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第57話

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「じゃーん! 皆の者、これが目に入らぬか!」

 俺はドヤ顔でパイフォンを掲げた。

 パイフォンというのはマジカルフォンのひとつで、この世界でのスマホみたいなものだ。

 ちなみに、マジカルフォンは略してマジホと呼ばれていたりもする。

 そのマジカルフォンはというと、マギニウムという魔力を帯びた金属を薄い板状に加工したもので、どういう原理なのかはよく分からないが、魔力を使って他人と通信することができる優れものだ。

 以前、ボンクエのお姉さんが使っているのを見てずっと気になっていたのだが、ようやくそれを手に入れることができた。

 パイフォンはパイナポーストアで購入するのだが、どうせならということで一番いいものを買っちゃいました。

 そのお値段、なんと2000フリン! こっちの世界のスマホもかなり高いのだ。

 しかもマジホを使用するには、元いた世界のようにキャリアと契約する必要がある。そこで俺は、キャリアの中でも一番メジャーなドギモで契約をした。

 料金プランはヤリホーダイというもので、月々コミコミで60フリンと、これもまぁ元の世界と同じようなものか。そこへさらに、端末の分割支払い分100フリンほどが上乗せされる。

 そういうわけで、俺はようやく手に入れたパイフォンを、パーティーのみんなにドヤ顔で見せびらかしているというわけだ。

「どうだ、最新型のパイフォン15プロデラックスだぞ!」

 さぁお前らよ、俺の前にひれ伏すがいい。

「ん? それがどうかしたのか?」
「旦那様よ、金がないというのにそんな無駄に高いやつを買いおって」
「何ドヤってんの? うっざ」

 えっ? 何だかみんなの反応がすこぶる鈍いのだが。

「お、おい、お前らよく見ろよ、最新モデルだぞ! パイフォン15で、しかもプロデラックスなんだぞ!」

 俺はもっと食いついてよと、みんなの前でパイフォンを振りかざす。

「……マジうざい。そんなのあたしも持ってんだけど」

 ソファにごろんと横になり、お菓子を食べながらの薄い本を読んでいたアルティナが、面倒臭そうに着ている制服のポケットからパイフォンを取り出して見せた。

 そんな本をこんな所で堂々と読むなっての。

 その上、何てだらしのない格好をしているんだ。み、見えちゃうよ?

 アルティナはこの前の騒動以来、実家には帰りたくないという理由からエスタの家に転がりこんでいる。

 しかもボンクエへの登録も済ませて、しれっと俺たちのパーティである《チェリー&ヴァージン》にも加わっていた。

 ちなみにカリントーはというと、出産までギガセクスが面倒を見るらしい。まぁ孕ませたのだから当然と言えば当然だ。

 それはともかく、アルティナもパイフォン15プロデラックスを持っていたとは、何だかちょっと悔しい。おまけに容量が1テラマギと、256ギガマギの俺よりも上だなんて。

 このマギというのは魔力量の単位のことで、要するにバイトということだな。

「パイフォンなら私も持っているぞ、13だが」
「我もパイフォンではないがマジカルフォンは持っておる」

 アナスタシアとエスタがそれぞれマジカルフォンを取り出した。

「えっ、みんなマジカルフォン持ってたの?」
「うむ。皆とは番号を交換して、LINNEリンネのメンバーでやり取りもしておる」

 そう言って、エスタがマジカルフォンの画面を見せてきた。

「LINNEのメンバー? 何だそれは」
「うっわ、ダサっ。そんなことも知らないって超ウケるんですけど」

 アルティナが小馬鹿にするように笑った。

 こいつのギャルっぽい言動にはイラッとくるものがある。

「LINNEとはマジカルフォンを使用したコミュニケーションツールのことで、それを使ってメッセージや通話ができるのじゃ。そしてメンバーとはそのツールにある機能で、登録してある友達同士でメンバーを作りメッセージのやり取りをするというものじゃな」

 こういう時、エスタは丁寧に説明してくれるのでありがたい。

 けどそれってつまり、元いた世界のあのSNSみたいなものだよな。

 ていうかこいつら、俺の知らないところでそんなSNSのやり取りまでしていたなんて、もうすっかり仲良くなってんじゃん。

 くそぉ、俺だけが仲間外れだったってことかよ。

「あ、あのさ、お前ら。俺もそのLINNEのメンバーってやつに入れて欲しいんだけど……」

 俺は涙混じりに懇願したのだった。

   ※   ※   ※

 よし、まずはLINNEをダウンロードしてアカウントを作成っと。

「それじゃあ、お前らと友達登録を……」
「はぁ? 何であたしがあんたなんかと友達登録しなくちゃいけないわけ?」

 アルティナが露骨に嫌そうな顔をした。

 おい、それ一番傷つくやつだからね?

「別にこれでやり取りしなくても、用があれば直接話をすればいいだろう」

 アナスタシアはアナスタシアで、身も蓋もない正論でやんわり拒絶した。

 これも地味に傷つくんだけど……。

「我は大歓迎じゃぞ。その代わり、これにサインするのじゃ。家族割になるからの」

 エスタが下衆な顔つきで婚姻届をひらひらさせる。

 くそぉ……、どいつもこいつも。

 もうこうなったら、プライドをかなぐり捨ててあれをやるしかない!

「みなさん、どうか友達登録してください! お願いします!」

 俺は勢いよく土下座して額を床に擦り付けた。

「うっわ、キモっ!」
「哀れな男だな……」
「旦那様よ、何もそこまでしなくとも」

 わずかなプライドと引き換えに、俺は三人との友達登録に成功した。

 ――ペコッ。

『うっざ』

 間の抜けた効果音とともに、LINNEのトーク画面に何やら男同士が見つめ合うイラストが描かれたアイコンとメッセージが表示された。

 このセリフとアイコンで誰なのかは一目瞭然だ。

 LINNEでの名前は《フェニックス》というようだが、その意味は当然の方のスラングなのだろう。

 ――ペコッ。 

『よろしく頼む』

 続いて届いたのは、フリンス国旗のアイコンにそっけない文章ということで、これはアナスタシアだろう。

 LINNEの名前は《救国の英雄》となっている。

 まぁここでなら好きに名乗ったらいい。

 ――ペコッ。

『旦那様よ、入籍はいつにする?』

 このメッセージが誰なのか、もう説明するまでもない。

 アイコン画面はシンプルにハートがあしらわれたもので、名前は《スグルの嫁》となっている。

 …………。俺は、そっとLINNEの画面を閉じた。

「にゃ、既読スルーはダメじゃぞ。ちゃんと返事をせんか!」
「できるかそんなの!」

 でもまぁ、何かしら返事をしておくとするか。

 俺はもう一度画面を開くと、みんなへのコメントを入力する。

『改めて、これからもよろしくな』

 そう入力して送信をタップした。

 何だかんだ、これでパーティの連携や絆が深まるといいのだが。

「何このアイコン。キメ顔の自撮り画像がキモ過ぎなんだけど」
「童貞臭さがにじみ出ている顔だな」
「わ、我はこれでも旦那様への愛は変わらぬ……ぞ?」

 俺のアイコン画像を見てぼろクソに言う三人に、やっぱり連携や絆の深まりなんかは期待できそうにないと思ったのだった。
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