【完結】24時の鐘と俺様オオカミ

百崎千鶴

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Story7.見つけたよ、嘘つきさん

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 大路君の前で泣いてしまった、次の日。

 私は教室へは行かず、まっすぐに保健室へやって来た。


「あら、こんな早くから……どうしたの?」
「……今朝から、少し……体調が悪くて……」
「じゃあ、そこのベッドで寝てていいわよ」
「はい。ありがとうございます」


 ポニーテールの髪を揺らし、ほわりと笑う保険医の御堂みどう先生。


(う、生まれて初めて仮病を使ってしまいました……! ごめんなさい、御堂先生……!)


 やや良心を痛めつつ、真っ白いベッドへ潜り込んだ。

 なぜ、仮病を使ったのか。
 それはもちろん、大路君が深く関係しています。

 冷静に考えてみると、大路君は同じクラスで……しかも、隣の席で。
 嫌でも顔を合わせることになる。

 それなのに私は昨日、大路君の前で泣き本を投げつけ、とどめに「大嫌い」と言ってしまった。
 昨日の今日だと……大路君に会いたくありません。気まずすぎます。


(はぁ……)


 投げつけた1050円はどうなったのでしょうか。

 そんなことを考えながら目に蓋をして、現実の世界から逃げた。



 ***



 キーンコーンカーンコーン……と鳴り響く鐘の音が私の意識を夢の世界から引きずり戻す。

 まだわずかに重いまぶたをこすりつつ、


(どれくらい経ったのでしょうか……)


 のっそりと体を起こし、腕時計に目線を移した。
 短針と長針は、仲良く12を指している。


(そんなに眠ってしまっていたのですね……)


 不意に、ガラリと保健室の扉が開く。
 いつの間にかベッドの周りはカーテンで仕切られていたため、誰が入って来たのか視覚から情報を得ることはできません。


(御堂先生、でしょうか……)


 耳をすませていると、聞こえたのは――……ガチャン。

 扉が、施錠される音。


(御堂先生……じゃ、ありませんね……)


 先生なら、室内にいるのにわざわざ鍵を閉めたりしません。

 ……ふと、嫌な予感が心臓を刺激した。


(……いえ、まさか、)


 足音が近づいてきて、シャッとカーテンがめくられる。

 そこに立っていたのは、


「みーつけた」


 ニヤリと妖しく口角を持ち上げる、大路君で……嫌な予感的中です。


「……っ!!」
「逃げんな」


 彼の立っている反対側から逃げ出そうと体をひねった時、手首を捕まえられてそのままベッドに押し倒された。


「は、離してくださっ、」
「誰が離すかよ」


 顔の両側で縫い付けられた手の拘束は、あがいてみても全く緩まない。

 それどころか、大路君は上履きを脱いでベッドへ上がり、馬乗りになってきた。


「もう、逃がさねぇよ」


 どことなく怒りの色が滲む声。

 クリーム色の髪の毛が、光を透かしてきらきら光る。


「白雪」
「……なん、ですか」
「昨日のアレ、なに?」


 どきり。
 心臓が跳ねるのを確認。

 ふいと目をそらせば、


「何で泣いたの?」


 真剣な声が“こっちを向け”と誘うようで。


「……それは、」


 空中をたどり、大路君の喉元を目線で刺した。


「大路君が、好きでもないのに……からかって、キスを……してくるからです」


 唸るように呟くと大路君は息を吐いて小さく笑い、


「なんだそれ」


 と、一言。

 なんだとはなんですか。
 文句を言おうとしたけれど、


「なあ、昨日言ったよな?」
「ひゃっ、」
「次、逃げたら……食うって」


 喉を熱い舌が這って、言いかけた言葉を消す。

 そのまま首筋にキスを落とし、


「……っ、やっ、」


 耳たぶを舐められると、身体中にぞくぞくとした感覚が走って。


「白雪」


 熱っぽく名前を呼ばれれば、もう何も考えられなくなる。


「……何で俺がこんなことするのか、お前を構うのか……本当に、わからない?」
「わか、るわけ……っ」


 大路君の片手が布団をめくり、お腹とスカートの隙間からブラウスの中に入ってきた。

 肌着の中にも侵入し、直接腰を撫でられる。


「ふ……っ、」
「じゃあ……教えてやる」


 耳元に口が寄せられ、


「お前のことが、好きだから」


 そんな囁きが脳を揺らした。


「え……」


 そんな、まさか……信じられない。

 けれど、驚く私を映す瞳はとても真剣で。


「えっ、でも、私、なんで、」


 思わず、心の声を口にしてしまった。

 眉も八の字になって、目は空中を泳ぐ。


「前にも言ったけど……そういうところが、すげぇ可愛いと思ったから」


 つまり、戸惑う私が面白いという意味ですか。

 皮肉の一つでもぶつけてやりたかったのに、愛しそうに細められたブラウンのビー玉2つがそんな気持ちを捨てさせる。


「だから、」


 髪を揺らして微笑む彼は、


「キス、していい?」


 本物の、王子様に見えてしまった。


(……悔しい。大路君は、なぜこんなに、)


 何も言わないのを了承と受け取ったようで、大路君は唇を優しく重ねる。

 けれど、一度触れただけですぐにそれを離して、


「白雪は?」


 と、呟いた。


「……はい?」
「俺のこと、好き?」


 大路君のことが、好きか。

 ……そんなの、


「そんなわけありません」
「んだとコラ」
「……でも、」


 ぷいと顔を背けて、一言だけ付け足した。


「……『大嫌い』と言ったのは、撤回します」


 今もどきどきとうるさい心臓は、“嫌い”なんて思っていないから。

 好きではありません。絶対違います。
 でも、『大嫌い』でもありません。

 少しの間を置いて、大路君はくつくつと笑いながら言葉を落とした。


「ツンデレ姫め」
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