【完結】24時の鐘と俺様オオカミ

百崎千鶴

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Story4.食べられてからでは遅いのですよ

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 後日、放課後。
 調べものがしたくて、図書室へやって来ました。

 室内には他に、勉強をする生徒がちらほら。その邪魔をしないよう、静かに扉を閉める。

 少し奥――本棚に隠れている机に場所をとり、鞄を置いた。
 そして、お目当ての資料を探し始める。


(どこにあるのでしょうか)


 市立の図書館ではないため、細かい分類はされていません。

 大雑把に、伝記はここ。文学はここ。という風にしか分かれていない。


(資料類は……)


 何個目かの本棚に目を走らせていると、見つけた。
 背表紙には、“猿でもわかる男性の心理学”と、綺麗な明朝体で記されている。

 そうです。
 大路君は、なぜ私に構ってくるのか。なぜ、キスをしてきたのか。

 1日考えてみてもどうしても理解できなかったので、調べに来たというわけです。

 しかし、


「っん、んんっ……!」


 私が手を伸ばした高さよりも少し上にあるため……届きません。

 身長158センチ。プラス、背伸びした高さ。

 それでも届かないなんて、いったい普段どれだけ人気のない本なのでしょうか。


「んっ……!」


 不意に、背後から伸びた手が私の代わりに本を抜き取る。

 直後、


「これ?」


 聞き覚えのある声が、耳を撫でた。

 振り返った先にいたのは予想していた通り、


「……大路君」


 オオカミ――大路君で。

 気はすすまなかったけれど、一応は助けてくれたわけですし……と、感謝の言葉をこぼしかけた時。

 彼は目を細め、


「喘ぐなら俺の腕の中にしろよ」


 意地悪そうな笑みを口元につくった。


「……変態」


 感謝なんて、やっぱりしたくありません。

 きつく睨み付けてみても、大路君はただ楽しげに笑っている。……ムカつきます。


「……本、ください」
「お礼はねぇの?」


 片手を差し出せば、それに自分の手を重ねてくる。

 まるで、私が彼の手をとっているかのよう。


「……『男性の心理学』、ね」


 まじまじと本の表紙を眺め、笑いを噛み殺したように言葉を吐く大路君。

 重ねていた私の手をそっと握り、くるりと裏返して甲に口づけを落とした。


「俺のこと、気になったの?」
「……っ!!」


 図星をつかれ、思わず後ずさる。

 ほんの半歩ほどだったそれを、大路君は見逃さなかった。


「当たり?」


 本を持っていない方の手が腕を伝い、首筋を通って、顔の横に置かれる。

 反対側から逃げようとしたけれど、その逃げ道も塞がれてしまった。

 背後には、本棚。目前には、大路君。


(近い)


 整った顔が寄せられて、反射的に顔をそらした。

 その顎を、細長い綺麗な指が捕まえる。


「こっち向け」
「やっ、」
「しーっ……」


 息を吐くように繋がれる声。


「ちょっと黙って、白雪」


 息がかかるほど近づいて、一度まばたきをすれば……唇が重なる。


(また、大路君……なんで、)


 どうして、キスをするんですか?

 混ざる体温に、“抵抗”というものを忘れた。
 ブラウンの双眸に射抜かれ、


「……口、開けろ」


 甘い声が、脳を揺らす。


「んんっ、」


 半ば強引に唇を押し開かれ、口内に舌が侵入した。


(どうして、)


 なぜ、大路君は、


「んっ、んん……はっ、」
「白雪……あんまり声出すと、バレるよ?」


 そうだ。ここは、図書室。
 でも、それなら、


「大路、くんが……やめれば、」
「それは却下」


 再び深く口づけられ、
 甘い痺れに思考が麻痺する。


「……っ、ふ……は、んっ……」


 最後に唇を一度舐めて、やっと口が離された。

 軽い呼吸困難にふらつくと、大路君が私の体を受け止める。


「……んで、」
「なんでキスをするの、って?」


 大路君は耳元で低く囁いて、首筋に顔をうめてきた。

 数回、そこにもキスをして、


「……それはな、」
「ふっ、」


 優しく、歯を立てる。

 小さく肩が跳ねれば、大路君はくつくつと笑った。


「それは……お前を、」


 そこまで言って、体を離す大路君。

 一度言葉を飲み込むそぶりを見せてから、どこか悩ましげな笑顔を浮かべた。


(なぜ、そんな顔をするんですか)


 目の前のオオカミは、なぜか説明をためらっている。

 あなたはなぜこんなことをするの?

 その質問に彼は答えず、


「……姫野」


 投げるように名前を呼んで、わしゃわしゃと荒く頭を撫でた。


「やめてください乱れます」
「はいはい」


 ん、と差し出される本。

 それを受け取ると、大路君は、


「じゃあな、赤ずきんちゃん。オオカミに食べられてからじゃ遅いぞ」


 と言い残し、その場を去った。
 ……オオカミだと自覚していたんですね。

 残された赤ずきん……いえ、私はと言えば、


(……どうして、)


 沸き上がるのは怒りではなく、キスをしてしまったという恥ずかしさで。

 なぜこんなにも鼓動が早いのか、


(……違います)


 気づかないふりをした。

 ねえ、オオカミさん。あなたはどうして、
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