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もしも「桃太郎」だったら
もしもみんなが「桃太郎」のおばあさんだったら
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青おばあさんと黄おばあさんが川に洗濯にくると、大きな桃が川上からどんぶらこどんぶらこと流れてきました。
「本物の桃?あんなに大きな桃がこの世にあるの?これは夢?」
黄おばあさんは常軌を逸したその桃の大きさに、その場に立ちすくんでしまいました。
女二人ではどうにもできないと考えた青おばあさんは誰かを呼んでこようと走りました。
すると洗濯籠を抱えた赤おばあさんと紫おばあさんに会いました。
「大変よ!こんなに大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきたの!」
精一杯背伸びをし、腕を大きく広げて、その桃がどんな大きさなのかを示してみました。
しかし赤おばあさんと紫おばあさんはきょとんとした表情で青おばあさんを見つめました。
二人の様子をみて青おばあさんは後悔しました。
なぜなら客観的に見れば嘘吐きか頭のおかしな奴にしか見えないと気づいたからです。
(ああ、きっと私、痴呆症の老人だと思われてしまったんだわ。気が動転してみっともない真似を‥‥)
青おばあさんは真っ赤になった顔を手で覆い俯いてしまいました。
しかし突然、赤おばあさんと紫おばあさんは青おばあさんの腕を掴み、こう言いました。
「なにそれ!どこどこ⁈見たい!見たい!」
二人とも子供のように目を輝かせながら青おばあさんに尋ねました。
(ああ、よかった。頭のおかしな奴と思われた訳じゃなかったのね。そりゃそうよね。突然、大きな桃が流れてきたなんて言われても、びっくりするわよね)
青おばあさんは川の方を指さすと、二人は洗濯籠を抱えたまま、老人とは思えないほどの速さですっ飛んで行きました。
赤おばあさんと紫おばあさんは競い合うように走りました。
「どんな桃かしらね、赤おばあさん」
「楽しみね、紫おばあさん」
赤おばあさんと紫おばあさんは、非日常を予感させる摩訶不思議な出来事が大好きなのです。
赤おばあさんと紫おばあさんが川に着くと、黄おばあさんはまだ立ちすくんでいました。どうやら少しでも動いたら桃に食われると思っているようです。
二人は黄おばあさんに話しかけました。
「大きな桃が流れてきたって聞いたけど、どこ?」
口もきけないほど驚いている黄おばあさんが見つめている方向を見ると、青おばあさんが言ったとおり大きな桃がどんぶらこと流れていました。流れの穏やかな川だったので、遠くまで流されずにすんだようです。
「ね?大きな桃でしょう?」
やっと二人に追いついた青おばあさんが紫おばあさんに話しかけました。
が、紫おばあさんは黄おばあさんと違う理由で立ちすくんでいました。
「この川の上流に桃のなる木なんてあったかしら?しかもこんなに大きく育てるには人の手入れが必要なはず。ぜひ飼育方法を知りたいわ。一体誰が育てたのかしら。なんとしてでもこの桃を育てた人物を探さなければ」
紫おばあさんの桃の扱いは牛か豚のようです。
この非常事態に桃の分析を行う紫おばあさんを、青おばあさんと黄おばあさんは理解できませんでした。
三人のおばあさんがどんぶらこと流れる大きな桃を呆然と眺める中、一人だけ桃に向かって駆けてゆくおばあさんがいました。
赤おばあさんは持っていた洗濯籠を放り投げ、一流の水泳選手のような華麗な飛び込みを披露すると、川の水の冷たさにも臆することなく、真っ直ぐ大きな桃めがけて泳いでいきました。
その差はぐんぐん縮まり、とうとう桃に追いつきました。
「無理よ、赤おばあさん。持ち上げられないわよ」
その一言が赤おばあさんの心に火を着けました。「無理」「駄目」と言われると、何がなんでもやりたくなる性格なのです。
赤おばあさんは浅瀬に桃を誘導すると、思い切り息を吸い込み、川の中に入り桃の真下に潜り込むと「えいやぁー」と心の中で掛け声をかけ、桃を一気に持ち上げました。
するとどうでしょう。
大きな桃は空中に弧を描き、川岸に打ち上げられました。
誰もが無理と思われた事を成し遂げたのです。
「いよっしゃー!この桃、私が拾ったんだから私のものだからね!やったー!これで一週間は食費が浮くわー!」
「食べるんだ‥‥」
この得体の知れない物体を食うと言い出した赤おばあさんに、青おばあさんと黄おばあさんは絶句しました。
紫おばあさんはこの状況を冷静に鑑みて、ある提案をしました。
「お殿様に献上しない?ご褒美が貰えるかもしれないし」
この一言にさっきまで固まっていた黄おばあさんの呪縛が解けました。
「その手があったか!」
まるで自分が手柄を立てたかのようなはしゃぎっぷりです。
「それはいいわね!そうしましょう!」
紫おばあさんの提案に青おばあさんも乗りました。しかし赤おばあさんは生娘のようにはしゃぐ三人を咎めました。
「どうやって腐らせずにお城まで運ぶの?お城まで三日三晩かかるんだよ。腐らないように加工したら桃の大きさがわからなくなるし」
一気に場が凍りました。しかし赤おばあさんは空気など読まずに続けました。
「この桃。私がずぶ濡れになりながらも拾ったから。私のだから。特に黄おばあさん、あなた何かしらの行動をとったの?」
すっぽんぽんになり着物を絞る赤おばあさんに、誰も何も言い返せませんでした。
こうして大きな桃は赤おばあさんの家にやってきたのでした。
めでたし、めでたし。
「本物の桃?あんなに大きな桃がこの世にあるの?これは夢?」
黄おばあさんは常軌を逸したその桃の大きさに、その場に立ちすくんでしまいました。
女二人ではどうにもできないと考えた青おばあさんは誰かを呼んでこようと走りました。
すると洗濯籠を抱えた赤おばあさんと紫おばあさんに会いました。
「大変よ!こんなに大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきたの!」
精一杯背伸びをし、腕を大きく広げて、その桃がどんな大きさなのかを示してみました。
しかし赤おばあさんと紫おばあさんはきょとんとした表情で青おばあさんを見つめました。
二人の様子をみて青おばあさんは後悔しました。
なぜなら客観的に見れば嘘吐きか頭のおかしな奴にしか見えないと気づいたからです。
(ああ、きっと私、痴呆症の老人だと思われてしまったんだわ。気が動転してみっともない真似を‥‥)
青おばあさんは真っ赤になった顔を手で覆い俯いてしまいました。
しかし突然、赤おばあさんと紫おばあさんは青おばあさんの腕を掴み、こう言いました。
「なにそれ!どこどこ⁈見たい!見たい!」
二人とも子供のように目を輝かせながら青おばあさんに尋ねました。
(ああ、よかった。頭のおかしな奴と思われた訳じゃなかったのね。そりゃそうよね。突然、大きな桃が流れてきたなんて言われても、びっくりするわよね)
青おばあさんは川の方を指さすと、二人は洗濯籠を抱えたまま、老人とは思えないほどの速さですっ飛んで行きました。
赤おばあさんと紫おばあさんは競い合うように走りました。
「どんな桃かしらね、赤おばあさん」
「楽しみね、紫おばあさん」
赤おばあさんと紫おばあさんは、非日常を予感させる摩訶不思議な出来事が大好きなのです。
赤おばあさんと紫おばあさんが川に着くと、黄おばあさんはまだ立ちすくんでいました。どうやら少しでも動いたら桃に食われると思っているようです。
二人は黄おばあさんに話しかけました。
「大きな桃が流れてきたって聞いたけど、どこ?」
口もきけないほど驚いている黄おばあさんが見つめている方向を見ると、青おばあさんが言ったとおり大きな桃がどんぶらこと流れていました。流れの穏やかな川だったので、遠くまで流されずにすんだようです。
「ね?大きな桃でしょう?」
やっと二人に追いついた青おばあさんが紫おばあさんに話しかけました。
が、紫おばあさんは黄おばあさんと違う理由で立ちすくんでいました。
「この川の上流に桃のなる木なんてあったかしら?しかもこんなに大きく育てるには人の手入れが必要なはず。ぜひ飼育方法を知りたいわ。一体誰が育てたのかしら。なんとしてでもこの桃を育てた人物を探さなければ」
紫おばあさんの桃の扱いは牛か豚のようです。
この非常事態に桃の分析を行う紫おばあさんを、青おばあさんと黄おばあさんは理解できませんでした。
三人のおばあさんがどんぶらこと流れる大きな桃を呆然と眺める中、一人だけ桃に向かって駆けてゆくおばあさんがいました。
赤おばあさんは持っていた洗濯籠を放り投げ、一流の水泳選手のような華麗な飛び込みを披露すると、川の水の冷たさにも臆することなく、真っ直ぐ大きな桃めがけて泳いでいきました。
その差はぐんぐん縮まり、とうとう桃に追いつきました。
「無理よ、赤おばあさん。持ち上げられないわよ」
その一言が赤おばあさんの心に火を着けました。「無理」「駄目」と言われると、何がなんでもやりたくなる性格なのです。
赤おばあさんは浅瀬に桃を誘導すると、思い切り息を吸い込み、川の中に入り桃の真下に潜り込むと「えいやぁー」と心の中で掛け声をかけ、桃を一気に持ち上げました。
するとどうでしょう。
大きな桃は空中に弧を描き、川岸に打ち上げられました。
誰もが無理と思われた事を成し遂げたのです。
「いよっしゃー!この桃、私が拾ったんだから私のものだからね!やったー!これで一週間は食費が浮くわー!」
「食べるんだ‥‥」
この得体の知れない物体を食うと言い出した赤おばあさんに、青おばあさんと黄おばあさんは絶句しました。
紫おばあさんはこの状況を冷静に鑑みて、ある提案をしました。
「お殿様に献上しない?ご褒美が貰えるかもしれないし」
この一言にさっきまで固まっていた黄おばあさんの呪縛が解けました。
「その手があったか!」
まるで自分が手柄を立てたかのようなはしゃぎっぷりです。
「それはいいわね!そうしましょう!」
紫おばあさんの提案に青おばあさんも乗りました。しかし赤おばあさんは生娘のようにはしゃぐ三人を咎めました。
「どうやって腐らせずにお城まで運ぶの?お城まで三日三晩かかるんだよ。腐らないように加工したら桃の大きさがわからなくなるし」
一気に場が凍りました。しかし赤おばあさんは空気など読まずに続けました。
「この桃。私がずぶ濡れになりながらも拾ったから。私のだから。特に黄おばあさん、あなた何かしらの行動をとったの?」
すっぽんぽんになり着物を絞る赤おばあさんに、誰も何も言い返せませんでした。
こうして大きな桃は赤おばあさんの家にやってきたのでした。
めでたし、めでたし。
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