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第59話

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 無言のまま夕食を食べ終えた俺は、居たたまれない空気から逃れるように家を出た。

 くそっ、あんなところをエスタに見られてしまうなんて……。

 今思い出しても顔から火が出そうなくらいに恥ずかしい。

 結局、エスタに邪魔されたせいで溜まっているものも発散できずに、もやもやした気分だけがさらに募る。

 しかもよりによって、今日の夕食は熊肉の赤ワイン煮込みだったので無駄に精力がついちまったじゃないか。

 ちなみに食材の熊肉は、この前アルティナが弓矢で瞬殺したものだ。

 そもそも、あのクエストについては、まだパーティーメンバーではなかったアルティナが熊を退治したということで、引き受けた俺たちが達成したということにはならなかった。

 なので、当然クエストの報酬もなし。その代わり、仕留めた熊は持ち帰ることができたので、それが夕食の一品として出てきたというわけだ。

 性欲が溜まりに溜まっているところに、熊肉によってさらに精力が増強した今の俺をもはや誰も止めることはできない。

 とにかく家を出た俺は、無意識のうちに繁華街の方へと足が向いたのだった。

   ※   ※   ※
 
 商工業で栄えるここウォーター市には、この地方で随一の《ひがし一番街》と呼ばれる歓楽街がある。

 そのメインストリート沿いには、飲み屋やいかがわしい雰囲気のお店が軒を連ねていて、人間だけではなく獣人やエルフ、ドワーフから魔族っぽい者まで多種多様な人々が行き交っている。

 夜にここを歩くのは初めてなのだが、こんなにも賑わっているとは知らなかった。物珍しさもあってきょろきょろしながら歩いていると、色々なお店の看板が目に飛び込んでくる。

『ヌけないのブタ』

『性器絶叫ティンポギア』

『事実パイ専』

『まちナカらぞく』

『性感帯これくしょん』

『あの日見た花ビラの臭いを僕達はまた嗅ぎたい』

 ど、どれもすごい名前のお店だな。一体何をするお店なのだろう……。

 やっぱりエッチなお姉さんがいて、をするお店なのだろうか。

「よっ、お兄さん! どうです、スッキリしていきませんか?」

 そう声を掛けられて振り向くと、そこには爬虫類を思わせる青くつるっとした顔つきの男がもみ手をして立っていた。

 見た目からして、獣人族の中でもリザードマンか何かのようだ。

「いいが揃ってますよ! 今ならワンタイム40フリンぽっきり!」

 そう言って男は後ろにあるお店を指差した。

『マンガ鉄道69』

 …………。

「あっ、いえ、結構です……」

 こんなの、店名からして入りたくないわ!

 しかもこの客引きの男から察するに、サービスするお店の女の子も、どうせトカゲみたいな顔をした子ばっかりじゃないのか。

「大きな声じゃ言えないけどもありですよ。どうです、今から?」

 男は顔を近づけて耳元でそう囁いた。

 下卑た笑みを浮かべる口元からぺろりと出る舌が何とも気持ち悪い。

「……いえ、本当に結構ですから!」

 俺は語気を強めて断りそそくさと立ち去ろうとすると、男にぐいっと肩を掴まれた。

「いいから遊んでいきなよ、お兄さん」

 さっきまでの愛想のいい声音から一転、ドスの効いた声で凄んできた。

 こ、こっわ!

「い、いや、その……俺、未成年なんで……」
「なぁに、平気平気。黙ってりゃ大丈夫だって。な、だから遊んでいきな」

 男は爬虫類特有の縦長の瞳孔をさらに細めて掴んだ手に力を込めた。

 ダメだ、もう断れない……。

「こぉ~らぁ~、強引に勧誘しちゃあだぁ~め。彼、怯えてるじゃないのぉ~!」

 男の背後から色っぽい女の人の声がした。

「あぁん!? んだと、コラァ! 誰に向かって……あ、ヴィニ姐さん!」

 怒声とともに振り返った男は、女の人を見ると急に態度を変えてヘコへコしだした。

 ヴィニ姐さんと呼ばれたその女の人を見て俺はハッと息を飲む。

 まず目に飛び込んできたのは、着ているネグリジェのような服から今にもはみだしそうな、圧倒的な存在感のあるおっぱい。この大きさの前では、由依ちゃんやアナスタシアの胸でさえ霞んでしまうほどだ。

 そして、腰まで伸びた艶のあるパープルブロンドの髪が、歓楽街の明かりに照らされて妖しく輝いている。

 エロい。とにかくエロい。

「もっとぉ~、優しくしないとぉ~、お客さん来ないんだぞぉ~♡」

 ヴィニ姐さんはそう言って、俺の肩を掴んでいた男の手に艶めかしく触れると、ひょいと払いのけた。

「姐さんにそう言われちゃ敵わねぇや。サーセンした!」

 男はばつが悪そうに頭を下げると、そそくさとその場を立ち去って行った。

 あの強引な客引きをこうもあっさりとあしらってしまうなんて、このお姐さん一体何者なの!?
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