晩、また女がやって来ました。

青鶴あおつると申します。一晩泊めてください」

 さすがに四度目ともなれば、おじいさんおばあさんはこの女も鶴だろうと確信しました。助けた鶴の数も合うからです。しかし黙っていることにしました。

 青鶴の来訪がここまで遅れた理由は、おじいさんの家の住所を訊くのを忘れ、どの家に尋ねたらいいのかわからず、慎重派の青鶴は近所の家から一件一件住人の顔を確認して回っていたからです。

 青鶴もはたを織ると申し出ました。

 おばあさんに案内され、赤鶴の造った水力式のはた織り機を見て青鶴は愕然としました。

(どうやって動かせばいいの⁉︎)

 見た事もない部品に見た事もない機械。青鶴はどうすればいいのか右往左往していると、おばあさんから分厚い冊子を渡されました。

「これね、取扱説明書っていうんですって。これを読めば使い方がわかるらしいの。でも文字が小さくて私には読みづらくて‥‥」

 はた織り機を造り終えた時点で赤鶴は飽きてしまい、使い方を説明せずに帰ってしまったそうです。

 青鶴はおばあさんから取扱説明書を受け取り読み始めました。

 どうやら赤鶴はこのはた織り機の使い方だけでなく、壊れた時に自分で修理できるように設計図まで置いていったようです。

 これを見た青鶴はニヤリと笑いました。

「大丈夫です。私、読書は大好きなので」

 青鶴は説明書通りはた織り機を動かしてみました。

 すると赤鶴の言った通り十分の一の手間で反物が織り上がりました。

 青鶴は布の質を念入りに確かめると、おじいさんおばあさんにこう提案しました。

「このはた織り機、量産して売りましょう」

 こうして青鶴は山に帰らず、一生人間の姿のまま過ごしましたとさ。
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