似た者夫婦、初夜いくさ

織田三郎

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二人

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『誾千代、お前も呑まないか?』

しばらくして、統虎から意外とも言える誘いの言葉が掛かった。

誾千代は断ったが、再度の申し入れに心が揺らぎ、結局はその誘いを受け入れる事に決めた。

恐る恐るそばに行き腰を下ろすと、統虎が用意していたお猪口を手に取り勢いよく差し出してきた。

誾千代が受け取ると、統虎はそこに遠慮はなしとばかりに並々と酒を注いでいったのだった。

『コラコラ、いきなりこんなに呑めるか!』

『大丈夫さ。
 ほら、そのままグッと行きな』

半笑いの統虎に誾千代は半ば呆れながらも、元来は酒好きなので、それを見事一気に飲み干して見せた。

『ふーっ、こりゃ美味いのう!』

喉が乾いていたせいか、五臓六腑まで染み渡った酒の味に誾千代は思わず表情を緩めた。

そんな誾千代の姿に満足したのか、統虎は更に酒を注ぎ、どんどん飲み干すよう勧めたたのだった。

激しい戦いから一変、今二人は自分達だけの小さな酒宴を共にしていたー。


『誾千代は、宗麟様に会うた事はあるか?』

星空を眺めながら、不意に統虎がそう問うてきた。

『ああ、一度だけな。
 なんていうか、とても聡明なお方であった』

誾千代も同じく星空を見上げながら、主君・大友宗麟について答えていった。

『その宗麟様が以前、俺にこんな話をしてくれてな。
 それは、西洋の者達は星の海を見ながら旅に出る。
 そして星に導かれながら、各々の旅を終えるのだ、と』

『星の、海?』

『そう、星の海だ』

その話を聞き、誾千代はふと、こんなふうに思っていた。

今、自分達が見上げている夜空が、まさに星の海ではないかと。

こんな美しい星空に導かれながら、いろんな土地を旅する西洋人はなんて素敵なんだろうとも。

目を輝かせ、異国人に思いを馳せる誾千代に、統虎は続けてこう話していった。

『俺もいつか、そんな旅がしてみたい。
 目的などなく、先はどうなるか分からない旅・・・
 星の導くまま、気の向くまま。
 これぞ、まさに男の旅じゃないか!
 お前もそう思わないか、誾千代』

力強くそう語る統虎に、誾千代は大きく頷き、その壮大さと素晴らしさに心からの同意を示した。

『最高だよ、統虎。
 我も星の海に導かれながら、自由に旅をしてみたい。
 それができれば、なんて幸せな事だろう』

二人はいつしか意気投合し、お互い酒を注ぎ合いながら大いに酒宴を楽しむようになっていた。

そんな宴が盛り上がっている最中、何気にお猪口を置いた統虎が急に真顔になって誾千代の顔を見つめた。

何事かと思っている誾千代に、統虎は今後の重要課題について語り始めたのである。

『いずれ近いうちに、島津や龍造寺とは雌雄を決する事になろう。
 両軍共に強敵であり、一筋縄ではいかぬであろうが、俺は決して負けはせぬ!
 例え腕一本足一本失おうが、必ずや宗麟様を御守りいたす。
 そして、立花と高橋もこの手で絶対に守り通して見せる!!』

統虎による突然の決意表明に、聞いていた誾千代の血がメラメラと熱くなった。

そして握り拳を作り、自身の胸をドンと叩いて統虎の思いに応えていった。

『よくぞ言うた、統虎!
 我も、そなたと全く同じ考えじゃ。
 こうなれば二人力を合わせ、薩摩の芋野郎や龍造寺の小熊共を一人残らず叩きのめしてやろうじゃないか!』

『ならば、誾千代。
 済まぬが、表向きは俺に従うてくれぬか?
 内向きは、お前が城主のままでいい。
 だが、敵との戦いに際しては妻として、俺に号令を掛けさせてくれ。
 今言った通り、俺は絶対に負けはしない!
 この言葉を信じ、どうか力を貸してくれ』

統虎はそう言って、深々と頭を下げた。

それを見た誾千代もまた覚悟を決め、立花家の一切を統虎に任せる旨を伝えたのであった。

ここに、二人は正式に夫婦としての第一歩を踏み出したのである。

さて、一気に和解が進むと、それまで気付かなかった事がお互い色々と見えて来るもの。

統虎は誾千代を見て、改めてその女らしさに男心を揺さぶられていた。

透き通るような白い肌、唆るうなじ、そして時折垣間見えるふくよかな胸・・・

元々美形の誾千代が、酒によって一段と艶やかな色気を醸し出していたのだ。

(何と、美しいおなごであろうか・・・)

統虎は率直にそう思い、今更ながら誾千代を妻に持てた事に喜びを噛み締めていたのだった。

方や、誾千代も同じく、統虎に女心を鷲掴みされていたのであった。

広い肩幅、厚い胸板、まさに戦う男ならではの立派な肉体・・・

凛とした顔付きは、実父である高橋紹運譲りの男前だと言えた。

(何と、凛々しい男であろうか・・・)

誾千代もまた素直にそう思い、統虎を夫に持てた事に大きな幸せを感じていたのであった。

『さあ、これから朝まで呑みまくるぞ!
 いいな、誾千代!』

『おう!
 ジャンジャン呑もうぞ、統虎!』

それから二人は肩を抱き合い、本当に夜が明けるまで酒宴に花を添えていったのであるー。


そして、明くる朝。

統虎御付きの近習が、目覚めの挨拶にやって来た。

『殿、卯の刻にござりまする。
 お目覚めにござりましょうか?』

いつも通りに言葉を掛けても、なぜかうんともすんとも返事がない。

不審に思った近習は無礼と思いつつ、そっと障子を開け中の様子を伺うことにした。

すると、ビックリ仰天!

はちゃめちゃになった寝所の真ん中で、統虎と誾千代が寄り添うようにしてぐっすりと眠り込んでいたのだ。

ふんどし姿で、大の字になっている統虎。

その胸に、ピタリと顔を寄せている誾千代。

見ると二人はこれ以上ない、とても穏やかで幸せそうな表情を浮かべていた。

近習は起こすのは止め、静かに寝所から出て行く事にした。

何があったなんて、聞くだけ野暮。

ただし、これだけは強く確信を持っていた。

多分・・・契りは今宵までお預けなんだろうな、と。

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