【完結】図書室にいる『王子様』の本性を、私だけが知っています。

百崎千鶴

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その9

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「じゃあ、僕の奴隷になってくれる?」
「それは……っ!」


 弾かれたように顔を上げると、佐伯くんの指が私の顎に触れる。

 そのまま真っ直ぐに固定され、彼は唇が触れてしまいそうな距離まで顔を寄せてきた。


(ちか、い)


 だめ、近い。 

 かかる息が、頭に思いついた文句を消してしまう。
 一瞬でふっと、たんぽぽの綿毛を飛ばすみたいに。


「返事は?」
「……は、い」
「いい子だね、彩」


 ふわり、微笑み。
 顎から離された手が、優しく頭を撫でる。

 けれどそれもほんの数秒で、すぐに意地悪そうな笑みを浮かべた。


「じゃあ、奴隷決定ですね」
「……へ?」
「いつまでアホ面してるんですか」


 ぎゅむと鼻をつままれて我に返る。

 そうだ……! 奴隷なんてそんな、冗談じゃないです!
 そう言わなくては! 


「ですから! ど、奴隷なんてお断りで、」
「彩」


 一度は離されていた距離が、再びなくなった。


「嫌、じゃ……ないよね?」
「え、あっ、」
「返事」
「……はい」


 返事を聞くと体が離れ、そこで改めてはっとする。

 ま、また! 流されてしまいました! 


「や、嫌です! お断りです!」
「あのさ……」


 本を手にとり、首だけでこちらを振り返りながら佐伯くんは鼻で笑う。


「いい加減に、抵抗するなんて無駄だと理解したらいかがです?」
「なっ!?」


 惚れた弱味に漬け込んだだけじゃないですか! 最低です!

 佐伯くんは後ろ手にひらひらと手を振って「明日からよろしくお願いしますね、奴隷さん」と捨て台詞。


「奴隷じゃありません!」


 悔しい、悔しいです。

 何より、今だにどきどきと音を立てる心臓が……悔しい。 
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