上 下
6 / 26

詫び石6つ目

しおりを挟む
 するり。
 布地の擦れる音が、2人きりの空間で小さく響く。


「ルロちゃん、もう一度聞くよ……本当にいいんだね?」
「は、はい……っ」


 ルロちゃんは透き通った白い肌に朱色を浮かべると、恥じらいながら目線を逸らし小さな手をこちらに伸ばした。


「こ、“これ”を、ください……お願いします、ご主人様……」


 艶やかな唇を震わせてそう言った彼女に、俺は喉を上下させて生唾を飲み込むことしかできない。


「わかった……じゃあ、」


 そして――……先に試着室を出た俺は、片手を上げつつ店員さんに声をかけた。


「すみません、これください」
「はい、かしこまりました~!」





 服屋を出た後、弾む足取りで後ろをついてくるルロちゃんに目をやる。


「本当にそれで良かったの……?」
「はいっ!」


 彼女が「どうしてもこれがいい」と言って譲らなかったのはメイド服だ。

 もう誰かに仕える立場じゃないんだから自由な服装でいいんだよ、となだめたところ「ご主人様に仕えておりますが!?」と予想外の勢いでキレられたため何も言えなかった。
 ルロちゃんは可愛いのに怒ると怖いらしい……そんなところも可愛いな。


「ふんふんっ♪」
(可愛い……)


 綺麗に伸びた長い白髪も店員さんが厚意で結ってくれたのだが、それもお気に召したらしくえらく上機嫌だ。

 たしか、三つ編みと言っただろうか……とにかく可愛さが引き立っている。


「良かったね、宇宙一似合ってるよ」
「……!! そ、そんな……宇宙一だなんて……」


 足を止めたルロちゃんは、2本に分かれた三つ編みの先をそれぞれ両手で持ち、自身の髪の毛で口元を隠すような仕草をしたのだがあまりに可愛すぎて心臓が一瞬止まった。

 その桃色の瞳は涙でうるみ、エルフ耳が先まで真っ赤になっている。


「ご、ご主人様は褒めすぎです……もうっ……」
「ン゛ッ゛!!」


 もうっ、だって。もうっ。
 聞いた? 宇宙一可愛い「もうっ」。

 舌を噛む勢いで可愛かった。俺の内なる幸福メーターが振り切れそうだ。これもバグの影響だろうか?


「はぁ……ルロちゃんは本当に可愛いね、よしよし」
「!?」


 頭を撫でた瞬間、ルロちゃんはなぜか硬直して両手の行き場を失ったかのように空中で漂わせる。


「……? どうかした?」
「あっ……」


 手を離すなり、切なそうな声をあげて俺を見上げる可愛いルロちゃん。


「……あ、あの……」
「うん?」
「……も、もう一度……撫でて頂いてもよろしいでしょうか……? その……このように褒めて頂けるのが、は、初めてで……」
「もう一度どころか1分おきに撫でようか? それとも30秒間隔がいい?」


 次の目的地へ向かう道中、俺は明日から毎日ルロちゃんのことを1日24なでなでしようと心に誓ったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魔導具士の落ちこぼれ〜前世を思い出したので、世界を救うことになりそうです〜

OSBP
ファンタジー
科学と魔導が織りなす世界。そんな世界で、アスカ・ニベリウムには一つだけ才能があった。それは、魔導具を作製できる魔導具士としての才だ。だが、『かつて魔導具士は恐怖で世界を支配した』という伝承により、現状、魔導具士は忌み嫌われる存在。肩身の狭い生活をしいられることになる‥‥‥。 そんなアスカの人生は、日本王国のお姫様との出会い、そして恋に落ちたことにより激動する。 ——ある日、アスカと姫様はサニーの丘で今年最大の夕陽を見に行く。夕日の壮大さに魅入られ甘い雰囲気になり、見つめ合う2人。2人の手が触れ合った時…… その瞬間、アスカの脳内に火花が飛び散るような閃光が走り、一瞬気を失ってしまう。 再び目を覚ました時、アスカは前世の記憶を思い出していた‥‥‥ 前世の記憶を思い出したアスカは、自分がなぜ転生したのかを思い出す。 そして、元の世界のような過ちをしないように、この世界を救うために立ち上がる。 この物語は、不遇な人生を送っていた少年が、前世を思い出し世界を救うまでの成り上がり英雄伝である。

性奴隷を飼ったのに

お小遣い月3万
ファンタジー
10年前に俺は日本から異世界に転移して来た。 異世界に転移して来たばかりの頃、辿り着いた冒険者ギルドで勇者認定されて、魔王を討伐したら家族の元に帰れるのかな、っと思って必死になって魔王を討伐したけど、日本には帰れなかった。 異世界に来てから10年の月日が流れてしまった。俺は魔王討伐の報酬として特別公爵になっていた。ちなみに領地も貰っている。 自分の領地では奴隷は禁止していた。 奴隷を売買している商人がいるというタレコミがあって、俺は出向いた。 そして1人の奴隷少女と出会った。 彼女は、お風呂にも入れられていなくて、道路に落ちている軍手のように汚かった。 彼女は幼いエルフだった。 それに魔力が使えないように処理されていた。 そんな彼女を故郷に帰すためにエルフの村へ連れて行った。 でもエルフの村は魔力が使えない少女を引き取ってくれなかった。それどころか魔力が無いエルフは処分する掟になっているらしい。 俺の所有物であるなら彼女は処分しない、と村長が言うから俺はエルフの女の子を飼うことになった。 孤児になった魔力も無いエルフの女の子。年齢は14歳。 エルフの女の子を見捨てるなんて出来なかった。だから、この世界で彼女が生きていけるように育成することに決めた。 ※エルフの少女以外にもヒロインは登場する予定でございます。 ※帰る場所を無くした女の子が、美しくて強い女性に成長する物語です。

ギルドから追放された実は究極の治癒魔法使い。それに気付いたギルドが崩壊仕掛かってるが、もう知らん。僕は美少女エルフと旅することにしたから。

yonechanish
ファンタジー
僕は治癒魔法使い。 子供の頃、僕は奴隷として売られていた。 そんな僕をギルドマスターが拾ってくれた。 だから、僕は自分に誓ったんだ。 ギルドのメンバーのために、生きるんだって。 でも、僕は皆の役に立てなかったみたい。 「クビ」 その言葉で、僕はギルドから追放された。 一人。 その日からギルドの崩壊が始まった。 僕の治癒魔法は地味だから、皆、僕がどれだけ役に立ったか知らなかったみたい。 だけど、もう遅いよ。 僕は僕なりの旅を始めたから。

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

職業勇者はボランティアではありません!(改訂版)

メバル
ファンタジー
勇者が職業である、この時代で世に言う全うな勇者とは全力でかけ離れた男。 最低の勇者でありながらも世界最強の勇者。 人々は勇者にモンスター討伐を依頼するもボランティア精神0の彼に依頼をすれば、巻き上げられる。 最終目的は魔王の討伐とされているが、彼はどう動く?? 勇者とは人道的且つ道徳的概念が存在するのが王道であるが、そんな概念とは大きくかけ離れたゲス過ぎる勇者の物語。 ※この作品は一般的な小説と文体が違いますのでご了承下さい。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...