9 / 9
その9
しおりを挟む
「じゃあ、僕の奴隷になってくれる?」
「それは……っ!」
弾かれたように顔を上げると、佐伯くんの指が私の顎に触れる。
そのまま真っ直ぐに固定され、彼は唇が触れてしまいそうな距離まで顔を寄せてきた。
(ちか、い)
だめ、近い。
かかる息が、頭に思いついた文句を消してしまう。
一瞬でふっと、たんぽぽの綿毛を飛ばすみたいに。
「返事は?」
「……は、い」
「いい子だね、彩」
ふわり、微笑み。
顎から離された手が、優しく頭を撫でる。
けれどそれもほんの数秒で、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべた。
「じゃあ、奴隷決定ですね」
「……へ?」
「いつまでアホ面してるんですか」
ぎゅむと鼻をつままれて我に返る。
そうだ……! 奴隷なんてそんな、冗談じゃないです!
そう言わなくては!
「ですから! ど、奴隷なんてお断りで、」
「彩」
一度は離されていた距離が、再びなくなった。
「嫌、じゃ……ないよね?」
「え、あっ、」
「返事」
「……はい」
返事を聞くと体が離れ、そこで改めてはっとする。
ま、また! 流されてしまいました!
「や、嫌です! お断りです!」
「あのさ……」
本を手にとり、首だけでこちらを振り返りながら佐伯くんは鼻で笑う。
「いい加減に、抵抗するなんて無駄だと理解したらいかがです?」
「なっ!?」
惚れた弱味に漬け込んだだけじゃないですか! 最低です!
佐伯くんは後ろ手にひらひらと手を振って「明日からよろしくお願いしますね、奴隷さん」と捨て台詞。
「奴隷じゃありません!」
悔しい、悔しいです。
何より、今だにどきどきと音を立てる心臓が……悔しい。
「それは……っ!」
弾かれたように顔を上げると、佐伯くんの指が私の顎に触れる。
そのまま真っ直ぐに固定され、彼は唇が触れてしまいそうな距離まで顔を寄せてきた。
(ちか、い)
だめ、近い。
かかる息が、頭に思いついた文句を消してしまう。
一瞬でふっと、たんぽぽの綿毛を飛ばすみたいに。
「返事は?」
「……は、い」
「いい子だね、彩」
ふわり、微笑み。
顎から離された手が、優しく頭を撫でる。
けれどそれもほんの数秒で、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべた。
「じゃあ、奴隷決定ですね」
「……へ?」
「いつまでアホ面してるんですか」
ぎゅむと鼻をつままれて我に返る。
そうだ……! 奴隷なんてそんな、冗談じゃないです!
そう言わなくては!
「ですから! ど、奴隷なんてお断りで、」
「彩」
一度は離されていた距離が、再びなくなった。
「嫌、じゃ……ないよね?」
「え、あっ、」
「返事」
「……はい」
返事を聞くと体が離れ、そこで改めてはっとする。
ま、また! 流されてしまいました!
「や、嫌です! お断りです!」
「あのさ……」
本を手にとり、首だけでこちらを振り返りながら佐伯くんは鼻で笑う。
「いい加減に、抵抗するなんて無駄だと理解したらいかがです?」
「なっ!?」
惚れた弱味に漬け込んだだけじゃないですか! 最低です!
佐伯くんは後ろ手にひらひらと手を振って「明日からよろしくお願いしますね、奴隷さん」と捨て台詞。
「奴隷じゃありません!」
悔しい、悔しいです。
何より、今だにどきどきと音を立てる心臓が……悔しい。
0
お気に入りに追加
14
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

悪役令嬢カテリーナでございます。
くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ……
気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。
どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。
40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。
ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。
40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……
希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。
幼馴染に婚約者を奪われたのだ。
レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。
「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」
「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」
誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。
けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。
レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。
心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。
強く気高く冷酷に。
裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。
☆完結しました。ありがとうございました!☆
(ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在))
(ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9))
(ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在))
(ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))


王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です

婚約解消は君の方から
みなせ
恋愛
私、リオンは“真実の愛”を見つけてしまった。
しかし、私には産まれた時からの婚約者・ミアがいる。
私が愛するカレンに嫌がらせをするミアに、
嫌がらせをやめるよう呼び出したのに……
どうしてこうなったんだろう?
2020.2.17より、カレンの話を始めました。
小説家になろうさんにも掲載しています。

学生のうちは自由恋愛を楽しもうと彼は言った
mios
恋愛
学園を卒業したらすぐに、私は婚約者と結婚することになる。
学生の間にすることはたくさんありますのに、あろうことか、自由恋愛を楽しみたい?
良いですわ。学生のうち、と仰らなくても、今後ずっと自由にして下さって良いのですわよ。
9話で完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる