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それぞれの過ごす冬
つまらないものですが
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「つまらないものですが」
そーっと差し出したのは、有名どころの和菓子だ。
言うまでもなく菓子は相手の好みに左右されやすく、また女性であればさらに条件にマッチするのは難しい。単純に男性よりも甘党が多く、食べ比べた経験によるものだと俺は思っている。
これであればきっと笑顔を誘えるだろう。
そう思っていたのだが、しかし目の前の女性は一瞥もせずにズイッと菓子折りを脇に追いやる。こんなものはどうでもいいわと態度で示されて、俺は椅子に腰かけたまま冷汗をとめどなく流した。
彼女は志穂さんといい、茜ちゃんと千夏ちゃんの母親にあたる。
二児の母でありながら驚くほど若々しく、年相応のしわがない。それどころかほっそりとした首筋の先、鎖骨のさらに下に強制的に視線を奪われかねない。まじまじと乳房を見るわけにはいかないので、俺は必死に耐えていた。
この人、どことなく茜ちゃんに似ているな。
髪を後ろにまとめており、品のある顔立ちがそう思わせるのだと思う。俺が言うまでもなく美人だし、近くで見るとやはり目鼻立ちに面影がある。きっと大人になったら素敵な女性になるだろうなと思い、おかげでほんのちょっとだけ肩の力が抜けてくれた。
「? なにを笑っているの?」
「あ、すみません。顔に出ていましたか……。その、茜さんが大人になったところを想像していまして」
正直にそう言うと、あっけに取られた顔を相手はする。それから伝染したように彼女もほんの少しだけ肩の力を抜く。しかしそれは一瞬のことであり、またすぐに厳しい顔つきに戻った。
冬の乾燥した空気に包まれながら、凍てつきそうな視線を浴びることになった俺は、心のなかでそっと溜息を吐いた。
志穂さんと二人きりになったのは、つい先ほど彼女から直接呼び出されたからだ。理由はまだ聞かされていないが、恐らくは東伊豆での一件について聞き出す腹だろう。
対する俺はというとお父さんを裏切るわけにもいかないので、どちらつかずの対応をしなければならない。あちらを立てればこちらが立たずという状況に追い込まれてしまったのは、全てあのクソお父様がいらんことを言ったせいだ。俺のせいじゃねえ。
湯気をたてる湯のみを掴み、乾いた舌を湿らせる。
そのあいだも彼女は視線をそらさずに俺をじっと観察していた。
いつも温和な表情をしていたけれど、俺と二人きりになった途端、顔から感情が抜け落ちたんだ。
ことんと湯のみを戻した音も普段より大きく感じられるし、いたたまれないなーと思った。
ああ、怖い。何を考えているか分からない女性ってやっぱり怖い。茜ちゃんもそういうところがあるし、妹の千夏ちゃんだって実は隠しごとがたくさんある。
でも大して話をしていない相手と二人きりとなると、営業マンとして培われた話術など何の役にも立たないんだ。
誰かの助けが欲しくて、俺はゆっくりと口を開く。
「あの、お父さんは……」
「吉實さんは仕事よ。あまり会話できていないせいかしらね。最近は何を考えているのか分からないときもあるわ」
志穂さんはどこか迫力のある声色をしていた。おっとりした人だと思っていたけれど、こちらが本性なのかもしれない。いや、女性というのは複数の顔を使い分けているものだと俺は既に知っている。
それで、と言いながら彼女は真っ白い脚を組む。やや太めであり、大きなお尻をしているけれど腰のくびれだけは茜ちゃんと同じくらいに見える。
実は先ほどから俺が戸惑っているのも同じ理由だったりするんだよね。声も香りも雰囲気も似ており、油断をすると茜ちゃんと二人きりでいる気になってしまうんだ。
しかしこちらの気持ちもお構いなしに、志穂さんは踏み込んできた。
「あなた、最初の印象と違って頭が良さそうね。回りくどいことは好きじゃないし単刀直入に聞くわ。徹さん、伊豆での件のことを鵜鷺から聞いたけど、あなたはなんと言って謝るつもり?」
そう冷たい瞳を向けながら彼女は言う。
無論、俺としては心当たりがないわけがなく、むしろ「やっぱり本題はそれだったか」という思いだった。しかしまさか二人きりになって早々に切り出されるとは。
同時に「なるほど」と思う。だからこそ、あれほど急に呼び出したのか。週末にお父さんが出かけているタイミングだからこそ俺と話をしたかった。
では何を聞きたいのかというと、考えるまでもなく「真相」についてだろう。しかし矛盾することに鵜鷺さんが全てを語ったのだとしたら、この場に俺はいない。彼女の抱いている怒りをぶつける先は俺ではなくお父さん本人であり、ここに呼び出す必要もなくなるからだ。
そしてこの俺に助け舟を出したのは彼女自身であることにまだ気づいていない。単刀直入すぎたというか、こちらに情報を与えすぎてしまった。営業の会話は、いかに相手から情報を引き出すかが肝心だというのに。
「鵜鷺さんは怒っておりましたか?」
「……それ、今の話と関係ある?」
ありますよね。だって彼女は実の妹ですし。そう表情で答えると、彼女は溜息をひとつこぼす。そして椅子から立ち上がると菓子折りにようやく手をつけた。
「だから困っているのよ。妹が怒っていたら話は別だったけど、あっけらかんとしていたし、まるで気にしていなそうで」
そう言い、志穂さんは背中を向ける。菓子をお皿に移して、新しいお茶の準備をし始める様子に俺も席を立つ。
「あ、手伝います」
「いいのよ、ゆっくりしていて」
そうは言われても未来のお母様だ。手伝おうと思って背後に立ち、お皿を受け取ろうとすると彼女の肩は大きく震えた。びくんという音まで聞こえてきそうなほどで、驚きつつも見つめると彼女はぱっと身を離す。
「っ! 近づかないで、あなたのことを私はまだ信用していないわ」
「す、すみません。その、手伝おうと思っただけで……」
びっくりしたよ、まるで敵を相手にしたような剣幕だったし。かなり警戒されており、先ほど思っていた未来のお母様というのはまるで現実的ではないと俺は感じた。
さて、何を話したんだろう。
再び椅子に腰かけながら、空いている時間にそう思う。
鵜鷺さんとどんな話をしたのか。それによって話すべき内容は大きく変わる。
肌で感じた限りだと、多少の脅し混じりで真実の一端を鵜鷺さんは語ったのだろうか。そしてなぜ脅したのかというと、あの営業マンはそれなりに面倒な相手だと伝えたかった?
仮説に仮説を重ねるのは好きじゃないが、彼女の身を案じている、あるいは単に面白がっているなどの理由がくっついてくる。
「案外と後者かもしれないな……あ、すみません、ひとり言です」
「そう……。あなたみたいな子、私の会社にもいるわ。普段は温和な顔をしているのに、どんなことを考えているのか肝心なときに分からないのよ」
「考えているのが丸わかりな人って案外と多いですもんね」
「ふふ、そうそう、年齢の高い人は特にそう。だから若い子の方が私は苦手かしら。君みたいにね」
なるほど、距離を空けるとこうして普通に接してくれるのか。となると多少は性的な話をした可能性も出てきた。まさかこんな子が、と言うように先ほどじろじろと見られていたのも推測の正しさを伝えてくる。
とぽとぽと急須から茶を注ぎ、そして彼女は振り返る。品の良い仕草であり、やはり茜ちゃんのお母さんというだけはあると俺は胸中で思う。
ただしそう悠長に構えていられるのは同じテーブルにつくまでだ。
「顔を合わせて分かったけれど、あなたは絶対に真相を口にしなそうね」
「口にして良い真相でしたらお伝えしていますよ、お母様。きっとそれが鵜鷺さんが隠した理由です」
「やっぱりね、そうだと思ったわ。あの子ったらいつも私のことを心配して、世間知らずのお嬢様だと言うのよ。もう結婚もして子供もいるのに」
「そういうものです。いつまでも心配するのですよ、大事な人のことは」
ふと頭に浮かんだのは弟の克樹だ。そして茜ちゃんや千夏ちゃんもそれに加わる。
みんな大事で、一時期は不出来な俺のせいでバラバラに壊しかけた関係でもある。それだけにかけがえのない存在だと思っており、迷惑をかけたぶん俺にできることは何でもするつもりだ。
その時の表情に何を見たのか、ふっと志穂さんは肩の力を抜いていた。今度はなかなか厳しい顔には戻らず、それどころか優しい笑みを浮かべてくれた。
「じゃあいいわ。その胸にしまっていることは、あなたが話したいと思ったときに話しなさい。私が世間知らずのお嬢様じゃないと分かってから」
言葉の最後にはほんの少しむくれた顔をしており、その表情にふと年下と接しているような気がした。漂う雰囲気もそれに近しいけど、やはり志穂さんは大人だ。
安心して、と彼女は言いたいのだ。悪者として糾弾するつもりも、結婚相手としてふさわしくないと言うつもりもなく、ただ秘密を抱えている俺を許してくれた。そう感じたんだ。
「そうします。必要なとき、志穂さんに秘密を打ち明けます」
にこりと彼女は笑みを浮かべて、それから瞳を下に向ける。小皿の上に置いた和菓子は包みに入っており「開けても?」という仕草に俺はもちろんですと頷く。
包みを開くと半透明のゼリーのような四角いものが現れて、また葉と金魚がそこにいる。思わずという風に、志穂さんは瞳を輝かせた。
虎屋の和菓子の良いところは、この茶目っ気だ。男性にも女性にも通じる遊び心と風流をうまくアレンジしている。もちろんこの品は女性に対して強く訴えかける品であり、その可愛さと玩具のような懐かしさによって、ずっと年上であるはずの彼女を子供のような瞳に変える。
「んっ、あなたはお菓子に関してうるさそうね。虎屋を選ぶ若者なんて、最近見ないわよ?」
「もしかしたら年配の方に揉まれているせいかもしれません。それと相手の喜びそうな品を選ぶのが実は好きなんです」
にんまりと浮かべた笑みは茜ちゃんにそっくりで、つい俺は相好を崩す。いや、きっと誰でもこんな笑みを見たら締まりのない顔になるか。食べるのがもったいなくて、竹楊枝を手にしたまま動けない様子を見ながら、そんなことを俺は思う。
ふと彼女なら「お母さん」と呼べる気がした。
父と母に先立たれて、二人の面影をまだちゃんと思い出せる。それでも抵抗なく言える日がいつか来る。そんな気がしたんだ。
しかしそのような微笑ましい時間は、とたとたと階段を降りてくる足音、そして「あーーっ、ずるい!」と声を上げる千夏ちゃんが現れるまでのことだ。
マズい、見つかった、という表情を志穂さんは一瞬だけ浮かべるや、スッと竹楊枝で和菓子を切る。それから駆け寄ってくるまでのわずかの時間にひょいひょいと口に放り込み、瑞々しくも素朴な甘さを堪能した。
「あーーっ、ヤダぁぁっ! ボクのお菓子がーーっ! あ、あ、ずるいずるい、美味しそうな顔をしてずるい! お母さんずるいーーっ!」
半泣きになって膝の上に抱きついてきた我が子に、志穂さんは指先で唇を隠し、もぐもぐと甘さを楽しみながら瞳を笑みに変えていた。
なんでかな。微笑ましい母子そのものの姿であり、すごく羨ましいなと俺は思ったんだ。
きっと彼女はいつも楽しく家族と過ごしているのだろう。娘の背中を撫でながら、彼女のぶんもキチンとあるのにいじわるするようにこう言ったんだ。
「あら、すごく美味しいわ。私好みの優しい甘みね」
「あああぁぁーーんっ!!」
うふふと笑う表情は、もしかしたら千夏ちゃんに仕返しをしたのかもしれない。お母さんに秘密を教えてくれなかったこと。そして茜ちゃんと俺の交際を内緒にしていたことに。
初めてきちんと話せたけど、イメージ通りのすごく優しい女性だなと俺は思った。
しかし問題が全て片付いたわけではない。
ボーンと壁掛け時計が鳴るのを僕と千夏ちゃん、そして志穂さんが同時に見上げる。
「帰ってこないわね、あの人。もしかして逃げたのかしら」
「そ、そういえば先ほど電話でお話ししたとき、仕事が忙しくて泊まりになるかもと言っていました……」
あーあ、逃げやがったよ、アイツ!
わなわな肩が震えそうなのを必死にこらえて、どうにかクソお父様をフォローする俺。優しいわけではなくて、これ以上あいつへの怒りを高めさせたくないんだ。下手したら一家離散になるかもしれないし、夫婦仲が冷えて良いことなどまずない。
しかし、いつもならきちんとフォローできるのだが、察しの良い志穂さん相手だと難しい。ピンと悟った顔をしてから彼女は呟く。
「へえ、そう。あの人、徹君に押しつけて逃げたのね。せっかく理由を聞かずに許してあげようと思ったのに……」
ふつふつと沸く怒りが見えて、俺と千夏ちゃんは冷汗をかく。
間違いなくこの家では母親である志穂さんが一番恐ろしい人だろう。理由を聞かずに旦那を許しはするが、しかし二度と同じことをしないように釘を刺しておこうと彼女は恐らく考えている。千夏ちゃん、茜ちゃん、そして俺という賛同者もとい仲間をきっちりと得た状態で。
頭が良いという意味でも、恐らく茜ちゃんはお母様の血を継いでいるだろう。これまで姿を見せなかったけど、夕食どきになってからようやく階段を下りてきたんだ。受験のあいだは交際禁止という決まりを守るために。
「お母さん、お腹すいた……あらお兄さん、まだ家にいたんですね。隣に座ってもいいですか?」
そのわざとらしさの欠片もない演技には立ち上がって拍手をしたいくらいだ。実際は何度かスマホ越しに連絡を取り合っていたけどさ。
とんとんと階段を下りてきて、長い黒髪を後ろに結った茜ちゃんが視界一杯に迫ってくる。たったそれだけで俺の胸はきゅうっと鳴るし、機嫌良さそうな歩き方がすんごく可愛い。
膝を揃えて隣に座った彼女に、にへらと俺は笑いかけた。
「いや、驚いた。なにも言えなくなるもんだね」
可愛くてさ、と言葉にせず伝えると、数秒の間を置いて彼女の頬はみるみるうちに赤く染まる。ぱっぱっと瞳を逸らして、唇だけがもにょもにょと動いているものだから、勝手に頬が緩んでしまいそうで大変だ。
「茜、今夜は徹さんと一緒にお食事なさい」
「え、いいの!?」
ばっと俺たちが勢いよく顔を向けると、まだ志穂さんは不機嫌そうな顔をしていた。
「ええ、いいわ。入試合格するまで交際禁止の約束を無理やりさせた吉實さんがどこかに逃げているようだし」
先ほど俺に向けていたような凍てついた瞳をしており、これは大変なことになるぞと予感する。
はっきり言って志穂さんは手ごわい。頭が良くて勘もいい。男の勘とはぜんぜん別物であり、恐らくは根本的な本質を見分ける力があるのだろう。
だから先ほどの俺は許された。内緒を内緒のまま通したんだ。普通なら絶対に許されないのだが、彼女なりの女性的な勘が俺を無罪にしてくれた。
ま、そんな相手だからこそクソお父様は逃げたんだろうけどさ……。
などという心配は、えへへという茜ちゃんの笑い声で吹き飛んだ。ちょっとずつ椅子を寄せてきて、ぴとりと肩をくっつけて満足そうな顔をする。そんな可愛らしさを見たら吉實なんて割と本気でどうでも良くなった。
「一緒に食事するの久しぶりですね、お兄さん。あーんしてあげましょうか?」
前半は年相応の可愛らしさで、後半は耳の穴に直接ぼそぉっと囁きかけてくる。気づいたら太もも同士が触れ合っていて、指のあいだを彼女の爪先が撫でてくる。
うっと呻きかねない。どうしたってあの夏休みを思い出す。垂れる汗をすするように濃厚な夜を過ごしたし、いまだってパジャマ越しに彼女の美しい裸体を思い浮かべられる。
たまたま太ももに乗った彼女の手が偶然とは言わせない。カリッと先端を指で撫でて、俺の反応を楽しむように猫に似た瞳を向けてきたんだ。
はっきり分かったよ。発情する。彼女のそばにいるだけで、甘い香りを嗅ぐだけで、俺は勝手に発情するんだ。
もしかしたら彼女も同じ気持ちだったかもしれない。いや、きっとそうだ。千夏ちゃんと志穂さんが配膳を進めてゆくあいだに、彼女の指がゆっくりとズボンのなかに滑り込む。
「私、すごく真面目に勉強しているんです。成績も伸びてきて、志望校のランクを上げたんですよ」
「お、それはすごいな。茜ちゃんは前から頭が良かったもんね」
そう答えているあいだに、しっかと彼女の指がアレを包み込む。きめ細かな肌で握られて、ぎこちなく上下にシゴかれていくのをもどかしく思い、腰が勝手に浮き上がる。
あ、だめだ。それはだめだ。
ぼるんっと肉棒が勢いよく露わにされてしまい、首を左右に振ったのだが彼女はさらに顔を近づけてくる。ぺろりと首を舐められて、見えないけどぬるぬるの舌を俺は感じている。
ふと下を見ると前後にシゴかれていく生々しいアレがあり、視線に気づいたらしく彼女はカリの段差を指の輪っかですっぽりと包む。すぐに、ぬりぬりぬりッと小刻みに刺激されて、あっちには笑いかけてくる志穂さんがいて、近づいてくる射精感により視界がクラむのを感じた。
「に、苦手科目は?」
「んー、数学ですかね。答えを導く最短距離の法則がすぐに出てこなくて、無意味にコネくり回すときがあるんです」
ぬりぬりと先端に先走り汁を塗りたくり、彼女はあどけなく清楚に笑いかけてくる。
初めて見たときは星降るような美しい瞳だと思ったし、いまもまったく同じことを思っている。その瞳が真っすぐ俺を見ており、さらにその奥、こちらの射精感を暴こうとしているのは明白だ。
あ、だめだ、だめ。
そういう意味で彼女の袖を引いたのだが、隙を見て彼女はふっくらとした唇を寄せてくる。温かい吐息を耳に感じて、ぼそぉっと「出して」と耳の奥に直接命じてきた。
途端に腰が勝手にグイと上がり、女子高生の指に握られたままビュッと勢いよく吐き出す。繊細な彼女の指にビュッビュッと尚も精液を当てて、ねとついた下品な液体で塗りたくってゆく様子がここから丸見えだ。
背徳的でありながら、そのあいだも俺の耳に「ビュウーッ、ビューッ」と射精感に合わせて囁いてくるものだから、なかなか射精が止まってくれない。たまらず俺は声も出せずに喘ぐ。
はっはっと浅い呼吸を繰り返すなか、彼女の見とれるほど美しい瞳と見つめ合う。
うるんでおり、また上気した頬がはっきりと彼女の欲情を示している。だぶついた色気の少ないパジャマ越しでも分かる。両手でザーメンを溜めている茜ちゃんはいま発情しており、恐らくはぬくぬくの液体がそうさせている。
一段階ほど彼女は色気を増す。
化粧をしておらずとも鮮やかになったのを感じたし、もうっとした甘い香りを解き放ってもいた。肺一杯まで俺に嗅がせて脳髄を溶けさせるために。
俺はもう彼女から絶対に離れらない。寝ても覚めても茜ちゃんのことばかり思っており、気づいたら彼女の喜んでくれそうなものを考えている。こんなの骨の髄まで魅了されていると同義じゃないか。
不意に彼女はふっくらとした唇を寄せて、こう囁いてきた。
「ま、た、あ、と、で」
俺にしか聞こえない声でそう言い、またも俺の目を覗き込む。しっかりと魅了できているか。私からずっと離れられないかどうかを確かめるように。執拗だと思ったけれど、なぜか俺はそれを心地良いと感じていた。
満足したのか年相応の笑みを浮かべて茜ちゃんは身を離す。
「私、ちょっとお手洗いに行ってきます。徹さん、あとで肩を揉んでくれません? 受験生ってとても肩が凝るんですよ」
ああ、と脱力しかけた声を漏らす。
恐らくまだ顔が赤いだろうし、驚くほどたくさんの射精をした後遺症というべきか、腰全体がまだジンとしびれてしまっている。ズボンを元の位置に戻すのもなかなか難しい作業だった。
もう一人「ええ」とか細い声で返事をする女性もいた。
彼女は徹以上に顔を真っ赤に染めており、お皿への盛りつけがどうもおぼつかない。震える調理箸で何度かおかずを落としつつ、どうにかこうにか夕飯の準備を済ます。
最後に、ふううと熱っぽい息を吐いていた。
その向こうでは千夏ちゃんが「あー」と分かったような顔をしていたけれど、恐らくは彼女の予想通りだったろう。
こうして無言のなかで天童寺家の夜はゆっくりと更けてゆく。
そーっと差し出したのは、有名どころの和菓子だ。
言うまでもなく菓子は相手の好みに左右されやすく、また女性であればさらに条件にマッチするのは難しい。単純に男性よりも甘党が多く、食べ比べた経験によるものだと俺は思っている。
これであればきっと笑顔を誘えるだろう。
そう思っていたのだが、しかし目の前の女性は一瞥もせずにズイッと菓子折りを脇に追いやる。こんなものはどうでもいいわと態度で示されて、俺は椅子に腰かけたまま冷汗をとめどなく流した。
彼女は志穂さんといい、茜ちゃんと千夏ちゃんの母親にあたる。
二児の母でありながら驚くほど若々しく、年相応のしわがない。それどころかほっそりとした首筋の先、鎖骨のさらに下に強制的に視線を奪われかねない。まじまじと乳房を見るわけにはいかないので、俺は必死に耐えていた。
この人、どことなく茜ちゃんに似ているな。
髪を後ろにまとめており、品のある顔立ちがそう思わせるのだと思う。俺が言うまでもなく美人だし、近くで見るとやはり目鼻立ちに面影がある。きっと大人になったら素敵な女性になるだろうなと思い、おかげでほんのちょっとだけ肩の力が抜けてくれた。
「? なにを笑っているの?」
「あ、すみません。顔に出ていましたか……。その、茜さんが大人になったところを想像していまして」
正直にそう言うと、あっけに取られた顔を相手はする。それから伝染したように彼女もほんの少しだけ肩の力を抜く。しかしそれは一瞬のことであり、またすぐに厳しい顔つきに戻った。
冬の乾燥した空気に包まれながら、凍てつきそうな視線を浴びることになった俺は、心のなかでそっと溜息を吐いた。
志穂さんと二人きりになったのは、つい先ほど彼女から直接呼び出されたからだ。理由はまだ聞かされていないが、恐らくは東伊豆での一件について聞き出す腹だろう。
対する俺はというとお父さんを裏切るわけにもいかないので、どちらつかずの対応をしなければならない。あちらを立てればこちらが立たずという状況に追い込まれてしまったのは、全てあのクソお父様がいらんことを言ったせいだ。俺のせいじゃねえ。
湯気をたてる湯のみを掴み、乾いた舌を湿らせる。
そのあいだも彼女は視線をそらさずに俺をじっと観察していた。
いつも温和な表情をしていたけれど、俺と二人きりになった途端、顔から感情が抜け落ちたんだ。
ことんと湯のみを戻した音も普段より大きく感じられるし、いたたまれないなーと思った。
ああ、怖い。何を考えているか分からない女性ってやっぱり怖い。茜ちゃんもそういうところがあるし、妹の千夏ちゃんだって実は隠しごとがたくさんある。
でも大して話をしていない相手と二人きりとなると、営業マンとして培われた話術など何の役にも立たないんだ。
誰かの助けが欲しくて、俺はゆっくりと口を開く。
「あの、お父さんは……」
「吉實さんは仕事よ。あまり会話できていないせいかしらね。最近は何を考えているのか分からないときもあるわ」
志穂さんはどこか迫力のある声色をしていた。おっとりした人だと思っていたけれど、こちらが本性なのかもしれない。いや、女性というのは複数の顔を使い分けているものだと俺は既に知っている。
それで、と言いながら彼女は真っ白い脚を組む。やや太めであり、大きなお尻をしているけれど腰のくびれだけは茜ちゃんと同じくらいに見える。
実は先ほどから俺が戸惑っているのも同じ理由だったりするんだよね。声も香りも雰囲気も似ており、油断をすると茜ちゃんと二人きりでいる気になってしまうんだ。
しかしこちらの気持ちもお構いなしに、志穂さんは踏み込んできた。
「あなた、最初の印象と違って頭が良さそうね。回りくどいことは好きじゃないし単刀直入に聞くわ。徹さん、伊豆での件のことを鵜鷺から聞いたけど、あなたはなんと言って謝るつもり?」
そう冷たい瞳を向けながら彼女は言う。
無論、俺としては心当たりがないわけがなく、むしろ「やっぱり本題はそれだったか」という思いだった。しかしまさか二人きりになって早々に切り出されるとは。
同時に「なるほど」と思う。だからこそ、あれほど急に呼び出したのか。週末にお父さんが出かけているタイミングだからこそ俺と話をしたかった。
では何を聞きたいのかというと、考えるまでもなく「真相」についてだろう。しかし矛盾することに鵜鷺さんが全てを語ったのだとしたら、この場に俺はいない。彼女の抱いている怒りをぶつける先は俺ではなくお父さん本人であり、ここに呼び出す必要もなくなるからだ。
そしてこの俺に助け舟を出したのは彼女自身であることにまだ気づいていない。単刀直入すぎたというか、こちらに情報を与えすぎてしまった。営業の会話は、いかに相手から情報を引き出すかが肝心だというのに。
「鵜鷺さんは怒っておりましたか?」
「……それ、今の話と関係ある?」
ありますよね。だって彼女は実の妹ですし。そう表情で答えると、彼女は溜息をひとつこぼす。そして椅子から立ち上がると菓子折りにようやく手をつけた。
「だから困っているのよ。妹が怒っていたら話は別だったけど、あっけらかんとしていたし、まるで気にしていなそうで」
そう言い、志穂さんは背中を向ける。菓子をお皿に移して、新しいお茶の準備をし始める様子に俺も席を立つ。
「あ、手伝います」
「いいのよ、ゆっくりしていて」
そうは言われても未来のお母様だ。手伝おうと思って背後に立ち、お皿を受け取ろうとすると彼女の肩は大きく震えた。びくんという音まで聞こえてきそうなほどで、驚きつつも見つめると彼女はぱっと身を離す。
「っ! 近づかないで、あなたのことを私はまだ信用していないわ」
「す、すみません。その、手伝おうと思っただけで……」
びっくりしたよ、まるで敵を相手にしたような剣幕だったし。かなり警戒されており、先ほど思っていた未来のお母様というのはまるで現実的ではないと俺は感じた。
さて、何を話したんだろう。
再び椅子に腰かけながら、空いている時間にそう思う。
鵜鷺さんとどんな話をしたのか。それによって話すべき内容は大きく変わる。
肌で感じた限りだと、多少の脅し混じりで真実の一端を鵜鷺さんは語ったのだろうか。そしてなぜ脅したのかというと、あの営業マンはそれなりに面倒な相手だと伝えたかった?
仮説に仮説を重ねるのは好きじゃないが、彼女の身を案じている、あるいは単に面白がっているなどの理由がくっついてくる。
「案外と後者かもしれないな……あ、すみません、ひとり言です」
「そう……。あなたみたいな子、私の会社にもいるわ。普段は温和な顔をしているのに、どんなことを考えているのか肝心なときに分からないのよ」
「考えているのが丸わかりな人って案外と多いですもんね」
「ふふ、そうそう、年齢の高い人は特にそう。だから若い子の方が私は苦手かしら。君みたいにね」
なるほど、距離を空けるとこうして普通に接してくれるのか。となると多少は性的な話をした可能性も出てきた。まさかこんな子が、と言うように先ほどじろじろと見られていたのも推測の正しさを伝えてくる。
とぽとぽと急須から茶を注ぎ、そして彼女は振り返る。品の良い仕草であり、やはり茜ちゃんのお母さんというだけはあると俺は胸中で思う。
ただしそう悠長に構えていられるのは同じテーブルにつくまでだ。
「顔を合わせて分かったけれど、あなたは絶対に真相を口にしなそうね」
「口にして良い真相でしたらお伝えしていますよ、お母様。きっとそれが鵜鷺さんが隠した理由です」
「やっぱりね、そうだと思ったわ。あの子ったらいつも私のことを心配して、世間知らずのお嬢様だと言うのよ。もう結婚もして子供もいるのに」
「そういうものです。いつまでも心配するのですよ、大事な人のことは」
ふと頭に浮かんだのは弟の克樹だ。そして茜ちゃんや千夏ちゃんもそれに加わる。
みんな大事で、一時期は不出来な俺のせいでバラバラに壊しかけた関係でもある。それだけにかけがえのない存在だと思っており、迷惑をかけたぶん俺にできることは何でもするつもりだ。
その時の表情に何を見たのか、ふっと志穂さんは肩の力を抜いていた。今度はなかなか厳しい顔には戻らず、それどころか優しい笑みを浮かべてくれた。
「じゃあいいわ。その胸にしまっていることは、あなたが話したいと思ったときに話しなさい。私が世間知らずのお嬢様じゃないと分かってから」
言葉の最後にはほんの少しむくれた顔をしており、その表情にふと年下と接しているような気がした。漂う雰囲気もそれに近しいけど、やはり志穂さんは大人だ。
安心して、と彼女は言いたいのだ。悪者として糾弾するつもりも、結婚相手としてふさわしくないと言うつもりもなく、ただ秘密を抱えている俺を許してくれた。そう感じたんだ。
「そうします。必要なとき、志穂さんに秘密を打ち明けます」
にこりと彼女は笑みを浮かべて、それから瞳を下に向ける。小皿の上に置いた和菓子は包みに入っており「開けても?」という仕草に俺はもちろんですと頷く。
包みを開くと半透明のゼリーのような四角いものが現れて、また葉と金魚がそこにいる。思わずという風に、志穂さんは瞳を輝かせた。
虎屋の和菓子の良いところは、この茶目っ気だ。男性にも女性にも通じる遊び心と風流をうまくアレンジしている。もちろんこの品は女性に対して強く訴えかける品であり、その可愛さと玩具のような懐かしさによって、ずっと年上であるはずの彼女を子供のような瞳に変える。
「んっ、あなたはお菓子に関してうるさそうね。虎屋を選ぶ若者なんて、最近見ないわよ?」
「もしかしたら年配の方に揉まれているせいかもしれません。それと相手の喜びそうな品を選ぶのが実は好きなんです」
にんまりと浮かべた笑みは茜ちゃんにそっくりで、つい俺は相好を崩す。いや、きっと誰でもこんな笑みを見たら締まりのない顔になるか。食べるのがもったいなくて、竹楊枝を手にしたまま動けない様子を見ながら、そんなことを俺は思う。
ふと彼女なら「お母さん」と呼べる気がした。
父と母に先立たれて、二人の面影をまだちゃんと思い出せる。それでも抵抗なく言える日がいつか来る。そんな気がしたんだ。
しかしそのような微笑ましい時間は、とたとたと階段を降りてくる足音、そして「あーーっ、ずるい!」と声を上げる千夏ちゃんが現れるまでのことだ。
マズい、見つかった、という表情を志穂さんは一瞬だけ浮かべるや、スッと竹楊枝で和菓子を切る。それから駆け寄ってくるまでのわずかの時間にひょいひょいと口に放り込み、瑞々しくも素朴な甘さを堪能した。
「あーーっ、ヤダぁぁっ! ボクのお菓子がーーっ! あ、あ、ずるいずるい、美味しそうな顔をしてずるい! お母さんずるいーーっ!」
半泣きになって膝の上に抱きついてきた我が子に、志穂さんは指先で唇を隠し、もぐもぐと甘さを楽しみながら瞳を笑みに変えていた。
なんでかな。微笑ましい母子そのものの姿であり、すごく羨ましいなと俺は思ったんだ。
きっと彼女はいつも楽しく家族と過ごしているのだろう。娘の背中を撫でながら、彼女のぶんもキチンとあるのにいじわるするようにこう言ったんだ。
「あら、すごく美味しいわ。私好みの優しい甘みね」
「あああぁぁーーんっ!!」
うふふと笑う表情は、もしかしたら千夏ちゃんに仕返しをしたのかもしれない。お母さんに秘密を教えてくれなかったこと。そして茜ちゃんと俺の交際を内緒にしていたことに。
初めてきちんと話せたけど、イメージ通りのすごく優しい女性だなと俺は思った。
しかし問題が全て片付いたわけではない。
ボーンと壁掛け時計が鳴るのを僕と千夏ちゃん、そして志穂さんが同時に見上げる。
「帰ってこないわね、あの人。もしかして逃げたのかしら」
「そ、そういえば先ほど電話でお話ししたとき、仕事が忙しくて泊まりになるかもと言っていました……」
あーあ、逃げやがったよ、アイツ!
わなわな肩が震えそうなのを必死にこらえて、どうにかクソお父様をフォローする俺。優しいわけではなくて、これ以上あいつへの怒りを高めさせたくないんだ。下手したら一家離散になるかもしれないし、夫婦仲が冷えて良いことなどまずない。
しかし、いつもならきちんとフォローできるのだが、察しの良い志穂さん相手だと難しい。ピンと悟った顔をしてから彼女は呟く。
「へえ、そう。あの人、徹君に押しつけて逃げたのね。せっかく理由を聞かずに許してあげようと思ったのに……」
ふつふつと沸く怒りが見えて、俺と千夏ちゃんは冷汗をかく。
間違いなくこの家では母親である志穂さんが一番恐ろしい人だろう。理由を聞かずに旦那を許しはするが、しかし二度と同じことをしないように釘を刺しておこうと彼女は恐らく考えている。千夏ちゃん、茜ちゃん、そして俺という賛同者もとい仲間をきっちりと得た状態で。
頭が良いという意味でも、恐らく茜ちゃんはお母様の血を継いでいるだろう。これまで姿を見せなかったけど、夕食どきになってからようやく階段を下りてきたんだ。受験のあいだは交際禁止という決まりを守るために。
「お母さん、お腹すいた……あらお兄さん、まだ家にいたんですね。隣に座ってもいいですか?」
そのわざとらしさの欠片もない演技には立ち上がって拍手をしたいくらいだ。実際は何度かスマホ越しに連絡を取り合っていたけどさ。
とんとんと階段を下りてきて、長い黒髪を後ろに結った茜ちゃんが視界一杯に迫ってくる。たったそれだけで俺の胸はきゅうっと鳴るし、機嫌良さそうな歩き方がすんごく可愛い。
膝を揃えて隣に座った彼女に、にへらと俺は笑いかけた。
「いや、驚いた。なにも言えなくなるもんだね」
可愛くてさ、と言葉にせず伝えると、数秒の間を置いて彼女の頬はみるみるうちに赤く染まる。ぱっぱっと瞳を逸らして、唇だけがもにょもにょと動いているものだから、勝手に頬が緩んでしまいそうで大変だ。
「茜、今夜は徹さんと一緒にお食事なさい」
「え、いいの!?」
ばっと俺たちが勢いよく顔を向けると、まだ志穂さんは不機嫌そうな顔をしていた。
「ええ、いいわ。入試合格するまで交際禁止の約束を無理やりさせた吉實さんがどこかに逃げているようだし」
先ほど俺に向けていたような凍てついた瞳をしており、これは大変なことになるぞと予感する。
はっきり言って志穂さんは手ごわい。頭が良くて勘もいい。男の勘とはぜんぜん別物であり、恐らくは根本的な本質を見分ける力があるのだろう。
だから先ほどの俺は許された。内緒を内緒のまま通したんだ。普通なら絶対に許されないのだが、彼女なりの女性的な勘が俺を無罪にしてくれた。
ま、そんな相手だからこそクソお父様は逃げたんだろうけどさ……。
などという心配は、えへへという茜ちゃんの笑い声で吹き飛んだ。ちょっとずつ椅子を寄せてきて、ぴとりと肩をくっつけて満足そうな顔をする。そんな可愛らしさを見たら吉實なんて割と本気でどうでも良くなった。
「一緒に食事するの久しぶりですね、お兄さん。あーんしてあげましょうか?」
前半は年相応の可愛らしさで、後半は耳の穴に直接ぼそぉっと囁きかけてくる。気づいたら太もも同士が触れ合っていて、指のあいだを彼女の爪先が撫でてくる。
うっと呻きかねない。どうしたってあの夏休みを思い出す。垂れる汗をすするように濃厚な夜を過ごしたし、いまだってパジャマ越しに彼女の美しい裸体を思い浮かべられる。
たまたま太ももに乗った彼女の手が偶然とは言わせない。カリッと先端を指で撫でて、俺の反応を楽しむように猫に似た瞳を向けてきたんだ。
はっきり分かったよ。発情する。彼女のそばにいるだけで、甘い香りを嗅ぐだけで、俺は勝手に発情するんだ。
もしかしたら彼女も同じ気持ちだったかもしれない。いや、きっとそうだ。千夏ちゃんと志穂さんが配膳を進めてゆくあいだに、彼女の指がゆっくりとズボンのなかに滑り込む。
「私、すごく真面目に勉強しているんです。成績も伸びてきて、志望校のランクを上げたんですよ」
「お、それはすごいな。茜ちゃんは前から頭が良かったもんね」
そう答えているあいだに、しっかと彼女の指がアレを包み込む。きめ細かな肌で握られて、ぎこちなく上下にシゴかれていくのをもどかしく思い、腰が勝手に浮き上がる。
あ、だめだ。それはだめだ。
ぼるんっと肉棒が勢いよく露わにされてしまい、首を左右に振ったのだが彼女はさらに顔を近づけてくる。ぺろりと首を舐められて、見えないけどぬるぬるの舌を俺は感じている。
ふと下を見ると前後にシゴかれていく生々しいアレがあり、視線に気づいたらしく彼女はカリの段差を指の輪っかですっぽりと包む。すぐに、ぬりぬりぬりッと小刻みに刺激されて、あっちには笑いかけてくる志穂さんがいて、近づいてくる射精感により視界がクラむのを感じた。
「に、苦手科目は?」
「んー、数学ですかね。答えを導く最短距離の法則がすぐに出てこなくて、無意味にコネくり回すときがあるんです」
ぬりぬりと先端に先走り汁を塗りたくり、彼女はあどけなく清楚に笑いかけてくる。
初めて見たときは星降るような美しい瞳だと思ったし、いまもまったく同じことを思っている。その瞳が真っすぐ俺を見ており、さらにその奥、こちらの射精感を暴こうとしているのは明白だ。
あ、だめだ、だめ。
そういう意味で彼女の袖を引いたのだが、隙を見て彼女はふっくらとした唇を寄せてくる。温かい吐息を耳に感じて、ぼそぉっと「出して」と耳の奥に直接命じてきた。
途端に腰が勝手にグイと上がり、女子高生の指に握られたままビュッと勢いよく吐き出す。繊細な彼女の指にビュッビュッと尚も精液を当てて、ねとついた下品な液体で塗りたくってゆく様子がここから丸見えだ。
背徳的でありながら、そのあいだも俺の耳に「ビュウーッ、ビューッ」と射精感に合わせて囁いてくるものだから、なかなか射精が止まってくれない。たまらず俺は声も出せずに喘ぐ。
はっはっと浅い呼吸を繰り返すなか、彼女の見とれるほど美しい瞳と見つめ合う。
うるんでおり、また上気した頬がはっきりと彼女の欲情を示している。だぶついた色気の少ないパジャマ越しでも分かる。両手でザーメンを溜めている茜ちゃんはいま発情しており、恐らくはぬくぬくの液体がそうさせている。
一段階ほど彼女は色気を増す。
化粧をしておらずとも鮮やかになったのを感じたし、もうっとした甘い香りを解き放ってもいた。肺一杯まで俺に嗅がせて脳髄を溶けさせるために。
俺はもう彼女から絶対に離れらない。寝ても覚めても茜ちゃんのことばかり思っており、気づいたら彼女の喜んでくれそうなものを考えている。こんなの骨の髄まで魅了されていると同義じゃないか。
不意に彼女はふっくらとした唇を寄せて、こう囁いてきた。
「ま、た、あ、と、で」
俺にしか聞こえない声でそう言い、またも俺の目を覗き込む。しっかりと魅了できているか。私からずっと離れられないかどうかを確かめるように。執拗だと思ったけれど、なぜか俺はそれを心地良いと感じていた。
満足したのか年相応の笑みを浮かべて茜ちゃんは身を離す。
「私、ちょっとお手洗いに行ってきます。徹さん、あとで肩を揉んでくれません? 受験生ってとても肩が凝るんですよ」
ああ、と脱力しかけた声を漏らす。
恐らくまだ顔が赤いだろうし、驚くほどたくさんの射精をした後遺症というべきか、腰全体がまだジンとしびれてしまっている。ズボンを元の位置に戻すのもなかなか難しい作業だった。
もう一人「ええ」とか細い声で返事をする女性もいた。
彼女は徹以上に顔を真っ赤に染めており、お皿への盛りつけがどうもおぼつかない。震える調理箸で何度かおかずを落としつつ、どうにかこうにか夕飯の準備を済ます。
最後に、ふううと熱っぽい息を吐いていた。
その向こうでは千夏ちゃんが「あー」と分かったような顔をしていたけれど、恐らくは彼女の予想通りだったろう。
こうして無言のなかで天童寺家の夜はゆっくりと更けてゆく。
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