俺の召喚スキル、完全にバグってるんだが

FAT殿下

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第一章 無能とヴァネッサと召喚獣

第18話 召喚魔法

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 夜。無音。自室にて。

 風呂と食事を終えた俺は備え付けのベッドに横たわっていた。ちなみに風呂は大浴場、夕食はビーフシチューっぽいやつだった。とても美味しかった。高級ホテルのVIP待遇かな。

「ふぅ…………」

 一息つく。

 不思議と眠気はやってこない。激動の一日と言ってよい内容だ。興奮と緊張が続いているのだろうか。

「うーん……よっと」

 ベッドから跳ね起きる。睡魔が訪れるまで何かしようか。

 選択肢は3つ。今日の出来事について振り返るか、ジャパニーズのいずれかに会いに行くか、それとも。

「………やっぱ気になるよな」

 テーブルの上で己が存在を主張する分厚い本を手に取る。

 召喚の魔法書。もちろんタイトルは変わっていない。

「…………まぁ、予習ということで」

 本格的な訓練やら検証やらは明日からだろう。指南役のヴァネッサ・リンドブルムが召喚魔法の使い手とは到底思えないが、何かしらのカリキュラムは考えていると思われる。ゆえに予習。何も間違っていない。

 とりあえず表紙をめくってみる。

「ん?んー…」

 最初のページは目次かと思ったが、くねくねくねと長ったらしい文章が目に入った。どうやら1ページ目から本編らしい。

 簡単に目を通す。


「………んー…………ん………なるほど」

 どうやら、やること順に記載されているようだ。まず初めに召喚対象を決めて召喚してみる。次に召喚したモノに名前を付ける。その次は…といった具合だ。

 結構ラフな文章だがこんなものなのだろうか。おっさん作家特有の堅苦しさがない。

 驚きポイントはそこだけではなかった。なんと第一章とも呼べる「召喚対象を決めて召喚してみよう」だけで全ページの半数を占めていたのだ。

 理由は明白。召喚対象と思しき名前の羅列がこれでもかと言うほど続いていたからだ。凄まじい数である。

「この中から選べと………」

 適当にパラパラめくる。アクラフ………オークメイジ………バタフライエフェクト………コボルトファイター…………聞いたことがあったりなかったりだ。

「んー………ん?」

 めくっていて気付いた。どうやら、あいうえお順ではないようだ。どんな順番で並んでいるのだろう。

 何かヒントはないかと1ページ目に戻り、今度はしっかり読み込む。

「………………………ないな」

 残念ながら召喚対象の記載順に関しては載っていなかった。ただし、新たに以下のことが分かった。


 ◆初めて召喚魔法を使うあなたへ◆
 ・まずはリストから召喚対象を選びましょう。悩む必要はありません。直観こそが素晴らしい出会いの第一歩です。
 ・召喚対象を選んだら、その名称を声高に叫びましょう。今だけは世間体を無視して大声で喚き散らしてね。
 ・あなたの選んだモノが召喚されたら成功です。もし召喚できなければ、あなたの魔力が足りていない証拠です。魔力アップに努めるか、他の対象を選んでください。


「………………ふーん」

 相変わらずお茶目な文章だ。女子大生が書いたのだろうか。もちろんこの世界にいれば、の話だが。

「魔力か」

 どうやら召喚魔法を行使するには魔力が必要らしい。

 俺は魔力を持っているのだろうか。日本時代を考えたら無いと断言できる。だがシードからは召喚魔法が生み出されたのだ。つまり召喚魔法が扱える=魔力がある、ということにはならないか。

「うーん……」

 下手な考え休むに似たりかな。召喚対象を声高に叫んでしまえば答えは明白だ。

 とはいえ1人でやるのは怖い。召喚したモンスターに"主を殺せばオレは自由なんじゃ~"と逆襲されるかもしれない。そういう展開の漫画見たことある。

 とりま、明日ヴァネッサのいるところで召喚してみよう。


「まぁ……今日は眠くなるまで…………」

 適当に召喚対象を眺めていよう。ドラゴンとか載ってないかな。

 ぱらぱら。ぱらぱら。

 あ、ゴブリン発見。

 ぱらぱら。ぱらぱら。

 お、ゴーレムいた。

 ぱらぱら。ぱらぱら。

 ファントム。強そう。

 ぱらぱら。ぱらぱら。

「ん……最後か。え…………………みかん箱の、主?いやこれって……」

 次の瞬間。

 召喚の魔法書から輝きが放たれた。

「ちょ、うお」

 一泊遅れて俺は悟る。もしかして、やってしまったのかと。


 -----------------------------------------------------------------
 召喚対象:みかん箱の主
 魔力確認:クリア
 最終確認:クリア
 -----------------------------------------------------------------


 突如として目の前に文字列が現れた。やだこれ、空中に浮いている。平成生まれの俺には過ぎたテクノロジーだ。

 魔法書からの輝きが最高潮に達する。それと共に体中から力が抜ける感覚を覚えた。何か大事なものが抜き取られていくような悪寒の走る現象である。

「う、お………」

 必至に我慢する。対抗するすべはない。


 そうして体感5分程度の忍耐が続き、ようやく光が収まった。身体を走る悪寒も消えている。

「はぁ…………なによ」

 無様に床へ倒れこんだ身体を起こす。1日に5度も神秘的な輝きに晒されるなど経験したことがない。

 何が起きたのか。見当はついている。

 ただし歓迎すべき事態ではない。なんでこうなる。

「声高に叫べというのはブラフだったのか」

 恐らく召喚してしまったのだろう。名を読んだことで。偶然にして。こんなにもあっさりと。

 ヒューマンエラー対策が取られていないぞ。名を読んだ後に確認ウィンドウを出すとかやってくれないかね。こんなもん事故多発案件よ。

 部屋の中を見渡す。推測が正しければ"いる"はずだ。

「……………………いた」

 というか"あった"。

 入口付近の床へこれ見よがしに置かれている。

 よく見るサイズのみかん箱。

 側面には大きなみかんの絵と共に「みかんの近藤」とデフォルメされている。

 みかん箱の主に間違いあるまい。

「みかんを召喚したのか……」

 いや違う。召喚対象がみかんなら、魔法書には"みかん"もしくは"~のみかん"と記載されるはず。みかん箱の主と明記する以上、みかんが入っている可能性はほぼ無い。

 恐る恐るみかん箱に近づく。近くで見たとて平凡なみかん箱に変わりない。生協とかで売ってるやつ。

 上部にガムテープはされていない。そのまま開けられるようだ。

「……………」

 開けるか?開けるしかないだろう。

 危険物を取り扱うように慎重な手つきでフラップを上げた。

「あ…………」

 そこにいたのは。


「……………」

「……………」

「……………」

「…………………………………ワン」

 いぬ。紛うことなき犬。圧倒的いぬ。信じられない程みかん箱が似合う犬。

 見た目は薄茶色と白のコントラストが映える柴犬、もしくは秋田犬だ。ただし特徴的な部分が1か所ある。

 めちゃめちゃブサイク。前世でどんな悪行をしたらこうなるのか分からぬ神様の采配。かわいいという意味で用いるブサイク犬ではなく、正真正銘のブサイクだ。

「お前が、みかん箱の主か」

「ワン」

「そうか…………」

 そりゃあ主か。こんなブサイク犬を拾ってくれる人などいない。

 まさか、みかん箱の主=捨て犬とは思わなんだよ。

「はぁ……………」

 どうしよう。

「…………とりあえず寝るか」

 都合よく眠気が襲ってきた。こんな訳の分からない状況の時は寝るに限る。

 ベッドにいそいそと潜り込む。犬も一緒に入ってきた。

 まぁなんでもいいよ。

「おやすみ………」

 眼を閉じる。意識は一瞬で闇に落ちた。

 こうして召喚魔法は成功?に終わることとなる。












 そして翌日。

 アズマ・トレノが遺体で発見された。
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