1 / 3
ぼくのついた嘘
しおりを挟む
ぼく、植木 正也(ウエキ マサヤ)はガタン、ガタンと揺れる電車に乗りながら、窓の外をぼんやり眺めていた。
車窓から見える景色には、だんだんと建物が少なくなってきて、夕日が外の木々を赤く染めていた。
そんな夕暮れ時の景色を見て、ぼくは君のことを思い出していた……。
♢♢
君とクラスメートになって、抱いた第一印象は「強い人」だった。
君、添島 直(ソエジマ ナオ)はいつも実直で真っ直ぐだった。
あるときなんて、友達が教師に揶揄われてクラスで笑い者にされたからって、君は教師にさえ食ってかかったっけ。
ぼくは君とたまに話すくらいだったけど、君のそんな所に惹かれていった。
高校1年生の秋、ぼくは君に告白をした。
君はすごく驚いた顔をしていて、ぼくはそれがなんだか面白くて笑ってしまった。
君と一緒に過ごすうちに、ぼくは君をより好きになっていった。もっと真面目なんだと思ってたけど、打ち解けるうちに意外に抜けてるところとか、女の子らしいところとか、新しい一面をたくさん見つけた。
一度だけぼくが他愛のない嘘をついたとき、君はすごく怒っていたね。
けど、そのあとも君はぼくと一緒にいてくれた。
高校3年生のとき、ぼくが県外の大学に行くことになっても、君は「行かないで」とは言わず「頑張ってね」と言ってくれた。ただ一言「寂しくなるね」とだけ言って、ぼくを見送ってくれた。
そんなことを思い出しながら電車に揺られていると、ぼくは眠くなってきてしばらく眠った。
♢♢
夢を見た。
大学2年生の5月、ぼくが帰省したときの夢だった。
ナオが泣いている。
このときナオに「会おう」と言われて会いにきたら、いきなり泣いてしまったからぼくはひどく狼狽えていた。
だってナオの泣き顔なんて一度も見たことなかったから……。
「どうしたの?」
とぼくが聞くと、ナオは「ごめんなさい」と謝った。
そして、
「あなたと別れたいの」
とナオは言った。
突然のことに驚いて「どうして?」と尋ねるぼくに
君は、
「あなたに会えないのが凄く寂しい。……もうこの寂しい気持ちに嘘はつけない」
と泣きながら答えた。
ぼくはナオのことが本当に好きだった。だからナオを引き止めたかった。けど、ぼくはナオを引き止める言葉を何も言えなかった。
だって、ナオがこんなにも寂しがっていることを、ナオの本当の気持ちをぼくはこのとき初めて知ったんだ。だからぼくにそんな資格はないと思った。
ぼくは、
「ごめんね」
とだけ言った。
ナオは顔を上げて「ううん」と首を振った。
ぼくは最後に何か言いたくて、でも何も思いつかなくてナオに言った。
「これまでありがとう。それじゃあ、またね」
ぼくは君に嘘をついた。もう会えないと分かっていたのに。君の嫌いな嘘を。
けど君は微笑んで、「うん」と頷いてくれた。
♢♢
ぼくは目を覚ました。
電車の外を見ると、見慣れた景色が見えてきた。そろそろ降りる駅も近いようだ。
電車を降りたら最初に君に会いに行こう。
あのとき言えなかった本当の気持ちを伝えに……。
♢♢
車窓から見える景色には、だんだんと建物が少なくなってきて、夕日が外の木々を赤く染めていた。
そんな夕暮れ時の景色を見て、ぼくは君のことを思い出していた……。
♢♢
君とクラスメートになって、抱いた第一印象は「強い人」だった。
君、添島 直(ソエジマ ナオ)はいつも実直で真っ直ぐだった。
あるときなんて、友達が教師に揶揄われてクラスで笑い者にされたからって、君は教師にさえ食ってかかったっけ。
ぼくは君とたまに話すくらいだったけど、君のそんな所に惹かれていった。
高校1年生の秋、ぼくは君に告白をした。
君はすごく驚いた顔をしていて、ぼくはそれがなんだか面白くて笑ってしまった。
君と一緒に過ごすうちに、ぼくは君をより好きになっていった。もっと真面目なんだと思ってたけど、打ち解けるうちに意外に抜けてるところとか、女の子らしいところとか、新しい一面をたくさん見つけた。
一度だけぼくが他愛のない嘘をついたとき、君はすごく怒っていたね。
けど、そのあとも君はぼくと一緒にいてくれた。
高校3年生のとき、ぼくが県外の大学に行くことになっても、君は「行かないで」とは言わず「頑張ってね」と言ってくれた。ただ一言「寂しくなるね」とだけ言って、ぼくを見送ってくれた。
そんなことを思い出しながら電車に揺られていると、ぼくは眠くなってきてしばらく眠った。
♢♢
夢を見た。
大学2年生の5月、ぼくが帰省したときの夢だった。
ナオが泣いている。
このときナオに「会おう」と言われて会いにきたら、いきなり泣いてしまったからぼくはひどく狼狽えていた。
だってナオの泣き顔なんて一度も見たことなかったから……。
「どうしたの?」
とぼくが聞くと、ナオは「ごめんなさい」と謝った。
そして、
「あなたと別れたいの」
とナオは言った。
突然のことに驚いて「どうして?」と尋ねるぼくに
君は、
「あなたに会えないのが凄く寂しい。……もうこの寂しい気持ちに嘘はつけない」
と泣きながら答えた。
ぼくはナオのことが本当に好きだった。だからナオを引き止めたかった。けど、ぼくはナオを引き止める言葉を何も言えなかった。
だって、ナオがこんなにも寂しがっていることを、ナオの本当の気持ちをぼくはこのとき初めて知ったんだ。だからぼくにそんな資格はないと思った。
ぼくは、
「ごめんね」
とだけ言った。
ナオは顔を上げて「ううん」と首を振った。
ぼくは最後に何か言いたくて、でも何も思いつかなくてナオに言った。
「これまでありがとう。それじゃあ、またね」
ぼくは君に嘘をついた。もう会えないと分かっていたのに。君の嫌いな嘘を。
けど君は微笑んで、「うん」と頷いてくれた。
♢♢
ぼくは目を覚ました。
電車の外を見ると、見慣れた景色が見えてきた。そろそろ降りる駅も近いようだ。
電車を降りたら最初に君に会いに行こう。
あのとき言えなかった本当の気持ちを伝えに……。
♢♢
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます
おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」
そう書き残してエアリーはいなくなった……
緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。
そう思っていたのに。
エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて……
※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。
夫を愛することはやめました。
杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
偶然なんてそんなもの
桃井すもも
恋愛
偶然だなんて、こんなよく出来たことってある?
巷で話題の小説も、令嬢達に人気の観劇も、秘めた話しの現場は図書室って相場が決まってる。
けれど目の前で愛を囁かれてるのは、私の婚約者なのだけれど!
ショートショート
「アダムとイヴ」
「ままならないのが恋心」
に連なります。どうぞそちらも合わせて二度お楽しみ下さい。
❇100%妄想の産物です。
❇あぁ~今日も頑張った、もう寝ようって頃にお気軽にお読み下さい。
私も、あぁ~今日も妄想海岸泳ぎ切った、もう寝ようって頃に書いてます。
❇妄想スイマーと共に遠泳下さる方にお楽しみ頂けますと泳ぎ甲斐があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる