【完結】旦那さまは、へたれん坊。

百崎千鶴

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 ぴたりと、手と手を合わせてみる。

 しわとしわを合わせて“しあわせ”、なんちゃって。
 幸せなのに、変わりはないけれど。


(あっくん、)


 当たり前かもしれないけれど、あっくんの手は私より大きい。 

 ハサミの刃や、薔薇みたいにトゲのある花や、時には葉っぱで指を切ることがあるから、あっくんの指には生傷がたえない。
 小さい小さい切傷がいつもある。

 私が微熱を出しただけで取り乱すのに、あっくんは、


「大丈夫。これくらい舐めとけば治るよ」


 そう言って笑う。


(……でも、)


 この……傷があって、ちょっとごつごつしてる綺麗な手が私は好き。
 ううん、手『も』好き。 


「どうしたの? みーちゃん」


 ぴたりと手をくっつけたまま凝視していると、あっくんは不思議そうに首を傾げた。

 でも、振り払ったりはしない。……もしそんなことされたら泣くけど。


「あっくんは、手が大きいなーと思って」


 そう答えればあっくんは、


「当たり前だよ」


 ふにゃりと笑う。 


「みーちゃんは、ちっちゃくて可愛い女の子なんだから」


 歌うみたいに言葉を繋いで、あっという間に私の心拍数を高めるんだから。

 火照った頬に、もう片方の彼の手が触れた。


「ふふっ」


 その手のひらに顔を押しつければ、彼は愛しそうに目を細める。 


「あっくんの手、気持ちいい」


 あったかくて、大きくて、安心する。


「みーちゃん、可愛い」
「……知ってる」


 何回言われても、やっぱり恥ずかしくてどきどきする。 
 少し目を伏せると、あっくんは思いついたような声を出した。


「あ、」
「ん?」
「今、ぴったりなお花があるよ」
「ほうほう。教えてくださいな、店長さん」


 お芝居をして見せれば、小さく笑うあっくん。
 それから、私の目をまっすぐ見据えた。 


「アザレア」
「……花言葉は?」
「あなたに愛される幸せ」


 しあわせ。
 あ、さっき私が考えてたことだ。


(ずるいな)


 あっくんは、お花のことになるといつもと違うんだもの。 

 ドSでも俺様でも、変態でも腹黒でもない彼だけれど。
 お花が絡むと、甘い言葉をなんでもない事みたいに簡単に言ってのける。

 そして、私をもっともっと夢中にさせて、あっくんしか見えなくさせるんだ。 
 そこらのチャラ男やホストよりもタチが悪いかもしれない。


「私も……あっくんに愛されて、幸せ」
「みーちゃん……」


 さっきまでのかっこよさはどこへやら。
 あっくんは急に涙目になってしまった。

 そして、


「嬉しい……!」


 と、抱きついてくる。 
 その背中を優しく撫でて、


「あっくん、愛しております」


 囁くように、そうこぼした。


「おっ、俺だって! あ、あいっ……愛、してる、よ……?」


 語尾にかけて消えていく言葉と、赤く染まる彼の耳。
 その全てが愛しくて、幸せだ。
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