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10話
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その夜、僕は楓に会いに行った。
僕が会いたいと伝えると、楓は時間も遅いから自分の部屋に来て欲しいと言った。
自分のことばかりで楓を怒らせたこと、言い訳ばかりして楓を蔑ろにしたことを謝りたかった。
受け身でいるばかりの自分を変えたいんだって伝えたかった。
「どうしたの? 急に会いたいって」
楓は僕に椅子に座るよう促して、自分はベッドのヘリに座った。
「この前のこと謝りたかったんだ。ごめん、自分のことばかりで楓を蔑ろにして」
「ううん、もう怒ってないよ。あのときは大輔が一緒にいるのに就活のことばかりだから、ちょっと寂しかっただけ」
「それに自分からは連絡もしないで、楓がくれた連絡にもあんな態度で……。ホントにごめん」
「ううん、連絡もね、大輔の邪魔しないように今日の面接が終わるまでしない方がよかったね。なのに、むしろ気を遣わせてごめんね」
「いや、僕が悪かったんだ。余裕がなくって、あんな風に」
「大輔にとっては正念場なんだから当たり前よ。私が勝手に苛立って大輔に当たってたの。ごめんなさい」
「ううん、決めたんだ! これからはもっと楓とちゃんと向き合って大切にするって。改めて分かったんだよ、普段どんなに支えられてるか。今日はそれが伝えたかったんだ」
僕は真っ直ぐ楓を見ながら言った。
「ふっ、ふふ……ふふふふふっ」
楓は突然笑い出した。
「な、なんで笑うんだよ!」
「ふふ、ははっ、はぁ……、ごめんね。だって大輔があんまり真剣な顔でドラマみたいなセリフ言うからおかしくって」
あんまり笑うから楓は少し息で肩を弾ませる。
僕はそう指摘されると、恥ずかしくて顔が熱くなって、思わず反論した。
「真剣な顔で、ってホントに真剣なんだよ」
「ふふ、うん、分かってる。……けど、あなたは一つ勘違いをしてる」
僕の必死な顔を見て、楓は悪戯っぽく笑った。
「……勘違いって?」
「あなたはこれまでも十分、私のこと大切にしてくれてたよ? この前はあんな事言ったけどね、けどあれはいつもより余裕が無かっただけ、でしょ?」
「それは……」
「それとも何? これまで私のことは大切じゃなかったの?」
楓はむっとした顔を作ってみせた。
「それは違うけど、そうじゃなくて……、これまでよりもっと大切にするから!」
「ふふ、うん。ありがと」
困った僕を見て嬉しそうに、楓はニッと笑った。
全く、敵わないや。
楓はいつも僕のことを、僕以上によく見ている。
そしていつも僕に、君の知ってる僕のことを教えてくれるんだ。
そのたび僕は前より少し自分のことが好きになって、君のことが前よりずっと愛おしくなる……。
♢♢
僕が会いたいと伝えると、楓は時間も遅いから自分の部屋に来て欲しいと言った。
自分のことばかりで楓を怒らせたこと、言い訳ばかりして楓を蔑ろにしたことを謝りたかった。
受け身でいるばかりの自分を変えたいんだって伝えたかった。
「どうしたの? 急に会いたいって」
楓は僕に椅子に座るよう促して、自分はベッドのヘリに座った。
「この前のこと謝りたかったんだ。ごめん、自分のことばかりで楓を蔑ろにして」
「ううん、もう怒ってないよ。あのときは大輔が一緒にいるのに就活のことばかりだから、ちょっと寂しかっただけ」
「それに自分からは連絡もしないで、楓がくれた連絡にもあんな態度で……。ホントにごめん」
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「ううん、決めたんだ! これからはもっと楓とちゃんと向き合って大切にするって。改めて分かったんだよ、普段どんなに支えられてるか。今日はそれが伝えたかったんだ」
僕は真っ直ぐ楓を見ながら言った。
「ふっ、ふふ……ふふふふふっ」
楓は突然笑い出した。
「な、なんで笑うんだよ!」
「ふふ、ははっ、はぁ……、ごめんね。だって大輔があんまり真剣な顔でドラマみたいなセリフ言うからおかしくって」
あんまり笑うから楓は少し息で肩を弾ませる。
僕はそう指摘されると、恥ずかしくて顔が熱くなって、思わず反論した。
「真剣な顔で、ってホントに真剣なんだよ」
「ふふ、うん、分かってる。……けど、あなたは一つ勘違いをしてる」
僕の必死な顔を見て、楓は悪戯っぽく笑った。
「……勘違いって?」
「あなたはこれまでも十分、私のこと大切にしてくれてたよ? この前はあんな事言ったけどね、けどあれはいつもより余裕が無かっただけ、でしょ?」
「それは……」
「それとも何? これまで私のことは大切じゃなかったの?」
楓はむっとした顔を作ってみせた。
「それは違うけど、そうじゃなくて……、これまでよりもっと大切にするから!」
「ふふ、うん。ありがと」
困った僕を見て嬉しそうに、楓はニッと笑った。
全く、敵わないや。
楓はいつも僕のことを、僕以上によく見ている。
そしていつも僕に、君の知ってる僕のことを教えてくれるんだ。
そのたび僕は前より少し自分のことが好きになって、君のことが前よりずっと愛おしくなる……。
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