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第46話 腹黒ウサギ
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僕は、アリスのことがだーいすき。
でも……僕を『数字』で縛るアリスのことは、だいっきらい。
アリスが僕に数字を付けたせいで、僕の目が生まれつき赤いせいで……幼少期はずっと「鬼の子」と言われ、周囲に迫害されてきた。
石を投げられ、嫌われて。
「来たぞ! 鬼の子だ!」
「早く死ね!」
(ぼくは、なにもしてないのに)
ランクが高いというだけで、みんなは僕を必要以上に恐れて嫌悪した。
最初は、友達だと言ってくれたのに。仲良くしてくれていたのに。
(嘘つきだらけだ)
生まれつき持った能力のせいで、他人の嘘が透けて見えるのはひどく億劫だった。
知りたくない事もある、気づきたくない時もある。
それもこれも全部、全部……『アリス』のせい。
(でもね、アリス)
僕は、君のことが大好きだよ。僕に『存在価値』をくれた君のことが、とっても。
そう。とても大切だから、
(殺してあげたくなっちゃうな)
僕は腹黒、黒ウサギ。
***
「うさぎのおにいさんは、だあれ?」
「……!」
ああ、驚いた。
ハートの城へ帰るために森の中を歩いていた時、後ろからぐいと服の端を引っ張られて立ち止まる。
いつでも殺せるように懐中時計へ手を伸ばしながら振り返ると、そこにいたのは……なんとも弱そうな小さい女の子。
太陽の光を弾いてきらめくブロンドの髪に、汚れを知らないような澄んだ空色のビー玉が二つ。赤色の映えそうな白い肌と、僕に対して何の警戒もしていない無邪気な笑顔。
「……君は……アリス?」
「うさぎのおにいさんは、どうしてアリスをしってるの?」
直接会ったのは、今日が初めてだった。
けれど、生まれた時からDNAに組み込まれているかのように、一目見た瞬間はっきりと直感で理解する。
この子が『アリス』なのだと。
(思っていたより、小さいなあ……)
「……?」
きょとんとした様子で僕を見上げてくるアリス。
目の前に立つ実物を見れば見るほど、愛おしく感じる気持ちが膨れ上がって止まらない。
同時に――殺してしまいたいという欲求が、心の内を侵していく。
特別、恨みがあるわけじゃない。
ううん、それは嘘かもしれないね。少しは、君を恨む気持ちが根底にあるのかも。
けれど……この“欲”は、憎悪から生まれているものじゃないんだよ。君にはまだ、わからないかもしれないけれど。
「ふしぎだね、くろいうさぎのおにいさん。アリス、うさぎだいすきだよ」
ふわりふわりと、可愛らしい笑顔が咲き続ける。
(あははっ……可愛いなあ、可愛い。大好きだよ、アリス。大嫌い。ううん、愛してる。殺してしまいたいな)
笑顔を顔に貼り付けて、アリスの小さな体を抱き上げた。
小さくて、弱くて……すぐに壊れてしまいそうな、可愛いアリス。
(……いや、)
僕が何かするより先に、その心はもう……とっくに、壊れてしまっているのかもしれない。
(気に食わないな)
アリスを傷つけるのは、いつだって僕だけでありたい。
他の誰かに傷つけられて泣くアリスなんて、何も面白くないからだ。
(僕のせいで泣いて、僕のために傷つけばいいのに)
歪んでいる自覚はある。
愛している自信もある。
(……心の中が、僕のことでいっぱいになればいいのにな)
甘さに溺れて、堕落して。心の底から僕に依存して、一生そばに置いてくれと無様にすがればいい。
そうしてくれたら、
「僕は、アリスを知っているよ。だって、アリスのことが大好きだから」
「アリスの、ことが……?」
「そうだよ」
アリスはもう、苦しまずに済むのに。
僕なら、アリスが死ぬまでちゃんと一緒にいてあげるのに。
(……なんてね)
自分の心すら嘘をついているようで、僕はいまいち自分の気持ちがわからないままだ。
だからこそ、本音を見透かしてくれる存在に居心地の良さを覚えた。
例えば……アリスのこの、心の奥まで見えていそうな瞳もそう。
(ねえ、アリス? 君には、僕の『本当の言葉』が聞こえてる?)
偽りの笑顔を向けたまま、抱きかかえている方とは逆の手をアリスの細い首へ伸ばした。
気道を塞ぐように指先で強く押すと、彼女は苦しそうに顔を歪めるけれど全くの無抵抗。
その喉元には、僕が付けたわけではない赤紫の痣が残っていた。
「……ふふっ」
喉から手を離し、アリスを両腕でしっかりと抱きしめる。
(ああ……可愛い)
小さくて、弱くて、脆くて……とっても愚かで、可哀想なアリス。
いつか君が願ってくれるのなら、僕が殺してあげたいな。
「……大好きだよ、アリス」
「うん、ありがとう。くろいうさぎさん」
大好きな君が――お母さんに殺されてしまう前に、僕の手で。
でも……僕を『数字』で縛るアリスのことは、だいっきらい。
アリスが僕に数字を付けたせいで、僕の目が生まれつき赤いせいで……幼少期はずっと「鬼の子」と言われ、周囲に迫害されてきた。
石を投げられ、嫌われて。
「来たぞ! 鬼の子だ!」
「早く死ね!」
(ぼくは、なにもしてないのに)
ランクが高いというだけで、みんなは僕を必要以上に恐れて嫌悪した。
最初は、友達だと言ってくれたのに。仲良くしてくれていたのに。
(嘘つきだらけだ)
生まれつき持った能力のせいで、他人の嘘が透けて見えるのはひどく億劫だった。
知りたくない事もある、気づきたくない時もある。
それもこれも全部、全部……『アリス』のせい。
(でもね、アリス)
僕は、君のことが大好きだよ。僕に『存在価値』をくれた君のことが、とっても。
そう。とても大切だから、
(殺してあげたくなっちゃうな)
僕は腹黒、黒ウサギ。
***
「うさぎのおにいさんは、だあれ?」
「……!」
ああ、驚いた。
ハートの城へ帰るために森の中を歩いていた時、後ろからぐいと服の端を引っ張られて立ち止まる。
いつでも殺せるように懐中時計へ手を伸ばしながら振り返ると、そこにいたのは……なんとも弱そうな小さい女の子。
太陽の光を弾いてきらめくブロンドの髪に、汚れを知らないような澄んだ空色のビー玉が二つ。赤色の映えそうな白い肌と、僕に対して何の警戒もしていない無邪気な笑顔。
「……君は……アリス?」
「うさぎのおにいさんは、どうしてアリスをしってるの?」
直接会ったのは、今日が初めてだった。
けれど、生まれた時からDNAに組み込まれているかのように、一目見た瞬間はっきりと直感で理解する。
この子が『アリス』なのだと。
(思っていたより、小さいなあ……)
「……?」
きょとんとした様子で僕を見上げてくるアリス。
目の前に立つ実物を見れば見るほど、愛おしく感じる気持ちが膨れ上がって止まらない。
同時に――殺してしまいたいという欲求が、心の内を侵していく。
特別、恨みがあるわけじゃない。
ううん、それは嘘かもしれないね。少しは、君を恨む気持ちが根底にあるのかも。
けれど……この“欲”は、憎悪から生まれているものじゃないんだよ。君にはまだ、わからないかもしれないけれど。
「ふしぎだね、くろいうさぎのおにいさん。アリス、うさぎだいすきだよ」
ふわりふわりと、可愛らしい笑顔が咲き続ける。
(あははっ……可愛いなあ、可愛い。大好きだよ、アリス。大嫌い。ううん、愛してる。殺してしまいたいな)
笑顔を顔に貼り付けて、アリスの小さな体を抱き上げた。
小さくて、弱くて……すぐに壊れてしまいそうな、可愛いアリス。
(……いや、)
僕が何かするより先に、その心はもう……とっくに、壊れてしまっているのかもしれない。
(気に食わないな)
アリスを傷つけるのは、いつだって僕だけでありたい。
他の誰かに傷つけられて泣くアリスなんて、何も面白くないからだ。
(僕のせいで泣いて、僕のために傷つけばいいのに)
歪んでいる自覚はある。
愛している自信もある。
(……心の中が、僕のことでいっぱいになればいいのにな)
甘さに溺れて、堕落して。心の底から僕に依存して、一生そばに置いてくれと無様にすがればいい。
そうしてくれたら、
「僕は、アリスを知っているよ。だって、アリスのことが大好きだから」
「アリスの、ことが……?」
「そうだよ」
アリスはもう、苦しまずに済むのに。
僕なら、アリスが死ぬまでちゃんと一緒にいてあげるのに。
(……なんてね)
自分の心すら嘘をついているようで、僕はいまいち自分の気持ちがわからないままだ。
だからこそ、本音を見透かしてくれる存在に居心地の良さを覚えた。
例えば……アリスのこの、心の奥まで見えていそうな瞳もそう。
(ねえ、アリス? 君には、僕の『本当の言葉』が聞こえてる?)
偽りの笑顔を向けたまま、抱きかかえている方とは逆の手をアリスの細い首へ伸ばした。
気道を塞ぐように指先で強く押すと、彼女は苦しそうに顔を歪めるけれど全くの無抵抗。
その喉元には、僕が付けたわけではない赤紫の痣が残っていた。
「……ふふっ」
喉から手を離し、アリスを両腕でしっかりと抱きしめる。
(ああ……可愛い)
小さくて、弱くて、脆くて……とっても愚かで、可哀想なアリス。
いつか君が願ってくれるのなら、僕が殺してあげたいな。
「……大好きだよ、アリス」
「うん、ありがとう。くろいうさぎさん」
大好きな君が――お母さんに殺されてしまう前に、僕の手で。
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