思い付き短編集

神谷 絵馬

文字の大きさ
上 下
9 / 123
読み切り短編{完結してるもの}

とある王命により、不自由な生活を強いられている令嬢の独白。2

しおりを挟む
陛下の考え出した物語を気持ち悪がった母は、王命が出る前に私がお腹にいる状態ではありましたけれども、隣国との国境である我が領地に引っ込みましたの。
そして、領地にて王命が出たことを知ってから私を生みましたのよ。
『貴女が娘であったことに落胆したのは、生まれた貴女を初めて見たあの日1日だけのことよ?
大丈夫、貴女のことは、私が絶対に守ってみせるわ!
隣国の情報収集はお母様に任せなさい!!』
と、毎回力強い筆跡で手紙に書いてありますの。

出産後は、たとえ友人であった王妃様の招待であっても王都へと足を踏み入れてはおりません。
お母様曰く、
『勝手に妄想された物語を盾にして後宮に入れられるのも嫌だけれど、もしも顔を見てしまったらついつい殺したくなる筈でしょう?
私は可愛い子供達の孫を全員抱きたいから、犯罪者とならないためにも会いたくないのよ!』
だそうですわ。
私は教育のためにと王都にいなければならないので、記憶にある限りでは母に会ったことは一度もありませんわ。
私が1歳になった頃には、王命により王都に連れてこられたそうですもの...普通に考えておかしいですわよね。

あ、そうそう!
5歳違いの私の姉は、昨日念願叶って自分の婚約者の度重なる不貞を暴きまして、今は婚約者がいない状態なのですわ。
そして、隣国へと嫁ぐ私に付いてくるつもり満々です。
『私の天使を守るのは、私に課せられた重大な使命なのですわ。
貴女の婚約者がろくでもない相手だったのなら、陛下諸とも社会的に殺しますわよ。
えぇ、私の天使である貴女と共にいられなくなるなんて耐えられないもの...本当には殺しません!
ウフフ、証拠の残らない方法もありますけれど、そんなことをしたら天使である貴女に触れられなくなってしまいますものね!
本当には殺さないで、社会的に殺す方法もちゃんとありますのよ?』
と、それはそれは清々しい笑顔でしたわ。

姉は、我が家では唯一貴族らしく半年周期で領地と王都を行き来しておりまして、領地にいる祖父母や母から預かった手紙や贈り物を届けてくださったり、王都にいる私や父や兄が用意した贈り物や手紙を届けてくださったりと、本当に助けてくださっておりますの。
私を必要以上に溺愛するのは止めてほしいのですけれど...誰かがいようともいなくとも、必ず私の天使と呼んできますのよ?
とても恥ずかしいのですわ。

6歳違いの兄は、王太子殿下の側近候補に選ばれた筈だったのですけれど、私に関する王命が出されたことでとっとと辞退いたしましたの。
ろくに話してもいないから王太子殿下のことが不満とか嫌いとかいう訳ではないけれど、まだ生まれてもいない...しかも性別も分からない赤ちゃんの婚約者を、無理繰りありもしない母との不貞をでっち上げてまで決めてしまうような陛下の息子だと、今後成長してから無理難題とか押し付けられそうだから辞めてきたのですって。

そうそう、兄は、
『1歳という幼さで母と無理矢理に引き離されたことで、道中も王城に着いてからもずっと泣きじゃくっているらしい妹を迎えに来た。』
のだと言い、手には身体に合わせたのだろう小さめの木剣を握りしめて、背には7歳とは思えない気迫を背負い、成人している筈の騎士達を自分の周囲に吹き荒ぶ吹雪を伴う魔力でもって威圧しながら王城へと乗り込んで来たらしいのですわ。
どの侍女にもどの護衛騎士にもどの侍従にも...果ては王族の方々にも全く懐かずに、飲み食いせずに泣きじゃくっては暴れてばかりいた私を即座にあやして、キョトンとしている私をシレッと自分の身体に抱っこ紐で固定して、
『まだ母親が必要な乳児を母親から引き離して、こんなに衰弱する程に虐待して、貴方達は何がしたかったのですか?
物理的に無理な母との不貞を、そちらの都合の良い用にでっち上げたことにも驚きましたが、まだ馬車に乗れる年齢ではないのにも関わらず、無理矢理に幼い妹を連れて行かれるとは思いもしませんでした。

それに、この子の目を見て気付かないことにも驚くばかりですが、確実に妹は陛下の子供ではありません。
ですから、陛下の娘を王城にて養育するという王命の文言からは外れておりますので、返していただきます。
嫁ぐための教育に関しましては、妹が適切な年齢になりましたらきちんとお受けいたしますので、ご安心くださいませ。』
と、暖かい時期だというのに魔力の暴走という形で吹雪を物理的に起こして、その場にいた方々を放つ言葉と共に凍らせながらタウンハウスに帰ったそうなの。
兄ったら、7歳とは思えない程に堂々としていたそうですわ。





*
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

転生幼女ですが、追放されたので魔王になります。(ノベル版)

アキ・スマイリー
ファンタジー
アラサー女子の三石悠乃(みついし ゆうの)は、目覚めると幼女になっていた。右も左もわからぬ異世界。モフモフな狼エルデガインに拾われ、冒険者となる。 だが、保護者であるエルデガインがかつての「魔王」である事を、周囲に知られてしまう。 町を追放され、行き場を失ったユウノだったが、エルデガインと本当の親子以上の関係となり、彼に守られながら僻地の森に居場所を探す。 そこには、エルデガインが魔王だった時の居城があった。すっかり寂れてしまった城だったが、精霊やモンスターに愛されるユウノの体質のお陰で、大勢の協力者が集う事に。 一方、エルデガインが去った後の町にはモンスターの大群がやってくるようになる。実はエルデガインが町付近にいる事で、彼を恐れたモンスター達は町に近づかなかったのだ。 守護者を失った町は、急速に崩壊の一都を辿る。 ※この作品にはコミック版もあり、そちらで使用した絵を挿絵や人物紹介に使用しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

名も無き農民と幼女魔王

寺田諒
ファンタジー
魔王を倒すため、一人の若き農民が立ち上がった。ようやく魔王のいる神殿を訪れたものの、そこにいたのは黒髪の幼女魔王。 戦いを経て二人は和解し、共に旅をするようになった。世間知らずの幼い魔王は色々なことを学びながら成長し、やがて自分を倒しに来たはずの農民に対して恋心を抱くようになる。女の子は自分の恋を叶えるため、あの手この手で男の気を引こうと躍起になるが、男は女の子を恋の相手として見ようとしない。 幼い女の子と若く逞しい農民のほのぼのラブコメディ。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

帰国した王子の受難

ユウキ
恋愛
庶子である第二王子は、立場や情勢やら諸々を鑑みて早々に隣国へと無期限遊学に出た。そうして年月が経ち、そろそろ兄(第一王子)が立太子する頃かと、感慨深く想っていた頃に突然届いた帰還命令。 取り急ぎ舞い戻った祖国で見たのは、修羅場であった。

悪役令嬢の騎士

コムラサキ
ファンタジー
帝都の貧しい家庭に育った少年は、ある日を境に前世の記憶を取り戻す。 異世界に転生したが、戦争に巻き込まれて悲惨な最期を迎えてしまうようだ。 少年は前世の知識と、あたえられた特殊能力を使って生き延びようとする。 そのためには、まず〈悪役令嬢〉を救う必要がある。 少年は彼女の騎士になるため、この世界で生きていくことを決意する。

処理中です...