【完結】旦那さまは、へたれん坊。

百崎千鶴

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微糖

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 私とあっくんは甘党だ。
 私の好物はシュークリーム。あっくんの好物はショートケーキ。

 けれど彼は、甘いコーヒーより少し苦いコーヒーが好き。
 なんでも、


「ケーキの甘さが引き立つんだよ」


 だ、そうだ。 
 そこで私も甘くないコーヒーを試しに買ってみた事があるけれど、苦くて飲みきれなかった。

 そんな私にあっくんは、「大人の味だね」と言って笑う。


「たった4歳差でしょ」


 唇を尖らせて反論すると、


「されど4歳差だよ」


 あっくんはそう言ってくすくす笑った。 
 なんだかカチンときて、


「あっくん、おじさんくさい」


 と毒づいたら、泣きそうになっていたのはまた別のお話。





「私にだって飲めるもん」


 庭方向の窓を開けて、縁側に座り足をぷらぷらさせる。
 持ってきた缶コーヒーのタブに爪をかけて引けば、爽快な音とともに口が開いた。

 鼻をかすめる苦そうな香り。一瞬ひるんでしまったけれど、


(こんなの、経験値にしてくれるわ!)


 思い切って、一口飲み込んだ。 


「に、苦い……」


 うげえ、と舌を出す。

 もうだめ、飲めない。でも勿体無い。


(も、もう一回、)


 ごくり。……うげえ。
 やっぱり飲めない、と缶を置く。

 本当に、大人の味なのかな。私はまだお子ちゃまなのかな。 


「みーちゃん」


 不意に頭上から降ってきた、心地の良い声。
 顔を上げれば、そこには思った通りあっくんがいた。


「どうしたの?」
「コーヒーに再挑戦しておりました」


 完敗でござりまする、とまだ中身の残っている缶コーヒーを差し出す。

 あっくんは少しのあいだ驚いたような顔をしてから、すぐにやわらかく微笑んだ。 


「飲もうとしたの?」
「うん……でも無理だった」


 息を吐くようにふっと笑い、私の頭を撫でるあっくん。


「頑張ったね、みーちゃん」


 唇にキスを一つ落とされれば、さっきまで苦かった口の中が砂糖でいっぱいになった。

 甘い、甘い、私の旦那さま。 


「あっくん」
「ん?」
「もう一回」


 あっくんがコーヒーを一口飲んで、もう一回キスをする。

 少しの苦味は大好きな人の甘さと混ざり合って微糖になった。


「……甘い」
「なにが?」
「みーちゃんが、甘い」


 そう言ってはにかんだから、


「あっくんもだよ」


 そう返して、今度は私からキスをした。 
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