3 / 8
Story3.お花とキャンディ
しおりを挟む
赤ずきんに、お母さんは言いました。
オオカミには用心するのですよ。
オオカミは、どんな悪い事をするかわからないから、話しかけられても知らん顔をしているのですよ、と。
***
ある日の放課後。
先生に花壇の水やりを頼まれ、裏庭へやって来ました。
(綺麗に咲いてますね)
きちんと綺麗に並び、かしこまる色とりどりの花。
ふわりと香る甘い匂いに、口元が緩んだ。
お花は、好きです。
「よい、しょ」
水の入ったじょうろを持ち上げ、少し傾ける。
均等に水がかかるよう、左右に移動しながら。
花びらに弾かれた水は、真珠のようにきらきら光っていて、
(綺麗ですね)
からになったじょうろをわきに置いて、屈みこむ。
ところどころから生えてきている小さな雑草。それを一つ一つつまんで、根っこごと引っこ抜いた。
抜いた雑草は、持ってきていたごみ袋へ。
ついでに、しおれてしまっている花びらも取り除く。
(大分、綺麗になりましたね)
立ち上がり、自己満足に浸って手についた土を払っていると、
「終わった?」
低い声が、耳に入り込んできた。
そちらに目をやれば、腕を組んでいる大路君がいて。
一気にテンションだだ下がりです。
「何の用ですか」
大路君はあの日以来、なぜかこうして私に構ってくる。
冷たい声で言ってみたけれど、彼には、
「別に? 用がないと話しかけちゃいけないわけ?」
効きません。
現に今も、楽しそうに目を細めています。
『オオカミに話しかけられても、知らん顔をしているのですよ』
そう、彼はオオカミ。
知らん顔をしておきましょう。
「……」
言葉は返さず、ぷいと顔を背けた。
「あれ、無視?」
けれどもオオカミは、なぜか声を弾ませる。
冷たくされて喜ぶなんて、変な人ですね。
「……いい度胸だな、白雪姫ちゃん」
白雪姫、なんて大層な名前ではありません。
姫野白雪です。
そう言い返したかったけれど、
(返事をしたら、)
一口で、丸飲みにされてしまうから。
なおも無視して、雑草抜きに励む。
「ふーん?」
大路君は何やら独り言をこぼし、花壇の縁に腰かけた。
そのまま、足を組みこちらをじっと見てくる。
(な、なぜ、見つめてくるんですか……!)
できるだけ気にしないように、気づいていないふりをしてひたすら雑草を抜く。
花のある場所以外が丸ハゲ状態になりかけた時、
「食う?」
大路君はなぜか、飴を一つ差し出してきた。
(なぜ、飴なのでしょう?)
少しの間、疑いの気持ちを込めた目を向けて、
「いえ、けっこうです」
はっきりとお断り。
――……この時、答えてしまったから。
「相変わらず、ツンツンしてるな、白雪姫ちゃんは」
「デレデレしている女性がお好みなら他を当たってください」
……大路君は、女子生徒に人気の“王子様”なのだから。
私のように可愛いげのない女子より、もっと他に、
(……どうして、構うんですか)
気まぐれに、私のペースを乱さないでほしい。
「……それでは、さようなら」
居心地が悪くなり、雑草の入ったビニール袋を手にとって、その場を去ろうとした。
しかし、
「それって、」
大路君に腕を掴まれてしまい、叶わない。
「もしかして、嫉妬?」
……はい?嫉妬?私が?
……なぜ?
「そんなわけないじゃないですか」
「つーかさ、」
私の言葉を遮った、テノール。
掴む腕に、やや力が増す。
「俺が興味あるの、他の奴じゃなくてお前だから」
「……意味がわかりません」
なぜ、私なんかに興味が?
悪いところだらけと思うほど後ろ向きではありませんが、誇れる場所をたくさん挙げられるほど前向きでもありません。
「……姫野、」
呟くように名前を呼んで、ぐいと腕を引き寄せる。
ブラウンの瞳に私が映ったのを認識した時には、もう――……唇が重なっていた。
「――っ!?」
「口、開けろ」
大路君の指が無理やり私の口を開かせて……深く、深く、呼吸が混ざる。
「んんっ、んっ!」
不意に、口内へ侵入してきた異物。
途端に広がる、甘い香り。
ころり。
丸いものが、舌の上で踊った。
(飴玉……?)
染みてくるのは、苺の甘さ。
唖然とする私を見て、大路君は口を三日月形に歪めた。
にやり。そんな効果音がよく似合う。
「なに? もっとしてほしかった?」
「なっ……!」
よく考えてみると、私は……大路君と、
(き、きき、キスを……してしまいした……!)
一気に火照る顔。
恥ずかしくて、いつもの無表情が崩れた。
瞬間、光に透けたクリーム色を揺らし彼はくつくつと笑う。
「その、照れた顔。すっげー可愛いと思ったから」
(かかか、可愛い……!?)
やっぱり、大路君は何を考えているのかわかりません。
きっとからかわれているだけなのに、高鳴る鼓動が治まらない。
「もっと、色んな表情が見たいなーと思って。それだけ」
「……っ、」
「じゃ、また明日な」
何事もなかったかのように、私の頭を一度撫でて去る背中。
残されたのは、甘さだけ。
(どういう、つもりなんですか……オオカミさん)
あの時、答えてしまったから……オオカミに、食べられた。
オオカミには用心するのですよ。
オオカミは、どんな悪い事をするかわからないから、話しかけられても知らん顔をしているのですよ、と。
***
ある日の放課後。
先生に花壇の水やりを頼まれ、裏庭へやって来ました。
(綺麗に咲いてますね)
きちんと綺麗に並び、かしこまる色とりどりの花。
ふわりと香る甘い匂いに、口元が緩んだ。
お花は、好きです。
「よい、しょ」
水の入ったじょうろを持ち上げ、少し傾ける。
均等に水がかかるよう、左右に移動しながら。
花びらに弾かれた水は、真珠のようにきらきら光っていて、
(綺麗ですね)
からになったじょうろをわきに置いて、屈みこむ。
ところどころから生えてきている小さな雑草。それを一つ一つつまんで、根っこごと引っこ抜いた。
抜いた雑草は、持ってきていたごみ袋へ。
ついでに、しおれてしまっている花びらも取り除く。
(大分、綺麗になりましたね)
立ち上がり、自己満足に浸って手についた土を払っていると、
「終わった?」
低い声が、耳に入り込んできた。
そちらに目をやれば、腕を組んでいる大路君がいて。
一気にテンションだだ下がりです。
「何の用ですか」
大路君はあの日以来、なぜかこうして私に構ってくる。
冷たい声で言ってみたけれど、彼には、
「別に? 用がないと話しかけちゃいけないわけ?」
効きません。
現に今も、楽しそうに目を細めています。
『オオカミに話しかけられても、知らん顔をしているのですよ』
そう、彼はオオカミ。
知らん顔をしておきましょう。
「……」
言葉は返さず、ぷいと顔を背けた。
「あれ、無視?」
けれどもオオカミは、なぜか声を弾ませる。
冷たくされて喜ぶなんて、変な人ですね。
「……いい度胸だな、白雪姫ちゃん」
白雪姫、なんて大層な名前ではありません。
姫野白雪です。
そう言い返したかったけれど、
(返事をしたら、)
一口で、丸飲みにされてしまうから。
なおも無視して、雑草抜きに励む。
「ふーん?」
大路君は何やら独り言をこぼし、花壇の縁に腰かけた。
そのまま、足を組みこちらをじっと見てくる。
(な、なぜ、見つめてくるんですか……!)
できるだけ気にしないように、気づいていないふりをしてひたすら雑草を抜く。
花のある場所以外が丸ハゲ状態になりかけた時、
「食う?」
大路君はなぜか、飴を一つ差し出してきた。
(なぜ、飴なのでしょう?)
少しの間、疑いの気持ちを込めた目を向けて、
「いえ、けっこうです」
はっきりとお断り。
――……この時、答えてしまったから。
「相変わらず、ツンツンしてるな、白雪姫ちゃんは」
「デレデレしている女性がお好みなら他を当たってください」
……大路君は、女子生徒に人気の“王子様”なのだから。
私のように可愛いげのない女子より、もっと他に、
(……どうして、構うんですか)
気まぐれに、私のペースを乱さないでほしい。
「……それでは、さようなら」
居心地が悪くなり、雑草の入ったビニール袋を手にとって、その場を去ろうとした。
しかし、
「それって、」
大路君に腕を掴まれてしまい、叶わない。
「もしかして、嫉妬?」
……はい?嫉妬?私が?
……なぜ?
「そんなわけないじゃないですか」
「つーかさ、」
私の言葉を遮った、テノール。
掴む腕に、やや力が増す。
「俺が興味あるの、他の奴じゃなくてお前だから」
「……意味がわかりません」
なぜ、私なんかに興味が?
悪いところだらけと思うほど後ろ向きではありませんが、誇れる場所をたくさん挙げられるほど前向きでもありません。
「……姫野、」
呟くように名前を呼んで、ぐいと腕を引き寄せる。
ブラウンの瞳に私が映ったのを認識した時には、もう――……唇が重なっていた。
「――っ!?」
「口、開けろ」
大路君の指が無理やり私の口を開かせて……深く、深く、呼吸が混ざる。
「んんっ、んっ!」
不意に、口内へ侵入してきた異物。
途端に広がる、甘い香り。
ころり。
丸いものが、舌の上で踊った。
(飴玉……?)
染みてくるのは、苺の甘さ。
唖然とする私を見て、大路君は口を三日月形に歪めた。
にやり。そんな効果音がよく似合う。
「なに? もっとしてほしかった?」
「なっ……!」
よく考えてみると、私は……大路君と、
(き、きき、キスを……してしまいした……!)
一気に火照る顔。
恥ずかしくて、いつもの無表情が崩れた。
瞬間、光に透けたクリーム色を揺らし彼はくつくつと笑う。
「その、照れた顔。すっげー可愛いと思ったから」
(かかか、可愛い……!?)
やっぱり、大路君は何を考えているのかわかりません。
きっとからかわれているだけなのに、高鳴る鼓動が治まらない。
「もっと、色んな表情が見たいなーと思って。それだけ」
「……っ、」
「じゃ、また明日な」
何事もなかったかのように、私の頭を一度撫でて去る背中。
残されたのは、甘さだけ。
(どういう、つもりなんですか……オオカミさん)
あの時、答えてしまったから……オオカミに、食べられた。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
隠れドS上司をうっかり襲ったら、独占愛で縛られました
加地アヤメ
恋愛
商品企画部で働く三十歳の春陽は、周囲の怒涛の結婚ラッシュに財布と心を痛める日々。結婚相手どころか何年も恋人すらいない自分は、このまま一生独り身かも――と盛大に凹んでいたある日、酔った勢いでクールな上司・千木良を押し倒してしまった!? 幸か不幸か何も覚えていない春陽に、全てなかったことにしてくれた千木良。だけど、不意打ちのように甘やかしてくる彼の思わせぶりな言動に、どうしようもなく心と体が疼いてしまい……。「どうやら私は、かなり独占欲が強い、嫉妬深い男のようだよ」クールな隠れドS上司をうっかりその気にさせてしまったアラサー女子の、甘すぎる受難!
大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています
真風月花
恋愛
大正浪漫の恋物語。婚約者に子ども扱いされてしまうわたしは、大人びた格好で彼との逢引きに出かけました。今日こそは、手を繋ぐのだと固い決意を胸に。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件 他
rpmカンパニー
恋愛
新しい派遣先の上司が私のことを好きすぎた件
新しい派遣先の上司は、いつも私の面倒を見てくれる。でも他の人に言われて挙動の一つ一つを見てみると私のこと好きだよね。というか好きすぎるよね!?そんな状態でお別れになったらどうなるの?(食べられます)(ムーンライトノベルズに投稿したものから一部文言を修正しています)
人には人の考え方がある
みんなに怒鳴られて上手くいかない。
仕事が嫌になり始めた時に助けてくれたのは彼だった。
彼と一緒に仕事をこなすうちに大事なことに気づいていく。
受け取り方の違い
奈美は部下に熱心に教育をしていたが、
当の部下から教育内容を全否定される。
ショックを受けてやけ酒を煽っていた時、
昔教えていた後輩がやってきた。
「先輩は愛が重すぎるんですよ」
「先輩の愛は僕一人が受け取ればいいんです」
そう言って唇を奪うと……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる