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第一章 無能とヴァネッサと召喚獣
第24話 午前の部
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翌朝8時。
深夜から未明にかけて自室のドアを修理した結果、睡眠時間1時間という絶不調の状態で中庭に立つ。
一方のヴァネッサは元気そうだ。彼女も4、5時間しか寝ていないはずだが問題ないらしい。
「おはよう」
「おはようございます」
「ワン」
お辞儀をする。太陽を背に朝の挨拶など学生ぶりだ。オフィスのおはようはドンよりしていて好きじゃないのよね。
「本日より貴様の午前は私が頂く。ただし強制ではない。いつでも反故は可能だ。あくまで私は選択肢を示すだけで決めるのは貴様だ」
「はぁ」
惚けた返事をしたが、内心驚きでいっぱいだった。
ヴァネッサではない。ウィンター王だ。草食メガネによる暴走があったにも関わらず、他の召喚者への締め付けは緩いままなのだ。
ただでさえガバガバなんだ。メガネの過失致死を理由に強制力を発揮しても違和感ない。
だのにあくまで召喚者の自主性を尊重する始末だ。狙いが分からない。行動を無理強いすればシードの成長が遅くなるとかあるのだろうか。
理由なき自由は恐怖さえ覚えるというのに。
「貴様にやってもらうのは単純にして明快。ずばり体力強化だ」
「体力強化、ですか」
「ああ。時にイケダ、もし貴様の前に敵の兵士が現れたとする。貴様はどうする」
「そうですね、逃げるかな」
「……………」
突然不機嫌な顔になった。どうやら望んだ回答ではなかったようだ。
「……どのように逃げる?」
「それは、全力で走ってですかね」
「日頃から訓練を重ねる兵士が貴様に追いつけぬと思うか」
「…………思わないですね」
「そういうことだ。逃げるのはいい。だが逃げきれなければ意味はない。つまり最終的に生死を決めるのは持久力だ。前提として相手より体力がなければ話にならないということ」
なるほど。だからこそ体力強化か。
全面的に賛同とは言えないが、持久力の大切さは同意する。
「おっしゃることは理解できます。ただ私には召喚魔法もあるので――」
「それだ」
我が意を得たりを言わんばかりに前のめりとなる。
何事だ。
「魔法は強力だ。ゆえに術者は魔法の研鑽に身を費やし、自身の身体は放置する傾向が強い。これは非常に危険な考えだ。何故なら魔法は万能でなく、通用しなかったり魔力の枯渇で使用不能となる場合もある。そんな状況に陥った時、果たして打開しうる力を持ち合わせているかということ。ゆえに体力強化は魔法使いに必須と、私は考える」
「なるほど」
合点がいった。
ヴァネッサとしては最初に"召喚魔法で敵を倒すよ~"と言ってもらいたかったようだ。そして倒せなかったときどうする?という話に持っていき、戦うにも逃げるにも体力は必要だ、という結論に落とし込む予定だった。
それを俺が、最初から逃げるなどと言うから若干不機嫌になった。つまりそういうことだろう。
黒髪ロング殺人事件は解けずとも、この程度は問題ない。ああ問題ないさ。
「承知しました。ヴァネッサさんに従います。ご指導ご鞭撻のほどお願いいたします」
「よし、いいだろう。初めに断っておくが、1日2日で身につくものではない。長期間の継続が必要だ。そして1日訓練を怠れば、取り返すのに3日かかると思え」
「承知です」
「では軽く身体をほぐした後、早速始めよう。まずは激しい運動に耐えうる身体を作る。30分走って10分休憩、これを6セット。留意点は2つ。早く走らなくていいから一定のペースを保つこと。休憩中は歩くこと。それともう走れないとなったら、早歩きに移行してよい。質問は?」
「ないです。いきましょう」
こうして午前の部が始まった。
深夜から未明にかけて自室のドアを修理した結果、睡眠時間1時間という絶不調の状態で中庭に立つ。
一方のヴァネッサは元気そうだ。彼女も4、5時間しか寝ていないはずだが問題ないらしい。
「おはよう」
「おはようございます」
「ワン」
お辞儀をする。太陽を背に朝の挨拶など学生ぶりだ。オフィスのおはようはドンよりしていて好きじゃないのよね。
「本日より貴様の午前は私が頂く。ただし強制ではない。いつでも反故は可能だ。あくまで私は選択肢を示すだけで決めるのは貴様だ」
「はぁ」
惚けた返事をしたが、内心驚きでいっぱいだった。
ヴァネッサではない。ウィンター王だ。草食メガネによる暴走があったにも関わらず、他の召喚者への締め付けは緩いままなのだ。
ただでさえガバガバなんだ。メガネの過失致死を理由に強制力を発揮しても違和感ない。
だのにあくまで召喚者の自主性を尊重する始末だ。狙いが分からない。行動を無理強いすればシードの成長が遅くなるとかあるのだろうか。
理由なき自由は恐怖さえ覚えるというのに。
「貴様にやってもらうのは単純にして明快。ずばり体力強化だ」
「体力強化、ですか」
「ああ。時にイケダ、もし貴様の前に敵の兵士が現れたとする。貴様はどうする」
「そうですね、逃げるかな」
「……………」
突然不機嫌な顔になった。どうやら望んだ回答ではなかったようだ。
「……どのように逃げる?」
「それは、全力で走ってですかね」
「日頃から訓練を重ねる兵士が貴様に追いつけぬと思うか」
「…………思わないですね」
「そういうことだ。逃げるのはいい。だが逃げきれなければ意味はない。つまり最終的に生死を決めるのは持久力だ。前提として相手より体力がなければ話にならないということ」
なるほど。だからこそ体力強化か。
全面的に賛同とは言えないが、持久力の大切さは同意する。
「おっしゃることは理解できます。ただ私には召喚魔法もあるので――」
「それだ」
我が意を得たりを言わんばかりに前のめりとなる。
何事だ。
「魔法は強力だ。ゆえに術者は魔法の研鑽に身を費やし、自身の身体は放置する傾向が強い。これは非常に危険な考えだ。何故なら魔法は万能でなく、通用しなかったり魔力の枯渇で使用不能となる場合もある。そんな状況に陥った時、果たして打開しうる力を持ち合わせているかということ。ゆえに体力強化は魔法使いに必須と、私は考える」
「なるほど」
合点がいった。
ヴァネッサとしては最初に"召喚魔法で敵を倒すよ~"と言ってもらいたかったようだ。そして倒せなかったときどうする?という話に持っていき、戦うにも逃げるにも体力は必要だ、という結論に落とし込む予定だった。
それを俺が、最初から逃げるなどと言うから若干不機嫌になった。つまりそういうことだろう。
黒髪ロング殺人事件は解けずとも、この程度は問題ない。ああ問題ないさ。
「承知しました。ヴァネッサさんに従います。ご指導ご鞭撻のほどお願いいたします」
「よし、いいだろう。初めに断っておくが、1日2日で身につくものではない。長期間の継続が必要だ。そして1日訓練を怠れば、取り返すのに3日かかると思え」
「承知です」
「では軽く身体をほぐした後、早速始めよう。まずは激しい運動に耐えうる身体を作る。30分走って10分休憩、これを6セット。留意点は2つ。早く走らなくていいから一定のペースを保つこと。休憩中は歩くこと。それともう走れないとなったら、早歩きに移行してよい。質問は?」
「ないです。いきましょう」
こうして午前の部が始まった。
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